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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
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力負け

 滝司を殴った四人がまた滝司の前に現れた。 そこへ浜溝知事が・・。


 

「お、そこの住宅団地だ。 入ってすぐ右に曲がれ。 見覚えあるだろ」 

 うるし谷が言うと、ベンツを運転している神田が、「あるっす。 懐かしいな」

「アホ! 懐かしがってる場合か。 松江に 遊びに来たんじゃないぞ」

「すんまへん。そうでした。はは」 

「あの野郎、独島奪還などとふざけたことをまだ言い続けてやがる。今日こそ、二度と言えぬよう奴を締め上げに来たんだ。 忘れるな」

 後席に乗っていた和田が、「でも、警察沙汰にはなりたくないからな、そこんとこよく考えて恫喝するんだ。 特に三上、お前は気を付けろよ」

「分かってるよ。 あんなひ弱な退職サラリーマン、泣く寸前まで脅しつけてやる。 二度と俺たちの神聖な独島を奪還などと言わせはしない」

 在日の本性丸出しの会話だ。

「おい、あの家だ。 玄関前にドンと横付けしろ」

 キキー。 乱暴にベンツを止めて四人はパラパラと車から降りた。 うるし谷がチャイムを押そうとしたとき和田が、「おい、あれ。 あの車」 目ざとくガレージの派手な車に目をやった。

 声につられてガレージに目をやった三上が、「フェラーリじゃないか・・。 それもテスタロッサだ。 なんであの野郎がこんな高級車を・・?」 車に詳しいのか、すぐ車種を当てた。

「秋田ナンバーだ。 客人か? こんな車で来る知り合いが奴にはいるのか・・。むむ」

 四人は、何となくたじろいでしまった。 うるし谷がチャイムを押そうとした手は止まったままだ。

 キッチンにいた京子が玄関モニターを見て、「あら、あんた、誰か来たみたい」

「ん? 誰だろう。 おや、ベンツじゃないか。 俺の知り合いにベンツなんかに乗ってる奴、いたかな?」

 パラパラと降りてきた四人を滝司は見て、

「あ、あいつら、あん時の四人だ。 俺に何か用か? ふむ、ひょっとして警察に捕まったことへの意趣返しか。 とんでもない逆恨みだな。 痛い思いをしたのはこっちの方なのに」 滝司は声に出さず心の中であれやこれや考えをめぐらした。

「あなた、あの四人、いつかの・・。 何しに来たのかしら? 心配だわ・・」 京子も気づいて心配そうにしている。

「お二人とも、ちょっと失礼」 と言って滝司は玄関に向かった。

 滝司がドアを開け、外に出ると見覚えのある顔が四つあった。 殴られた記憶がよみがえりメラメラと怒りがこみあげてきたが、そこはぐっと我慢して、

「これはこれは、お久しぶりです。 皆さんお変わりございませんか。 今日は何の御用でしょうか」

 滝司を殴った一番喧嘩ぱやい三上が、「お、お前に・・」 最初の勢いが若干トーンダウンしたようだ。横目に映る真っ赤なフェラーリがどうも気になってしょうがない。 ガレージにラパンしかなかったとしたら、この四人はどんなに居丈高になっただろう。  車の上下で相手を見下す情けない連中だ。

 家の中では、 

「奥さん、あの人達とはお知り合いですか? ご主人の様子はそんな風に見えなかったのですが」 田沢が言うと、

「ええ、 選挙戦の真っ最中でしたから、今から三か月くらい前にですね、あの中の一人に主人は殴られたんです」

「殴られたですと! 何でまた?」

「竹島奪還などとふざけたことを言うなと、すごい剣幕で乗り込んできたんです。 主人も売り言葉に買い言葉で挑発するような言い方をしたもので、・・殴られました」

「むむ、なんて奴らだ。 高田さん、表に出よう」

「ふむ」

 二人は気色ばんで、玄関ドアに向かった。

 滝司と四人が対峙しているところに二人が現れたものだから、四人は、さらにたじろいでしまった。

「染谷さん、どうしました? お客さんなら中に入ってもらったらどうですか、私たちはかまわないですよ」 巨漢の田沢が皮肉っぽく言うと

 うるし谷は田沢を見て、声には出さず、「なんだ、こいつら? ひょっとしてフェラーリの持ち主はこいつらか? 何者だ。 それにしてもラグビーでもしていたような巨漢だな」 滝司と同じことを思った。実際は卓球部だったことは、もちろん知らない。 この四人の身長は見たところ170cm前後で、日本人の平均的な体格と言える。

