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黄昏の刻


「ネフティマちゃん、空の様子が夕暮れになってしまいましたね」

「観測。黄昏の刻と、アビストローム遺跡……」


 異常事態ともいえる空の変化を目の当たりにしたネフティマは、両手を胸に当てていた。


「ネフティマ、いまなんて言った?」

「黄昏の刻とアビストローム遺跡を観測した」

「遺跡の観測……妙だな……」


 ネフティマが、アビストローム遺跡を認識できたということは……。


「この街そのものが、アビストローム遺跡ということか」

「観測した限りでは、そうなるのかも」

「ふむ……だったらやることはひとつ。深淵を覗き込むという言葉の意味を、読み解くことだ」


 僕はオシリスのギルドに向かって走っていく。

 深淵は、影のことだろう。


 夕暮れになれば、建物の影が広がる。

 ここは左右に注目して……。


「路地裏か」


 僕は見つけ出していた。

 狭き道から、謎の違和感を。


(これはもう、行くしかない……)


 路地裏に向かって走り出す僕は、ただひたすら突き進む。


 ただ、全方がよく見えなかった。

 路地裏を抜けた先にある光だけを頼りに、ただひたすら掴み取ろうとした。


「路地裏の次は、広間か……誰かいる」


 無事に路地裏を抜け出すと、淡いピンクの肩出しワンピースを着ていたクリーム色の髪の女の子と、鳥のような生物がいた。

 その女の子は、鳥のような生物に餌を与えていた。

 それにしても……鳥が大きい。

 全長が軽く二メートルを超えており、鋭い嘴に襲われたらひとたまりもなさそうだった。


『コッ、コッカトリス!』


 鳴き声からして、コカトリスと断定。

 コカトリスの身体には、太陽の紋章が刻まていた。


「太陽の紋章による騒動は、君が引き起こしたのか?」


 警戒心を強める僕は、銃を女の子に向けて問いかける。


「ほむっ。今はまだ営業時間外なのですが……」


 僕の存在に気づいた女の子は、空の色を気にしていた。


「太陽の紋章が欲しければ、アビストローム遺跡の深淵を黄昏の刻に覗き込め。この噂を広めたのは君かな?」

「ほむっ、いかにも。否定は出来ませんね」


 意表を突かれた女の子は、ニヤついた。


 けど、なんだろう。心の在り方というか。

 僕には、すごく余裕こいているように見える。


「君の目的はなんだ?」

「それを知る前に、まずは知っておくべきことがあるだろう」


 コカトリスを手名付ける女の子は、胸を堂々と張っていた。


「おや、なんで首を傾げているんだ? 少年、自己紹介だよ」

「自己紹介?」


 名乗れと言われたら名乗るけど、ジョーカーという二つ名はひとまず伏せておこう。


「僕はジェイラです」

「ほむっ、ジェイラね。わたしはソルルだ。職業は精霊魔導士だから、そこのあたりをよろしく頼むよ」

「精霊魔導士か……」


 このソルルという女の子がそう言うと、先ほどのノアの不信感な表情が一瞬だけ頭に浮かび上がってきた。

 あの時、ひょっとしたら精霊魔導士が関わっている、とメッセージで知ってしまったのか。


 何を知ったのかは、ノアにじっくり問いかけるとして。


「少年よ。太陽の紋章を使って何をしているか、知りたいでしょ?」


「ああ、そのために僕は行動していたからなっ!」


 僕は練習用の銃弾を、威嚇用として発砲した。 


 狙いは彼女――ソルルの足元である。

 こちらから仕掛けるのは不本意だが、太陽の紋章が見えている以上いつ攻撃をされてもおかしくない状況ではあった。


「ほむっ?」


 反応が遅れたソルルは、一歩も動かない。

 けど、僕から彼女に接近しすぎるのはよくないだろう。


『コッカトリス!』

「コカトリス、静まって」

『コカ?』


 コカトリスに指示を出したソルルは、大きく息を吐いた。


「あのさぁ……魔法弾じゃなくて、練習用の銃弾をどうして向けたの?」


 ソルルは逆に呆れ顔になっていた。

 愚策かと一瞬思ったが、単に僕に対して敵意をもっていないだけかもしれない。


 どうしてかはまだ分からないけど。

 ここは素直に喋るか。


