待ち合わせの喫茶店
「ジョーカーお兄様、助けて頂きありがとうございます!」
防御壁を解いたノアは、吞気に僕の元に戻ってきた。
「ノアがサモンコールを使えば、あの程度の相手は一瞬で片付けられるのでは?」
「えへへ……ノアはジョーカーお兄様に守られたい気分なのです」
「本当かな?」
「そ、それは本当ですよ! それは頭の片隅に置いといて、ジョーカーお兄様が怪我をしてます……」
ノアは、僕の左腕を気にしていた。
大したダメージは負ってないのだけど、死骸をすぐに調べたがっていた僕は、左腕を動かして元気そうなアピールをする。
「お兄様、いますぐ回復魔法を使いますね」
ノアは詠唱を始めた。
「僕は大丈夫だって言ってるのに」
「女神の祝福、かの者の傷を癒やしたまえ」
詠唱が終わり、傷口が一瞬で綺麗になった。
「ノア、ありがとう」
「どういたしましてっ!」
ノアが瞬きをすると、ほんの少しだけ瞳に赤みが入った。
回復魔法を使用すればするほど、吸血鬼体質になるというデメリット効果の前兆らしき症状。
現段階では大したことないが、できる限り負傷にまで発展する戦闘は避けたい。
この場で必要最低限のことを調べあげたら、予定通りに事を進めるつもりでいる。
「調査すべきなのは、ミゲルというプレイヤーの死骸だけで良いか」
僕はミゲルの死骸に近づくと、おでこに着目した。
ミゲルのおでこには、はっきりと太陽の紋章が刻まれていた。
ただ、死骸になってしまった影響なのか、どす黒く変色していた。
「ジョーカーお兄様。セーフティ期間が適用されなかった理由、何か分かったのですか?」
「操り人形のような魔法の効力は、既になくなっているのかもしれないね」
僕は指をさして、太陽の紋章をノアに教えてあげた。
「紋章で冒険者を操って、何が目的なのでしょうか?」
「それは太陽の紋章を刻んだ者に接触してみないと、わからないよ」
「そうですか……。ここでノアにも出来ることは……回復魔法を使って起こしてみますか?」
「いや、今は情報が少なすぎる。現状では、彼女の元へと案内してくれたらそれだけで十分だよ」
「お兄様、それもそうですね。では、行きましょう!」
「今度は先走りしないように、僕の方から差し出しておくか……」
僕はノアと手をつないで、進むべき道を突き進んでいくことにした。
待ち合わせ場所は、曲がり角を曲がったすぐ近くにある。
喫茶店シャムシエール。
噴水が近くにあって、外で食事することも出来る休息の場。
「ジョーカーお兄様、こっちですよ!」
ノアが率先して案内してくれる様子だ。
ここはノアの誘導に従おう。
そして、僕が接触したいと望んでいた彼女は、店の外に並べられている席に座っていた。
「ジョーカーお兄様、座ってくださいね」
「ああ、そうだね」
僕は丸い椅子に座ると、彼女と目が合った。
薄水色の長い髪に、丸みのある藍色の瞳。
着用している薄紫の吊りワンピースは見た目の幼さを引き立たせて、彼女がダンジョンマスターのひとりであることをうっかり忘れてしまいそうだった。
また、彼女の背中には白い天使の羽が付いており、飛ぼうと望めば、どこまでも飛んでいきそうな雰囲気を出していた。
「えっと……。私、パルトラと言います。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をしてきた。
彼女は半年前、現実世界の未来に救いをもたらし、シクスオの世界の礎となった存在でもある。
そして、異変調査レポート1の重要人物はパルトラのことである。
僕に対しての警戒心がなさそうなので、対話は問題なく通じると思われる。
「僕はジェイラだよ。よろしく」
手を差し出して、握手でもしようとしたら、ノアの手が僕の腕にのしかかってきた。
「ジョーカーお兄様はとってもかっこよくて強いのですよ」
「ノア、余計なこと喋るなよ」
「えへへ……何かありましたっけ」
僕の左隣に座っていたノアが、遠慮なく僕にもたれこんでくる。
「ノア、あのさぁ……」
「お二人は、仲良しなんですね」
「まぁ、そんなものかな」
僕はため息をつく。
ひとまず、話しやすい話題から口にしていくか。
「現実世界のことになるけど、ノアとは血筋が同じなんだよ」
「へぇー。そうなんだね! ノアちゃんの現実世界のお話、ほとんど聞いたことがなくて、現実世界にお兄さんがいるなんて思いもしなかったです」
「僕のことを聞いたことがない……? ノア、そういうものなのか?」
「えへへ、パルトラ様のことを気遣った結果です。ごめんなさい……」
「ノアちゃん、落ち込まないで! 私が空白の泉で過ごすようになってから、現実世界の時計でもう半年くらいになるだけだし」
「そのくらい、ノアもわかってますよ。空白の泉は、時間の概念がないみたいですから……その……」
「ノアちゃんと違って、なんとなく時間感覚がおかしくなっちゃうよね」
「パルトラ様、そうではないですっ!」
ノアの頬がほんのりと膨らんだ。
ノアは怒っているわけではなく、やや興奮気味になっていた。
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