ツンデレ テオドールとの出会い
宜しくお願い致します。
コツコツと誰もいない廊下を1人で歩き回る。先ほどの講堂と違って警備の騎士はいない。
こんなざるな警備で王族を守ろうってんだから、鼻で笑っちゃうわ。こんなの事前に学び舎に危険物持ち込み放題じゃない。まぁ、優等生であるあたしはそんなことしないと思うけど。
と、講堂に入れてくれなかった件で下がった騎士の株をさらに(心の中で)下げる。
ちょっと、危ない思考の持ち主になっていた。必要に駆られればするのだろうか……?
誰もいない廊下って少し、いや、大分不気m……不思議な雰囲気があるわよね。まだ、昼頃だっていうのに人ならざる者が出てきそうな気がする。魔法の世界らしく悪魔とか、出てくるなら可愛らしい妖精がいいなぁ。この世界、悪魔がいるかは知らないけど、妖精はいるのよね。見えないけど。
小さい頃から妖精のおとぎ話をエメリーヌのお母さんに読んでもらっていたから憧れる。
彼らは気まぐれで妖精の愛し子と言われる特別な瞳を持つ人にしか姿を見せない。稀に、気分が良かったり、波長が合うと常人でも見えることがあるらしいけど、本当に、運がよくないと一生に一度も見ることができない。
廊下の角を曲がると、窓から差し込む光で一瞬目がくらんだ。
まぶっし……頭がズキズキする。ぐっ……。こういう時は、深呼吸&大きな声(脳内)で「痛くない!はい!痛くない!きっとこれは頭痛じゃない!あっ、ソレソレ!みんな一緒に!」
意味の分からない謎の掛け声を脳内で出していると、頭痛が消えるから不思議である。なお、徐々にエメリーヌ思考にあたしが染まってきているだろうことは秘密である。郷に入れば郷に従え、エメリーヌになれば努力に従え、痛みは常。
落ち着いてきたところで、目を開くと……
そこには、妖精と見紛うような、絶世の美少女と言いたくなるような、美しい顔をした人が目を閉じていた。
陽の光で頭にできた天使の輪が一層、神秘的な美しさを引き出している。平民にありがちなブラウンの髪は、サラサラで、肩あたりで切りそろえられている。
よくあるものでも、ここまで洗練されると特別な色以上に圧倒的な美を表すのだと初めて知った。あたしより少し小さいくらいの背は、より妖精らしい。羽が生えていれば、今にも飛んで行ってしまいそうだ。
「ふぇ……妖精さま?」
「何?なにか用事?」
思わず、声が出ていたらしい。それほどに美しかったのである。
ゆっくりと妖精のような人が目を開ける。目を開くと先ほど感じたよくあるものという言葉を撤回したくなるような輝きが2つあった。2つの赤と青の宝石を際立たせるために他の部位はできていたのではないか。そう思いたくなるような完璧な配置でオッドアイが並んでいた。
思わず、溜息をつきそうになる。
「い、いえ何も……。」
「そう、じゃあ早くどっか行ってもらえる?」
「えっ……。」
が、見惚れる一瞬すら許さないと、辛辣な言葉で追い出されようとしていた。
ちょっと、なに!いくら顔がいいからって
妖精みたいで
人形があったら飾っておきたいなぁ、と思うような顔だからって
綺麗だからって
まるで、ツンデレ系テオドールくんみたいだからって
って、そうだよ
「テオドールくんじゃん!」
「僕の知り合い?僕の記憶には無いんだけど……(無表情の圧力)」
最初のツンからのデレがすごすぎて「ツン<<デレデレ」「初めのツンが懐かしい」「ツン求む」と言われるテオドールくんだけど。なんか、当たり強くない?
チッチッチッ……カチッ!ピンポーン!
