prologue:前史
この物語に登場する人物・団体・国家・組織とは一切関係ありません。
なぜ、物語開始時に日本が世界の覇者になったのか……プロローグはそれに関するお話となります。
このプロローグの章をすっ飛ばしてチャプター1を見ても問題ないです。
それではどうぞ。
1983年に異世界へと通じた東京都江東区有明。
都心に近い埋め立て地に出現した全長200メートルのドーム施設によって日本の立ち位置は激変した。
日本は異世界経由で入手した天然資源を筆頭に資源大国としての地位を確立し、同時に異世界経由で入ってきた魔法技術を科学技術に適応することで飛躍的に技術革新を発展させた。
その結果、輸出するほどの天然資源の宝庫となり、科学と魔法が融合した魔導工学技術を使い、アメリカを抜いて世界の大部分を牛耳る技術・経済・資源大国に躍り出た。
しかし、何もかもが順調だったわけではない。
増え続ける安価で高性能な日本製品。
異世界経由で入り込んだ大量の天然資源によって世界的な天然資源価格の下落。
資本の中心地が欧米からアジアの……それも日本に一極集中する事態となった。
諸外国の製品は太刀打ちできずに次々と欧米諸国のメーカーは倒産し、各国の金融評価も下がり始める。
……やがて著名な科学技術や特許なども多額の資金を支払って日本国や日本の民間企業が独占するようになってから欧米の産業は日本に太刀打ちできない状態になってしまった。
世界に名の知れた大手自動車メーカーをはじめ、工業・電子・金融……果ては銃器メーカーに至るまで日本資本の元で経営を維持するようになり、それに伴って欧米諸国の失業率は1987年から1990年までに軒並み30%を超えた。
また日本製品の規制するように求める諸外国との貿易摩擦によって日本は超大国に上り詰めると同時に、アメリカやヨーロッパとの対立を深めてしまう。
特にアメリカでは仕事と誇りを奪われた事で反日感情が高止まりの状態となり、日本人や日系人の迫害や差別が日常茶飯事となり、1992年4月末にロサンゼルスのジャパンタウンで失業者のいざこざを発端とする大暴動が発生。
観光に来ていた日本人や店を営んでいた日系人75名が暴動参加者によって集団暴行や略奪、そして銃撃を受けて犠牲になったが、アメリカのメディアは暴動参加者を擁護し、日本のせいだと罵った。
翌年の1993年2月にはニューヨークで日本総領事館と市内の複数の日本料理店、日本車販売店、それに日本企業に所有権が移ったワールドトレードセンタービルでアンフォ爆薬を使用した爆弾テロが同時多発的に発生し、死傷者1000名を超える惨事を産み出した。
この時にも、当時のアメリカ合衆国大統領は『日本が過剰な利権を貪った結果起こった悲劇だ』とホワイトハウスで宣言した事で、日米関係は決別を迎えた。
安保理を破棄し、自国の権益を守るために異世界の技術をふんだんに使って行動を開始した。
透明化を行う魔法を塗料として使い、戦闘機やミサイル、戦車などに塗装して光学ステルス迷彩技術を確立。
その新技術を使って東南アジアの中で内戦中だったインドネシアに対して使用し、実戦投入から僅か2週間で長年続いていた内戦を終わらせた事で、日本の軍事的優位性をアピールした。
1995年3月に復活した内務省では洗脳魔法を使ったスパイ活動を通じ、各国の機密情報を収集して情報を元に世界各国の政府要人に圧力を掛けた。
また、物好きな人間のためにドワーフやエルフといった異世界人を使った政府高官に対するハニートラップまで行った……。
ありとあらゆる手段を講じて自国防衛のために尽くした。
その結果、1997年4月11日にアメリカの上院議会で大統領令による対日輸入規制法が施行されるのと同時に、日本政府主導の元で余りある資金を投入してアメリカに対する経済制裁。
並びに全米の金融センターで取引されていた米国株を意図的に株価指数を暴落させる行動を行った。
これは、洗脳魔法を駆使して全米中の経済界の大物投資家や企業家に催眠を使って一気に米国債やドル資産を売り払い、日本国債や円を買い占めるように仕向けたのだ。
その日の午前11時までにニューヨーク証券取引所の株価は直角に折れ曲がり、金融市場は日本や円の影響が強いアジア圏を除いて1929年に発生した世界恐慌クラスの大暴落を引き起こした。
故意にドルの価値を低くさせて、米国の経済的価値を喪失させる『高天原作戦』を実施したのだ。
これによってアメリカは経済対策をする間もなく、6日後の4月17日に米国株の市場地位暴落と共に自国の債務不履行を引き起こして経済崩壊が発生。
