黒い熊のレアモンスター
「ジェイラさんは、こちらへ来ないのですか?」
ホタル草の採取を終えたパルトラが満足そうな笑顔を見せつつ、激しく右手を振っていた。
今現在、僕に身についている時間を進めるスキルの使用可能期間は、そこまで多くは残されていない。
「いま行くよ」
僕は美少女三人が集まっている場所へ、すぐに向かう。
パルトラとキラリの間に混ざり込んでいるルルナはまだ怯えいるが、僕たちに対して敵対する行動は見受けられないので、ひとまず安心
レアモンスターの話題もしやすそうだ。
「さてと、ホタル草を採取可能な状態にするには……」
僕は懐中時計を手に持って、魔力を注ぎ込む。
それから、オブジェクトの時間を進めるスキルを発動する。
すると、根っこだけとなっていたホタル草が、ぐいぐい伸び始める。
これをあと数回行う。
近くの採取場所で、ホタル草の時間を同じように進行させた。
ホタル草はぐんぐん伸びていき、採取し始める前の光景とほぼ変わらない状況になった。
「ジェイラさん、ありがとうございます!」
「お礼なんてまだ早いと思うよ。このダンジョンに潜んでいるレアモンスターを探し出しさないといけないだろ?」
「あっ、そうでした。ブラッディーベアさん、どこにいるかな?」
パルトラは周囲をくるりと見渡した。
「見つからないね」
「パルトラさん、そんな簡単にいるわけないでしょ。例えばそこの川の中に」
「川の中にはいないと思うよ」
「魚のモンスターが潜んでいる」
その場でしゃがみ込むキラリは、レアモンスターのことが眼中になかった。
「なるほど……って違います! ちゃんとレアモンスターを探しましょう!」
「あう……」
パルトラがキラリの腕を掴んで、無理やり立ち上がらせたようにみえた。
「キラリ、大丈夫か……?」
「うん……たぶん……」
ぐいーっと、僕の服を引っ張ってきたのは、ルルナだった。
「どうした?」
「レアモンスターの居場所……わかるかも……」
「それなら助かるんだけど。このダンジョンは結構広そうだし、どうするんだ?」
「月の紋章が……あります……」
ルルナは武器となるフォークを取り出すと、それを軽く振った。
(我が配下における冒険者に告げる。――このダンジョンに潜んでいるレアモンスターを探して)
口元が動かないルルナから、言葉が脳内に直接飛んできた。
「いまのは」
「ルルの……スキルです……」
「ちょっと詳細を見ても良いか?」
「はい……」
僕はルルナのステータス閲覧の許可を貰って、確認した。
「ノーマルスキル、沈黙の言霊。言葉を使用せずに魔法及び伝令の使用が可能となる」
なるほどね。
これを有効活用するには、場面がかなり限定的なものになる予想がつく。
今回みたいに不意をつくのであれば、そこそこ重宝されそうだが、戦闘への影響というものは意外と小さいのかもしれない。
それはそうと、ルルナはどこの誰に対して伝令したのだろうか。
少しばかり気になってくる僕は、ルルナの様子をうかがう。
「命令先は、ダンジョンにいる……冒険者……」
「ルルナ?」
「倒されていく……近く、冒険者……」
「リスポーンか」
「はい……います……」
ルルナの言葉を聞いている限り、レアモンスターが出現しているとのこと。
しかも、かなり近くにいると思われる。
「そろそろか、月光の処刑人を使ってみよう」
スキル玉をひとつ飲み込んだ僕は、警戒心をより強めた。
ブラッディーベアからの素早い爪の攻撃と突進には注意しないといけない。
そこさえ気をつければ、倒せないこともないはずだ。
「僕が先頭に立つから、みんな気を付けてついてきて」
進行方向に向かって銃を構えながら歩き始めると、パルトラとキラリが息を呑む。
「ルルナ、レアモンスターとの距離は分かるか?」
「うん……ひっ……」
一瞬、ルルナが怖がった。
僕はルルナの表情をみたあと、振り返って前を向いた。
『ガアアアアァツ!』
二足歩行のレアモンスターが、至近距離にいた。
爪を立てて、僕に襲い掛かると思ったら、レアモンスターの足元から黒い魔方陣が展開される。
「ブラッディーベアは、魔法を使用しないはずだ。何かおかしい」
僕が慌てて後ろにバックステップすると同時に、レアモンスターの爪の先に黒い火の玉が出現した。
その黒い火の玉からは、とてつもない魔力を感じていた。
「初めてみるかも。これは、レアモンスターが進化していますね!」
「えっ、進化?」
「パルトラ、何か知っているのか」
「ネフティマちゃんから聞いたことあるんだけど、シクスオのレアモンスターって出現してから一定期間討伐されすにいると、進化するらしくて」
「レアなモンスターが進化か……いつのまにそんな要素がっ」
黒い火の玉が飛んできたので、僕は華麗によけた。
もし直撃したら簡単に炭になっていそうな雰囲気があるのが恐ろしい。
「とりあえず、モンスターの情報がほしい」
「暗黒のマントを身に着けた闇属性の熊、ネクロベアです」
「ネクロベアか。了解!」
レアモンスターのワンランク上の存在だと認識していたほうがよさげだろう。
とにかく、僕の手からとっておきの一撃をお見舞いしてやろう。
「解き放つ、金剛石の煌めき――」
銃口の先端に、五重の魔方陣が重なる。
『ガアアアアァツ!』
ネクロベアが僕を警戒して爪攻撃をしてくるも、柔軟な動きをみせるキラリが僕のカバーに入る。
爪と鎌が接触して、激しい金属音が洞窟内に響き渡った。
光属性を付与したとっておきの銃撃は、やや動作が遅いのがネック。
そして、流石はトルードのダンジョンマスターといえる。
僕ひとりでは間違いなく殺られていた。
時間稼ぎは十分足りている。
「いでよ、光の波動。コズミックブレイカーっ!」
僕の銃から解き放たれた白き光線が、ネクロベアの頭部に目掛けて飛んで行った。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




