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東京清掃人 ~異世界と繋がる日本に潜む者~  作者: スカーレッドG
チャプター2:ホット・セーブ
10/26

chapter2-3

車を走らせればあっという間に原宿に到達する。


ファッションの街と知られているだけに、ここでは洋服店だけでなく異世界出身者向けの衣装まで取りそろえている。


異国情緒を通り越して、異世界情緒を堪能できる街だ。


明治通りには多くの人が行き交っており、今じゃオークやゴブリンだって珍しくない。


異世界のファッショナブルを一番取り入れている場所だけに、行きかう人々の服装までもがカラフルな感じに染まっている。


ここ原宿は住民比率でいえば異世界出身者の割合も圧倒的に多い。


日本人は2割程であり、韓国や台湾・ベトナムなどの諸外国の地球出身者を合わせても3割だ。


残りの7割が異世界出身……もしくは日本で生まれ育った異世界人であり、顔立ち的にも日本人を含めたアジア人とは違った雰囲気を作り出している。


日本にいながら、異世界を楽しめるホットなスポットだ。


エブリデイ・イセカイタウンというやつだ。


今日から私も異世界人ね……って歌っていたアイドルの歌詞を思い出した。


あの時はフライデー……金曜日だけとかだったけど、今では毎日異世界人を見かける。


隣にいるシホも例外ではない。


「いつ来ても原宿は賑やかだなぁ……」

「確か異世界出身者専用の地下都市が建設されてから大勢増えたんじゃなかったかしら?」

「そうだなぁ……東京地下鉄の明治神宮前駅を大規模に改装して作り上げたんだよ。確か4年前だったかなぁ?完成されてから10万人が住んでいるとか……」

「凄いねぇ……地下都市ってジオフロントってやつじゃない……SF映画とかで出てきたやつ」

「ああ、地下都市ならではの利点というやつだね。土地が高騰しているなら地下のスペースを有効利用しようってやつ……政治家とかも地下都市への推薦しているぐらいだからね」


