皆のオカン、ジャゾンとの出会い
2話目です。
できたら、毎日投稿できるように頑張ります!
キーンコーンカーンコーン
鐘の音がなっている。日本の会社が作ったゲームだからか鐘の音は、日本の学校でよく聞くものだ。
「……いえ、今はいいでしょう。それより、体調は大丈夫ですか?」
そういや、さっきまで枝垂桜の大樹の前にいたはずなのに、ふかふかのベットに寝かされている。
「え?はい大丈夫です。」
条件反射で大丈夫と答える。いやぁ、エメリーヌの大丈夫は大丈夫じゃねぇけどな……。徹夜続きで慢性化した目眩、貧血、頭痛、その他諸々。前世のあたしでは考えられなかった持病がすごい。意識すると尚更頭痛がひどくなってきた気がする。こういうのは、頭に手を当て、深呼吸すれば大体よくなr……って、そんなんで良くなってたら医者はいらねぇよっ!回想に突っ込みいれさせないで……頭痛が増す。
「本当かい……?」
と言いつつ、あたしの頭に当てている左手に目を向けられる。ジャゾン先生の優しい低音ボイスがちょっと、頭痛を和らげてくれる気がする。鋭い目つきが嘘のように優しいオカン目線で見つめられた。イケメンの睨みもいいけど、イケメンの垂れ目は最高だぜ。
「あっ、これは、急に起き上がったからちょっと目眩がしただけで……そのうち収まると思うので大丈夫です。」
不満げな視線を向けられたけど、仕方がない。
天才じゃない私は、努力で補うしかない……
いやいや、限度ってものがあるでしょうが!とあたしの部分が突っ込みを入れる。ちょくちょく出てくるのは、エメリーヌとして生きてきた気持ちかしら……?いくら、あたしよりに感情が落ちてきたとはいえ、この体で私、エメリーヌとして生きてきた部分全てが無くなってしまうわけではないのだと知って、少し安心した。怠惰に生きた前世の私と違って頑張ってきた私としての15年間全てが水の泡となってしまうのだとしたら少し悲しい気がしたからだ。
「ところで、エメリーヌさんですよね。入学式は始まってしまったんですが、あなたの新入生代表挨拶には間に合いそうですね。どうしますか?体調が悪いようでしたら辞退しても構わないと学長からは言われていますが……。」
シンニュウセイダイヒョウアイサツ?そうだ!この国の第一王子様が新入生のなかで最も成績が良かったけど、王太子として挨拶するから次席として挨拶を任じられたんだった。
2番目って聞いたときは、結構ショックだったけど、王太子の次って聞いて雲の上の人の次になれたことに大喜びしたんだっけ……。さらに、代表挨拶まで頼まれて、その日はいつも以上に勉強がはかどるわって徹夜で勉強して、報告をきいた3日後の昼頃、台所で目覚めたのよね。多分お腹がすいて台所まできたのはいいけれど、眠気にあらがえず、ぶっ倒れてそのまま熟睡したんだろうな……。2日目の夜くらいまではまだ記憶があるのでその後に寝たのかしら?包丁持ってなくて良かった。くらいしか、当時は思わなかったけど、あたしよりになってからは、いや寝ようよ!食べようよ!無理してもいいことないって!万全の状態でやってこそ結果ってやつは出るんだって!なんなら、あたしは、万全の状態でもさらにだらけることに力を入れたい!。
「どうしますか?やっぱり具合が悪いんですね。せっかくの機会でしたが、体調はどうしようもありませんからね。ゆっくり休んでいてくださいね。今、伝えてきますから。」
ドアに向かってジャゾン先生が歩き出した直後、
「ま、まってくだしゃい!あた、私、こんなに元気なんで、全然大丈夫ですから。えっと……ここは多分保健室だから、右に出てまっすぐ進んで、左に出たらあとは中庭を挟んで講堂が見えてますよね。じゃあ、今すぐ行ってきます!」
噛みながらも、そう宣言するとジャゾン先生の返事を待たずにはしたなくならないようにしつつ、素早く体育館に向けて歩き出した。学園案内暗記しておいてよかった。入り組んだつくりになっているこの学園の間取りでも、先生の手を煩わせずに1人で講堂まで行けるわ。
気づいたら、勝手に体が動き出していたんだが……?。努力系主人公は、努力が報われないのは許せないってね。エメリーヌの気持ち強すぎん?それとも、これが俗に聞くゲームの強制力……?確か、ゲームのエメリーヌも新入生代表挨拶をしていた気がする。
後ろの方で「無理をしないでくださいね。」とあの先生に似合わず大きな声で言われたので、笑顔で振り返り、「ありがとうございます」といって、ぺこりとお辞儀を返した。あたしとしたことが、お礼を忘れるところだった。感謝は、大事。
挨拶、感謝、謝罪の3つ合わせて「あかし」。「明石の苗字の頭文字を取って、考えました~!うちの家訓よ~!」って、笑顔で言う前世のお母さんの姿を思い出した。そう、あたしの前世は明石――。あれ、名前を思い出せない。双子のお兄ちゃんがいたことは思い出せるけど、名前を思い出せない。なんで……?
