今と過去
初連載です!宜しくお願い致します。
こんな、こんなはずじゃないのにぃ……だからあたしは
「私にはむりぃぃぃ…ですぅ(思い出したかのような敬語)。」
令嬢とは思えない叫びが学園の卒業式パーティ会場に響いている。もっといえば、「むりぃ――、むりぃ――、むりぃ――」としーんと静まりかえった場に反響している。つまり、このはしたない声が聞こえていない人は1人たりともいないといっても過言ではない。キリッ(控えめなキメ顔)。
その元凶が誰かといえば、皆様ご存知私、エメリーヌ、愛称エメでございます。
言ってしまってから、やべーやっちまった……だが、後悔はない。追放だろうが、牢獄行きだろうがかかってきやがれ。でも、できるなら「これだから庶民は、仕方ないわね」くらいでとどめてくれるとありがたいなぁ、なんて思ったりしたり、しないことはなかったり……という、あっさーい、水たまりよりも浅い覚悟を決め……
ておりましたが、周りのパーティーに参加している人々は、皆笑顔で
「また、謙遜なさっているわ」
「ロザリー様のことを思っていらっしゃるんだわ」
「さすが、エメリーヌ様だ」
「万歳エメリーヌ様、エメリーヌ様万歳」
とかなんとか、始まってしまった。
ん?皆様どういうこと?
あっ、きっと聞こえていなかったのね。同じ言葉を繰り返してみようかしらと、大きく息を吸い込んだ時(尚、小心者なので息を吸い込んだだけで、言う根性はない)
目の前のキラキラしたイケメンが、私が叫び声をあげた原因の、あの例の、言葉にもしたくないような、あぁぁ……思い出したくもない発言を再び言い出した。
「エメなら大丈夫。私もついているから。
もう一度言おう、これからは2人でこの国を支えていこう」
ニッコリ(王子様スマイル。攻撃力はバツグンだ!)
エメは気を失った。(精神的な)死が近づいたことで走馬灯が頭の中に流れていく。
◇◇◇
貴族の子息令嬢が通う学園の入学式会場入り口は、多くの人で溢れている。今は、平民が会場入りする時間終了間際であり、皆少し焦り気味に席へと向かっている。
そんななか、1人の少女、新入生だろうピンク色の長い髪をゆるく三つ編みに結んでいる彼女だけは、会場入り口には目もくれず、静かに佇んでいた。何をしているのかと見れば、学園の庭で堂々と咲き誇っている枝垂れ桜の樹の下で目を瞑り深呼吸をしている。
不安な時ほどゆっくり長く息を吐き出す。
彼女の不安は、特待生だからといえば、この世界の住民なら皆分かるだろう。
貴族子息だけでなく、平民も数多く通う学園といえど、学力のみでこの学園に通うことが許される特待生は、その制度の性質上多くはない。入学試験の際には、上位10人以内に入らなくてはならないと定められているためだ。
家庭教師のいる貴族子息や裕福な商家の子どもならまだしも、ほぼ独学で10位以内に入る平民は、1学年の内1人いればいい方である。また、今後の定期試験で一度でも10位以下になれば試験結果が出た次の定期試験までには退学させられるため、特待生で学園を卒業した生徒は、制度ができた10年前の1度のみである。
「お父さん、お母さん空で見守っていてね。私、ここでも精一杯頑張るから……」
小さく呟き、これまでの努力を糧に決意を改める。
そして、目を開き、桜の花びらが舞う姿を見た瞬間、見たことのない映像が頭の中に流れてきた。
同じような桜の木。そして、同じようなどこかの学校の入学式の様子。同じように不安に駆られているあたし。ワタシ……?私は、平民の燃えるような赤い髪のお父さんと濃い桜のような薄ピンクの髪のお母さんの子どもで……同い年の双子のお兄ちゃんがいて、あれっ。今の私に兄弟は1人もいない。じゃあ、この記憶は一体……。
もやもやとした理由のわからない焦燥感が突然胸を襲い、視界がチカチカと貧血を起こしたかのようになった。ふらついて桜の樹に手をついた時、ふっと一筋の桜の花びらが風に吹く様子と共にこことは異なるといえる風景が頭の中に流れてきた。
初めは、天啓か何かかしらと思っていたけれど次第にこれが天啓という神々しいものとは一緒になんてできないモノだと思い出してきた。むしろこれは、悪魔の所業ね……と思ったあたりから私の精神は、前世のあたしよりに落ちていった。
◇◇◇
前世のあたしは、双子の兄を持つ、18歳の少女だった。
特筆するような才能は無いけれど、家族に愛され、幸せに暮らしていた。
ただ、努力して名門大学に進学した兄と努力が嫌いで私立大学に入学したあたしを比べて親戚や友人、先生とかに何かと言われるのは嫌気がさしていたように思う。
だからと言って、兄を嫌いになるかといえば、そんなことは無かった。彼は、大変いいやつなのである。あたしが、周りの言葉に押しつぶされそうになった時も「――は自分のペースでいきればいい。周りのことなんて気にするな」って、受験勉強で忙しいだろうに…あたしへのフォローも忘れないって……完璧か。現実に主人公がいるとしたら、彼のような人を言うんだろうな、むしゃむしゃ(うんまい棒をほおばりながら)なんて思っていた。
