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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
26/27

幸と不幸

  拉致された静子さんが帰って来た。 一郎がフィアンセを連れて来た。 浜溝家も染谷家も幸せの頂点だった・・。




 一郎は、両親と積もる話も当然あるが、ゆり子さんを早く、拉致から解放されて帰って来た母親に会わせたくて、滝司の家でゆっくりできなかった。

 滝司も京子も、「その方がいいわ。 早くお母さんに会ってあげて下さい。 浜溝さんに、今から行くって電話するわね」

「母さん。いいよ。 もうとっくに知らせてる。 それじゃ、俺たち、また後で来るからね。 父さん、車貸りるよ」

「おう! ラパンに乗って行け」

「ありがとう」

 と、言って、一郎とゆり子さんはそそくさと浜溝家に向かった。

 2人が行った後、

「一郎のやつ、とんでもない人と縁ができたもんだな。 よりによって浜溝知事の娘さんだなんて・・。 心臓に悪いぞ」

「そうね。 いくら勤務先が同じ自衛隊だとしてもね。 親戚づき会いが本当に浜溝家と親戚になったわ」

「さ、晩酌の続きをしようか。 今日の酒は旨い」

「なによ、いつも美味しいって飲んでるくせに」

「特別旨いんだよ。 今頃、浜溝さんは家族全員揃って、いや、一郎も加わって楽しくやっているだろうな。 俺たちも近いうち、浜溝さんのところにおじゃまするか」

「ええ。私、静子さんに会ってみたいわ」

 浜溝家も染谷家も幸せいっぱいであった。


 翌日未明、トゥルールールー。 固定電話が鳴った。 外は、まだ真っ暗だ。

「う、うん・・。 電話だ。 こんな時間に誰だろう?」

「何かしら? 出るわね」

 京子は眠い目をこすりながらキッチン横の固定電話の受話器を取った。

「はい・・」京子がしゃべりだす前に、

「お、俺、一郎だよ・・」 妙に声に元気がない。

「一郎、どうしたの? こんな早くから何なの?」

 一郎はポツリと、「し、静子さんが亡くなった・・」

「え! な、何て言ったの? よく聞こえなかったわ。 もう一度言って」

「静子さんが、ゆり子さんのお母さんが今しがた亡くなったんだ・・」

「え~! 静子さんが亡くなった。 お前、何言ってるの。 冗談なら許さないわよ」

 京子の、亡くなった、の声を聞いて滝司は飛び起きた。

「電話代わってくれ」 受話器を受け取ると、「一郎、聞こえたぞ! 亡くなったって、誰がだ?」

「静子さんだよ・・」

「ほ、ほんとか!」

「本当だよ」

 滝司は電話を切った後、呆然としてしばらく声が出ない。京子もその場に座り込んでしまい、顔を覆ってしまった。

 滝司はおもいっきり柱をこぶしで殴った。

「遅い、遅いんだよ、何もかもがこの国は遅いんだよ。 もっともっと早く救出してれば・・。 ちくしょう!」 もう一度こぶしで柱を殴った。 その横で京子は肩を震わせ泣いている。

 一郎とゆり子さんのめでたい出来事と、静子さんの死という悲しい出来事がいっぺんに襲ってきて、滝司はどうしていいか分からない。


 涙の中、静子さんのお通夜、葬儀、49日法要と全て終わり、季節は春になっていた。

 浜溝も、知事の公務に戻り、秘書の大沢は相変わらず甲斐甲斐しく動き回っている。

 リコール問題はいつの間にかうやむやになってしまい、リコールどころか浜溝人気はうなぎのぼりだ。 当然だろう。 拉致問題解決の、滝司と並んでの立役者なのだから。

 そんな春の日差しの中、浜溝と滝司は国道261号線をラパンで走っていた。

「染谷さん、ドライブに誘って迷惑じゃなかったかな? それも、あなたの車で」

「とんでもない。 暇を持て余してましたから、いつでもドライブ結構ですよ」 滝司の運転するラパンは川平を過ぎ、滝司の生まれ育った川戸方面に向かっていた。 右に江の川、その向こうに廃線になった三江線が通っている。 

「懐かしいな。 生まれ育った地なのに、何十年も来たことがない」

「私は三江線で川本から都野津の江津学院まで通ったもんだよ。 たったの3ヶ月だったけどね。 はっは」

「殴られたんですって」

「ああ、たちの悪いのがいてね。 あんなのと同じ校舎の下で一緒に勉強するのはまっぴらごめんだと思ってね。 それで。さっさと浜田中央高校に転校したんだ。 下宿だったから、親に経済的な負担をかけたんで申し訳ないと思っている。 あ、その辺で止めてくれるかな」

 車が止まると2人は外に出て大きく背伸びをした。

「浜溝さん。 今日、私を誘ったのはただのドライブをするためではないんでしょう? 仰って下さい」

「うん。 別に隠すことではないよ。 実は、あなたに副知事になって欲しいんだが、どうかね」

「え! 私を副知事に!」 滝司は驚いたが悪い話ではない。

「どうかね。 返答は今すぐじゃなくてもいいから、考えてみてくれるかな」

「いえ、今すぐ答えます。 こんな有難い話はない。 でも、議会の承認が必要なんでしょう。 それで否決されたら、浜溝さんでもどうしょうもないと思うんですが?」

「否決? はっは、それはありません。 染谷さんは県立軍の創設者ですよ。 そして自衛隊まで動かして、長年の懸案であった竹島問題と拉致問題を一挙に解決したんだ。 議会が反対するはずがありません」

