chapter1-1
ローファンタジー×ハードボイルド小説の組み合わせが見たかったので初投稿です。
☆ ☆ ☆
東京 台東区 浅草
外に滴る雨粒がフロントガラスに降り注ぐ。
降り注いだ雨粒は一滴ずつ意思を持っているみたいに、くねくねとガラスの上を滑り落ちていく。
そんな健気な雨粒も、ワイパーを動かせば纏まって下に溜まって流れてしまう。
雨粒の音をかき消すようにカーラジオから流れてくる80年代の邦楽……。
変わり続ける事のない、都市をイメージしたミュージック。
シティ・ポップと呼ばれている音楽だが、今でも色あせない。
軽快な音色を耳の奥で奏でながら、俺は音楽に合わせて下手くそな鼻歌を歌う。
「♪~♪~♪~」
今日の気分はご機嫌だ。
雨はいい。
個人的に好きだ。
足音を消せる上に、人間の注意力が散漫になりやすい。
手元で今日使う道具の最終チェックを行っている。
日本企業がイスラエルの銃器メーカーを買収して作らせた50口径自動式拳銃『ヨシムネ』……。
手りゅう弾……。
試験管に入っている複数の魔法薬……。
大丈夫だ、抜かりはない。
車内のデジタル時計は午後11時55分を指している……。
もうじきか。
「仕事の時間だな……行くか」
俺は道具を服の中にしまい込んでから車から降りた。
雨粒が髪の毛に当たり、頬に触れる。
だけど、雨の音は聞こえない。
何故なら両耳にはワイヤレスイヤホンを装着しているからだ。
雑音だけを消して、会話などはしっかりと聞こえるようにしているイヤホン。
異世界の超音魔法技術を応用して作られただけあって、仕事でも使える優れものだ。
そしてカーラジオからは次の曲がセットアップされる。
いいタイミングだ。
『では……ここで次の曲をお届けします……1986年にリリースしたウチモリエルフズのシティーJAZZの名曲『さよならのエンブレム』……お聞きください』
これまた80年代の名曲ときたか。
いいね、最高だ。
選曲も素晴らしい。
曲を流しながら目的の中華料理店に入る。
既に『閉店』という文字が掲げられているが気にしない。
何と言ってもドアが空いているからな。
ドアを施錠しないやつが悪い。
中華料理店に入ると、そこではカウンター席を囲うように3人の黒服を着た男達が座っていた。
そこで回鍋肉や青椒肉絲といった中華料理を美味しそうに食していた。
だが、中国人じゃない。
あれは異世界出身の種族だ。
体格がよくて体色が緑色ベース……。
彼らはオーク……か。
さしずめ、この店の用心棒といったところか。
気の毒だな……あまり悪そうな奴らではないんだがね……。
とはいえ運の悪い奴らだ……。
「悪いな兄ちゃん。もう店は閉めるから、また明日来てくれ」
「今度来るときは午後11時までに来てくれ。この店のラストオーダーは午後11時10分までなんだ」
「もう店は終いだ。さっさと帰ってくれ」
オークたちは食べ物を食べながら俺に退店を促してくる。
いきなり暴力で解決するのではなく、退店をするようにしてくるあたり、穏便に済ますように教育されているようだ。
うむ、確かに店じまいにするのは予定調和だからな。
清掃人は、物理的な手段をもってして、店じまいを執り行うのが流儀だ。
「ああ、分かった。これは俺からの選別だ。取っておいてくれ」
「「「えっ」」」
俺は服の中から手りゅう弾の安全ピンを抜いてオークたち目掛けて放り投げた。
あまりにも突然に手りゅう弾を投げ出されたオーク達は、席から飛び上がる。
「うわあぁっ!?」
「ひぃっ?!」
「逃げろッ?!」
手りゅう弾が炸裂し、カウンターが吹き飛ぶ。
カウンターに置かれていた美味しそうな料理も吹き飛んで、皿の破片が飛び散っていく。
ああ~……勿体ない。
中華料理なら麻婆豆腐が好きなんだが……。
手りゅう弾を投げ込んだ後、大きな腕が目の前に吹き飛んできた。
「うわあああああっ!!腕が!!!俺の腕がああああ!!!」
爆発に巻き込まれたオークの1人は左腕の半分を吹き飛ばされたようだ。
気の毒に……オークの資本は身体なのにな……。
「ごめんな。ここを守るように言われていただけなんだろうけど……」
申し訳ないと思いつつ、俺は黒光りのコーティングを施したヨシムネを取り出して重い引き金を引いた。
―ズバァァン―
右腕で吹き飛ばされた左腕を押さえつけている彼の頭目掛けて放った。
いくらオークいえど、至近距離で50口径弾を受けて無事で済む個体はいない。
ヨシムネは50口径弾を発射できる大型口径拳銃として反動もデカいが、やはりオーク退治にはもってこいだぜ。
血が噴水のように頭から飛び出した後、オークはそのまま地面に倒れる。
「ひっ……ひぃぃぃっ!!!すみません、すみません!!!ホントにすみません!!!!」
「やっ、やめろっ!!頼む!!!殺すのだけはやめてくれッ!!!」
「あっ、まだ生きていたのか……ごめんね。楽に殺せなくて……今、楽にしてやるよ」
まだ二人のオークは生きている。
一人は完全に戦意喪失して平謝りしている。
もう一人は腰が抜けてしまったようで、壁側にもたれかかるように座ってしまっている。
本来なら見逃してやってもいい。
戦意喪失した相手を殺すのはいい気分じゃない。
でも、ここで『目撃者と関係者は全て消せ』という指示が出ている以上、見逃すことはできない。
俺は引き金を二回引いた。
乾いた発砲音が店内に響き渡る。
命乞いをしていたオークを殺したのだ。
異世界では用心棒として重宝されている種族……。
だが、それは銃といった飛び道具がない状態での話だ。
現代の技術で敵うわけないだろう。
「さて……店内のフロアはこれで片付けたな……厨房には誰もいない……」
狭い店舗を改装して作ったんだろう。
奥の方には厨房に通じる狭い通路がある。
ここに、オークの雇い主たちがせっせと作り込んでいるブツを破壊しなければならない。
「二階は空きテナント……出入りがないのは判明している……となれば、これが役立つわけだ」
俺は試験管を取り出して、『視認魔法』が使えるようになる魔法薬を吸い込んだ。
吸い込むと、すぐに視界にはピンク色の靄が見えてきた。
これは人であったり特定の物に対して服用者の視覚に反応するように作られている薬だ。
警察の麻薬捜査官であったり、事件現場でも捜査の為に使われている薬でもある。
厨房を見てみると、視認魔法はブツに反応して冷蔵庫の奥の方に強い反応があった。
「冷蔵庫に反応……おっと、これはただの冷蔵庫じゃないな……」
……冷蔵庫を開けると奥に隠し扉があり、扉の【開閉ボタン】を押すと地下に通じる通路になっていた。
この中華料理店も、裏稼業のために偽装しているのか。
「やはりこの奥で生産しているみたいだな……さっさと終わらせよう」
俺は銃を構えて、地下に通じる通路を降りていく……。
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