兄に言われたことも相まってこれまでの自堕落生活を加速させていった。
休みの日は、遅くまで起きて(といっても寝るのは1時くらい)昼頃起きる→昼飯→ゲーム→昼寝→夕飯→夕寝もしくはネットサーフィン→風呂→ゲーム→寝るというサイクルを繰り返していた。夕寝とはあたしが考えた「夕方、昼にも夜にも満たない時間に居眠りをすることである」(ドヤァ)
学校にいってもどうしたらバレずに居眠りができるか、楽ができるかばかり考えていた。とにかく、やる気がなかったわけである。頑張りたくない……というやつである。
そんな平凡ちょい下くらいのあたしは、乙女ゲームなるものが大好きであった。中でも、今では、王道、古いと言われても仕方ないような、平凡な少女が転生したら聖女として崇められ、騎士や王子様、隣国の貴族たちと、学生生活と恋愛を楽しんでいくとか、虐げられていた女の子が紆余曲折あって自信を取り戻し、自分の才能を磨き上げて王子様たちと恋をしていくというシンデレラストーリーが大好きだった。
元々、おとぎ話のシンデレラが大好きで、それを見ていたお母さんから勧められてはまっていった。その後、様々な王道乙女ゲームをやってきたけれど、一番好きな作品は何かと聞かれると、やっぱりお母さんに勧められた作品が真っ先に思い浮かぶ。そのゲームの名前は……
◇◇◇
「そう、『桜の大樹と記憶』。略して『さくメモ』。(メモしないと攻略できなかったんだよね~)」
あのゲームにもさっきの枝垂桜みたいに立派な大樹がでてきたなぁ。ヒロインと攻略対象者の運命、果ては、世界の命運すらも握ってしまうような非常に大事な樹だったわ。あの樹を何度枯らしてしまってバットエンドになったか、両手両足の数だけでは足りない……。
さっきまでの桜の大樹に対する畏怖の念はどこへやら。親近感が湧いてきていた。
最後らへんは樹の親衛隊か!ってくらい優先してやっとクリアした記憶がある。まるで手のかかる子どもね……ふぅ、やれやれ。(子育てしたことはない。彼氏いない歴=年齢15歳+前世18年=33年)
攻略対象者も手のかかる奴が多かったわ。特に面倒なのはシークレット対象者と言われたクロ(なかなか本名を教えてくれず、「クロ」としかおしえてくれない)だけど、他のキャラもなかなかめんど……ゴホン、大変な過去や期待を背負っていた。
例えば、そうこんな感じに青くて長い髪と理知的なメガネ、けれど優しい目線を持つ、皆のオカンは、
「戦場で友人を見殺しにしてしまった過去があるんだよね~」
正確には、治癒魔法を得意とするオカンが見殺しにしてしまったと思い込んでいる、だ。戦場では、治しても治しても、次々と負傷者、それも死と直結するような傷を負ったものたちが出てくる。いくら治癒魔法の天才と言われたオカンでも、魔力が尽きればただの人となる。大変運が悪い、事故としか言いようのない悲しい出来事だった。
うんうん、と頷きながら、ゲームの回想に片足を入れていると
「……!!なぜ、そのことを!」
なぜ?なぜってゲームに出てきたから……って、
「ジャゾン!?」
目の前にその皆のオカンことジャゾンがいる。いや、いるとしかいえないようなくらいそっくり、つまり、ジャゾンが画面から出てきたとしか言いようのないくらい完璧なコスプレイヤーがいる(迷走)。
「ふぇ……。生ジャゾン?」
もう、よく分からなくなってきた。変な声でちゃった。
ゲームの世界が現実には出てこなくって、けど、ここは魔法の存在する世界で……気絶する前の私エメリーヌとしての記憶と気絶後のあたしの記憶が混ざり合い。エメリーヌとしての優秀な脳が推測した結果。
これは、「異世界転生」というやつだろうという結論を導き出した。それも、大好きな乙女ゲームへの。いやー、転生後のあたしでよかった、じゃなかったら頭の容量足りなくて、3日くらい寝込んでるわ~。
「大きな声がしたので心配してきてみれば……あなたは、いったい……?」
ジャゾン先生が困惑した表情でこちらを見ている。
エメリーヌとしての記憶が言っている。
保健室で学生の傷を癒すかたわら、希少な治癒魔法師を育てる講師も兼任している、優秀な講師。先の魔獣との戦いでは、多くの兵士を癒し、勝利に貢献したことから褒章を国王様よりいただいている。当代きっての名治癒魔法師。
学園のパンフレットにそう載っていた。あたしの記憶でも確か、ジャゾンの初期プロフィールにそんな感じのことがのっていたと思う……多分。
エメリーヌのパンフレット一言一句暗記するっていうの、本当に意味が分からなすぎる。もはや、変態……。現実にヒロインがいるってこんな感じか。ゲームでは、めちゃめちゃ応援したけど、いやー自分がなっちゃうとちょっとねぇ……。
それより、ジャゾン先生の視線が痛い。
温厚なオカンと同一人物とは思えないくらい鋭い視線で見られている。怖い……。でも、顔は乙女ゲームに出てくるだけあってイケメンだよ……。互いに見つめ合ってしばしの時間が流れる。
読んでいただき、ありがとうございます。
不定期になるとは思いますが、宜しくお願い致します。
頑張ります!