chapter2-2
シホとダラダラ身体を密着させながらテレビを見て過ごしていたが、そろそろ時間だ。
「んとぉ、シホ……そろそろ準備するぞ」
「はーい……服はどうする?」
「何時ものでいいんじゃないかな?」
「いいね。ちょっとだけ手伝ってくれる?」
「お安い御用さ」
シホに似合う洋服に着替えるのを手伝う。
服装は黒色のチェック柄が入ったワンピース。
それから紺色のジャケットの上着を重ねる。
高校生時代からシホが気に入っている服装だ。
これを着ていると、とても落ち着くなのだそうだ……。
それから灰色のポーチも忘れずに。
俺の役目は、シホの着ているワンピースやジャケットがよれていたり、乱れていたりしていないかのチェック、それからポーチを彼女の腰に装着することだ。
「えへへ……どうかな?」
「いいんじゃないかなぁ、服も問題ないし何時でも高校生って感じで若々しいよ」
「もう、セイ君からかい上手なんだからぁ」
「からかっていないよ。シホの気に入っている服でデートするの、俺好きだし」
「……ありがとう……なんか、照れるなぁ……」
シホは耳をぴょこぴょこと真っ赤になりながらお礼を言った。
さて、休日とはいえ外出をする際に忘れてはいけないのは自衛用の武器だ。
清掃人の事を恨んでいる奴も少なからずいる。
それに、ギャングであったり暴走族が暴れたりする現場に鉢合わせをしてしまうことも稀にある。
そのために、自衛用としての銃を携帯する必要がある。
昨日使ったヨシムネが必要だな。
ヨシムネを取り出し、弾丸を補充する。
念の為、弾倉も3つ持っていこう。
羽織ったジャケットの裏側にあるホルスターにしまい込む。
流石に銃を握ったまま出歩くわけにはいかないからね。
「セイ君、杖はあるかな?」
「ああ、ほら……シホの杖だよ」
「ありがとう。これがあるだけでも全然違うからね」
シホも外出時には白色の杖を携帯している。
俺はゆっくりとシホの左手に杖を渡して握らせる。
この杖は魔法器具製造メーカー「綾波」が開発した目の見えない人向けに作られた魔法の杖「オトモ」だ。
杖内部には魔導工学システムを組み込んだ歩行補助機能が搭載されており、階段での転倒や線路に転落しないように前方3メートル範囲での段差を検知して、踏み落ちてしまうことを予防するための警告音や警告振動も出来る。
この杖のお陰で視覚に障害がある人が線路に転落する事故は激減し、厚生労働省からオトモの開発チームに勲一等瑞宝章が贈られた程だ。
それに、自衛用の電気ショックを付与する魔法が放てる装置が組み込まれていることから、防犯グッツとしての価値も高い。
シホの場合は歩行補助の杖だけではなく、防衛魔法を展開するための道具としての使用が可能だ。
現に、内部の魔導工学システムを弄ってシホの得意な詠唱魔法を増強するプラントを秋葉原の個人経営店で組み込んでもらった。
防衛魔法展開時には傘のように開いて銃弾や攻撃魔法を弾く効力を持っている実戦向けの杖と化した。
「オトモもいいけど、やっぱりセイ君と一緒に歩くのが一番いいかなぁ……」
「そうだな、でもちゃんと杖を突いて歩かないと危ないからね。左手では必ず持って歩いてね」
「うん。流石にノーハンドだと危ないからね……気を付けるよ」
「よし……それじゃあいくか」
「うん!!!」
嬉しそうにシホが頷いた。
さて、原宿までいくか。
部屋の各種の電気をチェック。
エアコンの電源は消した……ヨシ。
パソコンの電源も消した……ヨシ。
洗面台の電気も消して、部屋の灯りも消した……ヨシ。
指差しでチェックを行い、最後にドアの鍵を施錠しておく。
ドアの施錠・開錠は8桁のパスワード方式だ。
部屋の内部に人がいればパスワードを入れなくても開くことができるが、完全に無人の場合は液晶パネル、もしくはボタン式のダイヤルにある数字にパスワードを入力する。
