李氏朝鮮会
県連合軍は確実に動き出した。 その行方を妨害する者も多い。
滝司の下に集まった人々は多彩な経歴を持っていて、県立軍造りにはとっても便利だ。 いろいろな人材が揃っている。 大工、大型トラックの運転手、漁船の乗組員、金融関係、機械に強い人、ITに強い人様々だ。法律に強い人もいて、これは助かる。
船舶免許の一級は必須だ。 取得するには、学科が二十四時間で実技四時間・・。 まあ、一週間あれば取れるだろう。
資金集めに関しては、元銀行員でクラウドファンディングに詳しい人がいて、その人とITに詳しい人とで立ち上げてもらうことにした。 会計係は京子が担当することになり、京子は、信用金庫勤めのキャリアが役立つわ。 と言って、何だか嬉しそうだ。 これから向かうところは、とても楽しいなんていえるものではないが、京子はどこまで理解しているのだろう?
後は船だ。 「皆さんには、自県で船舶を提供してくれる人を募って欲しい。 どんな船でもいいが、最低でも外洋に出られるくらいの大きさでないと困ります。 無償で提供してくれるなら幸いだが、そうでない場合はなにがしかのお金を払ってもいい。 よろしくお願いいたします」 皆は承諾し、一斉に行動に移った。
こうして、県立軍構想の青写真は徐々に出来上がって来て、 名称も島根県立軍ではなく県連合軍に改められ、参加県はそれぞれ、鳥取軍、青森軍などと呼ぶこととなった。 それに対して、山口県の桂木が、「山口軍を長州軍と名乗らせてくれ」 といってきた。
滝司は即座に、「だめだよ、桂木さん。 そんなことをすれば倉沢さんの福島県は会津軍となり、他にも戊辰戦争時の藩名を名乗ったら、つまらぬ問題をおこしてしまう。 今は同じ目的を持った県連合軍だ。 だから、山口軍でいこう」
桂木も冗談半分のつもりで言ったのか、「なるほど、そうだな。 そうしよう」 と、あっさり納得した。 でも、ちょっと残念そうだ。
ここまでくると、この県連合軍に反発する個人や組織が現れ始めたが、まだネット上で口汚く罵る程度で大ごとにはなっていない。 だが、いずれどんなアクシデントが勃発することやら・・。
たとえ、反対派とどんなトラブルになっても我々の方は絶対に挑発に乗って手を出してはいけない。 殴られても蹴られても反撃してはいけない。 じっとこらえるのだ。 これを鉄則として全員に守ってもらうよう、口を酸っぱくして滝司は言った。
滝司は分かっているのだ。 乱闘にでもなれば、批判はいっきに我々の方に向かってくるということが。 それでなくても県連合軍は世間から奇異な目で見られている。 暴力沙汰は絶対にだめなのだ。
だが、逆に言えば、我慢し通せば、同情を呼び、我々を理解しようとする機運が盛り上がってくるはずだ。なので、このことは、どうしても全員に理解してもらわなければいけない。
それでも、もし、相手の挑発に乗ってこっちの方も暴力を振う人がいたら、残念だが、その人は県連合軍を去ってもらうしかない。 泣いて馬謖を斬るってとこか・・。
本格的に船舶集めが始まった。 自県に帰って行動する人、帰らず夕陽ホテルから携帯でこの旨を伝えて拡散する人、様々だ。
県連合軍に予め興味を示していた人達は、直ぐに賛同してくれて、さらにその人達が他の人にも呼びかけ、出足は順調に思える。 集まった船の大半は漁船だが、別に船種は何でもよい、とは言え、やはり、装備が充実している漁船が一番都合が良い。
しかし、漁船が全国的にこんなにも余っていたとは予想外だった。 漁師はキツイ仕事だし、若者の敬遠する仕事なのだろう。 それに加えて少子化のWパンチだ・・。
船が集まるのは良いとして、乗組員ともども参加してくれれば何の問題も無いが、船だけ提供してくれる場合は別に乗ってくれる人を募集しなければならない。 これは各人の努力と、ユーチューバーの倉沢さんのおかけで比較的楽に解決しそうだ。 倉沢さん以外にも拡散してくれてるユーチューバーがネズミ算式に増えてきて、情報が広がるスピードがどんどん早くなってきている。
