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11 助けてくれた青年は?

 買い物をした荷物と一緒にラエルの帰りを待っていた私は、予想外の出来事にあっていた。


 さっきから見知らぬ男性がニコニコしながら話しかけてくる。


「お姉さん、すごく可愛いね。いい店を知ってるから、俺とお茶でもどう?」

「いえ……。人を待っているので」


 そう伝えても男性は話しかけるのをやめない。


 もしかして、これ、ナンパなのかな?

 本の中の世界でもナンパってあるの?


 この街は治安がいいと言っていたから、スリにあったり誘拐されたりはないと思っていたけど、まさかナンパされるとは。


「俺、本当にお姉さんに一目惚れしたわ! マジでこれは運命の出会いだ!」

「あの、そういうの、困ります」


 走って逃げてしまいたいけど、この場所から離れるわけには行かない。知らない街で迷ってしまったら大変だから。


 ラエル早く帰って来て!


「お姉さん! すぐ近くだから! 俺と行こう、な?」


 男性がどんどん距離を詰めてくる。こちらを見る目が怖い。


 これは、危ない。やっぱり逃げよう。


 私が荷物を投げつけて相手が驚いている間に逃げようと覚悟を決めたとき、誰かが後ろから男性の肩をつかんだ。


「少しいいかな?」

「ああん!? 今、いいところだから邪魔すんな!」


 乱暴に振り返った男性は、声の主を見上げて固まる。金髪碧眼の青年が穏やかに微笑みながら男性を見下ろしていた。服装は白シャツにズボンと一般的だけど、鍛えられた体はとてもたくましい。


「彼女、嫌がっているように見えるけど?」

「あ、いえ、まぁ……」


「こういうのは良くないな」

「う、うるせぇ!」


 男性が怒りに任せて振り上げた拳を、青年は片手で受け止めた。


「暴力はいけない」

「くっ!」


 つかまれた拳がビクともせず、男性の顔はみるみると青ざめていく。


「す、すみません」

「謝罪は私ではなく彼女に」


 そう言われた男性は青い顔のまま私を見た。


「すみませんでした」

「あ、はい……」


 私がそう答えると、男性は逃げるようにその場から立ち去った。その背中を見ながら青年が「もっと懲らしめたほうが良かったかな?」とつぶやいている。


「いえ、もう大丈夫です。助けてくださり、ありがとうございました」


 青年は私がうっかり落としてしまっていた荷物を拾ってくれた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 受け取ったときに、少しだけお互いの指が触れた。そのとたんに、私の鎖骨下辺りが温かくなる。そこはアザがある場所で。不思議に思っていると、青年も青い瞳を大きく見開いていた。


「君は――」


 青年の言葉は、駆け寄って来たラエルによってさえぎられる。


「う、うわあああ! リナ、お待たせ! さっ、行こう! 早く!」

「え? あの、ちょっと待って」

「いいから早く!」


 必死の形相のラエルに圧倒されてしまい、私はコクコクとうなずいた。


 大急ぎで荷物を持ったラエルは「早く!」と、さらに私を急かす。私は助けてくれた青年に急いで頭を下げた。


「本当にありがとうございました!」


 青年は優しそうな笑みを浮かべながら小さく手を振る。


 しばらく走り青年が見えなくなったころ、ようやくラエルは走るのをやめた。


「ハァハァ、少し目を離しているうちに、リナがとんでもねぇ爽やかイケメンにナンパされてた……。ヤバイ、バレたらオレ、魔王様に殺される」


 そんなつぶやきが聞こえてくる。


「ラエル、大丈夫?」

「リナ、今あったことは魔王様には黙っといて!」

「いいよ、というか、わざわざそんな話ヴォルクさんにしないよ?」


 ナンパされて知らない人に助けてもらいました、とわざわざヴォルクさんに報告する意味が分からない。


 ラエルは、なんだか複雑な表情をしている。


「それはそれでどうなん? ま、まぁいっか。今日はもう帰ろう」

「うん、また街に来ようね」


 ナンパは怖かったけど、それ以外はとても楽しかった。


 でもラエルには、「いや、今度は魔王様と二人で行ってくれ。オレはもう行かない。リナに何かあったら責任が取れねー!」と頑なに拒否された。


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