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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
24/27

”いずも”の艦長の部下

 日本に帰りたいはずの芽ぐみさんが、帰らないといった。

でも”いずも”の艦長の部下は、芽ぐみさんは絶対に帰ると主張する。


拉致被害者はいったん、それぞれの居住地に戻ることになり、1週間後の帰国準備をすることになった。 居住地はピョンヤン郊外にあり、拉致被害者は全員そこでまとまって生活をしていたので、すぐ集合出来て便利だ。

 ”いずも”の艦長は、芽ぐみさんの言葉にショックを受け、どうしたら芽ぐみさんを説得して日本に連れ帰ることができるか、そればかりを考えていた。

「ふ~む・・。 なぜ、芽ぐみさんはあんなことを言ったのだろう? 私には分からん。 帰ってお母さんに会いたいはずなのに・・、なぜだ」

 艦長の横にはいつもの部下が黙って立っている。

 艦長は続けて、「芽ぐみさんを連れて帰らねば日本国内も喜び半分になるだろう。最年少のシンボル的拉致被害者だからね。 お母さんもどんなに悲しまれるか・・。 どうしても帰らないというならば、強引に連れて帰るか! はっは、それはダメだよな。 それじゃ、拉致と同じになってしまう。 う~む」

 しばらく経って、だんだんイラついてきたのか、艦長は部下に向かって、

「君も、ボ~っと突っ立てないで何か言いたまえ」

「ボ~っとはひどいですよ」

「そ、そうだな。 すまん。 今のは取り消しだ」

「艦長、そんなにイライラしないで下さいよ」

「これが落ち着いていられるか。 君は何とも思わんのかね、芽ぐみさんの言葉を」

「私も最初驚きました。 でも、今は芽ぐみさんの気持ち、何となく分かるような気がするんですよ」

「ほ~、分かる・・?、妙なこと言うね。 どう分かるんだい?」

「結論から言います。芽ぐみさんはきっと帰るって言ってきますよ。 お母さんのいる日本。 産まれた祖国日本。 帰りたくないはずがありません。 帰りたくて帰りたくてしょうがないと思いますよ」

「妙に自信たっぷりだね。 根拠は何だい?」

「芽ぐみさんは怒っているんですよ」

「なぜだ? せっかく救出にやって来たのに、怒ってるってなぜだ?」

「艦長の今の言葉、その言葉が怒らせるんです」

「聞き捨てならんな。 私の言葉が・・?」

「芽ぐみさんが拉致されたのは13歳の時ですよね。 おそらく彼女は、すぐにでも日本の自衛隊が助けに来てくれると思ったに違いありません。 すぐどころか、あれから、ほぼ半世紀がたちました。 その間日本はどうしてました?」

「どうでしたって言われてもな。 それで」

「バブルだ、サッカーワールドカップだ、オリンピックだ・・。 日本は浮かれてました。 拉致問題なんてそっちのけですよ」

「ふむ、それはよく分かる。 拉致なんて無いっていう政党もあったくらいだからね」

「中には、せっかく北朝鮮に行っても拉致問題には一言も言及せず、お土産だけもらって帰って来た政治家もいましたね。 おまけに、日本は平和だ、平和ボケだ、なんて多くの評論家が、とても拉致被害者の前では言えないようなセリフをポンポン言うしまつ。 拉致被害者の地獄のような生活はどこ吹く風。 いくら北朝鮮は情報隔離されてると言っても、やはり芽ぐみさんの耳に入ってきますよ。 今回、県立軍という存在がなければ、今でも同じです。 誰も拉致被害者を身をもって助け出そうとは思わないでしょう」

「それを言われると、自衛官である私は辛いな。 確かに何もしてこなかったからな。 染谷さんや浜溝さんいなければ、我々がこうしてここにいることもなかっただろう。 だが、どうして、私がさっき言った言葉につながるんだい?」

「半世紀もですよ、ほったらかして、そして、今頃、のこのこやって来て、助けに来ました、なんて恩着せがましいことを言われたら、素直に、ありがとうって言えないですよ」

「ふむ。 所々に言葉にトゲがあるけど、ふむ、君の言う通りかも知れない。 救出にやって来た、という言葉は拉致被害者からすると、ちょっと、引っかかるだろうね。 ありがとう。 これから言葉には気をつける」