そういえば、誰が、保健室にまで運んでくれたんだろう?後で、再度保険の先生にお礼を言うついでにそのことも聞かないと。
……うーん。前世の事とかジャゾン先生との会話で一時的に考えないようにしていたことが気になってくる。
あれやこれやと考えている内に講堂前についていた。ドアは閉まっていて周りには、警護のための騎士らしき人がいる。さすが、王族も通う名門学園だけある。ゴクリ……。
「すみません。あの、新入生なんですが、中に入っても大丈夫でしょうか?」
ちらりと騎士がこちらに一瞥をくれる。
「式はもう始まっている。何か証明するものがなければ、中に入れることはできない。」
えっ……。入学案内の紙が鞄に入っているはずだけど。焦りすぎて、鞄の存在を忘れてた。多分、心優しい誰かがあたしと一緒に保健室に届けてくれてると思いたい。とにかく、今は、この身1つだけだ。どうしよう。早くしないと新入生代表挨拶の時間が終わっちゃうかもしれない。
「ちょっと、俺も証明書?だっけないんだけど。入れてもらえないの?」
後ろから、気だるげな少年の声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、それ制服?ってくらい着崩した人がいた。
「あっ……。すみません。貴族様、どうぞお進みください。」
騎士の人が私の時とは打って変わって丁寧な対応で中へと誘導している。貴族とか言ってたし、何よどうせこっちは平民だよ。手のひら返しやがって、と悪態を心の中でついていると
「おい、そこのお前、証明書なくても入れてもらえるみたいだから。一緒に行こうぜ」
唐突に私に話しかけてきた。
「ふぇ……。は、はい。行きます。」
何か分からないけど一緒に入れてくれるなら、あの騎士はむかつくけど入れてもらおう!ラッキー!入る直前騎士の顔を見ると不服そうな顔をしていたけど、特に何も言われなかった。だったら、初めから入れろや。
中に入ると、式はまだ始まったばかりのようで、学園長が挨拶しているところだった。この後、来賓、今年は王太子がいるから王様から祝辞をいただき、来賓紹介・諸事情でいらっしゃることだできなかった方々の祝電披露がある。そして、在校生からの歓迎の言葉、王太子から王族としての挨拶、最後に新入生代表。よかったぁ。
「あの、ありがとうございます。入れなかったらどうしようかと思いました。」
先ほどの彼にお礼を言った。感謝は、大事。
「……別に。あの騎士の態度に腹が立ったから。ついでだ……。ってか、おまえ証明書なんてなくても普通入れるってわかるだろ。制服着てるんだから。」
……うっ。いいやつだなって思ってたけど痛いとこを鋭く突いてきやがる。うちの制服は、名門学園ってことだけあってそうそう簡単には手に入らないようになっている。王家直属の専門店が作り上げており、制服に使われている布地やボタンは専用品であり、他の商品には一切使われていない。一着一着に番号が印字されており、制服の持ち主としてサイン入りの証明書が店側、控えとして学生自体の下に一枚づつある。お金を出せば手に入るなんて言う簡単なものではないわけだ。それゆえ、制服を着る時には学園の一人としての覚悟が求めらるわぁ……。なんて思いながら、鏡の前でくるくる回ったことを思い出した。
「まぁ……。分かってても強くは言えなかったかもしれないがな。」
小声で何か言っていたようだけど。まぁ……いっか♪
それより、私の席は、ど、どこだ。ってか分かってもこの厳粛な雰囲気の中を堂々と歩きまわる勇気は私にはない。隣の彼を見ると彼は近くの席に座っていた。
「何してんだ?お前も座れよ。遠慮してんのか?確かに、ここは貴族席だからな。気にもなるか。まぁ、何かあったら何とかしてやるから座っとけ。」
貴族席?ここ、庶民がいていい場所ではないんですね(困惑)。
NEW!!今まで気になってなかった懸念事項が新たに加わった!
えっ……何とかしてくれるんですか?
「じゃあ、お言葉に甘えて……。本当にありがとうございます(満面の笑み)。」
彼は、ふいッと顔をそらしてしまった。つれないけど優しい人だなぁ。貴族様って怖い人ばかりだと思ってたけど、こんな優しい人もいるんだなぁ。貴族様って彼、結構高位の方なのでは?制服着崩しても何も言われないし、一般騎士でも名を出さなくても知っているし、さらに今の言葉!庶民一人が貴族席に座っていることぐらい何とかしてやれるくらいの権限を持っている。やばいのでは、やばいのでは、なんかすごい人に恩を返さなくてはならないのでは?
どうしよう、どうしよう。取りあえずお名前をお聞きしておいた方がいいのではないかしら。そうよ聞いた方がいいわ。でも、貴族様にお名前を庶民に聞くとか失礼なのでは?でも、恩返しするにあたって手掛かりがないのは大変ではない?そうかもしれないけど。あぁ、もう面倒だわ。
「あの、私、エメリーヌと申します。」
読んでいただき、ありがとうございます。