パスワードを入力すると、自動的にドアの鍵が施錠される。
ガチャンと音が鳴ってドアがしっかりと施錠されたのを確認してから、俺とシホは駐車場に向かって歩きだす。
シホは俺の左側にくっついて歩いている。
身体を寄せて、左手はオトモを使って障害物がないか確認している。
歩いている最中、シホは鼻歌を歌いだした。
大好きな歌手のユーリンの歌だ。
「♪~♪~♪~」
「随分とご機嫌だね。それユーリンの曲でしょ?」
「だって、セイ君と一緒にデートだもん。嬉しいのよ」
「ははは、それは俺もさ……さっ、車はお先にどうぞ」
「ありがとう」
駐車場に到着してから、シホを先に助手席に乗せる。
スポーツカーということもあってか、車高が低いので彼女を座らせるために杖を持ってゆっくりと車体の中に座らせる。
助手席に座ったのを確認してからシートベルトを締める。
服に絡んだりしていない事を確認してから杖をシホに持たせてドアを閉める。
シホが無事に乗り込んだのを確認してから、俺も運転席に乗り込んだ。
フロントガラスに貼り付けた駐車場の発効券を真上にある運転席側のサンバイザーに差し込む。
駐車場から出る時に係りの人に渡すためだ。
エンジンのスタートボタンを押す。
唸るエンジン。
良い音だ。
V6ツインターボエンジンの唸り声が運転席にも響き渡る……。
レースじゃ負けなしのスポーツカーだけのことはある。
大手自動車メーカーの中でも自動車専門チューニングカーを手掛ける部門が作り上げた専門車両。
Nimmst……Midnight-500R……。
ミッドシップエンジンを採用していることから、後ろから振動が伝わってくる。
エンジンの始動と共に、盗難防止用の柵も無くなった。
出入口までは自動運転だ。
出入口の窓口に到着してから、俺は駐車券を係りの人に渡す。
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ありがとう」
カブキシティー住民専用F棟駐車場から車を出て、原宿へと車を走らせる。
車もシホもご機嫌だ。
今の時間帯は通勤ラッシュを過ぎている影響もあってか、道は空いている。
事前に地図アプリを経由して目的地までの道案内も入れてある。
カーラジオから流れる軽快な音楽と共に走りだしている車に身を任せるように俺は運転をしている。
フュージョンバンドで有名なSHIROYAMAの曲だ。
いいね、ご機嫌な運転に合うぜ。
サックスのリズムもいいし、何よりテンポが良い。
シホと一緒に運転をしているのが楽しくなる曲だ。
俺がノリノリで運転していると、シホも面白そうに聞いてきた。
「セイ君~この曲はなんて曲なの?けっこう」
「SHIROYAMAってグループが演奏している『Domino_Young』って曲だよ。釜山での公演で大好評だったやつ」
「へぇ~……キザシかぁ……何だかウキウキしている様子が伝わってくるね!」
音楽のリズムに合わせて合いの手をするシホ。
それに合わせるように音楽も盛り上がりを見せる。
耳を振りながら合いの手で車内の音楽を際立たせている。
まるでライブ会場さながらの合いの手だ。
「いいねシホ。めっちゃ楽しそうだね」
「ふふふ、セイ君が楽しそうにしていると私まで楽しくなっちゃうもんね」
「ははは、俺もシホが楽しんでいるようなら何よりだ」
「でもセイ君、ちゃんと安全運転でね?ウキウキしすぎて事故るのはやだよ?」
「そうなんだよねぇ……こうして運転しているから合いの手が出来ないのが辛いわ」
「でもさ、車から降りたら私が傍にいるからさ……」
「ああ、車から降りたら頼むよ」
車から降りたらシホと二人で歩こう。
俺はそう言って、運転に集中する。
軽快な音楽と共に、原宿までの道を走っていく。