回復アイテムの素材になる苗を育てる
「苗を育てる……?」
「これは回復アイテムの素材になるからね。賢者の石を試したいけど、一番簡単に作成できるのが瓶詰めにした回復アイテムらしくて」
「それで……僕に素材アイテムをスキルで作ってほしいと」
「えっと、そんなところですかね」
パルトラは照れくさそうにしながら、背中についている天使の羽を無意識に動かす。
スキル玉で獲得したスキルを試しに使うのにはうってつけなのだが、疑問点がひとつあった。
「回復アイテムって、たしかポイント交換が出来たはずだが、需要はあるのか?」
「ジョーカーお兄様、それは三か月前の中型アップデートで削除されています。代わりに出来たのが、モンスターに好きな模様を描けるシステムです」
「モンスターに模様……ソルルのコカトリスみたいなのが……」
「模様を付ける際にポイントを消費することにしたのです。お絵描きする機能自体は無料提供となっていますが……」
「ノア、どうしたんだ?」
「黄昏の刻でお兄様が戦っていた、あの女の子の顔が頭から離れなくて……。ソルル様でしたっけ?」
「その名前で合ってるよ。でも急にどうしたんだ?」
「あのですね……戦闘が行われていた際にですね、壁越しでのお兄様との会話、微かに聞こえていまして……。精霊魔導士を名乗っていたソルル様は、ノアと同じく精霊歌を歌える珍しい存在になるかと思うと心が痛む面がありまして」
「たしかノアも精霊歌を歌えるんだったか……」
「お兄様の為に、いまから歌いましょうか?」
今にも歌いだそうとしていたノアは、緑の葉っぱに目線を向けていた。
「歌うのはちょっと待ってくれる?」
何か問題が起きることを察知したのか、パルトラはやや困惑し始めていた。
「パルトラ様……?」
「成長させるのにただのお水と光を使おうかなと思ったけど、精霊歌を混ぜたらより上位種のアイテムになっちゃうかなって」
「大精霊トルードにちなんだ精霊歌ならば、植物系の上位種に変化してしまいますけど、他は……」
「ネフティマちゃん、何か知っていたら教えて!」
「それは観測したことがある」
「ネフティマちゃん、流石ですね。それで、近くで歌った場合だと植物はどうなるの?」
「結論から言うと、反応しない。ノアの言っている通り、トルードの精霊歌だけが植物の成長を促進させる」
「促進しちゃって……別の植物アイテムに表記が変わってしまうのかな?」
「パルトラさん、そういうことね」
ネフティマが受け答えを終えると、僕のことをじっと見つめ始めた。
時間系のスキルを用いて植物を成長させるだけなのに、凄く緊張する。
「ふぅ……とりあえず始めるか」
僕が手を動かさないと何も起こらない。
「スキル発動、未来への時間渡り」
アルカナダイヤの固有スキル名を口に出すと、僕の右腕から謎のエネルギー元を感じ取った。
対象はパルトラが指し示す葉っぱ。
余っている左手で懐中時計をもって、進める時間を調節する。
チクタク、チクタク。
葉っぱの時間だけが、高速に進んでいく。
「清らかなる水竜様よ、大地に恵みの虹と光を照らせ」
魔法が発動すると、天井が少し明るくなって小雨が降ってきた。
パルトラは自ら手を加えて、葉っぱが成長していくのを見届ける。
一方でノアは、僕の顔を見つめたまま精霊歌を歌わない。
もしかしたら単に見惚れているのかもしれないけど、言及はしないでおく。
チクタク、チクタク。
植物の時間が、もっと進んでいく。
「このくらいで良いか」
懐中時計をしまい込んだ僕は、スキルの使用を止める。
未熟な葉っぱだったものは、さぞかし立派に育っていた。
「だいたい、こんなものか」
「そうですね。ジェイラさん、ありがとうございます」
パルトラは僕にお礼を伝えると、さっそくだけど植物を摘み取った。
アイテムの名前は、ペソペソ草。
主に回復アイテムを生成する為の材料となる。
「あとは賢者の石の近くで合成すれば、回復アイテムを作れます!」
「パルトラさん、他のアイテムはどうするんだ?」
「他の素材アイテムはもう集めきっていますので。ひとまず、場所の移動をしましょうか」
「そうだな。賢者の石ということは、ダンジョンの最深部か……」
「そうなります!」
パルトラが風神の和太鼓を取り出すと、ワープする準備をし始めた。
ここまで歩いた理由はよくわかっていないが、ダンジョンのモンスターたちをチラ見せさせたかったとか意図があるかもしれない。
パルトラに問いかけてみないと鮮明には分からないが、些細なことなので聞く気にもなれない。
「魔方陣、展開。ノアちゃんも行きますよ?」
「むっ……? そ、そうですね」
少しぼんやりとしていたノアは、ため息が漏れる。
「ノア、ひとりで考え事しすぎないように」
「ジョーカーお兄様の心遣い、ありがとうございます」
「元気そうなら別に良いのだが……」
ノアが不安そうになる気持ちは、何となく理解できる。
悩みの種は、恐らく精霊魔導士のことで間違いない。
この精霊魔導士の存在がシクスオにあっても良いのか駄目なのか、明確な判断を下すためには、もう少し詳しく調べないといけない。
あとは、コカトリスというモンスターが瞳を白く光らせた。
あの動作には、精霊にまつわる何かの力を用いている。
僕自身、そう思っているのだが……確かめる術がいまのところないのが厄介である。
「着いたよ!」
ワープし終えると、パルトラは設置されている賢者の石のひとつにすがりついた。
「ふへへ……やっと使ってあげられる、賢者の石っ!」
自慢のダンジョンで賢者の石を使うということに対して、テンションが非常に上がっているパルトラの顔が凄く緩んでいた。
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