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セーフティ期間の街で


「ノア、あまり僕から離れすぎると、他のプレイヤーに襲われるかもよ?」


「えへへ……それには心配に及びません。この街は現在セーフティ期間に入っておりますので、他の冒険者に襲われることはありません!」

「セーフティ期間ってなんだ?」

「エンジェルマーケット等のマップと同じように、ユーザー様から戦闘が故意に起こせなる期間が定められているのですよ、ジョーカーお兄様っ!」

「ふむぅ……」


 セーフティ期間。聞いたことのない言葉に戸惑いそうになる僕は、ゲーム内の時刻を確認する。


 現在、午後零時十五分。

 正午を少し過ぎたあたりだけど、セーフティ期間ってどのくらいあるのだろうか。


「日本時間でいうと、セーフティ期間は午前8時から午後5時ですね」

「その間の戦闘は、街の外でするということかな?」


「そうなります。ちなみにですが、各地にあるダンジョンも戦闘可能ですよ!」

「そういえば、ノアは光のダンジョンマスターでもあったな」

「えへへ……ジョーカーお兄様の言う通りです」


 愛らしい微笑みをみせるノアは、天空都市セラフィマでダンジョンマスターを務めている。

 僕にとって最高の妹でもあり、シクスオのゲーム内において唯一無二の回復魔法の使い手でもある。


 だからこそ、数年ぶりの再会となったいまが、とても心配になる。


「ほんと、はしゃぎ過ぎるなよ……」

「ジョーカーお兄様は過剰に心配しすぎなのです。……ここの道を左に曲がって、ふごっ?」


 心配性になる僕のことが気になってよそ見したノアは、立ち止まっている他のプレイヤーの背中に当たった。


「す、すみませんでした……」


 すぐに謝ったノアは、頭を少し上げた。


「怪我はないかい? 俺っちのことだったら気にしなくても良いよ」


 ノアが接触したのは、親切そうに話しかけてきた黒髪の男性冒険者だった。


「ほんとすみません、以後気をつけます!」

「可愛いお嬢ちゃんかね、その心配はいらないよ?」


「はい……?」


 ノアはこの男が挙動不審なことに気づいた。


 普通はノアの顔を見てくるはずだけど、男は一向に振り向いてこない。

 いや、明らかにおかしいのは、この男の冒険者の足元だ。


 うっすらと感じ取れる奇形のオブジェクト。


 なんだか嫌な予感がする。少しメニュー画面から調べてみるか。

 僕は手際よく画面操作をした。


「これは、やはりというべきか……」


 嫌な予感は的中する。

 倒れているプレイヤー名のリスポーン通知が、ログに入っていたのだ。


 このオブジェクトは、倒された冒険者の死骸で断定した。

 目の前にいる男に倒されてしまったと考えるのが妥当だろう。


「ノア、下がって」

「えっと、お兄様……そうですね」


 ノアは余裕をもって、この男と距離をとってくれた。


「そこの男、すまないが単刀直入に問いかける。只今絶賛、この街中はセーフティ期間なんだが、足元の冒険者はどうやって倒した?」


 白色の横ラインが三本入っている大き目の銃を構えた僕は、男の冒険者の頭部に対して銃口を向けた。


「は、ハハハハハ……!」


「ちゃんと話したら、手荒な真似はしない……と思う」

「俺はいま、レアスキル、レアスキルが食べたいいいいい!」


 その場で振り向いた男の冒険者は、自身の瞳を紅色に輝かせた。

 おでこに太陽の紋章が浮かび上がり、男の体はまるで人形のようにくねくねと動かし始める。


「この現象……異変調査レポート2だな」


 実物を見るのは初めてだが、僕が受け取っていた異変調査レポートのひとつを読み通した記憶が蘇ってくる。


 太陽の紋章。紅色の瞳。

 原因は不明と記述があるが、男の挙動をみる限り、精神を操る系統の魔法によるものと断定してよさげだろう。


 詳しく調査もしたいところだが、いまは約束をしているから、そちらを優先させたい。

 なるべく早く、この男を処理してしまおう。


「手荒な真似はしたくなかったが……試し撃ち、するか」


 僕は銃の引き金に手をかける。


 攻撃対象は、目の前にいる男――ユーザー名『ミゲル』にだ。 


「標的は冒険者一名。これより戦闘態勢に入る」


 セーフティ期間に銃声が聞こえると、周囲がややざわめきそうな気がする。

 いや、既に冒険者が一人リスポーンしているんだ。ここは大騒ぎになろうというのなら、それもまたシクスオらしいか。


 僕は仕事の為なら、手段を選ばない。

 迷いを捨て去った僕は、ミゲルに対して銃弾を解き放った。


「おう、効かないな」


「それは練習用だ。次は本物を混ぜるかもよ?」

「ほう。それはさておき、あんたも良いレアスキルを持っているじゃねーかっ!」


 ミゲルは僕に向かって全力で走ってきた。


