chapter3-5
乾いた発砲が響き渡る。
それぞれ二発ずつ相手に撃ち込む。
「ぐぇっ」
「うぐぅっ」
発砲と同時に相手の胴体を撃ちぬく。
50口径弾は普通の外壁やドア程度なら簡単に貫通する。
アサルトライフルと同じかそれ以上の威力を誇る。
44マグナムを開発した研究者にお礼を言いたいぐらいだよ。
ドアが開いて血まみれの相手が倒れ込んだ。
ジャケットには『天下四品』と書かれている。
おいおい、ちゃんとした四字熟語を使え。
せめて天下無敵とかさ……。
そういう単語使えよ……。
四品ってなんだよ、食事か?
さて、管理人には尋ねなければならないことがある。
銃を構えたまま、管理人に尋ねる。
「他の赤豹は?」
「う、上の階に複数人おります……ざっと20人以上はいるかと……」
「20人か……やはり多いな。ここの住民は?」
「ほ、ほとんどは部屋に籠っています……あと、緊急通報されるのを阻止するために電波妨害装置を作動させられています」
「電波妨害か……では携帯電話も使えないというわけだね?」
「はい、固定電話も駄目です。部屋から出たら殺すと……」
「脅しているわけか……はぁ……」
十菱金融を襲った上で挙句の果てにマンション占拠とは……。
やっている事がテロリストだぜ。
全く……駆除してか鞄を取り返す必要があるな……。
「貴方はここに隠れていて、俺は奴らを片付ける」
「か、片付ける……もしや貴方は……」
「清掃人だ。ま、今回の事はちょっとだけ静かに待っていてくれ」
「は、はいぃっ」
今の銃声で上の階が少し騒がしくなっている。
ドタドタと駆け足の音が聞こえてきた。
「おい、今の銃声は何だ?」
「下の階からだな。おい、お前ら見てこい」
「へい、殺してもええですか?」
「おう、構わず殺せ。ついでに管理人も殺しておけ」
おやおや、随分と荒っぽいことを言っているな。
階段の影に息をひそめる。
相手からは見えない。
こういう時に透視魔法は役立つ。
人の姿が階段の影になっていても丸見えだよ。
1、2、3、4……4人か……。
一番後ろの男は恰幅が良いな。
足音からしてオークみたいだな。
ギャング集団の中にオークが多いって?
そりゃ、銃無しの場合は無敵だからさ。
人間の幕ノ内力士とタイマン張れるぐらいの強さを誇る。
並の人間が飛び道具がない状態じゃ勝てねぇ。
だからこうするのさ。
俺は銃の引き金を引いた。
「うわぁっ」
「ほぉっ」
「ぐぶぅっ」
「がぁっ」
ヨシムネを構えて断層が空になるまで撃ち続ける。
真後ろの物陰から発砲されるなんて思いもしなかっただろう。
銃声が鳴り響いて、あっという間に糸が切れたように倒れ込む。
四人とも銃やバットなど武器を構えていた。
奇襲攻撃じゃなきゃ対処は難しいな。
そんじゃま、第二ラウンドの開始だ。
空になった弾倉を捨てて、弾を装填する。
二丁拳銃の難点はこの装填方法が少し難しい点だ。
ゲームみたいに素早く装填するシステムがない。
それ故に時間が掛かる。
ただ、安全な場所で弾込めができればそれでいい。
2階、3階、4階、5階……。
この中でも鞄の臭いの反応が強い場所を探り当てるだけでもいいが、まずは赤豹たちの処理もしなければ……。
マンションの住民が安心して眠れないだろう。
人質を取って威張り散らすようなゴミカスはさっさと死ねばいい。
各階層ごとに立てこもっている赤豹の潜伏場所を虱潰しの如く潰す。
奴らとそうでない奴の見分け方は簡単だ。
通路や部屋の中で堂々と武器を構えて複数人で溜まっている連中がいれば、間違いなく赤豹たちだ。
2階と3階を繋ぐ通路の真ん中で4人ほどが屯している。
「おい、一階の連中はどうした?」
「さっきから報告に上がってきておりませんなぁ……」
「まさか殺されたんじゃないだろうなぁ……」
「いや、でもオークのシオザキもいるんですぜ。腕っぷしも強いですし、生半可に管理人が反逆をしても叩きのめしてくれますわ」
「そうだけどよォ……309号室のドワーフ女はどうする?」
「あの反抗的なドワーフの娘か?中々いいですぜ、殴って言う事を聞かせるようにミシマさんが直々に躾けをしている最中ですわ。もうすぐ自由に使えます……それまでもうしばらく待っていてくださいな」
「おー、それはいいな。最近鬱憤もムラムラも溜まっていた頃合いだ。ここで一発発散するとするか」
「「「ガハハハハハハ」」」
……反抗的な住民を躾け?
……いや、躾けという名の暴力行為をしている最中だな。
このグループのリーダーはミシマって奴か……。
鞄の反応も階段の上の方向に臭いが漂っている。
間違いなく、上でヤッっている。
……止めるか。
「ドワーフの代わりに俺が一発発散させてやるよ」
「ん、なんだてめ」
俺は男達の前に現れて銃を撃ちこむ。
物陰からスッと現れた俺に対応できるのはいなかった。
身体を撃ちぬかれて3人が即死……。
「ああああっ、イテェッ!!イテェッ!!!」
運悪く1人は右腕の真ん中をぶち抜かれて悶絶している。
ありゃー義手の装着も無理だな。
きっと神経も断絶している頃合いだ。
「いてぇよぉ、いてぇよぉ……」
「おい」
悶絶してもいいが、死ぬのはもう少し後にしろ。
銃を頭に突き付けた状態で悶えている男に問いただす。
「ドワーフの女性を乱暴しているのは本当か?」
「だ、だれだアンタ……」
「質問に答えろ。頭吹き飛ばされてぇかお前」
「わ、わかった。わかった。ドワーフの女は昨日抵抗したからミシマさんの怒りを買って乱暴している最中だよッ。それでも抵抗するもんだから、押さえつけて言う事を聞くようにしているんだ」
「そうか……で、ミシマがグループのリーダーだな?」
「あ、ああ……そうだよ……」
「十菱金融から奪った鞄はまだ持っているな?」
「……それはミシマさんが管理している。俺たちみたいな下っ端が扱える白物じゃねぇよ……」
「それから……ドワーフの女性とミシマはまだ309号室に居るんだな?」
「に、二十分前に部屋に伺っていた時はドワーフの女を殴りつけてから躾けをしていたさ……な、なぁこれで許して……」
「……もらえるなんて思うなよ、この下郎が」
発砲と同時に、相手の頭の内容物が壁一面に吹き飛んだ。
おー、派手に吹き飛んだな。
さて、2階のごみ処理は完了した。
309号室に急行だ。
民間人への犠牲は最小限に。
階段を駆け上がり、俺はグループのリーダーであるミシマを食い止めるため、309号室に一気に駆け寄った。




