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剣聖、一撃で空へ

 土煙の中から想像もしない人物が現れた。

 

「ちょうど観客もたくさんいやがるし、このオレがしっかり盛り上げてやるよ」

 

 そいつは長剣を俺に差し向ける。

 

「あーっと! 空から突然何者かが現れましたっ! これは新たな挑戦者なのかぁっ! 聖騎士と聖魔法士の皆さんはバリアを貼り直してくださいね!」


「オレが兄貴に挑戦だァ? 逆だろ普通。まぁ挑戦するだけ無駄だけどなァ」

 

 タチの悪そうな笑みを浮かべて話を続けた。

 

「オレの名はジーク・オルレインッ! 最強のEX(エクストラ)スキル【剣聖】を持つ男だ! いまからそこのザコ兄貴をぶっ飛ばす!」


「な、なんとっ! レド殿の前に現れたのは弟? と思われるジーク殿だ! これは因縁の対決となるのかぁっ!?」

 

 闘技場にどよめきが巻き起こる。

 

「どうして剣聖のお前がわざわざ俺をぶっ飛ばしにくるんだよ」

「そいつはあれだ、どっかで見てんだろリコリスッ!」

 

 ジークの大声に、観客に扮したリコが肩をびくっと震わせた。

 

 隣にいる使いの者も違う意味でプルプル震えている。

 

 ごめんなさい父上。

 

 俺には、オルレイン家を守れる自信がありません。

 

「いまからお前が専属騎士にしたそこのクソ雑魚をぶっ潰して、お前の目が節穴だって証明してや」

「【竜突風(ドラゴンゲイル)ッ!】」


「これで終わりと思うなよおおおおおおぉぉぉォォォ──」

 

 ジークは観客席を守るバリアを突き破り星となった。

 

 俺をバカにするのは構わない。

 

 でも、リコをバカにされるのは専属騎士見習いとしても、俺個人としても許しておけなかった。

 

「し、試合はまだ始まってもいませんでしたがフライングしたのはジーク殿が先でしたので……勝者! レド殿っ! まさに瞬殺! あまりにも早い試合です! まさに力の差を見せつけた格好になりましたッ!」

 

 ワーッと大きな歓声に包まれる。

 

 つい本気を出しちゃったけど、まぁなんといっても剣聖だし、大丈夫だよな?

 

「レドくん。その、大丈夫だった?」

 

 観客席からリコとセバス殿が駆け寄ってくる。

 

「俺はなんともない。それより弟が悪かったな。知ってるかもしれんが、あいつ昔から口が悪くてさ、俺もあんまり人のことは言えないけど」

「姫様への余りある言動。この件はジェフティム陛下にお伝えさせていただきます」

「そこは、まぁお任せします」

 

 やはり俺に元実家は守れそうにない。

 

 それに闘技場にもあんな亀裂入れちゃって。

 ジークのやつ名乗ってたし、あの弁償もオルレイン家持ちだろうな。

 

 ……少しだけ追放されてよかったと思ってしまった俺は、人でなしなんだろうか。

 

 

 

 

「あのレドという男。俺様に使えるな」

 

 闘技場の端で、白外套に身を包んだ男がつぶやいていたことを、俺は知らない。

 

 

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 グレイ陛下が手配してくれた宿屋のベッドに俺は倒れ込んだ。

 

 今日は本当にいろいろとありすぎた。

 

 スライムに負けて追放され、ドラゴンを倒し、恥を晒し、リコの騎士見習いになり、白狼の群れと戦った。ウェイは足フェチだしグレイ陛下とエルゼはドMだしリコは柔らかいし、ジークのせいで家は大変になりそうだし。

 

 情報量の多さに頭のなかがぐちゃぐちゃだ。

 

 特に後半あたりは感情が追いついてこなかった。

 

 ジークと会っても「なんでコイツがここに?」くらいにしか思わなかったのは、結構末期な気がする。



「隙あり〜」


「……どうしてきたんだリコ」

「嫌だった?」

「……嫌じゃないけど」

「だったらいいじゃん」

 

 もぞもぞもぞと。

 

