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25 【アレクシスSide】

「――隊長!」

「アレクシス隊長!」


 名前を呼ばれて気がついた。呼吸が乱れて、ひどく脇腹が痛む。

 エドが険しい顔で私を見ている。


「エド、状況報告を……」

「しゃべってはいけません! 傷口が広がります!」


 周囲が騒がしい。ここはどうやら街の病院のようだ。


「アレクシス様が魔物の森に入ってから、俺はできるだけ魔物の森の入り口で待機していました! そしたら、血まみれになったあなたが森から出て来たんです! 今は街医者の元に駆け込んだところです!」


 部屋に医者が入って来た。私を見るなり「ひどいケガだ」と言う。


「何があったら、こんなことに……。とにかく腹部に麻酔を!」


 次第に医者の声が少しずつ遠のいていく。


 それと同時に、私はあの場で見たことを思い返した。


 リナ達とピクニックへ行った帰りに、女性の悲鳴が聞こえた。人が魔物に襲われているのかと思いかけつけると、そこには立派な馬車があった。


 馬車の前には一人の女性が佇んでいた。遠目でも分かる鮮やかな紫色の髪。あの髪を持つ者を私は一人しか知らない。

 それは、この国の王女であるエキドナ王女殿下だった。


 私は咄嗟とっさに木の陰に隠れた。


 王女殿下がどうして危険な魔物の森に?


 周囲には護衛騎士の姿は見えない。王女殿下の足元には、メイドらしき女性が倒れていた。


 王女殿下は倒れているメイドを冷たい目で見降ろしている。


「バカな子ね。私を裏切るからそうなるのよ」


 王女殿下は周囲を見渡した。


「それにしても、魔物の森なのに、魔物が一匹も出てこないじゃないのよ!」


 その声はまるで誰かに話しかけているようだった。


「ここから城まで歩く? ウソでしょう!? その前に、変装? ああ、そうね」


 王女殿下がうなずいたとたんに、紫色の髪が茶色に変わる。


「まったく、私にここまでさせておいて、アルミリエ公爵の跡取りが使えない男だったら殺してやるわ」


 王女殿下の放つ気は尋常ではない。そもそもあれは王女殿下なのだろうか?


 外見はたしかに王女殿下なのだが、まるで何かに憑りつかれたような恐ろしい表情をしている。


 まぁ、普段の王女殿下も優雅に微笑みながら、陛下の側室を母に持つリオン殿下を蹴落とそうとしているような方だったが。


 王女殿下はヴォルク卿に会いに来たようだ。そして、彼を自分側に引き込もうとしているらしい。


 このまま王女殿下が古城にいけば、リナに会ってしまう。


 王家は『わざわいを招く者』を捜し出して、処刑したがっている。二人を会わせないほうがいいだろう。


 私は覚悟を決めて王女殿下に声をかけた。


「お待ちください」

「おまえは……」

「エーベルト侯爵家のアレクシスです。エキドナ王女殿下にご挨拶を申し上げます」

「知っているわよ。私との婚約を断った、失礼極まりない男アレクシス、でしょう?」


 ニィと王女殿下の口端が上がったかと思うと、私の脇腹を何かが貫いた。


「かはっ!?」

「そんなあなたがどうして、一人でこんなところにいるのかしらね? でも、ちょうどよかった。ムカつくから殺してあげる」


 らなければられる。王女殿下に切りかかると、剣が当たる前にキンッと金属音がして見えない何かにさえぎられた。


 剣での攻撃は通らない。ならば、撤退して援軍を呼ぶ。


 私は王女殿下に背を向け走り出した。


「逃げるの? 情けない男」


 王女殿下は追ってこなかった。脇腹の傷口からどんどん血が流れていく。街に戻って待機している騎士達に連絡を……。王女殿下の保護を目的としたら、一時的に彼女を捕えることができる。


 木々の隙間に街が見えてきた。あと少し……。


 そこで私は気を失ったらしい。


 リナは大丈夫だろうか? ヴォルク卿の不在の間、私が彼女を守るべきだったのに。


 激しい後悔の中で、私は意識を失った。


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