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スライムに負けた。実家追放された

「それでも持ってどこかへ失せろッ! スライムも倒せぬ無能がッ!」

 

 王都クレインベルグが所有する、才能開花の儀を執り行う闘技場の出口にて。

 

 俺、レド・オルレインは父上に蹴り飛ばされ、実家を追放された。

 

 ◇

 

 数時間前。

 

「それではこれより、才能開花の儀を執り行います」

 

 才能開花の儀。


 強力なスキルを得るため、十七歳になる年に一度だけ受けられる大切な儀式だ。

 

 この儀式で得るスキルは今後の人生を大きく左右する、いや、決定付けてしまうといっても過言ではない。


 俺の家、オルレイン家は【剣聖】をはじめとした戦闘スキルによって繁栄してきた。


 しかし、近年では戦闘系スキルを授かる身内がなかなか現れず、目立った功績も立てられていないため、周りの貴族達からは爵位の格下げを噂されている。

 

 そういう背景もあって、父上からは戦闘系のスキルを強く期待されていた。

 


 ちなみにスキルの種類は二つ。

 

 魔力を消費して任意で発動できる【スキル】。


 そして、魔力を消費せず常に効果を発動する【エクストラスキル】である。


 

 才能開花の儀で得られるスキルは、エクストラスキルだ。


 カッコよさげな名前だけあって、あるのとないのとでは能力に雲泥の差がでる。


 

 そうこう考えているうちに、俺の番がやってきた。

 

「きゃーレド様ー! こっちを見てー!」


「レド様ならきっと素晴らしいエクストラスキルを授かるわ!」


 

 周囲から黄色い声援が送られてくる。

 

 こういうのは騎士学校時代にもたまにあったけど、ちっとも慣れなかった。


 あまり目立つのは好きじゃないし、なんだか少し気恥ずかしい。


 

「レド。お前の学校での努力は私も見てきた。案ずるな、お前なら必ずや戦闘系の上位スキルを得られると、私は信じている」


「父上……お言葉、ありがとうございます」


 

 俺が学校での修行に日夜励んでいると知った父は、新しい剣を用意してくれたり、専属メイドをつけてくれたりなど、影に日向に助力してくれた。

 

 恩返しもしたいし、なにより期待に応えたい。

 


 父上に促され、俺は儀式担当の神官が待つ壇上へあがる。

 

「では、この魔水晶に手をかざしてください」

 

 意を決して、台座に置かれた魔水晶に手を伸ばす。

 

 水晶が光り輝きスキル習得の音声が頭に流れ込んできた。


 

『エクストラスキル【強者喰い(ジャイアントキリング)】を習得しました』


 

 ジャイア……なんだって?

 

 聞き慣れないスキル名に、思わずスキルウィンドウをひらく。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 エクストラスキル:強者喰い〈ジャイアントキリング〉

 スキル:ソードスマッシュ

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「早くスキル名を読み上げてください」


「す、すみません」


 

 固まっていた俺は神官に急かされる。

 

 スキルウィンドウに表示されたスキル名は、開いた本人にしか読めない。

 

 だから儀式を受けた本人が読み上げる決まり、なのだが……


 

 ……何万回と読み直したからこそわかる。

 

 ジャイアントキリングなんてEX(エクストラ)スキルは。

 

 才能開花の儀ガイドブックに間違いなく載っていない。


 

 ……落ち着け俺。

 

 字面は“強者喰い”だし、なんか強そうに見える。


 少なくとも確実に戦闘系スキルであることは間違いないはずだ。


 なにかの手違いでガイドブックに漏れてただけで、そこそこ強かったりするんじゃないか?


 

「どうしたんですか? まさか、エクストラスキルを得られなかったとか……!」


「ジャイアントキリングです!」


 

 闘技場全体が、一瞬静まりかえった。

 

 さっきまで飛び交っていた黄色い声援はどこにもない。

 

 やめろやめろ、なんだよこの空気。


 そういうの本当にいらないから。


 

「ジャイア……ふむ、ではあのスライムに攻撃をお願いいたします」

 

 この反応。


 長年儀式を担当してるこの神官も絶対知らない感じなんだが……

 

「わかりました!」

 

 気を取り直して明るく前向きな声を出してみる。

 

 だが、場の空気はちっとも明るくならない。

 

 この空気を変えるには、スライムをバシッと倒してみせるしかなさそうだ。


 

 ……頼むぞ【強者喰い(ジャイアントキリング)


 俺の人生がかかってるんだからな!