「艦長、ありがとう、だなんてよしてください」

「君には感心したよ。 よく、そこまで人の心理を読み取れたね。 大したもんだ」

「経験から言ったのですよ。 艦長は、デートの時、彼女が遅れて来たらどう思います?」

「遅れるのは、いつも私だったから、それは分からないなあ」

「私の場合、ある日、彼女が大幅に遅刻して来たことがあるんですよ。 待って、待って、ようやく彼女が来たんですが、彼女は軽く、ごめんごめん。 待ったあ?

って言ったんですよ。 来たのはすごく嬉しかったんですが、素直に喜びを表せなくて、ちょっと気まずいデートになったんです。 ですから、芽ぐみさんも、素直になりづらいのかなって思いまして。 すいません。 艦長に対して長々とつまらないことをしゃべって」

「君たちのデートの遅刻から、芽ぐみさんの心理を読み解くというのは、相当無理があるんじゃないのか? 次元が違うというか・・。 でも、まっ、いいか。 君の言葉で少し気が楽になったよ。君に彼女との別れ話を話させて悪かったな」

「艦長、その時の彼女は今の女房ですよ」


 北朝鮮の西の黄海には空母”かが”が、そして、東の日本海には空母”いずも”とロナルドレーガンがいて、北朝鮮を挟み撃ちにしている。 北朝鮮がどんなにあがいてもこれら空母には太刀打ちできない。

 県連合軍の全船舶は、東北の3人、山口、福岡の2人を含めて全て日本に帰っていて、滝司と浜溝だけが北朝鮮に残っているのだが、乗っている空母は”かが”の方だ。

 そして、”かが”の1室で浜溝と静子が、静子はやっと緊張がとれたのか、表情が明るくなった。 日本に帰れる喜びが表情から読み取れる。 それを見て浜溝も安心するのだった。

 浜溝は聞きずらいことを思い切って聞いた、「こちらで家族は出来たのか?」

「ええ、出来たわ」 静子が平気な顔でサラッと言ったもんで、これには浜溝の方が驚いた。

「出来たのか・・。 どんな人だ?」

「もう30年前ね。 拉致されてすぐに地元の保衛部の人が、ある男性をつれて来たの。

「お前たちは今日から夫婦だ」って言って、その男性を残していったのよ。啞然としていると、その人ね、急に土下座して、すまん! 申し訳ない! 私はこんなことは嫌なんだ。 でも、夫婦にならないと強制収容所に送られてしまう。 だから、仮の夫婦ってことにしよう。 って、言われたのよ」

「仮の夫婦?」

「私、気づいたわ。 この人好きな女性がいるんだってね。 よっぽど好きな女性なんでしょうね。 もちろん、私は夫婦になるつもりはないから、ただ、聞いていただけだったわ」

 浜溝は、静子が私のことを気づかって噓を・・。いやそんな風に見えない。 信じよう、静子を。

「仮の夫婦・・。 それでその後、どうした?」

「ばれて、その人、強制収容所に送られたの」 京子の顔が悲しそうに歪んだ。

「お、お前の身は大丈夫だったのか!」

「私は大丈夫だったわ。 何事もなかったの」

 浜溝は、何となく噓だと感じたが、それは追求しなかった。おそらく暴力の1つや2つは振られていただろう。

 こうして30年ぶりに静子の顔をまじまじと見ると、もちろん、年を取ったのでそれなりに老けてはいるが、肌につやも無いし、顔も一回り小さくなったように感じられる。 これは素人でも分かる。 栄養失調だ。 ”かが”の医務室に連れて行くしかない。

静子を医務室に連れて行き、点滴をしてもらうことになった。

 廊下に出ると、待っていた滝司が、「奥さんどうでした?」

「うん。 軽い栄養失調とのことだ。 早く日本に連れて帰って静養させたいね」

「こんな所に30年もいたんだから、身体も変調をきたすでしょう」

「ああ、そうだね。 あのおじいさんも、おじいさんと言っても私と歳は変わらんが、キムに銃口を突き付けられた、あの人、100歳くらいに見えて驚いたが、拉致被害者全員の健康に何らかの問題がありそうだ」

