chapter3-6
309号室に鞄の臭いの跡がくっきりと残っている。
ここで当たりのようだ。
透視魔法では、二人の姿がある程度見える。
銃を突き付けた状態で……馬乗りになっている。
馬乗りになっているのがミシマか……。
マズい、このままではドワーフの女性が危ない。
4階と5階の清掃がまだ終わっていないが、リーダー格の奴をぶっ潰せば統制を失うはずだ。
最も、統制を失ったところで赤豹たちがどうなるわけでもないが……。
ドアの鍵は開いている。
誰でも自由に出入りしてもいいというわけか。
そして、女性に対して狼藉を働いているというわけか……。
ズボンを卸そうとしているので、間一髪といったところか。
「お楽しみ中の所、失礼するぜ」
「あぁっ?!なんだてm」
「おっと、それ以上は言わせないぞ。ミシマ……永遠に黙ってもらおうか」
咄嗟に銃を抜こうとした先方を反射的に撃ち殺してしまったが、まぁやむを得ないだろう。
部屋にはこの赤豹のグループのリーダーと、住民のドワーフの女性二人だけだ。
ここの部屋は酷い状況だった。
部屋のシーツは引き裂かれている上に、棚に飾られていたはずの本は滅茶苦茶に破かれている。
家族写真と思われる写真立ても割れていた。
部屋の至る所に血の跡が点在している……。
今、撃ち殺したリーダー格の男を除けば、この女性は勇敢にも赤豹相手に抵抗したのだろう。
ドワーフは小柄だが力持ちだ。
それでも、多勢に無勢……。
必死の抵抗をしても心が折れるまでボコボコにされていたようだ。
ここから見ただけでもドワーフの女性の顔には何度も殴られた痕があった。
それだけじゃない。
彼女は衣類を身に着けていない。
ありのままの姿だ……。
腕や足には青紫色に変色している程の打撲痕が生々しく残っている。
あまりにも痛々しい姿に、俺は彼女に尋ねた。
「……大丈夫ですか?」
ドワーフの女性に声を掛ける。
虚ろな目で焦点が定まっていない。
それに、殴られただけではなく両手を後ろに縛られて身動きができない状態で乱暴されていたようだ。
幸い、まだコトに至る直前で阻止できたが……。
女性は「あ……」とか「うっ……」の反応しかない。
「……回復魔法でどうにかできないかな……」
困った時の回復魔法……。
俺は試験管に入っている回復魔法の蓋を開けて、彼女の口に流し込んだ。
ある程度の傷でも治療ができるが、メンタル面をやられている場合は病院にいくしかない。
ただ、ここには十菱金融から依頼を受けた鞄もご丁寧に置かれている。
全く、このリーダー格の男は空けるのを諦めて、八つ当たりで女性に暴力を振るっていたのだろうか……。
だとしたら外道だ。
ギャング集団にしても、ルール無用でなりふり構わず暴れまくる連中だからな。
傷もある程度治まったものの、意識に関してはぼんやりとしか戻ってきていない。
……だめだ、このままでは埒が明かない。
せめて上着だけでも羽織っておいたほうがいい。
俺は身に着けているジャケットを彼女の上にかぶせる。
「これを着ていて。せめて上半身だけでも隠しておいて」
「あ……うん……」
「4階と5階の掃除をしてくるから、それまでここでジッとしてもらってもいかな?」
「……うん……」
「よし、その返事は有り難い。すぐに戻るから待っているんだよ」
さーて、反撃開始だ。
309号室の玄関を除くと、4階からドタドタと赤豹の戦闘員が降りてきて一直線にこちらに向かってきた。
今度の連中は近接戦闘メインのようで、日本刀や金属バットで武装していた。
銃火器を持っていたのはさっきまでの連中だったのかな?
「ミシマさん!!!」
「てめぇっ!ミシマさんに何をしたんだ!!!ぶっ殺すぞ!!!」
「そうだ!やっちまえ!!!」
「はいはい、言い訳はあの世で聴こうね」
俺は空間電気伝達魔法が詰まった試験管を取り出すと、走ってくる相手に投げつけた。