「ただの威嚇だよ。僕ってシクスオに復帰したばかりというのもあるか」

「威嚇ね……そっちか」


 すぐに納得してくれた素振りをみせるソルルは、頭をかいて改めて僕に敵意を持たないアピールをしてきた。


「少年がどういうことを考えているのかは理解できないけど、わたしは君を目的のための手駒にしたいと思っているからね。敵意むき出しだろうと関係ない」

「関係ないって……どういう意図が?」

「まずわたしが探しているのは、大精霊ですら意のままに操ることができるようになる、禁断の楽器なんだよね」

「禁断の楽器……」


 聞き覚えがなかった僕は、首を横に振る。

 過去に遡っても、それらしいアイテムの存在は認知していないので、担当外のことかもしれない。


「その禁断の楽器やらと、太陽の紋章はどう関係するんだ?」

「太陽の紋章は単なる手駒だよ。協力者の母数を増やせば、禁断の楽器が保管されている場所に少しでも近づきやすくなる」

「つまり君は、たくさんの冒険者を操って、禁断の楽器を探しているということか?」

「ほむっ、そういうことね」


 ソルルは肯定した。


 目的達成の為なら手段を選ばない。

 そういう意思を感じられた。


「精霊魔導士であるわたしの最終目標は、禁断の楽器を手に入れて大精霊を巧みに操り、この世界にあるレアアイテムを取りつくすことよ」


「なるほど、君の目的は理解した。だったら僕は、君を止める立場にあるんだよね……」


 銃を構えた僕の視線は、コカトリスに向いた。 

 異変調査レポート2の真相。それは後でまとめるとして、今はソルルを捉える。


 これは緊急ミッションとなりそうだ。


「ジェイラさん、探しましたよ!」


 空から声が聞こえてくると、天使の羽を必死に動かす少女が二人を抱えて地面に降りてきた。


「パルトラか。それに、ノアとネフティマまで」

「えへへ……お兄様が突っ走るものですから、心配しましたよ」

「ノア、ごめんね」

「お兄様が謝ることはないですね。それより、いまの状況ってどういうことです?」


 路地裏を抜けた先に、コカトリスとソルルという女の子がいる。

 太陽の紋章があるにも関わらず、敵意を何故か見せてこない。


「ほむっ。何度も言いますが、今は営業時間外なのですよ」

「その、営業時間外というのは」

「セーフティ期間のことです。そもそもの話、太陽の紋章を刻むことができる時間帯はセーフティ期間外に限られるのです」

「でも、それだったら……。なんでコカトリスに太陽の紋章が刻まれているんだ?」

「このコカトリスは、わたしがサモンコールで呼び出したのですよ。特別なのですよ!」

「と、特別っ……?」


「サモンコールで召喚したモンスターに好きな模様を描けるコンテンツは、私でも観測済み」

「ネフティマ?」

「まぁ、そういうことです。コカトリスに刻まれている太陽の紋章による効果で、セーフティ期間であっても戦闘の発生を引き起こせるのは否定出来ませんけど」

「太陽の紋章……セーフティ期間であっても戦闘はやはり起きるんだな」

「いま戦闘が起きたところで、目的のアイテムを探し出す手掛かりを得られるとは限りませんけど……ひとまず場所を変える必要が出てきそうですね」


 ソルルは水色の和太鼓を手に取って、回し始めた。


「水神の和太鼓よ、我をダンジョンの前まで導きたまえ」


 魔力を注ぎ込んだソルルの足元には、小さな魔方陣が展開されていた。


「ソルル、逃げるつもりか。ちょっと待て!」

「ええ……こちらから話すべきことは、ひと通り告げましたよ。今度会うときは敵か味方か、わたしには分かりませんけど」

「黄昏の刻を作り出したのも、君なのか?」


「ほむっ。真相を知りたければ、月の紋章が刻まれた冒険者を探し出すことね」


「月の紋章……もしかして、君と同じようなっ」

「じゃあねー、お友達がいっぱいのお兄さん。今度は営業時間内に会いましょう!」


 不気味な微笑みを見せたソルルは、コカトリスを連れて何処かのダンジョンへワープした。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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