 四人は同じことを感じている、「なんだか分が悪い」 しばらく無言が続いた。

 その時、キーコキーコ・・。 見覚えのある自転車がこちらにやって来る。

「あ、あれは。 知事・・。 何でこんなところへ?」 滝司は驚きながらも、こちらから気楽に声をかけていいものだろうか? ちょっと思案した後、ここは公道だし、いいだろう。 以前、知事と話した内容は誰にも分かりはしない。 滝司は発泡酒を飲みかわしながら知事と話した妄想話が、ちょっと頭のすみをかすめた。

 あんな話の内容が世間にもれたら知事のリコールにまで発展するかもしれない。 などと思案しながら知事に声をかけようとしたところ、知事の方から先に声をかけてきた。

「やあ~、染谷さん、お元気ですか。 皆さん、お集まりで・・、ご近所の方ですか」

「はまみ・・」 う~ん、公の場だ、知事って呼んだほうがいいだろう、「知事、今日はどうしたんですか?」

 滝司以外の六人は、「ちじ?」 驚いた様子だ。

「ええ、こちらの自治会長にちょっとプライベートな用事ありましてね。 ところで、染谷さん。 先日は夜分におじゃまして、一緒に飲みかわしたこと、本当に楽しかったですよ。 奥様はお元気ですか? また機会があれば飲みましょう」

 滝司はびっくりしてしまった。 まさか知事の方からそれを言うとは。 何と返答していいやら。 竹島奪還の話をまたしましょうなんてここで言えるわけがない。 「は、は・・、はい」

 高田と田沢が同時に、「染谷さん、この人知事、島根県知事ですか?」 滝司に耳打ちするように小声で聞いた。

「ええ、浜溝島根県知事です」

 ちょっと改まって、「これは、これは、ど~も。 島根県知事に会えるとは・・。 私は秋田から染谷さんを慕って? 松江にやって来ました高田というものです」

 その後、田沢があわてて、「青森からやって来ました田沢です」

「ほ~、秋田と青森からですか。 これはまた、遠方からよく島根県に来てくれましたね」

 浜溝は染谷を慕ってと聞いて、すぐにピンときた。 が、それには触れず、

「秋田の佐竹知事とは懇意にさせてもらってます。 青森の三村知事とは先日一緒に食事をしたばかりですよ」

田沢と高田は、島根県知事が自県の知事の名前をスラスラと言ったことに驚いた。 そして嬉しかった。 この知事は46都道府県知事の名前を全て言えるんではなかろうか。

 困ったのは四人組である。 その場で完全に浮いてしまった。 何とかつくろってこの場を去りたいと思うのだが、いいセリフが出てこないし、タイミングもつかめない。そんな四人に浜溝が声をかけた。

「こちらの方も他県からいらしたのでしょうか?」

 それには滝司が、

「いいえ、こちらの四人の方は江津から来られたんですよ」 滝司は四人の方を向いて、「そうですよね」

「ほ~!、江津ですか。私も元々石見の人間で川本生まれですよ。 松江には観光で?」

 四人は何んて答えて言いか分からない。 まさか、染谷を恫喝に来ました、なんて言えない。

 またもや滝司が助け舟を出した。

「たまたま、私のガレージのフェラーリを見て足を止めたんだそうですよ。 フェラーリなんて珍しいですからね。 そうでしたね」

 四人は小さな声で、「ええ・・」 そう答えるしかない。

「ほ~、フェラーリ。 秋田ナンバーですから、高田さんのですか」 浜溝がそういった後、四人はこの場から去るきっかけをつかんだ。

「それじゃ、これで・・」 四人はそそくさとベンツに乗り込んで急加速で去って行った。 

 フェラーリ、田沢氏の巨漢、知事と気さくに話をする滝司。 全てにおいて力負けをしたと四人は感じ、その場を逃げるように去ったのだ。

 もちろん浜溝は、彼らがフェラーリではなく、染谷氏に対して良からぬ用事で来た連中だということを見抜いている。

 不逞の輩がいなくなったのを機に京子と松子が出て来た。

 京子は、「浜溝さん、おひさしぶりです。 先日はどうも」 島根県知事に対してなれなれしい呼び方をしたもんで、高田と田沢は、ちょっとびっくりした。 さらに向かいの家から飛び出して来た橋本松子も、これまたなれなれしく、