さらに、県連合軍にとって嬉しいことは、日本海側だけでなく、太平洋側からも内陸県からも多くの支援が寄せられたことだ。 中には、加山雄三氏が所有してるような超豪華なクルーザーの提供者も現れ、県連合軍としてはキズでもつけてはと断ったが、相手側は豪快に笑って、「キズ結構! 大いに役立ててください。 乗組員も付けますよ。 そいつは県連合軍に心酔してるやつでね、遠慮なくコキ使ってください。 はっは・・」
有難く言葉に甘えることにした。 船舶は多い方がいい。
それだけ、我々の行動は、良きにつけ悪しきにつけ、世間の注目の的になりつつある。 また、密かに賛同してくれる人が多くいるという手ごたえも感じて滝司は嬉しかった。
もう、この県連合軍は抜き差しならぬところまで来ている。
他県の人は家族も呼び寄せた人もいて、夕陽ホテルだけではキャパが足りず、他のホテルにも分散し、夕陽ホテル以外にも経済効果が生じ始めた。
とうとう、県連合軍は大所帯になり、浜溝知事が危惧していたようにホテルだけでは収容できず、作戦会議もままならぬ状況に陥ってしまった。
「何とかしなければ」
そんな時、浜溝知事から電話が入り、小学校の空き校舎があるから、良かったらそこを使ってくれたまえと言ってきた。
この滝司の心配事を、浜溝知事はすでに予想していて、すでに手を打っていたのだ。
滝司は、「ありがとうございます。喜んで使わせてもらいます」 と言って、早速皆に報告し、引っ越しの準備に入った。 皆も、「本格的なベースができるんだね」 しかし、宿泊は、やはりホテルだ。
ここに集まった人員も二百人余りに膨れ、船も千隻近くまで調達するめどが立って、とりあえず順調に来ている。
「ひょっとして、竹島を奪還できるかも・・」 滝司も最初、竹島が容易に奪還できるとは思っていないかったし、今も懐疑的だ。 だが、行動を起こさなければ何事も始まらない。 賽を投げなければ結果も無い。 永遠に盗まれた竹島を取り戻すことは出来ないのだ。
滝司のように、最初にそれを言い出す人は辛い。
竹島奪還を言い出した自分は世間から狂人扱いされた。それが、今では多くの狂人仲間が、ここ島根県に二百人も集まって来た。いや、島根県に来られなくても日本中に狂人仲間が散らばっていて、「竹島を奪還するぞ!」 と、心を一つにして行動を起こそうとしているのだ。 彼らを覚醒させたのは紛れもなく染谷滝司なのである。 滝司は胸の奥がジ~ンと熱くなるのを抑えきれない。
しかし、成功のカギは、以前、浜溝知事と話したように自衛隊がどのように反応し、動くかというのが最大のポイントで、それによっては、韓国側の銃撃によって我々は全滅ということも十分あり得る。 その後に自衛隊がのこのこと出動して来られても仕方ない。
が、自衛隊は我々を絶対に見捨てはしないという希望も持っている。 賭けだが持っている。
そして、最後に、「京子や由美子にとって、俺は悪い親であり、夫だな・・」 と、心の中で滝司はつぶやくのだった。
廃校になった小学校に、県連合軍全員が集まって編成会議が行われようとしている。 廃校舎とは言え鉄筋コンクリート造りの三階建てで、プールまでついている立派なものだ。 島根県下にはこういった廃校舎が多数あり、少子化の影響を如実に示している。 いや、島根県だけでなく他県も同様だろう。 全国にどれだけの廃校があるのだろうか。 もったいない・・。
会議は、竹島突撃隊と北朝鮮突撃隊とに分けるところから始まり、滝司は、竹島までは合同チームで進むと提案したが、これには反対の手が多く上がった。 敵の重機関銃で相当な被害が出れば、どちらの奪還作戦も不可能になるかも知れないという意見が圧倒的に多い。
攻撃されれば民間船など一溜まりもない。 それは十分理解しているが、滝司は心の中で自衛隊が我々を放置しないという、何やら根拠のない自信を持っているので、自衛隊が我々を守ってくれるとしたら、竹島隊と北朝鮮隊とが途中まででも一緒にいた方が自衛隊にとって守るのに都合がよいと思っていたのだ。 が、ここは折れて皆の意見を優先することにした。
この滝司の自衛隊に対する妙な期待は全員に強くは話していない。 不確かな賭けを皆に話して期待させるわけにはいかないからだ。 なので、県連合軍の隊員は我々だけで目的を達成するという、とんでもない悲壮感の中で立ち向かおうとしている。 この令和の時代にそこまで思い詰める必要があるのだろうか?
