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07 私にできること

 私はヴォルクさんにマントを返そうとしたけど、「つけておいてくれ」と言われてしまった。


 何か事情があるのかな?


 よく分からないから、そのままでいるけど、スープをお皿によそうときに汚してしまいそうで怖い。


 気をつけて、なんとかよそいテーブルに運ぶ。


 スープをスプーンですくい口に運んだラエルは、瞳を輝かせた。


「何、これ、うんまぁ!」


 その言葉を聞いて私は胸を撫でおろす。


「よかった……」

「いや、本当にうまいわ! リナは料理上手なんだな! いいお嫁さんになれるわ」


 それまでラエルの隣で黙々と食べていたヴォルクさんが急にむせた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 あせる私にヴォルクさんは「大丈夫だ」と怖い顔をする。


「お口に合いませんでしたか?」

「いや……うまい」


 そうは見えないけど。ラエルもそう思ったようで「魔王様、褒めるときはもっとちゃんと褒めないとー! せっかくリナが作ってくれたんだから」とダメ出ししている。


 ヴォルクさんは困ったような顔で「……すごく、うまい」と言ってくれた。

「そんな、ムリに褒めなくてもいいですよ」

「ムリじゃない! 本当に、うまい」

「それなら、よかったです」


 安心したら嬉しくなった。私がニコニコしていると、それを見たヴォルクさんは、また顔をそらしてしまう。


 ラエルさんもヴォルクさんは人嫌いって言っていたから、私に慣れてもらうにはまだ時間がかかりそうね。いつかは仲良くなれたらいいんだけど……。


 お姫様に出会って恋に落ちたら、ヴォルクさんも変わるかも?


 そんなことを考えていると、私は掃除道具を探していたことを思いだした。


「ヴォルクさん、掃除道具はどこにありますか?」


 急な質問にヴォルクさんはポカンと口を開けている。


「掃除道具なら、調理場の物置にあるが……」


 ラエルが「リナ、急にどしたん?」と聞いてきた。


 まさか、いつかここにお姫様が来るから掃除をしておきたいんですとは言えない。


「えっと、ここに置いてもらうお礼に掃除をしようかと?」


「料理だけで十分だ」というヴォルクさんを、ラエルが肘でつついた。


「こんな汚いところに、リナみたいな美人は住まねぇの!」

「そう、なのか?」

「そうそう! それに清潔感のない男は嫌われるぜー」

「嫌われ……」


 私がそんなことで魔王様を嫌うことはないけど、確かに、埃まみれのところに平気で住んでいるのはちょっと心配になる。


 まぁ、埃くらいで魔王様が体調を崩すことはないのかもしれないけど。


 ラエルはさらに続ける。


「ほら、魔王様もいつも真っ黒な服ばっか着てないで、たまには違う服を着ないとリナがあきれるぜ」

「そういうもの、なのか?」


 ラエルのテキトーな言葉を、ヴォルクさんは本気にしてしまっている。

 その様子は、まるでチャラ男に丸め込まれる真面目青年のようだ。


「そういうものなの! だからさ、三人で街に行って買い物するのはどうよ? リナもほしいものは自分で選びたいよな?」


 ラエルが私にパチンとウィンクする。そういうことなら、と私もラエルの言葉を後押しした。


「はい、選びたいです! ヴォルクさんも一緒に行きましょう!」


 私がグッと両手を握りしめると、ヴォルクはため息をついた。


「分かった……明日な」

「今日じゃダメなのか?」というラエルの言葉に、ヴォルクさんが「準備がある。ラエル、あとから俺の作業部屋に来てくれ」と言って席を立った。


 立ったままなぜか固まったヴォルクさんは、珍しく私と目が合っている。


「……リナ。その、本当にうまかった。」


 空になったスープ皿を残して、そそくさと出て行くヴォルクさん。それを見たラエルが小さく笑った。


「不器用だねぇ」

「そこがヴォルクさんのいいところなのかも」

「ふーん?」


 ラエルは、どこか嬉しそうだった。


「オレ以外に、魔王様のよさが分かる人がいてよかったわ」

「ラエルとヴォルクさんは、長い付き合いなの?」


「あー、まぁね。オレ、ここに来るまであちこち旅してまわってたんだけど、何年か前に、オレがこの古城に盗みに入って……」

「盗みに!?」


 予想外の言葉を聞いて、つい話に割って入ってしまった。


「そうそう、廃墟かと思ったんだよな。それで、なんか金目のもの残ってないかなぁって」


 ラエルはあっけらかんとしている。


「でもオレ、魔王様にあっさり捕まっちまって。どうなるんだろうと思ってたら、さっさと出て行けって言われたんだわ」

「それだけ?」

「ああ、それだけ。罰もねぇし、怒りもしねぇの」


 なんだかヴォルクさんらしくて笑ってしまう。


「なーんか、気になって古城に残っていたら、魔王様、いろいろとめちゃくちゃでさぁ。見かねて魔王様の仕事を手伝うようになったんだよなぁ」

「じゃあ、ラエルはヴォルクさんの配下とかそういうのではないの?」

「違う違う。どっちかっつーと友達、かな? まぁ魔王様はぜってぇ認めないと思うけど」

「友達……」


 その言葉に私の胸はじんわりと温かくなる。ヴォルクさんに友達がいたことが嬉しい。


 ラエルは食べ終わった食器を流し台に運ぶと洗い始めた。


「私が洗うから置いておいていいよ」

「これくらいは、美味しいご飯を食べさせてもらったお礼にオレがやっとくわ」

「ラエル……モテそう」

「そうでもないけど?」


 ラエルの言葉に甘えて、私は調理場の他の部分の掃除を始めることにした。洗い物が終わるとラエルは「ちょっくら魔王様のとこ、行ってくるわ!」とヒラヒラ手を振る。


 日が暮れたころに、ようやく調理場の掃除が終わった。


 いつの間にか調理場に戻って来たラエルが「綺麗になったなぁ」と驚いている。


「リナ、今日は疲れただろ? 夕飯はテキトーに果物でも食べておこうぜ。魔王様にもオレから言っとくから」

「でも私、居候なのに……」

「そんなに頑張ってたら、ぶっ倒れるって」

「そっか、そうだね」


 ラエルの言葉に甘えて夕食は簡単に済ませた。


 頑張っていたつもりはなかったけど、部屋に戻りベッドに横になると全身が重く感じた。

 ラエルの言う通り、無意識に頑張っていたのかもしれない。


 私は、あっという間に意識を手放した。


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