chapter3-7
来年もよろしくお願いします。
通路に響き渡る電流が弾ける音。
バチバチバチと音を立てて炸裂する。
炸裂と同時に、こちらに向かって走って襲い掛かろうとしていた赤豹たちは痺れて転げ落ちる。
空間に電流が流れるんだ。
テーザー銃のような一瞬にして身体の自由を奪う程の電流によって、身動きが取れなくなる。
これだよ、これを狙っていたんだ。
一網打尽……ネズミがホイホイと群がるように赤豹たちが通路で折り重なって倒れ込んだ。
「いてぇ……畜生、痺れて動けない……」
「おい、早くどけよ!」
「身体が……身体が動かないんだ」
身体を動かして逃げようと必死だった。
芋虫が這いまわるように、電流によって痺れている中で身体を懸命に動かそうと努力している。
だが、それも無意味だ。
「そうだよ。身体が動かないからもう喋らなくていいからな」
「なっ……」
「や、やめ」
「たすけ」
「はい、おやすみ」
ヨシムネを二丁握って奴らの身体に穴を開ける。
50口径弾に耐えれる奴はいない。
銃弾が身体にめり込む度に魚のように跳ねている。
体中の穴から出血が起こっている……。
これで3分以内にこいつらは出血性ショックで死ぬだろう。
このマンションの住民に酷い行いをしたんだ。
このくらいされて当然さ……。
こいつらで最後だろう。
十菱金融の鞄も手に入った。
これでおさらば……。
……というわけにはいかない。
ドワーフの女性をどうにかしないといけない。
このまま待っていても警察が解決してくれるとは思えない。
この間のホット・セーブの時に実況見分調書を書き上げた巡査長のようにやる気のない奴だった場合、この人が痛い目を見るかもしれない。
それに、赤豹の生き残りが彼女を報復する可能性も高い。
この場にいたら彼女が犠牲になるかもしれない。
緊急退避をする必要がある。
部屋に戻ると、ドワーフの女性は虚ろな状態ながらも服を着ようとしていた。
破れかけているズボン。
ボロボロになったシャツを着ている。
下着も来ているようだが、赤豹たちの狼藉行為によってボロボロだ。
血もついている……。
見ているだけで痛々しい。
あ、そこでくたばっている赤豹のリーダーじゃないよ。
「……ねぇ、私……どうすればいいの?」
「どうするもこうするも……今はここから離れるべきだ。赤豹たちはしつこいからな……一旦俺と一緒についてきてくれるか?安全な場所まで避難しよう……それでいいか?」
「あー……うん……そうするね……」
「是非ともそうしてくれ」
やはり、乱暴されたことで肉体の怪我よりも精神的なショック症状が出ている。
何度か声掛けをして、彼女を励ます。
「……君の名前は?」
「……ルナ」
「ルナ?それが君の名前か?」
「……うん」
「分かった。ルナ、貴重品をバックに入れて、ここから脱出するよ」
ドワーフの女性はルナと名乗った。
ルナ……か。
ドワーフに多い名前だ。
とはいえ、彼女は護衛対象となった。
しっかりと守らないとね。
今の俺は右手にヨシムネ、左手には鞄……。
とりあえず第一目標は達成した。
後はこれを十菱金融の水落さんに届けて、ルナを安全な場所に退避させるだけだ。
マンションから出ようと部屋を出た際に、マンションの駐車場に派手なカラーリングの車が4台ほど停車してきた。
しまった。
あれは赤豹の車だ。
SUVにスポーツカー……。
それぞれ4人程の赤豹の構成員が駆け足でマンションの入り口に向かってきている。
……騒ぎを嗅ぎつかれたか。
やれやれ、余程俺のことが気に入ったらしい。
弾薬はまだ半分はある。
それに、そこらへんに転がっている赤豹の死体にはMAC10といった銃火器も転がっている。
増援もまとめて始末するとしよう。
「ルナ、赤豹の増援が来たようだ。もう少しだけここの部屋に隠れていてほしい。俺が片付けてくるよ」
「……分かった」
「よーしッ……気合い入れていくぞッ!!!」
透視魔法が薄れてきたので、本日二本目の投与を行う。
一本目を吸ったときよりも頭の奥にツーンと少し痛みが走りだす。
あまり常用するものじゃないから負担が掛かるんだ。
俺はこちらに向かってドタドタと音を立てながらやってくる赤豹たちと対峙することにした。