 


「いきます……【ソードスマッシュ!】」

 

 十年以上剣の修行を積んできて、唯一習得できた初級剣技スキルを放つ。


 

 ガキィンッ! と鋭い金属音が鳴り響き。

 

 儀式用のスライムは──その場で微動だにしていなかった。


 

 再び静まりかえる闘技場。


 真顔の神官。


 青い空、白い雲。

 

 …………。

 


 俺はもう一度スキルウィンドウをひらいた。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 エクストラスキル:強者喰い〈ジャイアントキリング〉

 スキル:ソードスマッシュ

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 ……うん。強者喰いは間違いなくエクストラスキルだ。


 つまり、効果を発揮していないわけじゃない。


 

 だいたいスライムなら騎士学校でも何度だって倒してきた。

 

 急に倒せなくなるなんてありえない。


 

 落ち着いて、強者喰いがどんな効果なのかを確認しよう。

 

 俺はウィンドウに映るエクストラスキル名をタップする。

 

 だが、まったく反応がない。

 

「あれ、バグったか?」

 

 今度は俺の唯一使えるスキル【ソードスマッシュ】をタップする。

 

 ーーーーーーーーーー

 魔力を少量消費し、剣による斬撃ダメージを与える。

 ーーーーーーーーーー

 

 いつ見てもアバウトだと感じる説明文だ。


 よかった、バグってるわけじゃない。


 

 もう一度強者喰いを、今度は鬼連打してみる。

 

 しかし、何度押しても説明文はでてこない。


 

 それどころか──突然スキルウィンドウは火花を発した。

 

「熱ッ!」

 

 反射的にのけぞってしまう。

 

 は? え、どういうこと?

 

 こんな現象は聞いたことも見たこともない。

 

 慌てふためく俺を怪訝な顔で一瞥した神官が、やけにゆっくり口をひらく。


 

「……ええ、では、次の方に」


「いきます! 【ソードスマッシュ!】」

 

 俺はなにも聞こえなかったし見なかった。

 

 そう決め込んで再度スライムにスキルを叩き込む。

 

 鋭い金属音が響き渡り──まず金属音の時点でおかしいわけだが。

 

 儀式用のスライムは、相変わらず微動だにしなかった。


 

「ちょ、なんでだよっ! 【ソードスマッシュ!】【ソードスマッシュ!】」

 

 何度打ち込んでも、スライムは倒せないどころか動きもしない。

 

 それどころか叩かれて怒った様子のスライムは──

 

「えっ、まっ、うわあああああッ!」

 

 ──噛みついてきた!

 

 そこそこ痛い!

 

 万一のため待機していた治癒魔法士の女性が、杖でスライムを叩いて追い払ってくれる。

 

 

 瞬間、どっと笑い声が闘技場に飛び交った。

 

 

「ぷっ、エクストラスキルを得てスライム倒せないとか前代未聞じゃんっ!」


「しかもアイツ噛みつかれてたし!」


「あ、あのスライムって、ふふふ、か、噛み付くのね……あはは、初めて知ったわ」


 

 俺を嘲笑する声がそこかしこに巻き起こる。


 

 審査員も、神官も、いま俺を治療してくれている女性治癒魔法士さえも、笑いを噛み殺しているように見えた。


 

 ぽんっと肩に手をおかれる。


 

「いやー兄貴、すげえ笑わせてもらったよ。

親父はめっちゃ怒るだろうけどな、オレとしては兄貴の前座は百点満点、いや満点超えの百二十点だ! ほんと最高!」


 

 まさに大爆笑といった様子で、ジークは壇上へと上がる。

 

「では、魔水晶に手をかざしてください」


「あいよ」

 

 水晶が光りジークが高らかに宣言する。

 

「【剣、聖、】だッ!」

 

 そのままスキルも使わず、剣を俺が倒すはずだったスライムに振り下ろした。


 ゲル状の魔物はあっさり両断され、光と消える。

 

「雑魚がッ!」

 

