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32 王宮へ

 馬のいななきと共に走り出した馬車は、地面ではなく空をかけだした。


 古城があっという間に見えなくなる。


 私は慌てて馬車の小窓を開けてラエルに声をかけた。


「と、飛んでるんだけど⁉」

「ああ、パーティーは王都の王宮で開かれるからな。飛んで行かないと間に合わない」

「これも魔法なの?」

「魔法つーか、正確にいうとオレの本来の力というか……」


 ラエルは「リナって、何をどこまで知ってるんだろ?」と独り言のようにつぶやいた。


「んー。まぁ、なんか魔王様がリナのアザを必死に隠していたから、この話は魔王様がいるときにしたほうがいいかもなー。あっほら、王都が見えてきたぜ」


 進行方向に、魔物の森の近くにあった街より数倍大きな街が見える。街の中心部には立派なお城があり、街の外側は高い壁に取り囲まれていた。


 王都に着く手前で馬車はゆっくりと地面に降り立った。


 馬車が街に入る前に門番に止められたけど、ラエルがヴォルクさん宛ての招待状を見せるとすんなり通してくれた。


 その様子を見た私は「ヴォルクさん、招待状を持たずに行って大丈夫なのかな?」とラエルに尋ねた。


「大丈夫、大丈夫! 魔王様って、公爵家の跡取りだし、最強の魔法使いだしで、ああ見えて一部では有名人なわけ。しかも黒髪って、この国ではすんげーめずらしいんだわ」


 そういえば、ヴォルクさんは街で騎士に声をかけられていた。見る人が見れば、ヴォルクさんだとすぐに分かるのかもしれない。


「魔王様、引きこもりだから顔パスは無理だけど、黒髪パスで招待状なんかなくても王宮に出入りできんだよなー」

「じゃあ、どうしてあの女性はパーティーの招待状をわざわざ古城まで持って来たんだろう?」

「魔王様も言っていたけど、アルミリエ公爵と繋がるのが目的だったんだろうな」

「なるほど」


 門を抜けると街があり、それをさらにまっすぐ進むとお城が見えてきた。


「あそこでパーティーをするの?」

「そうそう。うわぁ、やっぱり嫌な気配がするな」


 ラエルは「ってか、アイツの匂いがする」と言いながら顔をしかめた。


「に、匂い? アイツって?」

「なーんか、昔からオレのこと目のかたきにして、攻撃してくるやつがいるんだよなぁ。ムカつくから、会うたびに返り討ちにしてるけど」

「仲が悪いんだね」

「ああ、すんごく悪い」


 そんな話をしているうちに、馬車はお城にたどり着いた。


 ここでも招待状を見せると、すぐに通してもらえた。


「さてと」


 馬車を止めたラエルは、扉を開けると私に向かって手を差し出す。


「えっと、何?」

「エスコートってやつ。貴族はこういうことするだろ?」

「貴族じゃないからくわしいことは分からないけど、ありがとう」


 私はラエルの手をとって馬車から降りた。このドレスでは歩きにくいので、エスコートの有難さがよく分かる。


 もうパーティーは始まっているようで、周囲に他の人の姿はない。どこからか楽しそうな音楽が聞こえてきた。


「こっちだな」


 私はラエルと並んでパーティー会場へと向かう。その途中で、煌びやかな男性がかけよって来た。


「リナ!」

「……ヴォルクさん⁉」


 一瞬、誰だか分からなかったけど、名前を呼ばれて気がついた。


 髪をひとつにくくり、私と一緒に買いに行った高級紳士服を着こなしているヴォルクさんは、まるで王子様のように見える。


「どうして、リナがここに⁉」

「お留守番するって言っていたのにすみません! いろいろ事情があって……」


 私の隣でラエルが「よくあの距離でリナだって分かったなー」と感心している。


 言われてみれば、今の私はいつもより髪が長く伸びているし、別人のように着飾っていた。


 ヴォルクさんは「俺が贈ったドレスを着ているんだから気がつかないほうがおかしいだろうが⁉ あと、気配だけでもリナだと分かる!」と言い切った。


 ラエルがドン引きしながら「こわぁ」とつぶやいている。


「ラエル! リナをここに連れて来るなんて、一体どういうつもりだ⁉」

「まぁまぁ、落ち着いて。魔王様って、招待状を持って来た怪しい女の正体を調べるためにここに来たんだろう?」


「……ああ、そうだ」

「まぁ古城の防御魔法が反応しないヤツをほっておいたら危険だもんな。でも、そいつってさ、オレにも関係ありそうなんだよなー」


「そういえば、心当たりがあると言っていたな」

「そう。だから、あの女のことはオレが調べるから、魔王様はリナを連れてパーティーに参加してくれねぇか?」

「どうしてそうなるんだ?」

「リナが前にパーティーに行きたそうにしていたから。オレはリナの望みをすべて叶えてやりたいんだ」


 ハッとなったヴォルクさんが「ラエル、お前。リナのこと……」と言ったので、ラエルは笑い飛ばした。


「違う違う! そういうんじゃねぇから、安心しなよ。まぁ、ここで説明するのはなんだから、古城に帰ってきたら全部説明すっから!」


 ヒラヒラと手を振ってラエルはどこかに行ってしまう。取り残された私達は、お互いの顔を見合わせた。


「あの、私。ラエルが、王宮にすごく危ないヤツの気配があるって。それを聞いてじっとしていられなくて……約束を破ってすみません」


 ヴォルクさんの手が遠慮がちに私の頭をなでた。


「それは、リナが俺を心配してくれたということか?」

「はい、もちろんです!」

「怒らないといけないところだが……。そんなことを言われたら怒れないな」


 そういって微笑んだヴォルクさんを見て、私の心臓は飛び跳ねた。


 ヴォルクさんはため息をついたあと、「よく分からないが、ラエルに任せるか」とつぶやいたあとで、私の手を取る。


「パーティー中は、決して俺の側から離れないように」

「は、はい」


 真剣な眼差しを向けられて、私は動揺してしまった。

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