パルトラに芽生えた新たな力《スキル》
「ノアが気にしているのは、空白の泉によって時間感覚が失われていく物事ではない、ということだろうな」
「その、ジョーカーお兄様の言う通りです……。パルトラ様は、ひと月ほど前に新たな力が備わったばかりですよね」
「あっ……そっちか」
ノアがちゃんと言ったお陰で、パルトラは自覚した。
そしてここからは、僕からの問いかけに答えてほしい。
「パルトラさんが授かった、新たな力について聞かせてほしい」
「あれね。ノアちゃんにはもう話したけど、空白の泉への出入りが出来るようになることがスキル獲得条件になっていたの」
パルトラは自らのステータス画面を提示してきた。
そこには、パルトラが所持しているスキルについて書かれている。
固有スキル1:天翔る銀河の創造天使
固有スキル2:杖行動&投擲SONIC
この二つはノアから散々聞かされているので、僕でも周知していた。
固有スキル3:スキル玉生成技能
スキルの解放条件、空白の泉のアクセス権限を得た状態でログイン状態が3500時間を超える。
このスキルの性質及び特性について、僕は仕事として調べることになっていた。
具体的に調べあげた結果、この世界に甚大な被害が被るという存在ならば、存在の排除という選択肢も入ってくる。
「異変調査レポート1、スキル玉生成技能について調査を開始する」
「なるほどです。それでジョーカーお兄様は、パルトラ様に会いたがっていたのですね!」
「こちらもお仕事でして、申し訳なく思っています」
僕はパルトラに詫びを入れる。
だが、パルトラは首を横に振った。
「ジェイラさんが謝る必要なんて、これっぽっちもない」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「私もスキル玉作成のスキルについて、あまり詳しくないんだ」
背筋を伸ばすパルトラは、いまにも立ち上がろうとしていた。
「まずは試しに使ってみるか。誰に対してが望ましいかな?」
「対象指定系なのか」
「うん、そうだよ」
座席から離れたパルトラは、槍のような先端が付いている杖を手元に取り出す。
エグゼクトロット。
これが、パルトラが所持している最強のSSR武器ってことか。
「スキル玉の生成ってことは、何らかのスキルが生まれるということで間違いないのだろうけど」
「生まれるという感じではないのですが……ノアちゃん、立ってくれる?」
「はい、パルトラ様のお役に立てるなら」
パルトラは、ノアに座席から離れるよう指示をした。
「えっとね、こうして」
パルトラは器用に動かして、エグゼクトロットの杖の部分をノアの服装に触れさせた。
固有スキル3は、ほぼゼロ距離でないと発動しない?
二人の距離感を見ている限り、そんな気がしてきた。
「万物の礎が宿りし言霊の精よ、スキル玉を生成せよ!」
いよいよ、スキルの発動なのだろう。エグゼクトロットとノアの身体が光りだした。
「うっ……ふぅ……」
力が抜けたノアの身体から、白い水晶のような球体が現れた。
これがスキル玉というアイテムなのだろうか。
少しばかり、神秘的である。
「これの使い方はね、食べると……」
パルトラは作成したばかりのスキル玉を掴むと、口の中に入れて飲み込んだ。
「スキル玉を、食べた……?」
「うん。そして、使い方はですね」
パルトラは魔力を指先に集めると、癒しのエネルギーが微量だけど感じ取れた。
「ノアちゃんのスキル、不屈なる絶対回復だよ」
「ノアの固有スキルを獲得したのか!?」
「ううん、違うよ。正確にはスキルをコピーしたってところかな。スキル玉を食べてスキルを獲得しても、二時間後には使えなくなるし」
パルトラは回復魔法を使うことを中断した。
これはどちらかというと、デメリット効果を気にしているのだと思われる。
スキルを一時的に獲得する扱いとはいえ、デメリット効果を熟知してないとあっさり自滅しかねないものもありそうだ。
「パルトラさんを表情を読み取った感じだと、固有スキル3がゲームを壊してしまう心配はしなくてもよさそうだ。食べる、という動作が必要なのが少し気になるところだが」
僕は先ほどの戦闘を思い返していた。
頭の片隅で引っ掛かったのは、太陽の紋章との関連性である。
スキル玉の生成が太陽の紋章に直接関与している可能性なんて限りなく低そうだが、何かしらの接点、若しくは何らかの目的に必要であると思われる。
パルトラの監視は、引き継ぎ行う必要性がありそうだ。
少なくとも、太陽の紋章についての問題を完全に解決するまでは。
「パルトラ様が食いしん坊になったってことですか?」
呑気な発言をするノアは、着席して赤い飲み物を頼んでいた。
「ノアちゃん、私は食いしん坊ではないよ?」
目を細めるパルトラは、ノアの妄想を否定する。
「でも、パルトラさんがスキル玉を食べた事実は変わらないが……」
「スキル玉の使用方法が食べて使うものというのは、ニケさんから教わりました」
「変な知恵はニケさんからね。奴はやっぱり、変なことをしていたか」
僕はきっと呆れ顔をしているだろう。
でも、お仕事としての問題はいまのところ起きていない。
「ニケさんのこと、日常茶飯事のことから知ってそうですよね……」
「奴はどうしているか、興味があるのか?」
「いえいえ。私には、ネフティマちゃんもいますので」
「ネフティマ……」
僕は息を吞んだ。
彼女の気配を、早急に感じ取ったからである。
「観測者の姿をみるのは初めましてでしょうけど。ジェイラ、お久しぶりね」
軽やかな瑠璃色のワンピースを着ている翠玉の瞳の彼女は、藍色の長い髪を揺らす。
空席だった四つ目の椅子に、ネフティマは座っていた。
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