パルトラのダンジョンのボス部屋
「最深部といっても、シンプルな部屋だから見栄えとか至って普通ですよ」
ワープし終えたパルトラは、顔が緩み気味になっていた。
「昨日、この部屋の四隅にですね、赤色の石を置きまして」
「赤い石? お洒落だな」
「違うよ! そうではなくて……」
パルトラに否定されたけど、そわそわしている素振りは変わらない。
僕には、何のことかさっぱりだ。
ひとまずノアに視線を送る。
こういう場合、妹に任せたほうが素直に回答を得られるものだし。
「パルトラ様、いつのまに賢者の石を……しかも四つですか!」
「稼ぎルートを作って早くも数カ月、賢者の石を遂に入手しました!」
「パルトラ様は、膨大なエネミースコアを集めきったのですね……」
「賢者の石を引き換え出来るのは一度っきりだから、ダイヤちゃんに増やしてもらったのもあるけど……」
「正規入手出来ていればそれで良しですよ。これからは、賢者の石によってパルトラ様のダンジョンがもっと発展していくのですね」
「うん。そうだよ!」
「えへへ……パルトラ様は心から嬉しそうですね」
パルトラと喜びを分かち合っていたノアが、僕の傍に寄ってくる。
「賢者の石って、レアドロップしないんだっけ?」
「ジョーカーお兄様、それはベータ版の仕様です」
「そうだったか……?」
「ベータ版のみレアドロップするアイテムは、複数存在する」
静かにパルトラの様子を見守っていたネフティマが、口ずさむ。
「ベータ版のレアドロップか、覚えていないな」
「お兄様、当初の資料は残ってないですね。アーリーアクセス版をリリースした際に、必要ないものは隠そうということでニケ様が資料の上書きを行いましたよね」
「そんなことが、あったような……」
昔話をノアとするのは苦ではないが、異変調査レポートと比べると興味が湧かないでいた。
心のモチベーションを保つには昔話を程々にして、調査を入念に出来ればそれで良いのかもしれない。
「そろそろギルドへ行きたいのだが」
「ジェイラさん、そうですね。通路の奥に行きましょう」
パルトラについて行くと、ワープゾーンが設置してあった。
それに踏み込んだ僕は、オシリスのギルドへ瞬間移動する。
そこからどれだけ動けば良いのか未知数なんだけど、太陽の紋章の手掛かりとなる遺跡には確実に近づけていると思いたい。
「すまない。アビストローム遺跡はどこにある」
ギルドの受付テーブルが見えると、早速だが確かめようとした。
「その名称のダンジョンは……実在しませんね」
「ダンジョンじゃないらしくて、それっぽい知名が名付けられた場所はないか?」
「あ、ありません……」
「そうか。受付さん、ありがとう」
僕は問いかけるのをやめた。
まず、僕の身分が受付のお姉さんにはハッキリと分かるので、程々にしておかないと以後の仕事に支障が出てきてしまう。
あとは、アビストローム遺跡というのはゲーム内の地名として設定されていないということが判明した。
ノアは認知していたことから、一部のユーザーが名付けた場所の名称、ということだろう。
ダンジョンになっていない以上、パルトラには頼れない。
だとしたら、ここからは街中を歩いてアビストローム遺跡を探すしかない。
「黄昏の刻、というのも気になるな……」
アビストローム遺跡を見つけ出しても、何もなければ意味がない。
仮に上手く遺跡を見つけ出しても、現場で何時間も待つ必要があるかもしれない。
「ノア、やっぱりパルトラさんたちとダンジョンで遊んでほしいのだが」
「ジョーカーお兄様……いいえ、ノアはついて行きます」
「でも、これは仕事だから」
「お兄様、ノアも似たようなものなのです。アビストローム遺跡はオシリスを祀っている場所なのですから……どうも気になってしまって」
「ちなみにだが、ノアはアビストローム遺跡の場所を把握しているのか?」
「ベータ版の頃に、設定だけ覗き見したことがあるだけです。現在の所在地は知りませんよ?」
「そうか……」
精霊歌を歌うことができるノアにとっても、アビストローム遺跡の手掛かりは何か大きな意味をもたらす。
そう自覚しているのだろう。
だから、僕のお仕事について行くのか。
そして、パルトラとネフティマには、聞くまでもないか。
この二名は、シクスオからログアウトしても時間潰し出来ないようになっている。
空白の泉で休息はできても現実世界での時計が動かないから、何を言っても僕について来そうだ。
「それじゃあ、アビストローム遺跡を四人で探すか」
珍しくやる気が乗らない僕の言葉で、本格的な調査が始まった。
『迷宮神殿オシリスの街は、セーフティ期間の適用中です』
ギルドから出ると、そのようなアナウンスが流れてくる。
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