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chapter1-5

シホは俺の服に頭を擦りつける。


まるで猫のマーキングみたいに、ぐりぐりと押してくる。


エルフ特有の長い耳をぴょこぴょこと動かして喜びを表現している。


ホント、猫みたいに耳が動く……。


そして胸元で息を吸ってクンクンと嗅いでいる。


ちょっとくすぐったいが、このままイチャイチャしても近所迷惑になるかもしれない。


「シホ、嬉しいのは分かるけど……それ毎回やらないといけないのか?」

「私は……セイ君が無事に帰って来て嬉しいんだ……だから、こうして無事に帰ってこれた事に感謝しておまじないをしているんだ」

「無事に帰ってこれた時のおまじない?」

「うん。エルフのおまじないは加護があるんだよ。これを欠かさずにやっているから怪我もしなかったでしょ?」

「たしかに……シホのおまじないは効果覿面だな。今日の仕事で怪我一つしなかったぞ」

「でしょ?ちゃーんと、セイ君を加護で守ってもらっているんだから!」

「はいはい、とりあえず部屋に入ってから続きをやろうな……」


俺はシホを身体に抱き寄せて部屋の中に入る。


ゆっくりと、彼女が勢い余って転倒しないように歩く。


シホは髪の毛で目元が隠れてしまっているが、彼女の目が開くことは無い。


何故なら、シホは目が見えない。


5年前に起こった交通事故で両目の光を完全に失ってしまっているからだ。


その時に出来た傷跡は今でも癒える事は無い。



……。



少し、昔話を挟もう。


俺は小さい頃から自由に魔法を扱う魔法使いに憧れていた。


そして、異世界出身のエルフ人のシホとは幼馴染。


住んでいる場所が隣同士ということもあってか、公園でも一緒に遊んだ仲だ……。


一緒に遊んでいた時に、将来の夢を聞かれた。


「セイ君は、大きくなったら何になりたいの?」

「僕は魔法使いになって、いろんな人を救いたい!」

「私はね……魔女ウィッチになりたいの」

「魔女?」

「魔法使いの中でもすごい魔法が使える女の人の名称だよ!」

「じゃあ僕は魔法使い、シホちゃんは魔女になれるようにがんばろう!」

「うん!」


魔法使いは、小さい頃からの夢だった。


俺の想いを理解してくれたシホと意気投合し、二人で魔法に関する勉強を沢山頑張った。


俺とシホは同じ小学校、中学校、高校に通った。


高校は都内でも魔法を専門に学ぶ都立第六魔法高校に進学して、魔法の勉強と研究に没頭した。


科学技術と魔法技術が融合した魔導工学を学ぶ上でも、魔法に関する知識が必要不可欠だ。


第三級魔術師の資格を中学三年生の時に、高校二年生の時に中級魔法資格を俺とシホはそれぞれ取得し、魔法で使う実験材料の購入や、取り扱える魔法なども取りそろえた。


そして、高校三年生の時に全国高校生魔法検定試験で俺とシホは全国でトップ10入りを果たした。


俺が9位、シホは6位だった。


その事もあって、12月には国立東京魔法大学への推薦入学が決まったんだ。


国立東京魔法大学は一流の魔法使いになるための登竜門であり、魔法大学で四年間の学習をしてから卒業試験で「第一級魔術師の資格ないし上級魔法資格取得」を取得してから初めて一流の魔法使いとして認められる。


一流の魔法使いになれば、大手財閥企業への就職などもやりやすくなる。


将来への勝ち組への切符を買ったも同然だ。


そんな推薦入学記念としてお互いの両親も含めて白馬村のスキー場に二泊三日の予定でスキーを満喫する手筈となっていた。


だが幸か不幸か、俺はインフルエンザを患って寝込んでしまった。


両親は俺に気を遣って辞めようかと言っていたが、せっかく仕事を休んでまで取得した休日を楽しんで来て欲しいと、スキー場に行く事を俺は勧めてしまった。


その事を今でも俺は悔やんでいる。


両親とシホ、彼女の両親は予定通りに車に乗って中央自動車道を経由して白馬村を目指していた……。


中央自動車道の韮崎IC付近に差し掛かった所で、地元のギャング同士で抗争が発生。


一方が追い詰められて中央自動車道に逃げ込み、相手を追いかけていたギャング構成員の運転していた大型トラックが中央道に乗り込んで強引に車線変更をしようとしたところ、俺の両親とシホ達が乗っていた車に激突。