「それに関係すると思うんですが、北朝鮮の軍隊が妙に大人しいのも、軍人の健康に問題があるのではないかと・・」

「聞くところによると、軍人の半数が栄養失調らしいよ」

「半数もですか・・。 支援物資が早く欲しいわけですね」

「その支援物資だが、それが北朝鮮には仇になるかも知れんな。 ひょっとしてこの国の崩壊につながるかも・・」

「崩壊に、なぜでしょう?」

「今、チョンジンで国際部隊が民衆に食料やら、その他生活物資を配ってるだろ。 それ以外の地域には、残念ながら手が回らない。 我々がここからいなくなった後、軍の上層部、あの親衛隊の10人だよね。 彼らに支援物資を渡し、北朝鮮全土に配るのを任せるしかない」

「ええ、当然ですね」

「チョンジンのあの悲惨な民衆・・。 大都会のチョンジンですらあんな状況だ。 それ以外の小さな町や農村などが、どんなに悲惨か推して知るべしだ。 一番支援物資を必要としているのはそんな町村だが、軍人は自分たちでさえ栄養失調なのに、その腹ペコの軍人が物資を民衆に与えると思うかい? それは絶対にないね。 自分たちの物にしてしまうのは火を見るよりも明らかだよ」

「そして、民衆は怒り狂って軍人との間で諍い、つまり、暴動に発展すると」

「北朝鮮人民は、もう限界に来ている。 チョンジンの哀れな避難民を見てそう思ったよ」

「我々が北朝鮮に来たことが、ある意味、北朝鮮民衆を覚醒させたかも知れません」

「それが良いことか悪いことか、私には分からんがね」

「ええ。ところで、キム将軍が全く姿を見せませんけど、浜溝さんはどう思います?」

「解せんな。 軍事的に敵わないと知って、どこかに雲隠れでもしたのかな。 捕まれば国際裁判所に引きずり出されて重罪人になるのは、本人も十分分かってるからね。典型的な臆病者だよ。 独裁者は、当然の如く自分自身の保身しか考えてない」


 帰る日が近づいてきた。

 チョンジンでボランティア活動をしていた医師団なども帰国の準備に入っていた。 そのボランティアの人達の周辺にチョンジンの人達が集まり感謝の意を述べ、 ボランティアの周囲から、なかなか離れようとしない。 名残惜しそうにしている。今回のことがよっぽど嬉しかったのだろう。 ボランティアの人達も、ここ北朝鮮の人々が普通に暮らせるようになることを願うばかりだ。

 そして、チョンジンの人々が一斉に手を振るなか、ボランティアの人達を乗せた船は港を離れていった。

 いよいよ帰る日の当日、山の向こうから2機のジャンボジェット機が現れた。 日本国の政府専用機だ。

 ピョンヤン郊外のピョンヤン国際空港には、すでに拉致被害者全員、と言いたいところだが、芽ぐみさん以外全員が集合していた。

 ”いずも”の艦長、その部下はもちろん、ここにいる拉致被害者全員が芽ぐみさんを思って気を病んでる。

 特に艦長の部下は、芽ぐみさんは絶対に来るといった手前、さっきから落ち着かない。

 艦長も、滝司と浜溝も、芽ぐみさんが来るだろう方向をジッと見つめているが、現れない。

 全員が、心の中で、早く 〃 ここに来て、と悲愴な声を上げている。

 2機の政府専用機が着陸した。 鮮やかな日の丸を見て、拉致被害者はまたもや感動して目に涙をためるのだった。

 北朝鮮側は誰も姿を見せない。 勝手に帰れと言わんばかりだ。 もっとも彼らがいたら、拉致被害者との間でいざこざが生じ、ひょとしたら暴力沙汰になる恐れもあるから、いない方が都合がよい。

 機内から降りて来たのは機長と副機長、それに加部総理、木志防衛大臣と数人の役人だ。

 加部総理は拉致被害者の一人一人の手を取り、短い挨拶をし、飛行機に乗るよう促した。

そして、”いずも”の艦長以下自衛隊員と、滝司と浜溝に敬礼をし、「ご苦労様でした。 無事で何よりです」

 自衛隊員は加部総理に敬礼を返したが、滝司と浜溝はどうしていいか分からず、軽く会釈をしただけだ。

「染谷さん、浜溝知事。 あなた方には本当に頭が下がる。 ありがとう。 それじゃ、 私たちは拉致された方々と飛び立ちますが、お二人は ”かが”で帰国されるんですか? よかったら一緒に機に乗って帰りませんか?」 

 ”いずも”の艦長がそれを聞いて、「浜溝知事、その方が良いですよ。 奥さんもおられることだし、そうなされば・・」

「奥さんが・・? どういうことだ?」 加部総理が怪訝そうに聞くと、

「拉致被害者の中に浜溝知事の奥さんがおられるんですよ」

「何! 浜溝、お前の奥さん、拉致されてたのか」

「ええ。 私もまさかとは思っていたんですが」

「なんてことだ。 そうか、じゃ、早く乗って奥さんのそばについてあげてやれよ。 ささ、早く。 染谷さんも。 それじゃ、艦長。 我々は行きます。 後をよろしく!」

 艦長はあわてて、「ま、待ってください。 芽ぐみさんがまだ来てないのです。 もう少し待って下さい」

「来てない? なぜだ? トラブルでもあったのか」

 部下は祈るような口調で、「芽ぐみさんはきっと来ます。 もうちょっと、もうちょっと待ってあげて下さい。 お願いします」 頭を下げた。

 加部総理は、しばらく考えた後、「よし、分かった。来るまで待とう」

「ありがとうございます」 部下は、また頭を深々と下げた。

 2機の政府専用機は、日本人拉致被害者と外国人拉致被害者とは別々に日本に向かう。

 外国人拉致被害者を乗せた機は東京に向かい、それぞれの大使館に引き渡される。 

 その、外国人拉致被害者を乗せた機は一足先に飛び立っていった。

 もう1機の方は日本人拉致被害者のみで、東京へは向かわず、一旦島根県の石見いわみ空港に向かい、そこでワンクッションをおいて、それから、それぞれの出身県に行くという予定だ。 東京で、手ぐすねを引いて待っているマスコミの喧騒の中にいきなり連れて行くのは気の毒だ、という配慮からなのだが、それぞれの県に帰れば、それなりの喧騒に巻き込まれるだろうが、それは致し方ない。

 10分、20分、30分・・。 まだ、芽ぐみさんは来ない。

 役人の1人が、「総理、芽ぐみさん遅いですね。 もしや、日本に帰る気は無いのでしょうか?」

 それを聞いた部下は、「そんなことはありません。 絶対来ます」 語気荒く言ったもんで、みんな驚いた。

 40分、50分、とうとう1時間がたった。

 政府専用機の機長からも出発を促されたが、総理は頑として動かない。 「待つんだ」

 また、役人が、「総理、もう来ませんよ。 待ちくたびれました」

 それを聞いて総理は、その役人の方を向いて、鋭い口調で、「今、何て言った!

もう1度言ってみろ」

「あ、はい、ま、待ちくたびれたと・・」

「待ちくたびれた、だと? 君はどれほど待った? 言ってみろ」

「あ、はい、おおよそ1時間くらい・・です」

「なるほど、それで待ちくたびれた、か。 それは拉致被害者全員が言うセリフだ。 芽ぐみさんは50年待っていたんだ。 50年だ! どんだけ待って、待って、待ちくたびれたか、想像がつくか。 そんな長く待たせたのは我々、日本国政府だ。 だから、総理である私も、待って、待って、待つのだ」

 浜溝は心の中で、「加部も変わっとらんな」

「いつまでも待つぞ。 ここでキャンプしてでも待つぞ。 帰りたい者は帰ってよい」

 と言われても、総理を残して帰れるはずがない。

 しばらく沈黙が続いた後、自衛隊員の1人が、「あ、あれを・・」 と言って指をさしたその先には6人の人が近づいて来る。

 全員がそちらに目をやると、その6人の先頭には女性がいる。「あ、あれは芽ぐみさんだ。 家族も一緒だ」



つづく


















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