新たなアイテムを作成するには
「パルトラさん、この子は中型の精霊だけど、人間の意思は入っていない。……これで分かるか?」
「はい。ジェイラさんの例えですぐにわかりました!」
エルトリアのことを少しだけ理解したパルトラは、小声で呟く。
「次はどうしようかな……あれとかやってみる?」
「僕は何を手伝えば良いのか」
「ジョーカーお兄様っ!」
ノアが、僕の服の袖を無邪気に引っ張る。
「ノア、急にどうした?」
「今夜のパルトラ様は、あのように見えてとても活発的です。もしかしたら、新しいことをするかもしれません」
「新しいことか。どんなのが来るんだろう」
僕は、その場にしゃがみ込むパルトラの様子を伺う。
パルトラの手には、エグゼクトロットがある。
その武器の鋭い先端を使って、地面に何かを描き始めていた。
「アニマル……なにか出来そうな気配がする……」
パルトラは視線を何度もちらつかせていた。
地面とエルトリアの姿を、交互に見ているご様子。
そこに、ネフティマが寄り添う。
「パルトラさんは、新アイテムを作成するつもりかしら」
「そうだね。ネフティマちゃんは、新アイテム作成に良さげなアイデアを持っていますか?」
「宝箱に仕込む用なの?」
「新アイテムって、ダンジョンのお宝にするか微妙になことが多いから……使用感も気になるし」
「たしかに、使用感は大事です」
「そうでしょ。でも、今回はアニマルから全然イメージが繋がらなくて」
「アニマルね」
ネフティマは、辞書のような分厚い本を手元に出してきた。
「お手軽に出してきた割には、物騒なものだね」
僕はひと目見て確信した。
あの本には、ネフティマがこれまでに観測してきたアイデアのデータが詰まっている。
「でも、悪くはないかも」
使用用途は、パルトラへの助言。
それ以上のことは全くする気がない。
ネフティマの変化しにくい表情で、そう見て取れる。
「ジョーカーお兄様は、何か良いアイデアとかありますでしょうか?」
「ノアは何か考えたのか」
「いえ……ノアは一般動物の知識には危うくて」
「そういえば苦手分野もあったな」
「ノアの義務教育期間は、お嬢様学校でしたので……」
僕の身体を使って控えめにうずくまろうとしているノアは、少しばかり苦い顔をする。
あまり現実世界での過去をぶり返してほしくないのだが。
「もっとこう、前向きにというか」
「ジョーカーお兄様、それくらいわかっています」
ぷくっと頬が膨れ上がると、ノアは機嫌を悪くした。
……ように見えるだけで、実際には心の安らぎを僕に求めているだけ。
「何を作成したいかは、パルトラさんが決めることだ。僕たちが無理に加勢しなくとも大丈夫だろう」
「確かに……ジョーカーお兄様の言う通りです」
僕の言葉に納得したノアは、僕の服をより強く握りしめていた。
「アニマル……たくさんいそうなのは、他のダンジョンかな……」
「アイデアは頭の中で煮詰まったとして。お試しするにしても、クレイキューブの地下迷宮では動物系のモンスターが不足しているってところかしら」
「ネフティマちゃん、それは否定できないかも」
その場から一歩も動かないパルトラは、ひたすらに悩んでいた。
「パルトラ様も珍しく苦戦していますね」
「ノア、そうなのか?」
「だいたいは数秒でパパっとアイデアを出してくるのがパルトラ様なのですが、どうやらパルトラ様自身もあまり馴染みのない分野みたいですね」
「アニマル、だろ……?」
「その、アニマルに関してのアイテムはどういう効果をもたらすのか。イメージが湧きにくいのかと思います」
「イメージが湧きにくいか。例えばだけど、アニマルに変化する武器とか」
「ジェイラさん、それはコストパフォーマンスが似合わなくて」
「そうなのか?」
「固有スキルがないといけないくらいには……」
パルトラの口が止まった。
「そうだ。セレネさん」
「どうかしたのか?」
「スキル玉生成技能で、セレネさんを対象にすれば……」
「セレネ様でしたらフレンド登録ですぐに居場所を確認できますね。あっ……」
「深夜帯だから、流石に寝ているか」
パルトラは、振り出しに戻された気分を味わう。
僕の隣でノアがガッカリしている表情を見る限り、セレネというユーザーは現在ログアウトしているのだろう。
「パルトラさん、気を落とさずに別の方法を探りましょう」
「ジェイラさん……そうだね。ドラゴンになるスキルを一時的に獲得できるアイテムがあるなんて言われたら、私のダンジョンが騒がしくなりすぎると思うし、別の機会で大丈夫そうかな」
「パルトラさんって意外と立ち直るの早いね」
「それは気にしない、気にしない。さてと、どうしよっか」
パルトラは立ち上がると、ネフティマが持っていた分厚い本の表紙に触れた。
「とりあえず、素材を集めようか。場所は黒き清らかな渓谷だけど、今から行けるかな?」
「徒歩で行くのには、少し遠い。経由できる地点もない」
「一度訪れたダンジョンの出入り口へのワープは、水神の和太鼓だったかな? 私たちの中では誰も持ってないような気がする」
「セレネ様がお眠りのお時間なので、移動用のライドも使えませんし……」
「いや、歩いて行こう。流石にノアは、ここらで休んでもらうことになると思うけど」
「ジョーカーお兄様……わかりました」
瞼をこすったノアは、大きな欠伸をする。
妹との夜更かしも悪くないのだが、あまり無理はさせたくない。
「今夜はジョーカーお兄様のこと、お願いします」
「ノアちゃん、任せてね」
「私もいるから」
「ノア、僕は大丈夫だよ」
「そうだ、ノアちゃん。ひとつ良いかな?」
パルトラはノアに近づくと、エグゼクトロットをノアの体に密着させた。
そこでスキル玉の生成を行う。
「パルトラ様、ノアのスキルをまた使いたいのですか?」
「念のためにというか……これはジェイラさんに持ってもらいたくて。素材集めとはいえ、今から他のダンジョンの探索をするからね」
「えっと……ジョーカーお兄様っ!」
「何だ?」
「くれぐれも、回復魔法のデメリット効果には気をつけてください」
「わかった」
「では、おやすみなさいです。ジョーカーお兄様もおやすみなさい」
そう言ったノアは、シクスオからログアウトした。
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