「知事、いつぞやはちゃんと挨拶もできず、失礼しました。 主人も車の中で知事といろいろ話ができて嬉しかったって言ってましたよ」

「あ、橋本さんの奥様ですね。 ご主人の車で家まで送ってもらったその節は、ほんとうに助かりました。 ご主人、お元気ですか」

「ええ、浜田のホテルで何とか頑張っております。 あちらはけっこう忙しいみたいで、嬉しい悲鳴をあげておりました」

「それは良かった。 こちらのホテルもそうなればいいですね」

 浜溝は一旦降りた自転車に、またまたがって、「それじゃ皆さん、またいずれ」 と言って、キーコキーコと行ってしまった。

 しばらくその後ろ姿見送っていた五人だが、京子がポツリと、「タクシーくらい使えばいいのにね。 健康のために自転車に乗っているのかしら・・」

「そうだな。 プライベートの用事って言ってたから公用車はダメとしても、お歳なんだし、せめてタクシー乗るべきだよな。年収も1300万円もあるんだからお金には困ってないだろう。 はは・・。余計なことか」

 滝司の言葉を聞いて松子が、「染谷さん、何言ってんのよ。 浜溝知事の給料は年収600万円よ。 知らなかったの」

「え? そんなはずはない。 1000万円以上はあるはずだよ」 

「そうよ、そんなに安くはないわよ」 

 滝司と京子のことばに他県の高田と田沢もうなずく。

「返上したのよ」

「返上? 何で? 何か仕事上でミスでもされたのか」

「違うわよ。 名古屋市長、知ってるでしょう、川村さん。 川村市長の給料は800万円よ。 これは有名な話よね。 彼の言うには、税金を払う者より税金でメシを食うとる者がええ暮らしをしたらいかんぎゃ。 というのが持論なのよね。 本来なら名古屋市長の年俸は2000万円以上のはずよ。 それを800万円まで下げたのよ」

「それが、なんで浜溝知事と関係あるのよ。 正当な報酬なんだから遠慮なく受け取ればいいじゃない」 京子の言うことももっともだ。

「それはね、浜溝知事って、ああいう人でしょう。 名古屋市の人口って200万人以上いるわよね。 そこの市長が800万円なのに、人口70万人の島根県の知事が1000万円以上もらうわけにはいかない、ってことなのよ」

 これには四人とも驚いた。

 高田が、「600万円というと、私の退職前の給料よりも安いな。 なんてことだ」

 四人は、先ほどの自転車をこぐ浜溝知事の後ろ姿を思い出していた。

 滝司がポツリと、「堂々ともらえばいいじゃないか。 知事というのは大変な仕事なんだから・・」 

 ひょっとして、自分が知事になったときに返上したくないという布石なのかな? 滝司が知事になる・・、夢か妄想か・・。

 四人は家の中に戻り、京子は新たに飲み物を用意しようとしている。そんななか高田が

「もうこちらの染谷さんの家に出入りしない方がいいだろうな。 でないとこの家が、我々に敵対する連中のターゲットになってしまう。 先ほどのマヌケな四人くらいならまだしも、もっと大きな組織にマークされるとやっかいだ」

「うむ、確かに染谷さん夫婦に迷惑がかかる。 現時点では我らの存在も世間に大きな影響を与えるものではないが、これからは分からない」 田沢も同じようにそれを心配している。

 滝司は、そんなことを気にしなくても・・、と言いかけたが、確かに京子の身や、それ以外にも橋本さんさんや近所の人に迷惑をかける事態が生じるかも知れないと危惧し、二人の言葉に賛同するしかないなと思った。

