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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
22/27

拉致被害者奪還交渉

 北朝鮮側といよいよ拉致被害者奪還交渉を行うことになった。 日本中が大興奮。


 そこにいる皆が影武者だと気づいた。 このプライベートルームでのことはユーチューブに流れていない。

「将軍閣下はどこへ行った?」 皆キョロキョロと部屋を見渡すがそれらしい隠れ場所もドアも見つからず首をひねるばかりだ。

 この部屋のことはキム将軍と影武者しか知らない。 いくら親衛隊と言えどもキム将軍は入ることを許さなかったのだ。 また、影武者が何人いるのか誰も知らない。

”いずも”の艦内では、

「驚きましたね。 まさかキム将軍に体当たりするとは」

「命がけでキムの暴走を止めるなんて、まだまだ、北朝鮮も捨てたもんじゃないな。 あのような人物がいるんだから、ひょっとしたらまともな和平会談ができるかも知れん」

「でも、艦長、どうしたんでしょう? 最初の銃声は分かりますけど、キム将軍が隣の部屋に入って、またすぐ銃声がしましたが。 その後、皆慌ててドアを壊して部屋に入っていきましたけど、ひょっとして・・、自害?」

「それは無いよ。 死ぬつもりなら拉致被害者全員を道ずれにするだろう。 独裁者は自ら死を選びはしない。 生に執着するのが独裁者だ」

「じゃあ、あの銃声は?」

「ふむ、分からないな」

「変ですね」

「とにかく、和平の道が開けた。 キムは彼らに後は任せるといったな。 あそこにいるキム将軍の親衛隊、え~と‥十人だな。 この十人が交渉相手になるんだ。 彼らが武装解除をしたら我々も上陸する」

「交渉場所にキム将軍がいなくてもいいんでしょうか?」

「拉致被害者を取り戻すのが、我々の最終目的だ。 キム将軍がいようがいまいがどうでもいい」

「はい。 拉致被害者を奪還できそうですね。 良かった・・」

「いや、まだまだ安心できん。 慎重に彼らと接触しなければならない」

「ええ、」


 キム将軍が消えた部屋では、リーダー格のジン・トンムが、 「どうする? 将軍閣下は、後は俺たちにまかせると言った。 なら、全員和平でいいんだな?」

「それしかない。 隣室の人質も俺たちにとって何の利益も無い。 それどころか害になる。 奴らの攻撃対象が我々になるからな。 とっとと返して、奴らの言う支援を受けた方がいいだろう。 異論はない」

「ただ、俺たちの身はどうなる? 人質を返した後、まさか逮捕されるってことはないだろうな? 安全が確認できなければ和平のテーブルに着くことは出来ないぞ」

「それは心配ないだろう。 奴らの目的は人質の解放だけだ」

「いや、我々の身が全く安全とは言えない」

「どういうことだ?」

「民衆だ。 民衆がどういう行動に出るかトンムたちは気にならないか」

「ふむ。 確かに民衆は気になる。 民衆だけではないぞ。 兵士たちもそうだ。 日頃の不平不満が、いっきに我らに向かってくるかもしれん。 タガの外れた体制は脆い。 あっという間に・・」

「う~ん。 じゃあ、このままの体制を続けていくしかないじゃないか。 間違っても将軍閣下が行方不明だなんて知られてはならん」

「日本からの物資は、あくまでも我々から民衆への施しだとしよう」

「せっかくのこの機会だ。 物資だけでは惜しいな。 物資以外にももっと要求してもいいだろう」

「なにを?」

「俺に任せろ」

 この10人はとんでもない勘違いをしている。 そもそも、なぜチョンジンの市民が日本の官民連合軍に助けを求めたのかを理解していない。 民衆は北朝鮮の政府を見限っているのだ。 支援物資も日本から、世界からくることを知っている。 親衛隊が民衆に対して下手な小細工をすれば藪蛇になるだけだ。心はとっくに北朝鮮の支配層から離れている。

「和平の準備をしろ。 軍全体に武装解除命令を出せ。 従わない者は拘束するんだ。 我々の生きる道はこれしかない。 残念だが、戦力では到底敵わない。 全面戦争になったら、我々は確実に死が待っている。 それが人質を返すことによって、我々も助かるし、支援物資も手に入る。 悪い条件ではないと思う」

「それしかない。 和平だ」

「交渉の場には報道陣はいっさい来させないようにする」

「日時と場所はどうしますか」

「あさってだ。 場所は高麗ホテルでいいだろう。 すぐイルボンに伝えろ」


「明後日か。 よし、我々の要求は拉致被害者奪還のみだ。 それ以外の交渉は一切しない。 それは政府の仕事だからな」 総司令官”いずも”の艦長は拉致被害者を取り戻す手ごたえを感じて、少々興奮していた。

「報道陣は連れて来るなっていってきましたが」

「報道陣が来て北朝鮮の実情を知られては困るからな。 それは、かまわない。 彼らの言う通りにしよう」

「高麗ホテルはピョンヤンのど真ん中ですが、そこへは無防備で行くのですね。 大丈夫でしょうか・・?

「心配するな。 我々に危害を与えても彼らの何の得にもならん。下手に武装していくと彼らは警戒していまう。 些細なことで暴発するかも知れんからな。 無防備が一番だ。 手ぶらで行く」


 そうこうしているうちに日本の医療チームや、世界各国から国境なき医師団やボランティア団体が続々と集まり、これを機に官民連合軍が引き受けていた難民をチョンジンに上陸させることになった。

 難民が船から離れる際、口々に、「カムサハムニダ」「コマッスムニダ」を連発して、親切にしてくれた自衛隊員、また民間船団の皆に頭を下げるのだった。 一時はぐったりとして元気のなかった、あの赤ん坊も自衛隊員の方を見てお礼をいっている・・ように見える。

 大量の支援物資も輸送機からどんどん海上に落とされ、それを海上自衛隊員が手際よく船上に引き揚げている。

 和平がなったということで民間船団は続々とそれぞれの日本の港に帰り始めた。 残ったのは県連合軍の主要メンバー、つまり、滝司や 浜溝、東北の三人、山口県、福岡など、当初から参加していた面々と拉致被害者の関係者数人、それに最後まで見届けたいという有志など、4~5十人だ。

 民間船団が引き返すのとは逆に、いったん官民連合軍から離れていった米空母ロナルドレーガンがまた合流してきた。戦力は強力になったが、その戦力は今は必要ない。 再度合流するなら最初から戦列を離れる必要もなかったと思われるのだが?

「米空母が・・。ふ~ん」 滝司は何やら解せぬものを感じたが、この時点では拉致被害者のことで頭がいっぱいだったので、それ以上深くは考えなかった。 しかし、このことが後に滝司に重大な決断をさせることになる。

 いよいよチョンジンに上陸することになった。 流石に緊張する。 自衛隊員が民間人を守るように囲んで恐る恐るチョンジンの街に入ったが、市の幹部たちは整列してて、静かに日本側は迎えられた。 あの十人の親衛隊から静かに迎えるよう命令が出ているのだろう。

 上陸したのは官民合わせて百人くらいで、その中からピョンヤンに行くのは十人の自衛隊員と米兵五人、拉致被害者関係者数人、そして、交渉の場には滝司と浜溝も同席することになった。 これは当然だろう。 ここまで来たのは島根県立軍を、狂人と言われようと創設した功労者なのだから。 もちろん、東北の三人と山口と福岡の二人も同じように功労者なのだが輸送機の関係でチョンジンに残ってもらうことにした。 五人はすごく残念がったがしかたない。 オスプレイは30人乗りだが少し余裕をもってこのメンバーで行くことになった。

「浜溝さん、いよいよですね。 ピョンヤンへはオスプレイで行くそうです。 高田さんたちとも一緒に行きたかったのですが、残念です」 と、滝司は浜溝に話しかけたが返事がない? 横の浜溝の顔を見ると厳しい顔をして遠くを見ている。何かを思っているのだろうか?

「うん? あ、失礼。 ちょっと考え事をしてた。 聞きそびれた。 何だい?」

「あ、いえ。 大したことでは・・」

「じゃあ、染谷さん。 オスプレイに乗ろうか」 ちゃんと聞いてた。

 でも、何だか浜溝の様子がおかしい・・。

 この一機のオスプレイを護衛するのは五機のFー35Bである。 チョンジンからピョンヤンまでは400kmくらいだから、時速500kmで飛ぶオスプレイではピョンヤンまで1時間くらいだろう。 これら6機は滑走路を必要としない垂直離発着機なので、高麗ホテルの真ん前に着陸することができるのだ。


 翌日、滝司たちを乗せたオスプレイは無事飛び立った。 天候は晴れで視界は良い。 なので、眼下の景色もよく見える。乗員全員がその景色を見て驚いた。

「緑が無い」 暖房や煮炊きのために樹木はとことん切り取られているのだ。 寒々とした禿山がどこまでも続いている。

上空から山間部の集落がぽつんぽつん見えるが、どこも民の竈から煙がたっていない。 なんてことだ。 これでは仁徳天皇がいた4世紀頃よりも遅れた社会といえるのではないだろうか。

 ピョンヤンのビル街が見えてきた。 超高層ビルが立ち並び、遠目からは立派な近代都市に見えるが近づくにつれて我々の考える近代都市とは全く異なることに気がつく。

「生活感が無い都市ですね」「看板も無いね」「車が異常に少ないな」「高層ビルにはエレベータがあるのかな? あるんだろうけど電気不足で動かすことはできないだろう・・」「水洗トイレなのだろうか?」オスプレイに乗っている皆が同じようなことを思っていた。

 高麗ホテルの前の道路はとんでもなく広い。 その広い道路に六機の垂直離発着機がゆっくりと着地した。 高麗ホテルの前にはキム将軍親衛隊の十人が待っている。 滑走路を必要としない戦闘機など見たこともないので、親衛隊の十人はもちろん、ホテルの従業員なども驚きを隠さない。

「何だ、あの戦闘機は? ヘリコプターでもないのに垂直に降りてきた」「こんなものがあるなんて・・」「我が共和国では見たこと無いぞ」 などと話し合ってるだろうことが雰囲気でわかる。

 降り立った日本代表団と、迎えた北朝鮮側とは握手もせず、そのままホテル内の会議室に向かった。

 ”いずも”の艦長が、「拉致被害者に会わせてほしい」

「まだ駄目だ。 交渉が終わってから会わせる。 心配するな、全員このホテルに連れて来ている」

「無事だろうな」

「だから、心配するなといったろう。 それじゃあ、お互いの要求を言おう」

「その前に、キム将軍はいないのか? ぜひ、お目にかかりたい」

「だめだ。 将軍閣下は体調を崩して休んでおられる。 交渉の一切は我々に全て任された」

 噓だとは分かってるが、まあ、いい、「拉致被害者を全員返してほしい。 それ以外は何も望まない。 支援物資は約束通りわたす」

 代表格のジンが、「よろしい。 だが、我々の要求は支援物資だけではない」

「まだ、他に・・。 何だ?」

「君らの同胞を返すにあたり、我々は1兆円を要求する。びた1文負からない。 聞き入れよ」

 日本側は米人も含めて一様に驚いた。 「1兆円だと」「なんて図々しい奴らだ」「そんなの聞き入れてなるものか・・」 口の中で皆が呟く。 いや、不思議なことに艦長だけはそうでもない。

 その艦長が、「分かりました。 1兆円ですね。 拉致被害者を全員返してくれたら払います。 私は政府から交渉に対して全権を任されています。 信用してくれていい」

 滝司と浜溝は、お互い困惑顔で見合った。 「艦長、正気か・・?」 心の中で呟く。

「今の言葉を信用していいんですね」 ジンがちょっと懐疑的に聞いた。

「もちろんです。 私は今回の交渉にあたる前、加部総理と打ち合わせをしていて、金銭を要求されたら素直にOKするように言われている。 だから信じていい」

「そうか、じゃあ先に金を振り込んでくれ。 そうしたら、君らの同胞を返そう」

「拉致被害者を返すのが先だ」

「いや、だめだ。 金が先だ」

  突然、艦長は立ち上がって、「交渉は決裂だな。 じゃ、力づくで取り返す」

 ここにいる、米人も含めて全員が銃を持っていない。 だが、ホテルの正面には世界最強のFー35Bが5機もいる。 機体には重機関とミサイルが装備されていて、これにかなう戦闘機は、前に述べたように北朝鮮にはない。 もちろん、ここにいる親衛隊の十人もそれは百も承知だ。

 ジンが慌てて、「し、信じよう。 1兆円と支援物資は確かだな」

「心配するな。 約束だ。 拉致被害者全員を返してくれたら要求通りにする」

「ふむ。 本当だな?」

「くどい。本当だ。 何度も言わせるな」

「分かった。 信じよう」

 言った後、ジンは立ち上がって、「ついて来い」

 それを聞いて全員が椅子から立って、ジンの後をぞろぞろついて行く。

 滝司と浜溝は興奮がおさまらない。 拉致被害者に会えるのだ。 救えるのだ。 それにしても1兆円だなんて・・。

 日本中で、世界中で、大騒ぎになっていた。 交渉の内容までは分からないが、拉致被害者奪還の交渉をしている、それだけで大興奮なのだ。 拉致被害者が返ってきそうだ。 皆が期待をしている。

 反対に慌てたのが、滝司を狂人だの島根県の恥だの、散々こき下ろした評論家たちだった。



                   つづく










 

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