原宿の地下都市も気になるが、今日は地上に用事があるのでジオフロントにはいかない。


一部屋当たりの料金は俺の住んでいるカブキシティーより安いようだが、地下特有の空気の流れが悪く湿気やカビに悩まされる日々が多いと聞いたことがある。


清浄魔法であったり、風流魔法を使って空気の流れを変えてからだいぶマシになったというが……。


それに、地下都市の治安はあまりよろしくない。


犯罪件数も右肩上がりだ。


原宿駅とかは問題ないにしても、地下都市では既にスラム街のような場所が出来上がりつつあるという。


一説には、異世界人の規制を行うために都議会や国会の政治家たちが地下に移住をさせているんじゃないかとまで言われているからね。


仕事以外ではあまりいかない方が無難だ。


『間もなく、目的地の駐車場に到着します』

「おっ、そろそろか」


カーナビに従って走行していると、いよいよ目的地の駐車場にたどり着いた。


機械式駐車場……。


1時間4000円……。


こっちの新宿に比べたら千円ほど安いな。


駐車券を発行してもらい、扉が開いたので車を車室に入れるために駐車位置に合わせる。


ここで車から降りる際に転倒しないようにエンジンを切って運転席から降りる。


そしてシホを助手席から立ち上がらせるために介助を行う。


「よーし、シホ……付いたぞ。足元に気をつけてね」

「うん、ありがとう。左手のほうをお願いできる?」

「もちろんだ。よーし、いいぞ……」


先にシホを扉の外に出してからドアを閉めてドアロックのスイッチを押す。


あとは機械が自動的に開いている場所に車を持っていくだけだ。


駐車場に車を停めてから、お目当ての喫茶店に向かう。


「さぁシホ、一緒に行くよ」

「うん!」


シホの身体を抱き寄せるようにして、二人で一緒に喫茶店「ホット・セーブ」まで歩く。


白銀の髪をしているシホと、黒のコーチジャケットを羽織って歩く俺。


二人でどこかに出かけて食べに行くのも悪くない。


シホは左手で杖をついてゆっくりと歩いている。


俺はシホのペースに合わせて歩く。


以前までは杖を広げるような形で道路の位置を確認していたけど、今では足の先端から2メートルぐらいまでなら障害物を把握できる。


「だいぶスムーズに歩けるようになったね」

「えへへ、部屋の中で特訓したんだ。どう?」

「前よりも歩く速度が速くなっているような気がするね……でも無理はするなよ?」

「大丈夫!感度も良好だし杖の振動から前の方を確認できるわ……それにこのペースなら()()()よ」

「すごいなぁ……やはり感覚強化魔法って効き目あるんだなぁ……」


5分程、シホと一緒に原宿通りを歩いてお目当ての喫茶店に到着した。


ホット・セーブ……。


すでにホット・セーブの前では大勢の人だかりが出来ていた。


やはりユーリンの『ザ・サンジ』で紹介された効果なのだろうか。


開店一時間前なのに、すでに15人程が列を成している。


まだ一時間程開店まで時間があるのにこの行列……。


この分だと、開店する頃合いには60……いや70人ぐらいはやってきそうだ。


列の最後尾に並ぶと、ホット・セーブの店員さんがやってきて尋ねてきた。


トカゲ顔が特徴的なリザードマンの種族で、名札には『店長 ルト・ハンスリー』と書かれていた。


おっと、店員じゃなくて店長だったか。


「すみません、ホット・セーブでの飲食をご希望される方ですか?」

「そうだが……あー、ハンスリー君だったかな、これは結構待つかな?」

「そうですね……開店すれば大丈夫ですけど……そちらの女性はお連れ様ですか?」

「そうだ。ただ、出来ればダイニングテーブル席が良いんだけど、いいかな?」

「ええ、勿論です。では今から番号を配布しますので、お時間になりましたら番号の描かれている席にお座りください」

「分かった。よろしく頼むよハンスリー君」

「こちらこそ、名前で呼んでもらえて幸栄です。どうか今しばらくお待ちください」


ハンスリーはペコリとお辞儀をしてから番号の描かれた紙を渡してきた。


いい感じだ。


物腰柔らかで、メモもキチンと書いて番号を渡して整理券替わりに使っているようだ。


渡された紙に書かれている番号はB8だ。


中々達筆だな。


恐らく、ダイニングテーブル席の番号だろう。


デジタル腕時計を覗いてみる。


時刻は10:08……。


開店まであと52分後か……。


ちょっと待つな。


「……というわけだ。あと1時間近く立って待つけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。それにこうして寄り添っていれば寝入ることもないし……」

「まぁ……そうだけど……」

「それに、カップルらしくていいじゃない。セイ君と一緒に居れるんだからさ、こうしていたいなーって……」

「ははは……それは嬉しいね」


シホは右手を絡ませるように俺の左手とギュッと握り、身体も俺のほうに寄り添っている。


傍からみてもカップルだろう。


実際に付き合っているかといえば、その問いには「YES」と答えるべきだろう。


夜になれば必ず、身体を重なり合わせて肌の感覚を確かめ合っているぐらいだ。


そして後ろから並んできた女子高生と思わしきグループがひそひそ話をしている。


それぞれケンタリウス、ウサギ耳、牧羊人の三人だ。


全員異世界人の親をルーツに持っている人だ。


制服を着ているが……学校は行かなくていいのだろうか?


まぁ、サボって来ていたとしても一日ぐらいなら問題ないだろう。


社会人でこれをやるとマズいがね。


「やっぱ彼氏と来るべきだったわ……」

「でも貴方の彼氏君って……人間のオッサンじゃ……」

「あら?いけないかしら?ちゃんと双方合意の上で付き合っているわよ?」

「いや、そうじゃなくて一晩だけの関係でしょ貴方は……」

「いいじゃない。一晩だけの関係も気楽でいいわよ。それに、人間は直ぐに終わるもんよ」

「それはバニーリアンだけの話でしょ!全く、喫茶店で並びながらなんて話題になっちゃうのよ……」

「ほら、他の人もいるからさ……別の話題にしましょうよ」


おっと……。


中々ディープな話題から普通の話題に切り替えたな。


ウサギ耳の女の子が大らか……じゃなくて青少年保護育成条例に引っかかるような単語を発しながら喋っている。


彼女の種族はバニーニアン……。


種族区分上の日本語の呼び名では兎獣人族と称される。


ウサギ耳が特徴的で、産めよ育てよ……を地で行く種族で容姿も整っており、何よりも夜の営みに関してはサキュバスを凌ぐとすら揶揄されているぐらいに()()()なことで有名だ。


世界で最初にバニーニアンと結婚した日本人男性は、奥さんのバニーニアンとの間に子供を48人も授かって世界記録をあっという間に塗り替えたという話だ。


全く、下手をすれば成年向けカテゴリーに移動されかねん話題だったぜ。


ただ、彼女たちの話題は目の前で並んでいる俺たちに切り替わった。


「いいなー、カップルで入れるなんて……」

「それにイケメンとデートできるって羨ましいわね……」

「花ちゃん、帰りに声かけたら?」

「だめよ!相手に変な事言ってきたでしょって言われて怒られるわよ!」

「いやね、冗談よ冗談!」

「もう、でもさ……好きな人と喫茶店でお茶やコーヒーを嗜むっていいんじゃないかな?どう思う?」

「そうねぇ……たぶん、コーヒーが冷めてしまっても、恋はアツアツに燃えて喋る事に夢中になっちゃうんじゃないかしら?」

「だよねー。私なら相手を見つめて時間過ぎちゃうかなぁ……」


中々恋バナに花を咲かせて楽しんでいるようだ。


と、聞く耳を立てていると……シホは嫉妬をしたのかより強くギューッと左腕に絡ませるように抱きついてきた。


「どうしたシホ?」

「ううん……ちょっとこうしてセイ君といたいの」

「お、おう……」


たぶんヤキモチ焼いたんだろうなぁ。


後ろの女子高生たちも小声で「いいなぁ~」と言っている。


やはり意識しているのだろう。


喫茶店が開店するまでの間、俺たちは並んで待つことになった。

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