米国の主軸通貨であったドルは僅か一週間足らずで価値を無くした。
通貨価値の喪失という事態になったアメリカ合衆国は、経済恐慌によって四つの地域国家に分裂。
西海岸の日系人政治家が中心となって立ちあげ、アジア系住民の保護と日本政府が買収した米太平洋艦隊が支援を行っている『西部アメリカ共和国』……。
共産圏からの亡命者によって五大湖やニューヨークなどリベラル系の多い地域を中心に、黒人労働者や非アジア系の低所得者層の住民から支持を集めた『東アメリカ労働者組合』……。
自国愛が強く、ドル崩壊の要因を招いたアジア人とリベラル系によって懐柔して反旗を翻した黒人の身分剥奪を唱え、旧フロリダ州を拠点にキリスト教右派と米軍の強硬派が合流した極右勢力の『新アメリカ南部連邦』……。
ヒスパニック系と先住民族系の住民が利害関係で一致し、麻薬密売組織やストリートギャング、反乱を起こした武装囚人、離反した米軍部隊の一部を吸収して、アメリカに真の自由主義国家の建設を目指す『ユナイテッド・アナーキスト』……。
これらの四つの勢力に分裂した国々が対立状態となり、アメリカは泥沼の内戦状態に陥った。
欧州もアメリカから始まった経済恐慌の影響をモロに受けて、EC加盟国であったイギリスやドイツだけでなく、計画経済で辛うじて持ちこたえていたソビエト連邦の経済は瓦解。
EC諸国の中でも社会主義体制が強かった東ドイツ地域で発生した紛争を機に、欧州は共産圏の盟主であるソビエト連邦を巻き込んだ大規模な戦争に突入。
欧州大戦が勃発したのだ。
戦争の結果……1999年7月14日にEC諸国軍の猛攻によってモスクワ近郊まで攻め込まれたソビエト連邦は、ついに30発の核兵器を最前線とEC諸国の首都に使用し炸裂させた。
翌7月15日までに地域間核戦争に発展した両者は最終的に200発近い核兵器を発射し、両者の主要都市は壊滅。
EC諸国とソビエト連邦の両陣営は崩壊した。
ソビエト連邦が崩壊したことで極東ロシア地域には日本が進駐を行い、核攻撃を受けたヨーロッパ諸国も被害を免れたオーストリアのウィーンに欧州臨時政府を発足させ、その地に身を寄せて再建を講じた。
これで、冷戦期において軍事・経済を牛耳っていた欧米列強諸国の力は喪失。
日本以外の先進国と仮想敵国の軍事大国は消え去った。
この世界に残った先進国は日本だけであり、日本は表立った戦争をせずに勝利したのだ。
世界中の富を独占した日本は大国となり、世界における絶対的な王者として君臨した。
……世界の超大国に上り詰めた日本。
世界を牛耳るようになった日本は、大企業が政治や経済に大きく幅を利かせて我が物顔で蹂躙している。
大企業だけではない。
政治家は選挙の為なら手段を選ばない上に、大企業からの票を集めるのに必死だ。
大企業に有利な法案を制定し、企業の為なら法律すらも捻じ曲げて有利なものにしてしまう。
そして、裏社会の人間も当然利権という金のなる木に群がってくる。
それがヤクザある。
ヤクザも企業や政治家との密接な関係を築いており、異世界の利権とそれに伴う仕事においてなくてはならない存在になってしまった。
敵対候補の政治家を異世界出身の魔法使いを使って排除したり、企業のスキャンダルを調べようとする正義感溢れるジャーナリストを『突然の自殺』という形で片っ端から消しているのだ。
日本にとって不都合な真実はあってはならないのだ。
日本を牛耳っている大企業に政治家、そしてヤクザは互いに密接に繋がっており、表向きには三者とも協力関係にある。
……が、それでも政治的であったり同じ組織の派閥間であったり、同列同士での対立や争いは根深くある。
ファンタジーの世界からやってきた物資と技術を使い、世界一の国家となった日本において、もはや上層部において綺麗な人間はいない。
大物になればなるほど、何かしらの「悪」に染まっているのだ。
そんな「悪」に必要とされるのは表立って出来ない仕事を引き受けて、邪魔な相手を片付けることができる清掃人だ。
清掃人は依頼を受けた人物から指示を受けて、相手に対する嫌がらせや見せしめ行為……時には殺人行為を実行することを生業とする。
そのため主人はいない。
一匹狼のような存在。
だから殺されたら、清掃人が一人死んだ……という言い方をされて消されてしまうのだ。
魔法と科学が当たり前の世界においても、必要としている者が沢山いるのだ。
これはそんな清掃人の一人に焦点を当てた物語である。