chapter3-1
☆ ☆ ☆
ホット・セーブでの出来事があった日から2日後……。
俺は今、部屋のパソコンを通じてネットニュースを読み漁っている。
紙媒体で売っているのは今じゃコンビニと駅ぐらいだ。
ほとんどが電子新聞に移行した関係で、ネットでの情報発信に力を入れている。
そんな各新聞社が報じているのは、どれも赤豹に関する事案についてだった。
『先週起こった川崎市に拠点を置いているギャング集団『赤豹』による被害拡大』
『原宿や五反田で銃撃戦、16名死亡。銃撃犯は赤豹か』
『国鉄職員数名が銃撃により死亡、上級魔法使いも撃たれて重体』
『与党議員の自宅も襲撃被害、死傷者は86名に拡大』
『関東紅屋会組長は赤豹への報復を示唆』
『川崎市内の住民は夜間の外出を控えるように』
赤豹たちだけじゃない。
誰もがいら立っている。
こんなアホみたいな戦争を仕掛けている赤豹が勝てる勝算があって政府や企業、それにヤクザを敵に回しているのか。
……分からねぇ。
面子にこだわってやったのか?
それとも自分達の利益のためにやっているのか……。
いずれにしても、企業やヤクザに喧嘩を売るなんて真似は普通はしない。
どんな思いでこんな事を実行してしまうんだ?
普通は思ってもやらねぇぞこんな事。
手の込んだ自殺……と言うべきか。
いや、それならこんな戦いはしないはずだ。
何が狙いだ?
誰も良かったなら、一般人を巻き込んで殺す……。
しかし、今回の狙いは関東紅屋会の縄張りへの襲撃だけでなく、国鉄などの公共企業や与党議員の自宅までも襲っている。
自分達の縄張りから飛び出して神奈川県に面している場所を集中的に攻撃しているようにも見える。
しかも五反田での銃撃戦ではロケットランチャーまで持ち出して襲撃を行ったそうだ。
五反田にある関東紅屋会のフロント企業を狙ったらしく、一般人も巻き込んだ銃撃戦になったという。
周辺の建物や人にも被害が及んでおり、俺の所にも清掃人絡みの依頼が舞い込んできている。
それも赤豹絡みの事案さ……。
全く……連中のやっていることは無差別殺人犯……いや、テロリストだな。
ホット・セーブを襲撃した連中も武器を持っていたし、勝てる見込みがあってやったのだろう。
インターネット上ではほとんどが赤豹の行動を非難するコメントであふれていた。
ただごく一部……赤豹の行動は世直しだと語っている特大ホームラン級の馬鹿げたコメントをしている奴もいた。
どっかの活動家らしいが、すぐに『犯罪擁護』の通報があったのか削除されている。
「分からねぇ……俺には分からねぇ……赤豹がなんでこんな馬鹿げた戦争仕掛けたのかが理解できん」
思わず呟いてしまう。
まぁ、奴らはデートを台無しにしてくれた報復として殺してしまったけどね。
赤豹……。
こいつを始末するにはちっとばかり骨がいる仕事になりそうだ。
武装や魔法もしっかりと整えてから仕事に取り組むべきだろう。
そのために先ずはやるべきことをやってしまおう。
「シホ、起きているか?」
ベッドで眠っているシホを起こしに行く。
朝のルーティンワークだ。
彼女を午前8時に起床する。
目が見えない状態でも、体感時間は分かるようで十分に睡眠を取ったことも把握しているそうだ。
「おはよう……今起きたわ」
「よーし、朝ごはんを食べてから付与して欲しい魔法があるんだけど、やってもらっていいかな?」
「いいわよ~」
髪の毛がボサボサとしているシホの髪をドライヤーで整える。
暖かい風がシホの髪の毛を整えるようにゆっくりと靡いている。
魔導工学によって生み出された技術。
髪の毛を包み込むように寝ぐせなども直してくれる万能ドライヤーだ。
外国製のドライヤーはこれに太刀打ちできず、今ではすべてのドライヤーが「メイド・イン・ジャパン」となってる。
2分であっという間にシホの髪は整った。
これで良い感じになるだろう。
「気持ちいいわねぇ~」
「そうだな、シホの髪は綺麗だからね」
「もう、セイ君がそう言うと恥ずかしくなるわ」
「でも事実だよ。白銀で綺麗な色をしているし、匂いもいいからね」
「ふふっ、髪を整えるのは任せたわ」
「おう、任せてくれ」
後ろ髪をヘアゴムで束ねてポニーテールにした。
俺でも出来る簡単な後ろ髪の束ね方だ。
ロングストレートでもいいんだけど、たまには後ろ髪を束ねた姿も見てみたいんだ。
「これ……ひょっとしてポニーテールにしたの?」
「うん、たまにはしっかりと整えた方がいいかなって思ってね」
「まぁ、嬉しいわぁ……」
「どう?痛くない?」
「ううん、大丈夫。これで良い感じよ」
「それは良かった」
どうやら問題ないようだ。
良かった。
シホの髪を整えてから朝食の時間だ。
彼女が起きてから俺は朝食を作る。
今日はシホの好きな献立だ。
一日の始まりは朝食から始まるといっても過言ではない。
「今日はシホの好きな朝食か……サクッと作っちゃうか」
「ホント?やったー!」
「さて、シホはテーブルで待っていてくれ。すぐ作るからね」
「うん!」
シホをイスに誘導して座らせてからエプロンを身につける。
お手軽で旨い朝食をサクッと作ってしまおう。
先ずはフライパンをIHヒーターで過熱させる。
熱している間に食パンを取り出して表面にマヨネーズを適量、スプーンで均等になるように塗ってからフライパンの中にダイブだ。
これで焼いている間に卵を冷蔵庫から取り出して割ってから胡椒を二振り程入れてからボウルで軽くかき混ぜる。
ハムとチーズも取り出して適量に包丁で細かく斬り込んでからボウルの中に入れてしまおう。
混ぜ終えたら食パンの中にかき混ぜたボウルの中身を投入。
焦げ目が付くまで焼いている間に、予め買っておいたキャベツの千切りを皿に盛りつけだ。
一見何の変哲もないお皿だけど、この皿は滑りにくい素材で出来ている。
これのお陰で手元が滑って皿を落っこちてしまう事が無くなってよかったよ。
さて、5分ほどでいい香りがしてきた。
ほんのりとパンの端っこで焦げ目がつきそうな所で過熱を止めてお皿に盛り付けて完成だ。
これがチーズベーコンエッグトーストだ。
シホはこの朝食が大好きだ。
パンのサクサクとした食感と、チーズとベーコンが絡み合った味が最高に旨い。
俺もこのベーコンエッグトーストは好きだ。
コップに牛乳を注いで朝食として成り立つだろう。
「いい香りね」
「だろ?これに関しては俺が味を保障するよ」
「ええ、でもこのチーズ……いつもとは違うメーカーのにしたでしょ?」
「……やはり感覚強化魔法をすると食べなくても匂いで分かるんだね」
「うん、いつも使っているメーカーはほんのりと甘い香りがしてくるの」
「さすがだね。シホの感覚には勝てないよ」
「ふふっ、私の鼻はお見通しよ」
そんな談笑をしながらイスに座って朝食を食べる。
チーズとタマゴが混ぜ合わさった濃厚な味わい。
それでいて、ベーコンも旨味を引き立ててくれている。
「美味しいなぁ」
「ええ、牛乳がピッタリ合うわね」
「焼き加減はどう?」
「バッチリよ」
「それは良かった」
仕事前の食事のひと時。
このひと時が俺にとって最高の時間だ。
朝食を食べ終えてから、俺とシホはいよいよ仕事に取り掛かる。