「とりあえず、今は少人数だ。 今、泊まっているホテルのロビーを活用させてもらおう。 どうですか?」 高田が言うと、

「そうですね。暫定的にそうしましょう」 滝司も賛成した。

 キッチンで会話を聞いていた京子は、あのホテルも少しは賑わうかしら? 松子さんの旦那さんが、またこちらに帰って来られればと、松子の気持ちをおもんぱかるのだった。

 その時、固定電話が、トゥルルルル~・・。 「私が出るわ」 京子が受話器をとり、

「はい、染谷でございます。 え? あ、はい、はい、そうですか。 本人に代わりますので、ちょっとお待ちください」

 送話口をふさいで、「あなた、だんだんテレビからよ。 出演依頼だって」

「なんだって、出演依頼? 」 京子から受話器を受け取って、

「お電話変わりました。 何でしょう? え? 他の二人も出演・・。 え? それに・・。 ちょ、ちょっとお待ちください。 本人たちに聞いてみますから」

「高田さん、田沢さん、お二人にテレビに出てほしいそうです。 それに・・」 京子の方を向いて、「京子、お前もだ」

「え~! 私も」 手に持っていた食器を思わず落としそうになった。 

「なぜ、わざわざ東北から私の所へ来られたのか、そのへんの心境をお二人に聞きたいんだそうです」

 横目で京子を見ながら、「奥様には、ご主人がとんでもない事を主張し、知事選に立候補したことへの、これまた心境を聞きたいんだそうだよ」

 高田と田沢はお互いの顔を見合い、「私らは、もちろんかまいません。 それどころか、嬉しいくらいだ」

「京子、お前はどうだい? テレビに出るか?」

「え、私がテレビに・・。 ・・出たい、でも、恥ずかしい・・。 でも、出たい・・」

「はっきりしろ」

 ちょっと間をおいて、決心したように、「出るわ!」 

 ・・心の中では・・でも、恥ずかしい。 松子さんも近所の皆もテレビに映る私を観るわ。 どうしましょう・・。 またもや悩み多き京子であった。 

 滝司は電話に向かって、「全員OKです」

 電話を切った後、高田と田沢に、「お二人には感謝するしかない」 と言って軽く頭を下げた。

「どういうことです?」

「もし、お二人が今回島根に来られなけば、私なんかの存在は、只のローカルな狂人としてすぐに忘れ去られたでしょう。 それが、遠方の東北からわざわざ来られたことで世間も、「あれ? 何で東北から、あの変人の染谷のところへ・・」 はっは・・こんなところだと思いますよ。 なので、世間も私の言う島根県立軍の記憶が、またよみがえったんでしょうね。 それで、テレビも何となく東北からのお二人に興味を持ったということでしょう」

「変人、狂人、結構じゃないですか。 大体、世の中を変えるのは変人か狂人ですよ。 はっは」

 高田が笑いながら言ったあと田沢が、「ちょっと気になったんですけど、染谷さんは浜溝知事と一緒にお酒を飲んだことがあるんですか? それも、先ほどの知事の言葉からするとこちらの家で」

「ええ、」 この二人には本当のことを話してもいいだろう。 隠し事をすると信頼関係が築けない。よもや浜溝知事の不利になることを、この二人が言いふらすことはないだろう。

「選挙が終わって間もなくして浜溝知事が夜に訪ねて来られてですね。 今、高田さんが座っているそこに知事が座られて三人で発泡酒を飲みかわしました」

「ここに座って発泡酒・・」

 滝司はその時、知事と話をした内容を、二人にほとんど全て話した。

 二人とも、その時の滝司と同じように驚いた。

「寿司職人に電車の運転士、知事の息子さんがねえ・・」

「電車の運転士は、私も憧れましたよ。 もっとも男の子なら一度はなりたいと思う職業ですよね でも、なるには結構難しいみたいだ」 

「田沢さんも? 私もそうだった」 滝司が言ったあと、その田沢が、

「島根県知事が、島根県立軍・・、染谷さんの支持者とは。 染谷さんが島根県立軍を名乗ってもクレームがこないはずだ」 

「でも、知事は拉致被害者奪還のほうに関心があるようでした」

「拉致被害者・・。 なるほど、人の命を考えると優先順位はそっちかもしれないな」 

 浜溝知事についての話がしばらく続いた後、二人は夕陽ホテルに戻って行った。

 明日はテレビ出演だ。 京子の頭の中は、何を着て行こうか、悩んでいた。




続く

 












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