ウェイ、チャラいんですが
リコは白狼と戦って負傷した人たちを治癒していた。
「こ、これが王都クレインベルグ最高位治癒魔法士の力か……!」
「わたし、なんか戦う前よりも元気になってます!」
「俺もだ! ありがとうございますリコリス殿下!」
周りに感謝されながら彼女はのほほんとした笑顔を振りまいている。
専属騎士見習いの初仕事としては、まずまずではないだろうか。
「一件落着だな、王子様」
ウェイに肩を組まれる。
馬に乗せてもらったのは感謝しているが離れてほしい。
「その王子様っての恥ずかしいんだけど」
「堅いこと言うなって。聞いてたぜ、レドが専属騎士見習いになったって話」
「馬に乗りながら馬車の会話が聞こえたのか?」
「オレのEXスキル【地獄耳】ってやつでな。距離がそんなに離れてなかったら、オレが聞きたいと思った音を聞きだせる」
ウェイにもリコとの会話を聞かれていたのか。
俺はこの後を想像してため息をこぼす。
「しっかし、お前も隅におけない男だなぁ。まさか姫殿下とあんなにご親密だったとはねぇ〜」
ほらみろ、やっぱりうざい絡み方をしてきた。
「うるせぇ。チャラいくせに陰気なスキル持ちやがって」
「昔はよくこれで女の子たちの恋バナを聞いてたなー。そんでいけそうな子に告るからオレの成功率はハンパじゃなかった。おかげで騎士学校中の子に嫌われたけど」
「訂正、やっぱお前らしいスキルだったわクズ野郎」
「はぁ? いまの話のどこがクズなんだよ! オレのことを好きっぽい子に告ってなにが悪い!」
「お前を好きな子じゃなくて、お前“が”好きな子に告ってないところだよ」
「なん、だと……」
俺から離れたウェイは、信じられないと言った顔で目を丸くしていた。
どうやら考えたことがなかったらしい。
「……いや、でもな。オレだっていけそうな子に手当たり次第告ってたわけじゃない。もちろんその子のことがいいと思ったから告ったわけであって」
なんかチャラナイトが言い訳しはじめた。
「どこがいいって思ったんだよ」
「そりゃあ、足とか」
いらん情報を聞いてしまった。
「あっそ、じゃあな足フェチ騎士。くれぐれも殿下の足は変な目で見るなよ」
「行き先は同じなんだからじゃあなもなにもないだろ」
「ん? そういや行き先ってどこなんだ?」
「確か馬車ん中では話してなかったな。そこに見えてるホーリーナイト聖王国だよ」
ホーリーナイト聖王国。
優秀な聖騎士や治癒魔法士を多く輩出している、俺の住んでた王都クレインベルグとも友好関係にある国だ。
外部に治癒魔法士を派遣しているような国がリコを呼ぶとは、改めて彼女の治癒魔法が別格であることを思い知らされる。
「あと安心しろ。オレは姫殿下の足はそういう目で見ていない。姫殿下の足は、なんというか透明感が強すぎるっつーか、細くて綺麗すぎるっつーか……いや確かに健康的でいい足なんだけど、オレ的にはもうちょっと肉感があるほうが」
「姫様の足がどうかされましたか?」
「あっ」
老執事にがっちりと肩をつかまれる足フェチ騎士である。
変な目で見るなよと警告したばかりなのに。
「ウェイ殿。あなたとは少し話をしたほうがよさそうですな」
「なあレド! オレたち仲間だよなっ!?」
「悪いけど俺は足フェチじゃないから」
「だったらいまオレがちゃんと教えてやああああああたたたたた肩がちぎれるうううううぅぅぅ──」
情けない声をあげながらウェイの姿は少しずつ小さくなっていった。
合掌。
「あなたがレド様ですねっ!」
ウェイと入れ違う形で、とんがり帽にローブ姿のいかにも魔法士な女の子が駆け寄ってきた。
女の子の仲間であろう冒険者や、聖王国の騎士たちも一緒だ。
「おかげで俺たち全員助かったよ! ありがとう!」
「白狼を引きつけてからの雷魔法……見事だった!」
「今度わたしに何かお返しをさせてくださいっ!」
胴上げされそうな勢いで詰め寄られる。
嬉しいけど、ここでつかまると長引きそうだな。
「みなさん、俺は騎士としての勤めを果たしただけですから気にしないでください。それではこれでっ」
「ああっ、レド様っ!」
「ぜひ俺に魔法を教えてください!」
「聖王騎士団に入らないか!」
ウェイが残した馬に飛び乗り、俺はホーリーナイト聖王国へと急いだ。