■コミカライズ記念SS ~王太子殿下は反抗期1~
9/20(水) コミカライズ連載スタートします!
「コミックライドアイビー vol.08」 漫画:出迦オレ先生
(タイトルは 「不機嫌な公爵様はウソ発見器付き令嬢の取説をご所望です」 に改題されてます。)
コミカライズを記念してショートストーリー全4回となります。お付き合いどうぞよろしくお願いいたします。
~ざっくりあらすじと登場人物をおさらい~
・オフィーリア 嘘に近付くと体が震えてしまう。小心者で泣き虫で「はわわ」だけど、正義感だけは人一倍ある。この度クラウディオと心が通いましたが、まだまだ及び腰です。
・クラウディオ 刑部省の怒りんぼ長官で王弟。ピンクブロンドの髪に瑠璃色の瞳の美丈夫。嘘やお世辞が大嫌い。オフィーリアの理解不能な言動に翻弄されているうちに可愛く思えてきちゃったので、一気に距離をつめました。
・サムエーレ、ブルーノ、アンジェロ 長官室の愉快なメンバー。皆でオフィーリアとクラウディオの仲を見守っているよ。
最近のクラウディオは上機嫌であった。
なぜなら、国王から縁談を持ち込まれることがなくなったからだ。
オフィーリアの気持ちを確かめたクラウディオの動きは早かった。
オフィーリアの父であるナーヴェ伯爵へ婚約の打診をし、ほぼ強制的に許可を取った。その後すぐに、自分の兄である国王へオフィーリアと婚約すると告げた。国王からは、あっけないほど簡単に許可が出た。伯爵家とはいえ、ナーヴェ家は由緒正しい家柄である。代々、真面目に王宮に勤めていて信頼も十分厚かったのだ。
ただし、正式な公表は半年後となる。クラウディオはステッラとの婚約を解消したばかりである。すぐに違う相手との婚約をして、痛くもない腹を探られるのは避けたいところだった。
公表はまだではあるが水面下では婚約の手続きは済んでいる。籍を抜けたとはいえ王族がいつまでも独り身など、というお説教ももう聞かなくてよいのだ。
あまりの展開の早さに目を白黒させているオフィーリアには悪いが、クラウディオには平穏な日常が訪れていた。
先頭にクラウディオ、その斜め後ろにサムエーレ。オフィーリアは両手で書類を抱え早足に二人の後を追っていた。
「長官、ナーヴェ嬢の足がもつれそうです。もう少し歩く速度を落としてください」
オフィーリアの隣を歩くブルーノが声をかけた。クラウディオがちらりと振り返り、眉を上げる。
「ああ、足の長さが違うんだったな。すまない」
クラウディオの嫌味に、オフィーリアが赤い顔をしてぷうと頬を膨らませた。それを見たサムエーレが、二人の仲が良好なのを察してしみじみと深く何度も頷いている。
四人は今、王宮の中枢である王城へ向かっている。
王城には国王の直轄の部署があり、どの省庁も最終的にはその部署の決裁を仰がなければならない。刑部省の正式な職員となったオフィーリアもそのうち王城へ書類を届けることもあるだろう、とブルーノが案内を買って出てくれた。その途中で、ちょうど王城へ用事のあったクラウディオと付き添いのサムエーレに出会い、このようにぞろぞろと並んで王城の廊下を闊歩することとなったのだ。
王城にはもちろん、国王陛下の執務室がある。以前、オフィーリアはクラウディオに抱えられてその部屋を訪問したことがあるが、それは王族専用のプライベートスペースを通っての近道だった。こうして身分証を提示して王城に入るのは初めてのことだった。
「おや、そこにいるのは叔父上ではありませんか」
廊下で立ち止まっていた四人の後方から、わざとらしく尊大な口調の声が聞こえてきた。オフィーリアが振り返ると、栗色の巻き毛の少年がこちらに向かってまっすぐに歩いて来ているところだった。
少年は品の良い服装をしていて、胸を張って歩く姿はいかにも己が高貴な身分であることを誇っているようであった。それでも、若さゆえの血色の良さだろうか、色白の頬はうっすら赤らんでいる。背後に並ぶいかつい二人の護衛と比較され、その幼さを際立たせていた。
