礎になるということ
シクスオの世界に幽閉されることになった私は、ゲームの画面からログアウトを行うと、女神ネフティマとの二人っきりになる。
その未来を選んだ以上、もう元の生活には戻れない。
それでも、私は掴み取った選択肢に後悔なんてしない。
「パルトラさん。ちょっと、よろしいかな?」
三カ国ダンジョンマスター交友会が無事に終わって、数日経った頃。
泉の前に立っているネフティマに声を掛けられた。
「いつもぼんやりしているのに……ネフティマちゃん、急にどうしたの?」
「私は観測者よ。……パルトラさんには、そろそろしてもらわないといけないことがある」
ネフティマが頃合いを見計らって、私に持ち掛けてきていることがある。
「ゲームマスターの権限を、手放すことですね」
「そうよ。パルトラさんがゲームマスターの権限を手放すことによって、現実世界は真の意味で救われる。という言い方が望ましいのかもしれない」
「ネフティマちゃんの表現としては、ちょっと複雑なような……」
「ちょっと、たとえるのが難しいのよ」
「そうですね……世界は複雑だから」
私とネフティマは、既に理解していた。
シクスオにある、ゲームマスターの権限の悪用する者が未来に映り込んでしまう以上、それは必要のないもの。
ただ、これを手放すと、使えなくなる機能がいくつかある。
未来を観測する機能、ネフティマの未来予知。
自由にアイテムを手元に用意できる、デバックモードのボックスデータ。
シクスオの何処かにある、マスタールーム。
どれもこれも、シクスオというゲームを支えてきた一面がある。
でも、いつ使えなくなっても大丈夫なように、ゲーム内で何度も声をかけてきた。
だから、ノアをはじめとしたシクスオを支える者には了承を得ている。
ここまでやったのだから、あとは……。
「例のモノを呼び出すわ」
ネフティマが手を伸ばすと、地球によく似たオブジェクトが出現した。
それに向かって、私は大きな声で喋った。
「ヤジョウツバサは、シックス・スターズ・オンラインのゲームマスターとしての権限を放棄する!」
その言葉が周囲に響くと、私は無意識に入っていた肩の力が抜けた。
シクスオのゲームマスターを放棄することによって、シクスオの世界は電子の星として自立し始める。
これからは、シクスオの世界は誰のものでもない。
それが、現実世界の平穏を保つことにも繋がっていく。
いま掴み取った未来を要約すると、そんな感じである。
「これで、ぜんぶ終わったよ……」
「パルトラさん、終わりじゃない。これから始まるのよ?」
「ネフティマちゃん、そうだね!」
私は、ネフティマの腕を軽く掴んだ。
これからは……ネフティマと二人で、楽しいシクスオの未来を歩み始めるのだから。
「そういえば、ここってどんな名前なのかなって」
「狭間の空間とは呼ばれてはいたけど、正式な名前は決まっていない」
「そうだね。それじゃあ、どうしよっかな……」
「悩むところではない気がしますが」
「すぐに決めるからね。ネフティマちゃん、ちょっと待ってね」
謎の空間。泉。ダンジョンが見える球体。
それから、時間が進まない。
空白の……。
「よし、決めた」
「パルトラさん。是夫とも、聞かせてほしい」
「この場所はね、今から空白の泉だよ!」
私の声が再び響くと、今度は六つの球体が泉の中心部に向かって集まりだした。
その六つの球体に映っているダンジョンは、私にとって馴染み深い場所と思えた。
クレイキューブの地下迷宮。
海殿――グレイブ・クローニア。
セイントキャッスル号。
後の三つはまだ訪れたことがなかったりするのだけど、シクスオのダンジョンマスターが作成したもので間違いなかった。
六つの球体が星のように光り輝いて、互いに共鳴し合う。
平穏な未来を掴み取った私たちに、祝福を与えるかのように。
これにて第三章、完結です。
パルトラちゃんが主人公としての物語は、これにて閉幕となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!
次回の更新(第101話)ですが、シクスオの世界での新たなストーリーを書くために、着々と準備をしております。
ダンジョンで遊ぼう!! ~エレメンタルバレット編~
みたいなノリです。楽しみにお待ち頂けると幸いです!