みんなのアイドル 皇太子殿下との出会い
宜しくお願い致します。
王族、来賓、学園長をはじめとする教師陣に会釈をして壇上にあがる。
壇上には、挨拶を終えた皇太子殿下だけがいる。客席から見えない位置には、騎士がいて、殿下の危機には駆け付けられるようになっているのだろうけど、あたしからは見えない。
何故、挨拶を終えた殿下が未だに壇上に居座っているのか?というと、この学園の変わった……ゴホン。由緒正しい伝統的な宣誓が由来する。それについては、儀式をすればすぐに分かると思うので説明は割愛する。
殿下に会釈し、失礼ながら前を通る際、
「よかった……元気そうで。頑張ってね。」
と、殿下から声を掛けられた。
「はい。」
と、思わず、元気よく返事をしてしまった。例の練習で講堂内に響く、透き通る良い声……。きっと、歌を歌えば、拍手喝采、スタンディングオベーションね。
あたしにしか聞こえないであろう小声で言ってくださったのだろうけど、驚きすぎて、ついね。
ここで、さらに、動揺したら、引き返せなくなると思ったあたしは、何事もなかったかのようにマイク(にしか見えない魔道具)の前に立った。顔は、真っ赤になっていると思うけど、ちょっとなみd……じゃなくて汗が目の近くに浮かんでるけど、今は気にしている場合じゃない!
殿下の言葉の意味とか、えっ……もしかしてあたしを介抱してくれたのは殿下なの?ドキッ……とかは、置いといて。
深呼吸をして、挨拶内容に思いをはせる。
「本日は、私たち新入生のためにこのような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。春の息吹を感じられる今日――」
これから頑張るぞ!なんて輝かしい未来に思いをはせる、何てことは無く。
いや~やっと入学か。長かったわぁ。(記憶を取り戻して、まだ数時間)
新入生代表挨拶もすっごく大変だったんだから!(エメリーヌが…)
挨拶をするって決まってから、過去の代表挨拶をした人の文章を読ませていただくまでに一週間。どうしても、過去の代表挨拶が読みたかったエメリーヌは、何かに残っているはずだから「見せろ」「いや、そんなものはない」という押し問答を学園関係者(独断と偏見より伝令係の下っ端)と一週間した。毎日毎日、朝から夜まで問い詰められて衰弱(最後は、一回り縮んでいたように思う)した伝令係の下っ端は、図書館司書にお願いして過去の新入生代表挨拶を記した紙を持ってきてくれた。
さらに一週間かけて新入生代表挨拶を考え、完璧ね!と自分が思えるくらい暗記と練習を重ねた……あたりで、「代表挨拶はこれを読んでくださいね!」と、新入生代表挨拶の文章をいただいてしまった。
つまり、2週間の頑張り全てが無意味だったわけ!早くいってよ!
いろいろ思うことはあるけど、こっそり文章を改ざんして、2週間の頑張りを反映させようとしたところは、ちょっと共感した。やっぱり、エメリーヌも納得いかなかったんだよね~。
厳かな雰囲気で私が挨拶を終えると、続いて、在校生代表挨拶を行う。
壇上に上がってきたのは、生徒会長だ。ゲームではモブ扱いだった気がするが、エメリーヌ辞典(辞書かよってくらい一言一句正確に言葉を暗記しているので、そう命名しました、エッヘン。)によると、学園長の孫娘で、既にいくつかの魔法に関する論文を世に送り出している有名な学者らしい。……すごっ、生徒会長は最高学年の18歳だから、前世のあたしと同じくらいか♪論文なんて書いたことないよ、作文に毛が生えたレベルの小論文しかない。
あたしの第一印象では、淡い緑色のさらさらロングヘアーの優しそうなお姉さんって感じしかないって言うのに。「あらあら、まあまあ。」とか言っちゃいそうなゆるゆるまったり系にしか見えないのに。この世界の生徒会長スペック高っ。
生徒会長の新入生を歓迎する挨拶を聞き終えると、いよいよ宣誓だ!
学生、保護者、教師、来賓、学園長、王族……全ての者が立ち上がる。
自らが持つ杖に魔力を通し、誰もが使えるであろう明かりを灯す魔法を一斉に唱える。
「 lumière」
ふわりと多種多様な色の明かりが灯り、講堂を照らす。
ゲームでも見たけど、現実は本当にすごい、キレイ。
自分の魔力適正にあった魔法色がそれぞれ灯るのよね。
この世界では、5つの魔力が存在する。火、水、風、土、治癒。これらにはそれぞれ魔法色と言われる色があり、火=赤、水=青、風=緑、土=黄、治癒=白となっている。(後々、隠された魔力が明かされ、7つになるけどね…)
エメリーヌは、治癒魔力の適正があるので白い光がふわふわと飛んでいる。
「治癒」は適正を持っている人が多くないから、レアなのよね。ふふふっ。選ばれしもの感あるわ。
見て御覧なさい、壇上前に座るモブたちが少し驚いていたように見えたわ。おほほほほっ。
かわいい顔の少女が悪役のような顔でニヤリとしているのを見てしまった可哀そうな犠牲者たち。彼らは、一歩世界の心理に近づいた。
やがて幻想的な光は、中心に集まっていき、大樹へと姿を変える。
「新たな旅人が桜の大樹に認められるように」
生徒会長がそう宣言すると、
「「認められるように」」
保護者や、学園長たち、新入生以外が続く。
「「私たちの旅路が未来に続く枝葉となるように」」
あたしと皇太子殿下が宣誓して、
「「枝葉となるように」」
他の新入生が続く。
エメリーヌ辞典によると、「学園を創立した初代学園長と後世に数々の教訓を残した賢王、神の愛し子と言われた聖なる癒し手、少量の魔力で使える便利な魔道具を数多く生み出した魔術師、~」うん、長い。この調子でいくと、本1冊分くらいかかりそうなので簡潔にまとめると、
むかしむかし、学園が創立されるちょっと前、世界には魔王がおりました。魔王は、人を恨み、圧倒的な力で、多くの村、町、国を蹂躙していきました。そんな魔王をなんだかんだあって、初代学園長を含む7人の英雄が封印します。で、伝統的な宣誓は、この7人の英雄が魔王退治の旅に出るって決めたときにやった儀式らしい。旅に出る英雄を送る民衆と英雄たちが心を1つにして平和な世になることを祈って行ったことが始まり。
大樹に姿を変えるのは、この講堂で宣誓をした時だけらしい。それは、講堂に描かれたステンドガラスの絵が魔法陣になっていてとかなんとか意味があった気がする。とにかく滅多に見ることができない光景!
見惚れていると、大樹は姿を消し、新入生が持つ杖に小さな桜色の明かりが宿る。
これであたしたちは、学園の学生として本格的に認められたことになる。
その後、
「これで入学式を終わります。」
という言葉で閉会し、貴族様を筆頭に講堂を出る。
はぁ……やっと終わった。
この学園では、入学パーティーは後日行い、入学式を終えたら、それぞれ帰路に付く。
とはいえ、家族が待っているわけではないあたしは、学生寮に直行する……前に、保健室によらないと荷物忘れてたわ。正直、荷物なんて明日でもよくね?と思うけど、真面目なエメリーヌは、許し難いらしく、足が保健室に向いている。あと、先ほど介抱してもらったお礼も言いに行かないとか。
お読みいただきありがとうございました