chapter2-5
パパパパパパパッ……。
乾いた銃声が店内に鳴り響く。
天井に無数の穴が空いて、照明器具が撃ち抜かれて破片が周囲に飛び散る。
いきなりの発砲音に、店内は騒然となる。
「きゃーっ!」
「うわーっ!」
多くの人が悲鳴をあげている。
ドカドカと足音を立てて、外では赤いジャケットを着た連中が喫茶店の窓ガラスをバッドで破壊している。
なんてことだ。
あの窓ガラスだってタダではない。
「騒ぐな!!!全員おとなしくしていろ!!!」
「おとなしくしていろ!両手を上げていろ!」
「殺されたくなければ言う通りにしろ!」
銃を持っていた連中が客席に向かって銃を向ける。
店内に乱入してきたのは、外で窓ガラスを破壊している連中と同じ赤いジャケットで統一された服装をしているガラの悪そうな連中だ。
ジャケットの背中には漢字で『究極』『猛獣』『危険』とそれぞれ書かれている。
何が究極だ。
何が猛獣だ。
何が危険だ。
全部ひっくるめてアホの間違いじゃないのか。
間違いない、こいつらはギャングだ。
それも昨日俺が襲撃したギャングとはまた別の組織だ。
ギャングの手にはイスラエル製の短機関銃「UZI」が握られている。
ご丁寧に、UZIは黒色ではなくカラフルなデザインに変更されている。
赤系の色に塗られており、パッと見て玩具かと思ったが違った。
実銃だったのだ。
さてはギャングチームであることを示すために塗ったな。
ギャングでは服装だけでなく武器までも色を統一する傾向がある。
それにしても赤色だけとは……。
センスの欠片もない。
店内に入るなり、天井に向けてUZIを乱射した上で店内にいる全ての店員に銃を突き立てた。
「今すぐレジの金を全て出せ!」
強盗、いや襲撃か……。
外には派手な装飾を施したSUV車も停車している。
車は……七菱自動車のジェロームか。
本来は街乗りというよりもラリー用に開発された車だ。
フロントには動物衝突防止用のカンガルーバンパーが装着されている。
恐らくこいつらがジェロームを選択したのも、パトカーに衝突しても耐えきれる耐久性を重視したんだろう。
こいつらは暴走族から派生したギャング『赤豹』の一派だ。
赤豹は川崎市に拠点を置いている暴走族。
ファッションセンターのある原宿には拠点はないはずだが……。
恐らく、威力偵察も兼ねてホット・セーブを襲撃したのだろう。
「おい店員、さっさとレジと金庫から金を出すんだ」
「お待ちください……どうかお客様には手を出さないでください」
「あ?お前、リザードマンだろ?爬虫類風情が黙って言う通りにしていればいいんだよ!このトカゲが!!」
「ぐぅっ」
「大体、トカゲの淹れたコーヒーなんざ飲めた気がしねぇ!変温動物の癖にコーヒーを淹れるような真似するんじゃねぇっ!!」
「うぅっ……」
「店長って役職も気にくわねぇ!お前はペットで十分だよぉ!」
「がぁっ、やめて、やめてください」
ハンスリー君に銃を突き付けていたギャングがハンスリー君を銃を構えた手で殴りだした。
一発、二発、三発……。
複数回に渡って顔の辺りを殴られたハンスリー君が出血していた。
痛みのあまり、手を顔に抑えている。
「次に指図したらお前のトカゲ頭に鉛玉ぶち込んで永眠してやるからな。おい、金庫まで案内しろ」
「は……はいっ……」
「残りの連中はここの客を見張っていろ!警察が来る前に済ませるぞ!金になるものは全部車に積み込め!アンティーク品は全部持っていけ!」
銃を後ろに突き付けられた上で、ハンスリー君は店内の奥に連れて行かれた。
それと同時に背がガッチリとした獣人族とオークがぞろぞろと店内に入ってくる。
バンダナを巻いているリーダー格の男が号令をかける。
「おーし、100%ディスカウントデーだ。金目のものは全部詰め込め!」
「「「押忍!!!」」」
「時計に食器……それから昭和時代のレコードも全部根こそぎ奪え!あと、高級コーヒーも忘れるなよ!高く売れるからな!!!」
「了解です兄貴!」
「言っておくが、働いたら働いた分の報酬が出るぞ。しっかり頑張れよ!」
奴らは店内に飾られていたレコードであったり、高そうな食器などを抱えて外の車に積み込んでいる。
クソッたれ。
こいつらはハイエナか。
店内から次々と現金だけでなく、商品や非売品のアンティーク品を持ち去っていく。
折角のシホとの思い出を台無しにしやがって……。
おまけに、親切に対応してくれたハンスリー君にも酷い仕打ちをしやがった。
善良な市民に向かって何てことしてんだよ全く……。
俺の心は怒りに燃えている。
この馬鹿共を今すぐにでも銃殺してやりたい。
なんでこんな馬鹿共のせいで休日を台無しにされなければならないのか。
そんな怒りが込み上げてきた時、シホが俺の心情を察してかテーブル席の下からそっと手を差し出してきた。
「まだだよセイ君……他の人を巻き込んじゃだめだよ……」
「シホ……」
「セイ君、ギャングの人だけを狙える?」
「勿論だ。ただ人数が多い……時間系の魔法を掛けてくれるか?」
「わかったわ。魔法を展開しているから……それまで待っていて……」
「……分かった」
シホはそう言うと、オトモを起動させて魔法を小声で詠唱している。
彼女の付与魔法技術は卓越している。
どんな魔法を付与するつもりなのか?
それは大人数相手に正確に射撃できる魔法だ。
『時間遅延魔法』
これを掛けられると、スローモーション撮影をしているかのように動きがゆっくりするようになる。
快楽目的で使う奴もいるし、戦場の兵士が一気に敵を制圧するために使う魔法だ。
効力は個人差にもよるが、10秒から20秒程度だ。
本来は上級魔法資格のある人でしか使えないが、シホは上級魔法の資格を取るために鍛錬を積み重ねていた。
結果として時間遅延魔法も使う事が出来るのだ。
その代わりに、使用は一日3回までと制限がある。
この魔法は体力を消耗させる魔法でもあるからだ。
小さい声でつぶやくように詠唱魔法を開始すると、オトモの先端部分がゆっくりと傘のように開いていく。
幸いギャング連中はレジの金を漁ることに夢中だ。
これならピンポイントで狙い撃つことができそうだ。
ただ、詠唱魔法をしている最中に厄介な事が起こった。
「おい、そこのお前……何をしているんだ」
「ひぃっ」
「このアマ……おい、その携帯から手を離せ!!」
一人のギャング構成員が俺たちの手前側にいる女子高生たちに目を付けた。
どうやら携帯で110番に電話しようとしていたらしい。
ちょうど開店前に俺たちの後ろに並んでいた子たちだ。
「おい、何をしているんだ?!」
「兄貴、こいつ警察に電話しようとしていました!」
「何だと……おい、お前俺たちの事バカにしているのか?」
「なによ!いきなりお店を襲撃しておいてさ!おかしいじゃない!このお店で楽しもうとしている時にさ!迷惑かけないで頂戴!!!」
「ったく……この女に俺たちの怖さを分からせてやれ。車の中に連れていけ」
「へい、オラァァ!早く来い!たっぷりと躾けをしてやるぜ、ウサギちゃん!」
彼女が警察に電話しようとしていたのを見つけたギャングが制裁を加えるつもりだ。
男ならその場で殴る蹴るといったリンチをするが……女の場合はもっと悲惨だ。
大抵は気が済むまで男達に性的暴行をされる運命だ。
ギャングたちにとって、それが最大の褒賞であるという考え方の奴が多いからだ。
その中でもバニーリアンの子の腕を掴んで引きずろうとしている。
「嫌っ!やめてっ!離して!」
「へへへ……俺たちに目を付けておいて離すわけにはいかないよなぁ。おい、この女を連れていくぞ」
「や、やめてください!花ちゃんを離してください!」
「ああ?!うるせぇんだよ!お前も痛い目に遭いたいのか?!ならいいぞ、お前も一緒に来いッ!!」
「力づくでやっちまえ!どうせここに居る連中もひ弱だから手出しできねぇさ!ガハハハッ!!!」
銃を突き付けてバニーリアンの女の子を庇おうとした友達までも連れていこうとしている。
これはマズい……。
シホ、まだ時間遅延魔法の展開はできないのか?
急いでくれ……でないと女の子の命が危ない。
既に銃を何時でも取り出せる態勢は整った。
仲間までやってきて女子高生たちを連れ去ろうとしている。
その時だ。
「今だよセイ君、やっちゃって」
「任せろッ」
ようやく時間遅延魔法の付与が出来たのだ。
俺は立ち上がるとヨシムネをホルスターから取り出して、赤豹たち目掛けて引き金を引いた。




