出会い②
この優男、できる!
とは思うけど、貴族でそのモテる動きができるのは本当にすごいと思う。
私の中での貴族ってアメリアみたいに我儘で自己中心的なのよね。
「グレン様もやります?」
「僕は遠慮しておくかな。別に体を鍛える必要はないし」
ないわけではないと思うけど、本人が望まない筋トレを勧めるのはよくないわね。
体を鍛えることで体力がついて病弱振りも改善される気がするけどなぁ。
ただ、この時代にその概念があるのかはわからない。
筋トレ趣味の私でも、流石にそのあたりの歴史に興味があるわけじゃないし。
「アメリアさんは面白いね」
「そうでもないと思いますけど……」
何故筋トレをしているというだけで面白いって言われてしまう不思議。
それくらい筋トレがこの世界では変なことなのかな。筋肉たちの悲鳴を聞きながら充実感を得られて、更に見た目もよくなる素晴らしいことなのに……
「それはどうやって使うんだい?」
ダンベルを指さす。
意気揚々とやってみせるけれど、それを面白そうに笑ってみている。
これがグレンでなければ、デブ令嬢が何かおもちゃを使って遊んでいるように見えるから嘲笑の意味での笑いになるんだろうけど、本当に物珍しさに面白がっているんだと思う。
グレンが朗らかに微笑んでいるのを見て、自然と私も笑みがこぼれてくる。
「うわ、重いね」
窓の外まで私が持っていったのは5kgのダンベル。
これを私から受け取って、見せたように動かしたけど数回でやめてしまった。
「これは20kgのまでありますよ」
「……どうやっても持ち上がらない気がする」
苦笑いを浮かべながら、肩をすくめるグレン。
「あ、そろそろ僕は邪魔しないうちに戻ろうと思うかな」
黒猫は気が付いたら音もなくいなくなっていた。
私は見上げるようにしてグレンを見る。
「もしよかったら、また来てもいいかな?」
「はい、勿論です」
「アメリアさんと話すのは面白いね。全然貴族と話している気がしないよ」
「……」
正解。
私だってもっと貴族らしいことができればいいんだけど、流石に無理なのよね。
「あ」
「どうしたんだい?」
「それでしたら、今度は玄関からお入りください。ベンチプレス用ですが座る場所はありますから」
多分ベンチプレスっていうものをグレンがわかっていないのかもしれないけど、曖昧に頷く。
本来であれば神聖なベンチプレスをするための場所だけれど、筋トレの良さを分かってもらうためには必要な経費だ。
「わかったよ、また今度ね」
こうして高身長イケメン宰相息子は立ち去った。
汗を拭きながら、私はまたバーベルを持つ。
「…………グレンとの出会いってどこだったかしら」
主人公であるフローラとの接点がどこだったかは覚えていないが、とりあえずここで初めてアメリアとしっかりとした接点を持ったわけだ。
生憎筋トレには興味なさそうだけど、少しだけグレンに対して思い違いしていた。
アメリアに対して意外とマイナスの評価じゃないのよね。
作中、グレンルートに入った時は結構邪険に扱われていたような気もしたけど、まだ好感度が下がる前なのかもしれない。
前世の記憶を取り戻してからは、まだクリフとしか出会ってないけど彼は私に対して悪い印象を与えている。
アメリアの記憶だけで言うと、多分自分のことしか考えてないから他のメンバーについてマイナスの評価はしていない。
寧ろエリオットについてはかなり好感を抱いている。
私個人で言うと、あまり王子様的なキャラクターはそこまで好きではないのだけど。
「うーん、難易度的にはバランスが取れているのかしら?」
目的である二つのバランスを考えていた。
私への好感度が低いが低い面子でクリフとデクスターは比較的筋力はあるから筋トレへのハードルは低いかもしれない。そしてグレンは私への好感度はそこまで悪くないけど、筋トレへのハードルが高い
エリオットは……両方とも難しいのかも。
どうするのがいいのかしら。
自分の肉体改造と同時並行して、普及できないかしら?
その場合だと、できれば社交的にコネクションをつなげられそうなグレンと仲良くなっていくのも悪くないはず。
「ビオラちゃんに聞いてみた方がいいかもね」
私だけで勝手に動くとあんまりいいことにならないかもしれない。
特に貴族関連は私の認識がずれていることが多そうだし……
「よし、あと二セット、いきましょう!」
只管に我武者羅に頑張ってから、シャワーを浴びた。