「専属騎士様に、私の安眠を守ってもらいにきました」

 

 俺が寝てるベッドに、リコは意味不明なことを言って潜り込んできた。

 

 鍵は……そういえばかける前にベッドに倒れてたな俺。

 

 家にいたときは使用人達が戸締りしてたし、鍵をかける意識がなかった。迂闊。

 

 そういや、俺の世話をしてくれていたミリスは元気にしているだろうか。

 ジークが変なことしてなきゃいいけど。

 

 そんなことを考えていると、リコは後ろから俺を抱き枕にしてきた。

 

 必然的に、あたる。

 

 聖女たるもの、できれば俺の安眠も守ってほしい。

 

 疲れているせいか変に理性も鈍っている。


 大変よろしくない。

 

「ちょ、頼むから少し離れてくれ。セバス殿に見つかったらクビになる」

「すぅ〜、すぅ〜……」

「寝るの早っ」

 

 俺の安眠を守る能力高すぎるだろ。

 

「レドくん。んっ、ダメだよ……お願いだからやめて。ううん、やっぱりやめないで」

 

 あ、やっぱり大変よろしくない。

 いったいどんな夢を見ているのか。

 

 いや待て考えるな。


 変に彼女を意識したら、この先仕事がやりづらくなるのは目に見えている。

 

 こういうときに落ち着けるもの……とりあえずスキルウィンドウでもひらいてみるか。

 

 ウィンドウをひらいて、謎EX(エクストラ)スキル【強者喰い(ジャイアントキリング)】を……

 

 ……念には念を入れて外でタップしよう。

 

 スライムは倒せなかったが、ドラゴンを両断し、白狼を撃退し、聖騎士をくだし、剣聖を退けた。

 

 俺の中でなんとなくだが、このスキルの効果については想像が付いている。

 

 ちゃんとまとめたいところだけど、さすがに今日は疲れた。

 

 リコが巻き付いてるけど、もうこのまま寝てしまおう。そう思ったとき。

 

「レド、起きているだろうか」

「エ、エルゼっ?」

 

 なんでエルゼも俺の部屋に。

 

「よかった、起きていたか。ん、リコリス殿下も一緒なのか。もしかして私は邪魔か」

「い、いや。これはそういうのじゃない」

 

 リコを起こさないようにそ〜っとベッドを這いだし、俺の役目を枕に任せる。

 

 彼女の幸せそうな寝顔を見ながら、エルゼは目を細める。

 

「ふふ。愛されているな、レドは」

 

 愛されている、か。

 

 まだたった十七年しか生きていない。

 

 それでも、人生には嫌なことのほうが多いと思ってしまう日々を俺は過ごしてきた。

 

 貴族の身でありながら十歳を過ぎてもスキルを習得できず、陰で馬鹿にされ笑われる毎日。ソードスマッシュを習得するまではジークに何度負けたかも覚えていない。

 

 よく過去は美化されるというが、あれは嘘なんじゃないかと思っている。

 

 でも、そんな灰色の記憶の中で、リコだけはいまも輝いていた。

 

 

 

『けっ、初級スキルも使えねえクソ兄貴がッ!』


『……く、くそぅ』


『だ、大丈夫っ? いま治すから!』


『き、君は誰……これは、君の魔法?』


『ごめんね。私の回復魔法、弱いからあんまり効かないかもしれないけど』


『そんなことない! ほらっ、ばっちり治った!』


『うそ、そんなに傷だらけなのに』


『でも痛みは軽くなったぞ。君の魔法はすごいな』


『ちょ、ちょっと! どうして剣の素振りをするの! まだ傷もたくさんあるからちゃんと休んで』


『せっかく君が回復してくれたんだ。それに、俺はきっといつか、アイツよりも強くなる。そのためにいまやるべきことをやらなくちゃな』


『やるべき、こと?』


『君は自分の回復魔法を弱いって言ったけど、それでこんなに俺が元気になれるんだから、成長したらもっとすごいことになるぞ! 聖女様だって夢じゃない!』


『そ、そんな。わ、私が聖女様になんて』


『お互い、頑張ろうぜっ!』


『──っ! う、うんっ! ねぇ、あなたのお名前教えてくれる?』


『俺はレド・オルレイン。君は?』


『私は、リコリス・メイヤー』


『リコリスか……じゃあリコだな。よろしく、リコ』


『れ、レドくんっ! 私、頑張るからっ! 次はレドくんをちゃんと治せるように、もっと、もーっと! 頑張るからっ!』

 