車もトラックも宙を舞って下り線を塞ぐ形で大破した。


部品や荷物……そして人間だったものが至る所に散乱していた。


俺の両親の身体は車の車体にめり込むような形で身体の殆どの部位がバラバラになっていて、辛うじて父親の右手と母親の左手だけが原形をとどめていた。


最期の瞬間、二人は咄嗟に手を握っていたんだろう。


シホの両親に至ってはトラックの部品が頭部を貫通し、後部座席から投げ出されて残骸に折り重なるように押しつぶされていた。


肉片に残っていたDNA鑑定で身元が分かった程だ。


そんな凄惨な事故の知らせを聞いたのは、次の日の朝だった。


インフルエンザを患っていた影響で、ボーっとしていた時に何度もチャイム音が鳴り響いた。


俺はフラフラとした足取りで、体熱を逃がす冷却シートを額に貼り付けたままドアを開けると、そこには警察官が立っていた。


警察官は身元確認のために、俺の名前を尋ねた。


「お休み中のところ申し訳ない、君が内守誠二郎だね?」

「えっと……そうですけど、警察の方ですか?」

「うん。君のご両親が亡くなったよ……」

「えっ……ど、どういう事ですか?何かの間違いじゃないですかね?」

「昨日の昼頃に韮崎ICで事故があってね……その事故に巻き込まれたんだ」

「そんな……」


俺はその後の一週間の記憶が曖昧なままだ。


気がつけば、両親の親戚が色々と動いていた。


悪い意味で動いていたんだ。


警察と役所の人間に両親の死亡確認届けを出して、遺産に関しては俺に500万円を渡してくれた。


遺産相続をして500万円を渡してくれる善人?


とんでもない。


本来なら20億円近くあったはずの両親の遺産は、親戚たちが毟り取っていたからだ。


弁護士を使ってインフルエンザと両親の死で意識が混沌としていた俺にサインと印鑑を押して、()()()()遺産を移譲させていたんだ。


騙されたと気が付いた時には、遺産を奪った親戚一同は韓国と台湾に高跳びしていた。


何もかもが奪われた。


唯一残ったのは、家族との集合写真となけなしの500万円、それとボロボロになったシホだけだった。


最初に病院で面会した時、シホの身体は無数のチューブ管に繋がれていて、目の部分は赤く染まった包帯でぐるぐる巻きにされていた。


医者からシホの様子と状況を伝えられた。


まずシホは車の外に投げ出され、その際にトラックの部品が目の辺りに接触し、深い傷を負ってしまった。


投げ出された身体は高速道路の傾斜面に植えられていた芝生に当たり、芝生がクッションとなって手足の身体の骨にヒビが入る程度の怪我で済んだと語っていた。


顔から下はそこまで酷くは無かったが……目元の辺りが酷く損傷しており、両目の視神経まで摘出しなければならない程の大怪我をしていた。


それに、高額費用を捻出しなければシホの目が見えるようになる事は無い事も告げられた。


「先生、シホの目は……義眼で何とかなりませんか?」

「残念ながら人工義眼の移植は無理でしょう……眼球との映像を接続している視神経を摘出している状態では、通常の保険で賄える範囲を超えています。保険適応外の魔導工学を駆使した高額治療である疑似視神経プラントを埋め込まない限りは無理です」


俺とシホは肉親を失い、シホに至っては視力を失ってしまった。


疑似視神経プラントの埋め込み費用を含めて手術費用は20億円……。


もし、両親の遺産が手元にあればシホの目を治せると……そう思うと悔やんでいる。


シホの入院費用に関しては国から補助が出たけど……魔法大学への推薦入学は辞退する運びとなった。


推薦入学が出来ても学費全額無料の特待生扱いではない。


特待生扱いになるには、全国高校生魔法検定試験で5位以上の成績を取らないといけない。


俺とシホは全国でも上位だったけど、あと一歩届かなかった。


あと一歩で届くはずだった夢が……届かなくなった瞬間だった。


年間500万円の学費を捻出できないし、ましてや残されたシホを誰が面倒を見ればいい……。


俺も断腸の想いで推薦入学を断り、俺がシホの面倒を見ながら生きることを決めた。


その事を病院のベッドで寝ていたシホに伝えると、彼女は身体を震わせて泣いていた。


「ごめんねセイ君……ごめんね……私のせいで……」

「ちがうよシホ。君のせいじゃない、君のせいじゃないんだ……だから……自分を責めるな……」

「ううう……うわああ……ああああ…………ああああああああッ……」


嗚咽しながら謝るシホを、俺は抱きしめた。


涙腺すらも破壊されて、涙の出る事のない身体になってしまった彼女の分まで、俺は泣いた。


シホは……シホは唯一、俺を理解してくれる存在だ。


彼女のためなら何だってする。


その結果、俺は清掃人として……社会の汚れ仕事を引き受けることを生業とする道を選んだ。


それが、俺が生きる理由だ。



……。



「セイ君、どうかしたの?」


シホは立ち止まっていた俺に声を掛けてくれた。


どうやら昔話を思い出していた際にボーっとしていたみたいだ。


「……あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと疲れてボーっとしちゃっただけだよ」

「ふふっ、きっと仕事で緊張していたからかもしれないね」

「そうだね……夕飯だけどハンバーグ弁当を買ってきたしたけどいいかな?」

「うん!ハンバーグ大好き!一緒に食べよう!」


嬉しそうな声で耳をぴょんぴょん動かして夕飯を食べたいと袖をグイグイ引っ張るシホ。


そんな元気なシホを見て、俺は嬉しくなった。

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