今回、滝司に賛同してくれた人々は、あの大東亜戦争以後の日本国の弱腰、体たらくに嘆き、竹島一つ取り戻せない現状に日本の将来をも心配しているのだ。これが解決できなければ、もっと大きな中国という脅威にはとても立ち向かえないということを。 竹島どころか日本周辺の島々は、あっという間に蹂躙されてしまう。
なので、命を賭して、竹島を、拉致被害者を奪還しようとしている。
拉致被害者を取り戻すというのは竹島奪還とは意味合いが違う。 あくまでも人道的な問題だ。 しかし、人質と言ってもよい拉致被害者を取り戻すことは、今後予想されるもっと多くの人質を取り戻す前哨戦とも言える。 その人質とは、もちろん中国在住の邦人のことだ。 仕事関係の人だけで三十万人いるらしい。
滝司は思っている、「日本政府も自衛隊も絶対に分かってくれる。 絶対に我々を見捨てはしない」 と。
だが、見捨てられたらどうする? そうなれば、我々だけでなく日本そのものが、遅かれ早かれお終いだ・・。
他県から県連合軍に参加した人は、時間を取って島根県内をいろいろ観光をする人もいて、青森の田沢と秋田の高田たちも石見地方にドライブしようということになった。 一緒に行くのは、同じ東北ということもあり、すぐ懇意になった山形県の早坂と、あと石川県の野村と新潟県の日野という男が加わって、この五人で行くことにした。 高田を除く四人は高田のフェラーリで行きたがったが、フェラーリは二人乗りなので、それは無理だ。 残念だがあきらめて、日野が新潟から乗ってきたマツダアクセラで行くことにした。 これはこれで快適で申し分ない。
日本海を右に見ながらのドライブは、道も空いてて快適だ。 特徴的な赤瓦の甍が、他県から来た人に、ちょっとした趣を感じさせる。
「同じ日本海なのに、秋田とは何となく違う雰囲気を感じるね。 君らはどうだい?」 高田が言うと、
「うん。 この先ニ百キロメートルの所に、我々の目指す竹島がある。 さらにその向こうが朝鮮半島だ」
誰となく、答えにならない返答をし、その言葉につられ、五人は同時に日本海の水平線の彼方を見つめた。
江津市の嘉久志海岸沿いを走っている時、田沢が、「染谷さんに聞いたんだが、この海岸に、日露戦争の時、多くのロシア兵が漂着したんだって」
「へ~。 この沖合で日露海戦があったのか・・。 一世紀後に、その海戦場所を、こんどは我々が突き進むんだな。 日露戦争は日本が勝利したんだから県連合軍にとって縁起がいいんじゃないか。 はは・・」
この沖合で海戦があったと言うのは少し正確ではない。 日露日本海海戦は公式には対馬海戦と呼ばれるように日本海の西方の広い海域で、日露の戦艦は砲火を交えたのだ。
浜田市に着いた。
「どこかでちょっと休むか」
コーヒーを飲むためにワシントンホテル内のティールームに行くと、三組のカップルの他、四人の男だけのグループがいた。 狭い店内なので空いている席は、その四人の隣しかなく、そこに座った。 いやでもお互いの声が聞こえる。 ひそひそ話をするしかない。
しかし、聞こえても聞こえなくても、我々五人が他県からの人間だということは雰囲気で容易に分かる。 これが県連合軍設立前なら、別に他県の人間だろうが何だろうが、知られても何の問題も無い。 それどころか、観光客として歓迎されるだろう。 が、今は、観光客も兼ねてるには違いないが、竹島奪還や拉致被害者奪還に関わる人間だとすぐ連想されてしまう。 県連合軍に批判的な人は、まだまだ多く、そういう連中に下手に絡まれては敵わない。
が、絡まれた。
コーヒーを飲み終わって、駐車場に向かっていると、店でとなりのテーブルにいた四人がついて来た。