 右腕が少し上がっている。殴りかかる気か。

 左足を軸にして、ミゲルの軌道から逸れるように最低限の動きでよけてみる。

 少し後ろに下がると、拳の攻撃を綺麗に回避できた。


「おっと、いきなり危ないじゃないか」


 僕は二発目の銃弾を打ち込んだ。

 続いて、三発目。四発目と撃ってみた。


 最初に撃った銃弾と同じく、ミゲルはびくともしない。


 復帰勢向けの練習用銃弾って威力、大して出ないんだよね。

 一応、肩慣らしにも向いているのだけど。


「銃の攻撃が弱い、弱すぎる。俺にもっと、もっとたくさんの、レアスキルを食べさせてくれっ!」

「僕、このゲームするの久しぶりすぎて、腕がなまっているかもしれないからね。あえて手加減しているんだ」

「俺は、この世のレアスキルを食べつくしたいんだ!」


 僕との会話が微妙に成り立たない。


 ミゲルの欲求らしきものが声に出ていて非常に分かりやすいのだけど、レアスキルを食べたいという発想自体、すこしばかり気味が悪い。


 これは早く仕留めたほうが良さそうだ。


「練習用から本物の銃弾を変更して、それから……うん?」


 背中の方から、ナイフのような鋭い刃が飛んできた。

 それは僕の服に少し掠めた。


「ちっ……」


 いまの状況、割と良くない。

 ミゲルだけではなく、他の冒険者が応戦してきている。 


 倒す処理を一瞬で判断して、現状を突破しなければ……。



「きゃああっ、ジョーカーお兄様っ!」


「ノアっ?」


 ノアのいる方向には、男の集団が群がっていた。

 その集団の足の隙間から、頭を守るようにうずくまっているノアの姿が見えた。


「ノアから、今すぐ離れろっ!」


 僕は男の集団に対して、銃口を向けようとした。

 すると、ミゲルがまた急接近してくる。


「よそ見してると、レアスキルを食べちゃうぞ!」

「それはもう当たらないよ」


 僕は右足のつま先を立てると、強めの風と残像を生み出して、ちょこまかと動き回った。


「俺の攻撃が当たらねぇ……」


 ミゲルの拳は空振りに終わった。

 それから、ミゲルの顔面に向けて銃弾を撃った。


「ぐあっ!」


 ミゲルはその場で倒れて、リスポーンした。

 ほんの一瞬、魔法の効果を和らげる障壁のような膜がミゲルの身体に張り巡らされた気がするけど、無意味だった。


「それと、いきなりナイフを投げた君も許さないよ」


 僕は天に向かって銃弾を解き放った。

 すると、フードを被った冒険者が空から降ってきてリスポーンした。


 こっちも同様に、魔法に対しての障壁が見えていた。


 でも、僕が放つ()()タイプの銃弾には意味をなさない。



「失われた銃弾。それを無限に生成することができる固有スキルって、割と便利なものなんだよ」


 僕は休むことなく、ノアを取り囲む男の集団に向かって銃口を向けた。


「ノアを助けないとね」


 少し距離があるから、ゆったりと歩きながら引き金を引いていく。


 生憎? ノアは防御壁の魔法を使っており、冒険者がこれ以上寄り付かないようにしていた。

 なので僕は、動きの少ない的に対してとても撃ち込みやすい状況にあった。


「これでも、ノアちゃんクラブの会員なんだ。どうか俺たちにレアスキル、レアスキルを食べさせてくれっ……!」

「非公式のファンクラブがあるのですね……。レアスキルは、ごめんなさいっ!」

「ほら、妹が嫌がってるし。それは限りなく無理なお願いだ」


 僕は銃口の先端に、小型の魔法陣を展開しはじめた。

 ノアに纏わりつく冒険者を排除するついでに、こちらも試しに使っておこう。


 銃にセットされている弾に魔力を注ぎ込み、宝石の『色』を連想する。


「解き放つ、黄玉の煌めき!」


 構えている銃にも魔力を注ぎ込んでいくと、出現していた小型の魔方陣に対して何重にも魔方陣が重なっていった。


 それは全部で五段になった。


 狙いは冒険者に対して、範囲攻撃。

 僕が引き金を引くと、黄色に染まる銃弾が発射された。


「うむ、上手くいきそうだ」


 思わず声が出るくらいには、狙いは完璧だった。

 ノアを取り囲む冒険者の足元に着弾すると、急に黄金の岩石が地面からのし上げてきた。


「うごおっー!」


「ぐあああああっ!」


 次々と冒険者が突き上げられて、落下。


 ノアを取り囲む冒険者の集団は、ひとり残さずリスポーンした。


 これが、僕がシクスオで最も得意とする、宝石の銃弾を使った属性攻撃。

 属性攻撃は基本的に不利な相性に大きな効果が期待できないので、使いどころを見極める必要はある。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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