人生もっと遊んだら?
「懐かしいけど、あくまでも僕はお仕事をしに来たんだ」
「そう。そういうところ、ジェイラは変わってないね」
「仕事真面目ということについてか?」
「うん」
「あのなぁ……」
否定はできないけど、観測者に設定された性格と口調は、あの時と同じなんだよな。
ネフティマ・システムズ。
僕ははっきりと覚えている。
彼女の原点は、この僕の手で組み込まれて起動した。
「ジェイラには、異変調査レポートの話をしたほうがよさげかしら」
「そうだな」
「まず、異変調査レポートの約半分は観測者である私が作成したものという認識は忘れていないよね」
「大丈夫だ。残りの半分はまだ渡されていないが……」
「残りの半分は、現実世界にいる元ゲームマスターがちゃんと作成してくれるはずだから、気長に待つしかない」
「それは、わかってるよ……」
ニケの気長はどのくらいの時間が掛かるか正直わかっていない。
事の重大さに発展するようなことがあれば、朝食以外を忘れてまで物事に没頭してくれるはずなんだけど。
「話題を絞りましょう」
「異変調査レポート1だな」
「パルトラさんのことを見て、どう思った?」
「どう思ったって」
ネフティマからの問いかけは、ごく一般的な疑問のように見えた。
「固有スキル3は、どのくらい使用されたんだ?」
「さっきので、パルトラさんがスキル3を使用したのは四回目になる」
「たった四回って……ちょっと少なすぎないか?」
「私は観測しているだけ。当人の意思を確かめることが、一番の回答を得られる」
「ふむっ……ネフティマから声を掛けたりとかはしたのか」
「私では、聞き出せなかった」
「何かを隠している可能性があるということか」
「それはない。ただ、パルトラさんは私との距離が近いから」
「常に近隣にいるから単純に聞きづらいってことか。それなら僕に任せて」
「仕事熱心なのは、悪いことではないわね」
「それが僕の生き甲斐というものだから」
「人間の生き甲斐、それは単なる個人欲求に過ぎない」
ネフティマからは、人生もっと遊んだら? という視線が送られてきた。
これでも、複数のゲームコンテンツを世に広めた身なんだけどさ、遊び心が足りないのかな。
ただ僕自身、スキル玉について何かと興味を持ち始めていた。
「ネフティマちゃんとのお話は、終わったかな?」
席に座っていたパルトラが、僕のことを不思議そうに見つめていた。
「パルトラさんの機嫌を損なってしまったのなら、すまない。ネフティマとは旧知の仲なんだ」
「へっ、旧知の仲?」
「パルトラさん、気にしないで」
「私は気にしてないよ。そんなことより、もっと気になることがあって!」
「僕が答えれる範囲なら、話すから……」
「太陽の紋章が欲しければ、アビストローム遺跡の深淵を黄昏の刻に覗き込め」
パルトラの口が止まると、ほんの一瞬だけこの場の空気が凍りついた気がした。
「それ、どこで聞いた?」
「昨日の早朝、私のダンジョンで倒されていった冒険者のひとりがリスポーンする直前に口にしていました」
「太陽の紋章に関する貴重な手掛かりになりそうだ。ありがとう」
「いえいえ。私はただ、一人でも多くの冒険者がシクスオを楽しんでほしいと思ってますので」
パルトラの遊びに対しての心構えは、強いものを感じ取れる。
仕事熱心な僕には、真似すら出来ないのかもしれない。
「アビストローム遺跡ですか……」
何かを思い出したのか、ノアが小難しい顔をしていた。
「ノア、何か知っているのか」
「オシリス……」
「ここは迷宮神殿オシリスという国だが」
「ジョーカーお兄様、そうじゃないです。大精霊ですよ、大精霊」
「大精霊か。でも、大精霊はすべてのプレイヤーに敵意を向けない設定だったはずでは?」
「太陽の紋章が大精霊によるものかどうかは、ノアには分からないです」
「よし。いまから遺跡に対して、精密な調査をしよう」
僕が立ち上がると、席に座って寛いでいる三人はきょとんとした。
「ジョーカーお兄様、遺跡の場所をどうやって特定するつもりですか?」
「アビストローム遺跡という名前のダンジョンは、天翔る銀河の創造天使を使用した感じ実在しなくて……」
「残念ながら、私も未観測」
「三人とも……まずは場所の把握でしょ? それなら良い案があるからついてきて」
僕は三人の言葉にもろともせず、この場から移動する。
向かったのは、ミゲルというユーザー名の死骸がある場所。
幸いなのか、太陽の紋章がおでこに入っているミゲルの死骸が目に映り込んだ。
ただ、太陽の紋章が薄く消えかかっていた。
「ノア、そいつを起こして道案内をお願い出来るか?」
「ジョーカーお兄様……。流石に道案内は厳しいかと思いますけど、方位の把握くらいは出来ると思います!」
「方位ならできる……それで頼むよ」
「では……」
死骸の額に視線を向けたノアは、詠唱を開始する。
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