 その通りだった。

 滝司は数人の反対はあったものの、ほぼ満場一致で副知事に任命されたのだった。


 朝から祝福の電話が鳴りっぱなしで、元の会社の仲間やら、また知らない人からも、副知事就任おめでとうの言葉を沢山言われ、嬉しくも慌ただしい1日が終わった。

「あんた、副知事就任おめでとう。 またもや、老後にゆっくり温泉旅行できなくなったわね。 でも、先は長いから、いつかは行きましょう」 京子のささやかな夢は、またお預けになってしまった。

「ああ。 いつかは行こう。 退職して毎日が日曜日だったが、またのんびりできなくなったな。 今は副知事になって浜溝知事をどのようにサポートしようか、頭の中はそればかりだ」

「あなたを副知事に推薦くしてれるなんて驚いたわ。 がんばってね」

「ああ。 これから忙しくなるから、ポンとグレの世話をお前に任せるしかないな。 大丈夫か?」

「任せといて。 月に1っ回、動物病院に連れてって、爪切りと歯を切るのね。 大丈夫よ」 

2羽のうさぎはそんな2人の話はよそに、くちゅくちゅとチモシーを食べている。


 首相官邸では、

「北朝鮮から約束の支援物資と1兆円を早くよこせと矢の催促です」 側近の役人が告げると加部総理は、

「支援物資は人道的にも早く送ろう。 1兆円の方は送る必要はない。 これについては”いずも”の艦長の案を取り入れた」

 木志防衛大臣が、「拉致被害者全員を返したら、という話ですね」

「今回、戻って来た拉致被害者に聞くと、拉致された日本人は沢山いたということだ。100人や200人ではきかないくらいいたらしい。 我々の調査でもそのくらいだと思っている。 そして、ほとんどの人が現地で亡くなった。 全員帰って来たらという約束だ。 全員帰ってこないんだから1兆円も渡す必要はない」

「そもそも、誘拐犯に金をやるバカはいないですから。 ”いずも”の艦長はそのつもりで空約束をしたんですね」

「大した男だよ。 はっは」

 側近に、「北朝鮮にそう伝えよ」「はい」と言って側近は出ていった。

「ところで、総理。 支援物資ですが、物資をそのまま北朝鮮の上層部に渡せば、彼らはそれを独り占めして、けっして民衆の元には行かないと思うのですが、いっそ直接、地方の民衆に渡した方がいいのではないかと考えます」

「うん。私もそれを考えていた。 しかし、そうすれば軍と民衆が物資の奪い合いになり、へたをすれば暴動になってしまう」

「いいのでは・・。 草莽が崛起するきっかけになりますよ」

「木志防衛大臣、君はすごいことを言うんだね。 ふむ。 とにかく軍部に渡すのはよそう。 後は北朝鮮の国内問題だから、我々は干渉する必要はない」

「ええ、そうですね」

 後日、大量の食糧などの支援物資が、10機の大型輸送機で北朝鮮の寒々とした地方の村落にパラシュートで落下され、それら物資に蟻のように群がる民衆が確認された。


 一方、文大統領は窮地に陥っていた。 日本が拉致被害者を奪還したことが世界中に報道されて、韓国内に衝撃が走ったのだ。 拉致被害者は韓国がもっとも多い。 なのに、韓国政府は今まで全く救出しようとはしなかった。 でも、今回のことで、さすがに火が付いた。 韓国拉致被害の関係者が騒ぎ出したのだ。

 中には、竹島の件をハーグ裁判所から取り下げろという者もいたが、それは無理だ。 とっくに受理されていて、今さら取り下げろと騒げば、自ら竹島の不法占拠を認めることになって墓穴を掘ってしまう。 


 浜溝知事は県庁舎でいつものように職務をこなしていたが、どうも精彩を欠いているように見える。 大沢もそれを心配しているのだが、原因は女房の静子さんを失ったことと分かっているので、どう励ましていいやら言葉が見つからない。

「あ、大沢さん。 副知事をここへ呼んでもらえますか」

「はい」

 副知事の滝司はすぐにやって来た。

「知事、何でしょう?」

「ちょっと一緒に屋上まで来てくれませんか」

「屋上へ? はい、構いませんが・・」 何だろう?

 屋上は春のそよ風が吹いていて気持ちいい。 目の前に松江城が見える。 その向こうは宍道湖だ。

「知事、どうしたんですか? 屋上まで来て・・」

「ふむ。 実は、知事を辞職しようと思っている」

「な、何ですって! どうしてですか?」 滝司は驚きながらも、静子さんの死が原因だな、と直感的に理解した。

「どうもね、職務に身が入らないんだ。 これでは知事失格だ。県民に迷惑をかけるわけにはいかない」

「そんな、失格って・・」

「それでだ。 次の知事に君を推薦しようと思う。 知事選に、ぜひ立候補してもらいたい。 どうかね?」

「え! 私がですか。 私を知事に推薦してくれるんですか! こ、これは・・。 すごくありがたいお話ですが、私は前回の知事選で惨敗してるんですよ。 そんな私を推薦してくれるんですか?」

「心配しなくていいよ。 副知事だって圧倒的多数で承認されたんだ。 世間も染谷さんを見る目が変わってきている。 次期知事は染谷さんが最適任だよ。 保証する」

 滝司は急な話で面食らったが、それでも、浜溝知事に向かって、「やってみます。 ありがとうございます」 と言って深々と頭を下げた。




                 つづく












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