「あの~、失礼ですが・・」
声をかけられたので振り向いて、「何でしょう?」
「あなた方は、県連合軍とかの関係者でしょうか?」
高田が、「突然、見ず知らずの人に声をかけられても、それに答えるつもりはないが・・」
「失礼しました。 私どもは、李氏朝鮮会のものです。 私はパク・スンと申します」
しゃべり方は丁寧だ。 しかし、目はきつい。
李氏朝鮮会は日本にある最大の在日団体で、小中高大の一貫校を経営し、幅広く日本国内で活動をしている。 拉致事件にも関与していると言われ、どちらかというと迷惑団体である。
この団体は、朝鮮半島が日本に併合されなければ、朝鮮人が自力で近代国家を建設できたのに、その芽を日本帝国に踏みつぶされた、日本憎しというのがこの団体の主張で、日本にすれば、とんでもない言いがかりなのだが・・。
もちろん、高田たちも、そのことをよく知っている。
「その李氏朝鮮会の方が私たちに何の用でしょう?」
「とぼけないで下さい。 あなた方が、私たちの神聖な独島を奪おうとして仲間を集めているということは、今や全国的に知られている。 李氏朝鮮会としては、とても看過できることではない。 松江に行って首謀者の染谷という人物に抗議に行こうとしたところ、あなた方に出会った。 まずは、あなた方に強く抗議する!」
こういう連中と議論しても仕方ないと思ったが、つい、野村が、「火事場泥棒をして奪った竹島を神聖な独島だと・・。 笑える。 根拠も無いことをよくも堂々と言えるもんだな」
この言葉が彼らに火をつけた。
「何~! 根拠が無いだと~! いいか、よく聞け! 我々の朝鮮学校では幼稚班の子供でも、ドクトは~♪ウリ~のも~の~♪。 と歌っているのだ! いたいけな幼児が噓をつくとでも思っているのか!」
「これだ・・」 根拠にもならないことを、堂々と言い張る。 全く論理的でない。 お話にならない。
呆れて車に乗ろうとしたところ、日野が肩をつかまれ、強引に振り向かされた。
「待て! まだ話は終わっちゃいない」 肩を掴んだまますごんでくる。
「離せ」 日野は肩を左右に動かして相手の手を振り払った。 「お前たちとは何も話すことは無い。時間の無駄だ。 とっとと失せろ!」
「何だと! この野郎!」 日野に殴りかかろうとしたのを、他の仲間がその手を掴んで止めた。
「やめるんだ。 俺たちの目的は松江に行くことだ。 こんな下っ端ともめてる場合じゃない」
捨てセリフらしき言葉を吐いて、四人は車に乗って駐車場を出て行った。
「俺たちのことを下っ端だってさ。 はっは・。 すぐ、人に序列をつけたがるのが奴らの特徴だ。 ま、いい。 それじゃ、出発するか」
一人が、「津和野まで行く予定だったが、中止して松江に帰った方がよさそうだな。 みんな、どうする?」
「そうだな。 奴ら、染谷さんに抗議すると言ってた。 俺たちも松江に戻ろう」
「今行くと、呉越同舟になってしまう。 それは不愉快だ。 少しここらへんで時間を潰していったほうがいいだろう」
大したトラブルにはならなかったが、これと同じようなもめごとが日本各地で頻発した。 相手は在日だけでなく日本人のリベラル連中もいるから、いや、そっちの方が圧倒的に多いので始末が悪い。
沖縄から北海道まで県連合軍に協力した者に対して嫌がらせや、ひどい恫喝などが多々有ったが、幸い暴力沙汰にまではなっていない。 せいぜい、肩を小突かれたくらいだ。 それだって腹は立つが、県連合軍側はどんなに挑発されても、じっと我慢した。 はらわたは煮えくり返っているはずだが耐えた。
つづく
「




