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高く飛び上がった先にあるもの


「黒き桜花の前に散りゆく思念の声よ、我に導きを示せ」


 魔法が放たれると、ノアの足元には黒い魔方陣がグルグルと回っていた。


「あ、ああああ……」


 黒い魔方陣に掠める位置に入っていたミゲルが、ゾンビのように起き上がる。


「貴方様に刻まれた太陽の紋章、どこで行われたのか教えてくださいね」


「あ……?」


 ミゲルは黒い壁に向かって数歩だけ進んでいく。

 そのくらい進んだ直後、ミゲルは仰向けに倒れこんだ。


 回復魔法とは性質が少し違うのだが、リスポーンした肉体を直接動かす魔法は回復魔法の一種でもある。


 このゲームには、そのような設定がなされている。


「ふぅ……ジョーカーお兄様、方位が分かりましたね」


「倒れた向きに遺跡があるのだろうな。それにしても、壁か……」


 僕は空を見上げると、黒い壁が立ちはだかっているように思えた。


「これを乗り越えられたら割と早そうだけど、地上から地道に進んでいくか」


 僕は見上げるのをやめると、ひとりでに歩き始めた。


 異変調査レポート2は、単独で片付ける。

 それが、僕のお仕事なのだから。


「ノアはジョーカーお兄様に何処までもついていきますよ?」

「分かってる。だけど、これは僕のお仕事だから、ノアはそこの二人と遊んでおいてよ」


「ジョーカーお兄様……」


 ノアは立ち止まって、僕を見つめているだろう。


 お仕事と遊び。

 僕としては、その境界線はしっかりと線引きしたいつもりでいる。


「ジェイラさん、ちょっと待ってくれる?」

「待てって言われてもなぁ……この手は……」


 僕の腕がパルトラに掴まれていた。


「壁があって見えないくらいだったら、私がその、飛ぶから」


 パルトラの背中から出ている天使の羽がうごめくと、パルトラの身体が浮上していく。


「あのさぁ……僕の体まで浮いてるのだが?」

「ジェイラさんは、じっとして。落ちると落下ダメージでリスポーンしちゃうかもだから」

「はいはい……」


 神経質になるパルトラに対して抵抗する気力がおきないまま、黒い壁を軽々と越えていく高さまで浮上した。


 すると、建物が建ち並ぶ絶景が視界に入ってきた。

 その絶景に言葉を失いそうになるが、冷静になって仕事について考え始めた。


 ミゲルが指示した方向は、僕にとっても見覚えのある大きな神殿がある。


「あの方位に建っているのはギルドか?」


「そうだね。でも、遺跡がどうしてギルドの方向なんだろう?」

「うーん。調査を進めるしかないね」


 そう言うと、パルトラはすぐに地面へ降ろしてくれた。

 そして、すぐに喋りだす。


「オシリスのギルドへ行くのなら、私のダンジョンを経由したほうが早そうだね」

「パルトラさんが経営するダンジョンかな?」


「経営とはちょっと違うけどね、大体は合っているよ!」


 パルトラは自信をもって胸を張っていた。

 それと同時に、何となく道案内したがっていそうだった。


「パルトラさんにギルドまで案内してくれると助かる」

「それなら、任せて」


 パルトラが低空飛行で、飛び始めた。


 道の案内はパルトラについていけば良い。


 ただひとつ問題があるとしたら、ノアとネフティマの目線が少し気になってくる。

 このゲームでの調査は、基本的に単独行動のほうが何かと楽なんだけど。


 この流れ、たぶん全員ギルドへついて来てしまう。


「ジョーカーお兄様がノア以外を頼るなんて、珍しいです……」

「そうかな?」

「だって、ジョーカーお兄様は一人でなんとかしようとするタイプですから」

「まぁ、合ってるか」


 ノアの言葉を否定しなかった。

 今までそうしてきたし、これからもその方針はよほどのことがない限り揺るがないものだと分かっているから。


 それはそうと、アップクレストはとても賑やかだ。


 通り過ぎていく冒険者は皆、ほのぼのとした街並みの雰囲気を楽しんでいる。


「えっと、ここを降りていくよ」


 パルトラが先行して進んでいったのは、地下へと続いている階段だった。


「ダンジョンは地下にあるのか」

「半年前は、こんなのじゃなかったけど……そんなところかな」


 パルトラは何やら思い返してした。

 けど、今を楽しんでいるのか、首を数回横に振ったら道案内を再開した。


「地下といっても、地上と変わらず賑やかそうだが……」


「国と国をつなぐ橋と同じく、お店があるから」


 左右には見向きもせず、ただ道を進んでいくパルトラはそう説明する。

 探せば掘り出し物の一つや二つはあるかもしれないと思いつつ、現状では寄り道しずらい空気に流されて、結局は通り過ぎてしまった。

 調査優先とはいえ、僕の手元にあるアイテムはいずれもアップデートが何回も行われる前のものしかない。


 戦闘になった際、やや心細さがあるかもしれないが……。


「着いたよ。私が管理しているダンジョン、クレイキューブの地下迷宮!」


 パルトラが地面に足をつけると、目の前にある大きな扉を押していった。


「これまた、随分と立派なダンジョンだな」

「現在は地下十五階層まであります。普段はネフティマちゃんと一緒に、少しずつダンジョンを発展させています」


 扉が全部開くと、僕はパルトラ達と一緒にダンジョンの中に入っていった。


 ダンジョンに入ると、まず短めの通路が続いていた。

 その先に設置されているのは、ネフティマをモデルにした石像のオブジェクトである。


 このダンジョンに潜んでいるであろうモンスターの姿は、ここからではまだ見ることが出来ない。


「それで、ギルドに行くにはどうするんだ」

「このダンジョンの最深部と中間地点となる地下七階層に、ギルドへ続くワープゾーンがあるよ」

「パルトラさん? ここからまさか攻略しろとは言わないよね?」


「えっと、それは大丈夫だよ」


 パルトラは緑の太鼓を手に取り出した。

 それがグルグルと回りだすと、パルトラの足元に小さな魔方陣が出現した。


「太鼓が回っている……これはもしかして」


 僕はメニュー画面を開けて、最新アップデート情報に目を通す。


 パルトラが使用したのは、風神の和太鼓。

 最新アップデート情報にあった説明欄には、ダンジョンの中を自由に行き来することが出来る移動系のアイテムと記載があった。


 僕がシクスオから離れている間に何度も行われたアップデートによって、ワープ系の魔法を生み出せなくなっている関係上、ダンジョンの行き来をするのはアイテム頼りとなっている。


「回して、魔力を込めると、ワープの範囲が広がるだったかな……」


 パルトラは戸惑いながらも、風神の和太鼓に魔力を注ぎ込む。

 すると、パルトラの足元だけに展開されていた魔方陣がみるみるうちに広がっていった。


「パルトラさん。全員、入った」


「ネフティマちゃん、確認ありがとうね」


 パルトラはお礼をすると、すぐに風神の和太鼓の回転を止めた。

 そしたら、魔方陣の中に入っていた僕たちはワープする。


 クレイキューブの地下迷宮、最深部へ。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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