オフィーリアはぐいっと腕を引っ張られて、廊下の端に追いやられた。驚いて目をぱちくりとさせていると、腕を掴んでいたブルーノに「王太子殿下です」とささやかれ、さらに目を見開く。あわててブルーノと同じくらいまで頭を下げた。
カツ、カツ、とゆっくりと目の前をピカピカの黒い靴が通り過ぎて行く。
「お久しぶりです、叔父上。お元気そうで何よりです」
王太子の声が聞こえ、オフィーリアはおそるおそる頭を上げた。しかし、軽くうつむいたまま視線は下げ、王太子を直接見ないようにした。こういう時の礼儀はよくわからないけれど、何となく至近距離で王族を直視してはいけないと思ったのだ……が、好奇心に負けて上目遣いでこっそり様子を窺っていた。
王太子の言葉は、殊勝なようでいて実に嘲りを含んでいる。そんな態度をクラウディオが許すとは思えず、オフィーリアは少しだけ背中がひやりとした。クラウディオはいつものように眉間に深いしわを寄せ、静かに王太子を見下ろしていたものの、すっと胸に手をあて軽く頭を垂れた。
「リナルド殿下こそ、お元気そうで何よりです」
クラウディオの予想外の返事に、オフィーリアはとうとうがばっと顔を上げた。後ろにサムエーレを従え、姿勢よく礼をするクラウディオからは高貴な品格があふれている。オフィーリアはついついその姿にうっとりと見とれてしまった。
「叔父上、そんな他人行儀なあいさつやめてください。私のような若輩者に、あなたが頭を下げるだなんて」
オフィーリアからは王太子の後頭部しか見えないが、彼の表情は簡単に想像できた。きっと勝ち誇ったような笑みを浮かべてクラウディオを見やっているに違いない。しかし、クラウディオはその言葉を聞くとすぐに身を起こし、右手を腰にあてて王太子をじろりと見下ろした。
「そうか、……では遠慮なく」
王太子はオフィーリアよりもこぶしひとつ分くらい背が小さい。かなり上の方からクラウディオに見下ろされ、王太子が一瞬肩をびくつかせたものの、すぐさま王太子も負けじと両手を腰にあてて大きく胸を張った。二人はしばらくの間睨み合っていたが、先に目を逸らしたのは王太子の方だった。
「ふ、ふん。まったく、叔父上ときたら、王族でありながら、またそのような下賤な服を着て人前をうろうろしているとはな。嘆かわしいことだ」
「国が定めた機関の正式な服装を下賤とは。俺はすでに王族ではなく、そして刑部省の長官に任命されている。その制服を着ていて何がおかしい」
「お、王弟でもあるあなたがそんな下々の者と同じ服を着ているだなんて、いつ誰に侮られてしまうか」
「身分を笠に着て罪を逃れようとする者を捕らえる刑部省の長がそんなことでは、本末転倒ではないか」
そうスラスラとこたえたクラウディオが、うぐぐ、と口ごもる王太子の顔を見て、一瞬顔をしかめた。そのことに気付いた王太子が、何事かと眉根を寄せる。
「はっ、情けない。王弟がせかせかと朝から晩まで働いているだなんて」
「……リナルド。口を閉じろ」
目を細めたクラウディオにそう制され、王太子の頬にさっと朱が走る。
「叔父上、あなたは王弟であるという誇りをお忘れなのではな」
「いいから、いったん黙れ。リナルド」
「はあ?」
一方的に言葉を遮られたことに腹を立てた王太子が、肩をいからせてぐっと拳を握った。クラウディオが気まずそうに口を歪め、王太子を、正確には王太子の背後から目を背ける。
その王太子の背後では、オフィーリアが尻もちをついていた。
明日も11時更新です。
こちらの原作小説はメイプルノベルズ様より
「不機嫌な公爵様はウソ発見器付き令嬢の取説をご所望です ーオフィーリアには嘘はつけないー」
と改題し、電子書籍化されています。
WEB版とは設定が変わり、エピソード増量となってます。