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プロローグ②

 翌日、私は朝早くに起きた。

 というのも、このふくよかなナイスバディでは暑すぎた。


 明るくなってきたし、この素晴らしい肉体を今一度見てみる。

 見た目は悪くないと思う……自分補正で。でも、如何せんこの体格だ。


 家族たちから甘やかされて育ったアメリアは順調にすくすくと成長していった。小さい頃は比較的可愛かった自覚はある。でも、そこからぶくぶくと縦に横に横に横に奥に。



 とりあえず動きやすそうな服装に着替えて、前世の習慣でストレッチを始める。

 まず今考えるべきことはこれからの目標だから、一人作戦会議を始める。


 回避をしなければならないのは『断罪、そしてアームストロング家の没落』だ。


 簡単な方法は、まず主人公や攻略対象に近づかないことだ。でも、何もアクションがなくてもゲームの仕様によって恐らく断罪されてしまう。

 その辺りのイベントを詳細には覚えていないけれど、嫌がらせをする以外にも色々悪事は働いていたようだった。


 だからこそ、掲示板では登場キャラ全員がハッピーエンドを迎えられるであろうアレックスルートに入らなくては。

 ……それに、マッチョが大好きな私にとっては、そのルートが一番嬉しい。折角ゲームの世界に入ったんだから、ムキムキのイケメンたちを眺めてみたい!



 実際のところ、没落を回避するなら国外に逃げたり休学したりすればいいのはわかってるのだけど、正直寧ろ進んで筋肉ルートに入りたい。


 そんな風に上機嫌に考えていた私だけど、自分の身体を見てため息をつく。


 そのためには……この身体を引き締めないと。

 日本人だったときは、こんなんじゃなかったんだけどね。


 一通りストレッチをしただけで既に息が上がっている。

 お腹をぽんぽんと叩いてみたけど、いい音が鳴る……悲しい。


 まるでこの体型は相撲取りみたいよね。

 別に大して意味もないけど、何となく足を持ち上げて四股を踏んでみる。


 本当に意味はない。というか足を高く持ち上げようと思ったらバランスが少し崩れた。



 どすん、と床が揺れた。すごい……この重量感。肉が振動でたぷんたぷん揺れてる。




「…………アメリア様、何をされているんですか?」


「い、いつからそこに……ってちょっと待って!」


 扉が少しだけ開いていて、ビオラちゃんが顔だけを覗かせていた。

 あからさまに引いた表情をしていて、無言で扉を閉めようとしていたから慌てて止める。


「あ、なるほど」


 まだ何も説明していないのに、まるで納得したように表情を変えた。

 何がなるほどだろうか。


「床を踏み鳴らすことによって屋敷を倒壊させ、来世に期待するということですね。お見逸れ致しました」


「全然違うから! そんなことを考えて四股なんて踏んでないから!」




「で、その『シコ』とは?」


 四股とは、東洋にある相撲というスポーツにおける神聖な儀式的なものと説明してみる。

 正直そんなに相撲に詳しくないから間違っているかもしれない。



「で、なんでその四股を踏んでいたのですか?」


「……」


 私は沈黙して、ビオラちゃんはより一層冷たい視線を私に浴びせてくる。

 え、だってこんな体型だし、一回くらいやってみてもよくない?


「そ、それはそうと朝からビオラちゃんはどうしたの?」


 記憶を取り戻した時の夜でも丁寧にノックしていたのに、今は扉を開けていたのは不思議だった。

 ビオラちゃんは少しだけ顔が赤らんだ気がする! やばい、かわいい!



「アメリア様にはこれが必要かと思いまして」


 澄ました表情を作り直してから渡してきたのは紙の束。

 ぱらぱらと捲ってみるけれど、全てが白紙で全く何も書かれていない。


「もしもこの世がアメリア様の言うゲームの世界で記憶を持っているならば、忘れる前に書き出された方がよろしいかと」



 …………ん?

 それをわざわざノックしないで朝早くに持ってきたってことだよね。


 私は自然と笑みが浮かぶ。そしてそれと同時に、ビオラちゃんは困惑したように私から視線を逸らした。


 口では私の言動を妄言だと言っていたけど、実は信じてくれていて私が起きる前にこっそり紙束を置くつもりだったんだろう。

 このツンデレ感も人気キャラの風格って感じかしら。


「ありがとね、ビオラちゃん」


「…………」


 むすっとした顔で何も答えてくれない。

 そんな仕草も可愛らしいが、ずっと眺めていたら本当に不機嫌になってしまいかねないから別の話題に返る。



「そういえば、この時間はもう朝食は作っている?」


「いえ、アメリア様の所に向かう際に料理長とすれ違ったのでこれからだと思います」



 どういう意図で言っているのか、推し量ろうとしているように見えた。

 元々アメリアというキャラクターは随分自分勝手な性格で、その火消しをビオラちゃんが行っていたのかもしれない。だから真意を測りたいんだろう。


「ダイエットするから朝食を変えてもらおうかなって」


「……本気ですか?」


 驚愕の表情。

 まあそうよね。こんな自分のお腹で足元が見えないような体型で何を言っているのかって感じ。



「勿論。とりあえずサラダ一杯にしようかしら」


 自分の記憶……アメリアの記憶を思い返すと、朝からとんでもない食事をとっている。どうやってこの量の肉を朝から食べているのかしら。

 OL時代の私だったら、そもそも朝なんて野菜ジュースだけだったのに。



「本気なのよ、私は。本気でダイエットして、筋トレして、アレックス様と最高のエンディングを目指すんだから!」




 まだ筋トレできるほど身体は動かないから、朝食ができるまでストレッチを続ける。

 ストレッチなのに、たくさん汗をかいて朝からシャワーを浴びる羽目になる。



 因みに朝食は、ボウル一杯の山盛りサラダが出てきた。

 私は牛か何かと勘違いされている可能性が出てきたわね。


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