 

 

 それからリコはかなりの頻度で俺の元を訪れるようになり、傷や痛みを回復魔法で癒してくれるようになった。

 

 あのときはまさか国王の娘だなんてまったく知らなかったな。

 知ってる人からすれば、俺は無遠慮にリコに絡む相当ヤバいヤツだったに違いない。

 

 すやすやと眠るリコを見て、俺は苦笑しつつも少しだけ寂しくなった。

 

「すごくなりすぎだ、リコ……」

 

『スキル【フォトンバインド】を習得しました』

 

 なんて、これからは俺がリコを追いかける番だ。

 

『スキル【メビウスタイドアップ】を習得しました』

 

 王都最高位治癒魔法士──聖女の隣に相応しい騎士になってみせる。

 

『スキル【パニッシュメント・コントラクション】を習得しました』

 

 

「……おいエルゼ。人が改めて決意してるときに、お前はさっきからなにしてんだ」

 

「先の戦いでレドが光属性のスキルを習得できるとわかったから、これからレドに私を縛ってもらう代わりに、スキルをプレゼントしようかと思ってな」


「まず前提条件に俺が同意してないんだが」


「いいから、スキルウィンドウをひらいて私直伝のスキルを見てみろ」

 

 ひらく前から嫌な予感しかしない。

 

 精いっぱい嫌そうな視線を向けてみるが、エルゼは誇らしげに胸を張ったままだ。

 

 ため息をついてスキルウィンドウをひらき、スキル名をタップして見てみる。

 

 ーーーーーーーーーー

 フォトンバインド 魔力を消費し、光の輪で敵を拘束する。

 

 メビウスタイドアップ 魔力を消費し、天使の腕で相手を羽交い締めにする。

 

 パニッシュメント・コントラクション 魔力を消費し、多重構造化された光の鎖で相手を強く縛る。

 ーーーーーーーーーー

 

 

「全部縛るスキルじゃねえかッ!」

 

「当然だ! 私は縛られフェチだからなっ!」

 

 聖王騎士団長による突然の性癖暴露。

 

 グレイ陛下といいコイツといい、この国ホントに大丈夫なんだろうか。

 俺の故郷も、この国との付き合い方を今一度改めるべきなんじゃ。

 

「ではレド、さっそく実食といこうじゃないか。今日の私のおすすめはシンプルに【フォトンバインド】だな。光の輪の触感には特にこだわった。縛られたときのフィット感がだいぶ変わってくるんだ」


「んなこと聞いてねえから!」

 

 さらりと縛ることを三大欲求に入れ込んでくるエルゼに、俺は引くしかなかった。

 

 まあまあものは試しだと、彼女は俺に迫ってくる。

 

 絶対に試さない。

 

「【ホーリーチェイン】」

 

「ああんっ! おすすめではないが……イイっ!」

 

 嬌声をあげるエルゼに、俺はドン引きしながら部屋を後にした。

 

 もうこの部屋では寝られない。

 

 他に部屋が空いていないか宿屋の亭主に聞きに行こうと思った矢先。

 

「おおっ! レドじゃねえか! ちょうどお前を呼びに行こうと思ってたんだ」


「俺はいまから寝るところなんだが」


「あん? いまから寝るとか冗談だろ? ホーリーナイト“性”王国の夜は、まだ始まったばっかだぜ!」

 

 肩を組んできて意味不明なことをのたまうウェイに、俺は連れ出されることになったのだった。

10話までお読みいただきありがとうございます!

初投稿作品ながら評価ありがとうございます!


ここまでで少しでも面白い、もっと読みたいと思っていただけたら、


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[一言] ジーク毎回出てきてはやられる悪役ポジに・・・ 
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