 彼はさらにもう一振り。

 

 ジークに用意されていたスライムを、魔力でつくられた檻ごと叩き斬った。

 

 俺のときと全く違う歓声が巻き起こる。

 

「わりィな兄貴。テメェの努力が無駄だって分からせちまったなぁ」

 

 その言葉に俺は全身の力が抜けてしまった。

 

 でも、家族が最上位エクストラスキルを得られたのだ。

 

 せめて兄として、祝福するべき場面だろう。

 

「ジ、ジーク……剣聖おめで」



「──オレはなァ。ずっとテメェが気に食わなかったんだよ」

 

 

 お祝いの言葉は、ジークの剣幕によって阻まれる。

 

「テメェがクソ真面目に努力をしやがるもんだから、親父はオレに見向きもしなかった。

さらにテメェは国宝級の聖女様にも好かれて、おまけに専属メイドにも懐かれてやがる」

 

 怨嗟。


 ジークは一歩一歩、俺に詰め寄ってきた。


 まさかジークがそんなことを考えていただなんて。


 

「その目だ。外れスキルを引いたってのに、人のことを考えてやがるその目が、オレは心底気に入らねぇ……

 スキルもひとつしか使えねぇ雑魚のクセによぉ」


 

 ジークは剣を振り上げ。

 

「粋がってんじゃねぇぞッ──!」


 地面に叩きつける。

 

 その衝撃波が俺に襲いかかってきた。

 

「がはぁっ!」

 

 避けるすべもなく、闘技場の出口に向かって吹き飛ばされる。


 どれくらい飛ばされたのか、ジークの姿はもう見えなくなっていた。


 

「……ん? レドか。帰ってきてから話そうと思っていたが、ちょうどいい」

 

 倒れた俺を父上が覗き込んでいる。

 

 なんとか体を起こそうとしたところ──急に体が持ち上がった。

 

 父上が、俺の胸ぐらをつかんで持ち上げていたのだ。

 

 ぎりりと父上の拳に力が入る。


 いまの父上の表情は、俺の記憶にあるものと一致しないくらいにひどく冷たかった。

 

「ジークが剣聖を授かったからよかったものの、お前のときはとんだ酷い目にあった。

 ……それはもう、周りの貴族からはひどく笑われてな」


「そ、それは、俺……私の不徳の致すところです。誠に申し訳」


「私が笑われるのは愉快だったか? レド」

 

 床に向かって物のように投げ捨てられ、尻もちをつく。

 

「そんなことは決して……かはぁっ!」

 

 起きあがろうとしたところに、腹を蹴られた。

 

「私がいったいどれだけの金をお前に注ぎ込んだと思っているッ!」

 

 鈍い痛みが走る。

 

 何度も、何度も、何度も。


 

「スキルがひとつしか使えない時点で嫌な予感はしていたが、多少の努力をしているからと目を瞑って、専属メイドまで用意してやったというのにこの体たらくとは嘆かわしい」


 

 最後には興味を失ったかのように、闘技場の外に向かって蹴り飛ばされる。

 

 俺は痛みに苦悶の声をあげ、咳き込んだ。

 咳と共に血を吐いていた。


 

 転がった俺に、父上は俺が最も恐れていたものを突きつけた。

 

「お前はもう、オルレイン家の人間ではない」


「ち、父上っ! そんなっ、俺はまだ」


「黙れッ! お前のような恥さらしを家になぞ置いておけるか! 殺さないだけマシだと思えッ!」

 

 ものすごい剣幕で茶色い袋を顔に投げつけられる。

 

 なかには硬い金属のようなものが入っていたようで、俺は顔から血を流した。

 

 

「それでも持ってどこかへ失せろッ! スライムも倒せぬ無能がッ!」

 

 

 追い討ちとばかりに再び蹴り飛ばされる。

 

 なにも考えられなくなった俺は、受け身も取れず無様に転がった。

 

「二度とその顔を私に見せるな。わかったな」

 

 その冷たい声を最後に、俺の意識はぷつりと途絶えた。

数あるなろう作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございます! 初投稿作品です。


面白そう、続きが気になるなど思っていただけたら、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆をクリックorタップして頂けると執筆の励みになります!


よろしくお願いいたします!

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