鏡にひそむ謎
大手不動産会社に勤務していた深津見二は、一生懸命という言葉が全く当てはまらない、真逆の人物だった。
会社からしてみれば、出来の悪いお荷物社員でしかなかった。
その出来の悪い見二は、ある日を境に、人が変わったかのように一生懸命働き、どんどん実績を積み上げていくようになった。
そう、人が変わっていたのだ。
それは、ある日突然のことだった……見二の自宅アパートにある洗面所の鏡から男性が出てきたのだ。
その男性は自分にそっくりで、同じ顔をした人物だった。
不思議なことだが、それからその男性との同棲生活がはじまった。
元々アパートに居た住人である深津見二は、仕事が嫌いという生ぬるいレベルではなく大嫌いで、どうしても仕事をサボることが優先となり、もちろん会社での成績は最下位だった。
そうなれば、当然のように毎日上司に怒られ、それが続けば会社にも行きたくなくなってしまう、それが普通なのかもしれない。
鏡の中から現れた見二は、本物の見二の代わり見二が働く会社に行くことになった。
鏡から出てきた見二は仕事を頑張り成果を出して、どんどん実績を積み上げていった。
その結果、鏡の見二は出世をしていき、本物の見二はニートな生活で太り、前よりもどんどんダメな人間になっていった。
そんな生活が始まってもうすぐで二年が経つというタイミングで、ある期限がやって来たのだ……鏡の見二は成果を出し出世を重ねていった結果、広島への栄転を勝ち取りアパートを出ることになる。
これがきっかけで二人の見二の内、どちか一人が鏡の中に戻らなければいけなくなってしまった。
鏡の中に入ったのは本物の見二、そして鏡から出てきていた見二は、深津見二としてこの世に残ることになった。
鏡の役割とは、この世に相応しくない人間を取り締まることだと言う。
出来の良い方をこの世に残し、悪い方を鏡の中で更生させている。
この世に残った者は、入れ代わった人の身体を使って生きることになるのだが、その人が受け継いでいた遺伝子はそのままなので、代わった者でも予想のつかないことも起きてしまう。
この世に残ることができバリバリ働いていた鏡の見二だったが、入れ替わってから八年後にこの世を去ってしまう……彼はガンだった。
鏡の中に入っている見二は元気だったが、自身の元々の肉体がもう既に、この世には存在しないということは、この段階ではまだ知らなかった。
見二はこの鏡の中で、いつまで修行を続けていかなくてはならないのだろうか……それは見二しだいである。