わかった!孤児だったのを優秀だからと、幼少期に養子に迎えられた。まではいいけど、美しすぎるが故に、継母から人形のような扱いを受けて、「キレイ」とか「美しい」特に「妖精」っていう単語が嫌いなんだった。やっちまったぜ。嫌いな単語ナンバー1を踏み抜いた地雷女とはあたしのことです。どうもどうも。(ぺこり)
◇◇◇
パシャパシャパシャ(カメラのシャッター音)
記者Å「なんでよく考えなかったんですか?」
容疑者「いやーちょっと間が差したというか。ほら、今までの流れでね、皆さんお気づきだと思いますけど、うっかり心の声出ちゃう系女子なんすよね。気を付けているつもりなんですけどね。」
記者B「ほぉ……。つまり、仕方が無かったと言いたいわけですね?」
容疑者「えっ……そう取っちゃいますか?困ったなぁ、そんなつもりじゃないんだけどな……。」
という謎の茶番を頭の中の会見会場でやっている場合じゃない!やるならせめて、この場をどう改善するかの会議にして!脳内の小人たちに話しかける。(※彼女は、混乱しています。)
「「えーだってー、やっちゃったものはしょうがないじゃん」」
3人そろって声を合わせてくる。確かに、やっちゃったらしょうがないよね~。
……じゃねぇ、もう、どうなってんのよ!あたしったら!頭の隅まで怠惰に生きてんじゃないわよ!
頭を抱えそうになっていると、
突如、鞭を持った教師が現れた。
記者A「なんだなんだ」
記者B「新入りか?」
容疑者「うちは、年功序列制だぞ!」
パシーン
先生「おだまりなさい。」
ひえっ……。この音は、使い慣れている人の音や。
先生「頭の中に蛆虫でも沸いているのかしら?馬鹿どもが!」
容疑者「なんだって~!」
気の抜けた高い声で容疑者役が反抗しようとする。
ペシーン
先生「黙れ!」
危うく、足に鞭があたりそうになった。
皆逆らうな!ここは取りあえず従うんだ!
先生「まったく、よく思い出してみなさい。このシーン、あなたのだ~い好きなゲームの中になかった?」
ゲームの中?
うーん。そういえば、ゲームの中のエメリーヌとテオドールくんの出会いもあんまりよくなかった気がする。
桜の大樹を眺めて、「やっぱり、キレイ……」って呟いていたら、テオドールくんが現れて、「よく、そんな中身のない感想を言えるね。」と言われる。色々あって「生まれ持ったものは変えられない。君も身相応の人生を歩んだ方がいいよ。」と悲しそうな瞳で締め括られる。
そうだ!先生!ありがとうございます!
先生「分かったなら、いいわ。」
◇◇◇
思考を現実に戻す。
「あの……。」
「まだいたの?早く出てってもらえない?」
不機嫌そうに顔をしかめられた…が、ここでめげてはいけない!
すぅ……(大きく息を吸って)
「今度の試験絶対あたしがあんたより上位を取って見せるから!そしたら、『身相応の人生を歩んだ方がいい』という言葉、撤回してよね!天才だからって特別扱いされて調子に乗ってんじゃないわよ!次の試験は、入学試験以上に頑張って1位とってやるわよ!」
テオドールくんを指さして宣言し、走り去る。
「身相応?なんのこと?」
テオドールは、珍獣をみたかのような表情で先ほどの少女を見送った。苛つきも行き場を無くしてしまう、急展開である。
「あの子も学園に入学したんだよね。」
「クスクスゥ。面白い子ォ?」
「シンニュウセイダイヒョウアイサツだっけェ?さっきの子がやってたよォ。」
彼の周りには、常人には見えない赤と青の光が舞っていた。
◇◇◇
※ゲームでは「身相応の人生を歩んだ方がいい」という言葉が出ておりますが、現実では出ておりません。エメリーヌは、怒らせて、意味分からないことを言って、喧嘩を売って、ゲームにはないアドリブをぶち込んだ、ただの変人です。ついでに自分の首を思いっきり絞めております。
テオドールは、学園長からぜひ学園に来て欲しいと、両親の反対を押し切ってやってきているので、試験は受けておりません。次回の定期試験が初となります。入学試験で1番を取った皇太子殿下よりも優秀だと言われる逸材です。
ゲームでは…
エメリーヌ「分かりました!次の試験で私があなたより上位をとったら『身相応の人生を歩んだ方がいい』という言葉、撤回してください!」
テオドール「別にいいけど、君が僕より上位を取れると思うの?」
エメリーヌ「はい!やって見せます!」
テオドール「そう。楽しみにしてる。」
となっていたはずなんですけどね。
本人は、満足しているようですが…
これで大丈夫よね!うんうん。攻略対象者の好感度を下げるなんてあってはならないことだわ!エメリーヌたるもの皆に愛されないと…。ルンルン♪
これでいいのかヒロイン!
遅くなって申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました。