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準備①

野菜沢山の朝食を終えて寮に戻るまでの時間、自分の記憶を文字に起こしていく。


 この『Five princes』は日本のゲームで、殆ど前世と同じような世界観だ。1週間は7日だし、土日が休日。

 サウスマンスター学園は全寮制の学校で基本的には学園にいるけど、こうやってたまに実家に戻ることができる。

 だからこれから半日くらいかかる道程を馬車で過ごさなければいけない。


 いい機会だからビオラちゃんに詳細な話をして、協力してもらおう。そのために覚えているゲームの記憶を呼び起こさないと!



「攻略対象……ですか?」


「一応ビオラちゃんにも知っておいてほしいの」


 馬車に揺られながら、私は紙束を渡す。

 そこには『Five princes』で攻略できるとされている五名の情報だ。


 実は目の前にいるビオラちゃんも攻略対象だったりするから六名になるけど、流石に本人に言うのはまずいと思って省いた。


 ゲームはやりこんでいるけど、アレックス、ビオラルートだけクリアしていない。アレックスルートは単純に難しくて、ビオラルートはどうしても受け入れられなかったからだけど。


 フローラはアメリアからの嫌がらせを受け続けると、ビオラちゃんが隠れて主人公を助けてくれるようになる。それをきっかけに人気の少ない場所で会うようになって仲良くなる。

 そこまでならやや百合でいいシナリオだけど、それがアメリアにばれてビオラちゃんは男たちに暴行される。そして他ルートと同じくアメリアは断罪されるけど、病んでしまったビオラちゃんは自殺してしまうというとんでもない結末を迎える。


 制作陣にアンチビオラちゃんがいるとしか思えないような、どう足掻いてもひどいエンディングになってしまう。許せない。

 元々このゲームを買おうと思ったマッチョのアレックス様を除けば、ビオラちゃんが攻略対象で一番好きだった。だからこそ結末を知ってしまってからはどうしても進めることはできなかった。


 今私がアメリアだからアームストロング家は没落するかもしれないけど、ビオラちゃんが暴漢に襲われることは絶対にない。それは保証できる。




 一人目、イギス王国第二王子のエリオット・ウェールズ。

 お世辞にも筋肉質ではなくて私好みではないものの、運動神経は抜群だったはず。


 二人目、王国宰相の息子で公爵家嫡男であるグレン・バーナード。

 身長は高いけど、確か病弱で学校を休みがち。病的な細さはよくないわね。


 三人目、下級貴族の子爵家次男のクリフ・ベアリング。

 アウトローで不良系男子。まあまあ肩幅があって筋肉はあり。喧嘩が得意。


 四人目、鍛冶屋の一人息子で平民のデクスター・ロスチャイルド。

 鍛冶屋の息子でたまに手伝ってるから、かなり筋肉あり。男性陣の中ではアレックス様の次に私の推し。マッチョなのに学業の成績優秀でこの学園の入学を推薦されたみたい。



「……あの、ここまで殆ど筋力とか体格の情報しか得られていないのですが」



 一枚目を見て、げんなりした表情でビオラちゃんは口を尖らせた。


「大丈夫大丈夫、後ろに一人一枚ずつ詳細をまとめてるのよ。一気に全部の情報は頭に入らないと思って」


 それを聞いてパラパラと捲るビオラちゃん。

 私だったらこんな馬車に乗りながら文章を読んだら酔っちゃうところなのにすごい。


「……で、それを聞いた上で質問していいですか?」


「どうしたの?」



「残りが全部アレックスという攻略対象に割かれているというのはどういうことですか?」


「だって私そのキャラクターのルートに入ろうと思ってずぅっと調べていたから記憶が偏っているのよね」



 そう、今回エンディングを目指すアレックス・フェルディナントについて。

 パッケージからは貴族だと思うけど詳細不明で情報が少ない。元々発売されておらずそこまで日時が経っていないから、どうすればルートに入れるかどうかもよくわかっていない。


 知っている情報として、身長は攻略対象で一番高い183cm、がっちりとした肩幅に制服の上からでもわかる二の腕の太さ、そしてはち切れんばかりの下半身。常に上着を脱いでいて、胸元のボタンを外していて大胸筋をチラ見させてくれるくらい。


 実直で正義感が強く、喧嘩も滅法強い。アレックスルートでは、同じく攻略対象のクリフと主人公フローラを取り合って喧嘩をするとかしないとか。




「で、この似顔絵は?」


「うまいでしょ! ファンアートも描いてたから自信あるわよ!」


 クオリティには結構自信はある。というかネットの掲示板で一番検索されるアレックスの似顔絵は私が描いたんだから!



「彼に見合う女性になるために筋トレが必要なのよ!」



「……どう足掻いてもアメリア様には無理だと思いますが」



「大丈夫、今回こそ本気よ!」


 自分の記憶では、過去五回ダイエットに挑戦したことはあるけど最高記録は四日だ。

 だからこそ、ビオラちゃんがその対応をするのは比較的仕方ない気がする。



「私だって目的がないダイエットは無理だけど、アレックス様に会うためには頑張れるわ!」


「……せめて一ヶ月は続けてほしいものです」


 数日と言わなかったのは彼女なりの優しさだ。

 このアメリアという悪役令嬢の記憶を思い返すけど、如何せん残念な公爵令嬢と言わざるを得ない。基本上から目線、自分の非を認めず人のせい。勉学はサボり、更に運動は嫌いで怠惰。暴飲暴食で自分を相当美人だと思い込んでいる。


 ……自分のことなのに、なんでこんなに目頭が熱くなるんだろう。



「で、恐らく無策だと思われるアメリア様。これからどうするおつもりですか?」


「ふっふっふ、これが無策じゃないのよ」


 アレックス様に会う方法は知らないけど、ネットの情報によると来年のクリスマスパーティで出会えるみたい。それまでにやることは大きく分けて二つ。


「まず、私自身が筋肉ムキムキのマッチョウーマンになることよ!」


 その顔はやめて。絶対に無理だと思ってるみたいだけど、私は自信あるのよ!

 元々のアメリアの謎の根拠のない自信がそうしているんだと思う。それに私の趣味である筋トレ知識さえあれば、非現実的ではないはず。そうよ、絶対にできるんだから!


「で、もう一つこれも大事なんだけど。フローラは勿論として、他のキャラクターと仲良くするって感じかしら。その上で筋トレを普及させないといけないのよね」


 私の記憶が正しければ、貴族は運動したがらない感じだから結構大変かもしれない。


「だからこそビオラちゃん、まず急ぎでお願いがあるの。可能な限り早く理事長に会う手筈を整えてくれる?」


「……わかりました。理由を聞いても?」


「筋トレ専用のトレーニング施設を作ってもらうのよ!」


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