【第1話】浮気男の対処依頼
私の父は様々な学園を運営している、いわゆる『理事長』だ。
その娘である私は、父の運営する学園ではなく、全く別の学院に通っている。
そんな父から、私は部屋に呼び出された。
「なによ、お父さん。」
「おー、すまんすまん。実は相談があってな…。」
…このテのパターンはロクなことがない。
「実はな、ウチの学園の一校で、ちょっと問題が起きててな…。
…父の話を要約すると、ある学園で一人の男子生徒が居るのだが、とにかく女グセが悪いらしい。
次から次に彼女を乗り換え、浮気や二股、三股を繰り返し、学園の風紀を乱しているというのだ。
「へえ。そんなにモテるんだね、その男の子。」
私が言うと、
「そうなんだ。確かに見た目も良いし、話し上手聞き上手だし、何より女の子にすごく優しいらしい。だからモテるのは結構な事なんだが、いかんせん目移りが激しすぎるのだ。」
父は困った様子だった。
「まあ、私からすればその男の子も、それに振り回されてる女の子も、勝手にすればって感じなんだけど。」
私が呆れたように言うと、
「まあそう言うな。父兄からも不満が上がってきていて、学園としても対処しなきゃいかんのだ。…だが、生徒同士の事だからなかなか大人が口出ししづらくてな。」
父はこういう話にはめっぽう弱かった。
「…分かったわよ。…で、私はどうすればいいの?」
「おお!引き受けてくれるか!…では、まずは生徒として学園にまぎれこんで欲しい。それから、その男子生徒が女の子にちょっかいを出さなくなるようにして欲しいのだ。」
「ふーん。よく分かんないけどやってみるわ。で、私は理事長の娘として転入するのでいいの?」
「いや、それでは身構えられるから、全然関係ない立場で転入という事にしてくれ。」
「…名前でバレない?」
「うーん。じゃあ名前も変えよう。秘密のミッションを遂行する為に転入するから…『シークレット』という名前はどうだ?『シーちゃん』って呼べるぞ。」
「…怪しさ満点だけど、お父さんがそれでいいなら、私はなんでもいいわ。」
…そんな訳で、私は、問題の学園へ転入した。
「それでは転入生を紹介する。彼女の名前は『シークレット』だ。みんな仲良くな!」
「…今日から転入してきた『シークレット』です。よろしくお願いします。」
(えっ!?シークレットって、名前!?)
(『秘密』?親、どんな気持ちで名前付けたんだろ!?)
(なんか呼びにくい名前でかわいそう…)
(ザワザワ…ヒソヒソ…)
(なんか、名前で逆に目立ってしまってるけど、知らないぞ、クソ親父…)
「はい、じゃーそこの『ノエル』の横がキミの席だ。」
「はい…。」
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『…で、その男子生徒の名前は?』
『『ノエル』だ。』
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こんなやりとりを父としていた。
私は席についた。
理事長である父の手回しにより、問題の『ノエル』の隣の席についた。
「よろしく!シークレットさん。」
早速、『ノエル』があいさつをしてきた。
「よ、よろしく…。」
…第一印象は、確かに普通の好青年といった感じだった。
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『言うなれば、お前が「おとり」として潜入するのだ。いわゆる「おとり作戦」だ。』
『おとり作戦って事は、ノエルが私に言い寄ってくるようにするって事?…話は分かったけど……でも、その『ノエル』って子が、私に全く興味を示さないって可能性もあるんじゃない?』
『いや、それはない。女だったら誰でもいいみたいなんだ。ノエルは。』
『…なんか腹立つな。いまの言い方。』
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(これで、ノエルが私に言い寄って来なかったら、この怒りは誰にぶつければいいのだろうか…)
…そんな事を考えてたら休み時間になった。
すると…
「まだ緊張してる?シーちゃんっ」
…ノエルが話しかけてきた!
(私、『シーちゃん』って呼ばれた!)
「えっ、うん。シーちゃん緊張してる…」
(私は『シーちゃん』を受け入れた!)
「緊張をほぐしてあげるよ!シーちゃん!」
…するとノエルは私の肩をおもむろに揉んだ!
(うわー!全然さりげなくないボディタッチ!)
「あ、あのっ、シーちゃん、男の人に触られるの苦手なの…。」
私は少し後ずさりした。
「へえー!かわいいー!」
ノエルは かわいいと言ってくれた。
「えっ?どこがかわいいの?」
私は聞いてみた。
「だって、男の人が苦手なんて、かわいいじゃん!」
……イマイチ回答になってない気はしたが、まあチャラ男の会話なんてこんなもんだろうって事で一旦スルーする事にした。
それから…。
「ねえ、シーちゃん!シーちゃんの趣味は何?」
「えっとお、シーちゃんの趣味は……松ぼっくりを砕く事!」
「かわいい!」
「じゃあ、シーちゃんの好きな食べ物は?」
「えっとお、シーちゃんの好きな食べ物は……ウイスキーボンボン!」
「かわいい!」
「じゃあ、シーちゃんの好きなタイプの男性は?」
「えっとお、シーちゃんの好きなタイプの男性は……浮気しない人!」
「かわいい!」
「じゃあ、シーちゃんの嫌いなタイプの男性は?」
「えっとお、シーちゃんの嫌いなタイプの男性は……ウソをつく人!」
「かわいい!」
…私が何を言っても『かわいい』と言う。
この、ボキャブラリーの少なさが逆に、女心をダイレクトにくすぐるのだろうか。
で、
「ちなみに、ノエルくんは浮気するの?」
…聞いてみた。
「しないよ!」
…即答である。
やはり、ここで口ごもっているようでは、真の女たらしにはなれないのだろう。
そして数時間後……
「シーちゃん、俺、シーちゃんと運命的なモノ感じちゃったかもしれない。」
「運命的なモノ?」
「うん。俺たち、きっと一緒になる運命なんだと思う。」
只今、転入初日の午前中である。
「だから、シーちゃん!俺と付き合って!」
(シーちゃんは転入初日早々に愛の告白を受けた!)
「えっ?でも…さっきも言ったけど、私、浮気をしない男の人が好きなんだよ?逆を言うと、浮気をする人は嫌いだよ?」
そう言うと、
「もちろん、そんな事はしない!」
ノエルはあらためて即答した。
「じゃあ…じゃあ、もしも浮気したら?」
私がそう聞くと、
「万が一、そんな事があったら俺をおもいっきり引っ叩いていいよ!」
ノエルは笑いながら言った。
なので私は、
「でも、女の私がおもいっきり引っ叩いても、たかだかダメージは知れてるわ…。」
そして、
「もし、ノエルくんが浮気したら、屈強な男を10人呼んできて、全身が再起不能になるくらいのダメージを負わせてもいい?」
と聞いた。
すると、
「えっ?…それはちょっと…」
と口ごもった。
なので私は、
「え?じゃあさっきの、『運命的なモノを感じた』ってのはウソなの?私、嘘つく人嫌いだよ?」
そういうと、
「い、いや、別にウソじゃないけど…」
と、さらに口ごもった。
なので私は、
「『運命論』まで持ち出しておきながら、そこにウソなんて事があったら、私 許さないから。すぐに屈強な男10人呼んで、ノエルくんを再起不能にしなきゃ。」
と言った。
すると、
「い、いや!ウソじゃない!だから俺と付き合って!」
…ノエルは『もう行くっきゃない』って顔でせまってきた。
なので私は、
「じゃあまずはお友達から始めましょっ。」
と言った。
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