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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
15/27

北朝鮮へ

 竹島、北朝鮮へと進む官民連合軍と米軍は日本海をひた進む。

 とうとう、滝司たちはパンドラの箱を開けたというべきか、ルビコン川を渡ったというべきか・・。

 その先にあるものは、希望か、絶望か、・・後には引けない。


 滝司は、白波を立てて進む船の先端で、両足でバランスを取りながら何も掴まらずに立っていた。 目は前方を凝視している。

 違法に占拠されてる竹島には40名の韓国警備隊が常駐していて、皆肩から軽機関銃をぶら下げている。

 日本船と知れば容赦なく撃つ気構えだ。 しかし、仕事としてはかなりつまらないだろうと予想される。  

 何十年も水平線ばかりを見つめ退屈極まりないんじゃなかろうか? 

と、現在ではそう思うが、竹島を占拠された当初は毎日のように惨劇が繰り返された。 

 時は1952年、竹島が李承晩に占拠されたことなど何も知らない日本の漁師は、いつものように漁に出て、島に人影を発見し、漁師仲間だと思って、あいさつ代わりに手を降ると、その人影から突然銃撃されるという事件が発生した。 その後、何年にもわたって同じようなことが頻発したのだ。

 それは、1965年に日韓基本条約が結ばれるまで続き、その間に漁師は44名が死傷し、拿捕された漁船は328隻にのぼった。 さらに抑留された船員は3929人で、このように韓国警備隊によって、日本海で働く漁師などは恐怖のどん底に落とされたのだった。

 日本海の島根県に生まれ育った滝司は、この悲劇をよく知っていて、そして、それが心に刻まれた。 滝司の親類縁者には漁師も被害者もいないが、同じ日本国民、県民として、他人事とはどうしても思えなかったのだ。

 両足を踏ん張って前方を見つめる滝司の肩をポンポンと叩く者がいる。

「うん?」 振り向くと、「あ~~!」

「ついて来ましたよ」 浜溝がいた。 

「な、何で、ここにいるんですか! あ~、びっくりした。 この20トンの小さな船のどこに隠れていたんですか? あれほど止めたのに、知事の身に何かあったらどうするんですか! ったく、も~。」

「見つからないように船倉でじっとしていたよ。 ファミマで買ったおにぎりを食べながらね。 暗くて、寒くて、ちょっときつかったかな。 子供の時に遊んだ秘密の隠れ家のようだったよ。 はっは」

 滝司は大きくため息をついて、「すみません、辛い思いをさせちゃって・・。 京子のやつ、あれほど浜溝さんを家まで送るようにと頼んだのに。 しょうがないな」

「京子さんを怒らないで下さいよ。 私の意志で来たんだからね。 染谷さんもあきらめて。 さ~、気を取り直して、レッツゴー!」 

「浜溝さん、ピクニックにい行くんじゃありませんよ。 これから行くところには韓国兵が銃を構えていて、とっても危険なんですから、そこんところよく考えて下さい。 いくら自衛隊の護衛があるからと言って100%安心できるとは限りませんからね」

 もちろん、浜溝はそんなことは百も承知だ。 そして、おもむろに、

「言い遅れましたけど、朗報があります。 竹島の韓国警備隊は撤退するそうですよ」

「へ?」

「染谷さん、加部総理から私の所へ一報がありましてね。 竹島の所有権をハーグで決着しようと、ムン大統領の方から申し入れがあったそうだよ。 そろそろ、全船舶に通知が届くころだが・・」

 滝司は口をあんぐりして、しばらく声が出ない。

 その時、乗組員の一人が、「染谷さ~ん、自衛艦の方からこんな連絡が入りました」 と言って、メモを滝司に渡した。 それに目をやると、今浜溝が言ったと同じ内容のことが書いてある。

 呆然としながらメモを読んだ滝司は、やっと、声が出た。

「信じられない・・。 あれほど嫌がったハーグにあちらから誘ってくるとは、いったいどういう風の吹き回しだ?」

「交換条件はスワップだそうな」 

 浜溝がこういうと、滝司はすぐに理解した。 「なるほどね」

「何年か先に決着がつくまで、竹島はどちらのものでもない。 両国民はそれまでは竹島に上陸出来ないが、両国の漁業関係者は竹島周辺での漁はできるそうだ。 銃撃の心配も拿捕の心配もないんだから、これはこれでよかったんじゃないか、 染谷さん」

「ええ、私は喜んでるんですよ。 ハーグに行けば竹島を取り戻したも同然ですもの。 あの竹島が・・やっと」 滝司は感無量の様子で竹島方向を見つめていた。

「しかし、気をつけることがある。 彼らのロビー活動と判事へのワイロ攻勢だ」

「私もそれを思ってました。 前歴が嫌というほどありますからね」

「それについては、加部総理も万全を期すと思うよ。 もしそんなことされて、明るみに出た暁には、それこそ、日本政府も日本国民も堪忍袋の緒が切れる。 行き着くところは断交、そして、それこそ開戦になるかもだ。 もう、日本はいつまでも甘い顔は出来ない」

「ですね」

 全船舶の集合地点に近づくにつれて、まるで水平線から黒雲が湧き立つように周りには様々な船が出現し、海面さえも見えなくするくらいの勢いで増えていった。

 上空では自衛隊のヘリコプターが何機も飛んでいる。 いや、自衛隊のヘリだけでなく米軍のヘリもそれに混ざって飛んでいる。 何かの映画の一場面のようだ。

 浜溝は、この光景をしばらく眺めていた後、滝司に向かって、

「染谷さん、あなたは大した男だよ」

「へ?」

「この光景は、あなたが全て造り出したんだ。 私は心から感心してるんだよ」

「え、この光景を私が? どういう意味でしょう?」

「染谷さんが島根県立軍を造ったので、それが、ここまでになった。 加部総理や政府を本気にさせたのもみな、染谷さん、あなただ」

 はっは・・。 何言ってるんですか。 そんな分けないじゃないですか。 どうしたんですか、急に変なこと仰って。 私は、島根県立軍を造るんだ~と言って、知事選に見事落選したんですよ。 浜溝知事の足元にも及ばない得票率で。 それでも、供託金が戻って来たんで京子は喜んでましたけどね」

「島根県立軍を造って竹島を取り返すなど言う発想は、私など、とてもとても・・無理。 夢にも浮かばない。 そして、それをあなたは、言うだけでなく具現化してしまうんだもの、ただただ、感心するのみだ」

「浜溝さんに、そう言ってもらって褒められるのは嬉しいんですが、島根県立軍も県連合軍も、造ってくれたのは、遠方の東北から、わざわざ島根県まで来てくれた、秋田の高田さん、青森の田沢さん、岩手の早坂さんたちだと思っているんです」

「ほ~、あの三人の方が・・」

「もし、あの三人が来てくれなければ、何事も起こらず、私は、相変わらず、散歩にウサギの世話に、そして、夜には京子との晩酌にと明け暮れていたでしょう。 ま、それはそれで幸せですけどね。 特に京子はそうしたかったはずです」

「幸せか・・」 浜溝は、ちょっ寂しいそうに小さく呟いた。

 滝司は、それには気づかず、

「この三人が来てくれたおかげで、隣県山口の桂木さんや福岡の鹿毛さんらの心に火をつけたんですよ。 あんな遠方から島根県に来たのには何かある、放っておけない。 近くの俺たちは何をやってるんだ・・とね」

「なるほど。 そして、それが全国47都道府県に波及したってことか。 確かに東北の3人の貢献は大きいな」

「ユーチューバーの倉沢さんにも本当に世話になったなあ。 それより、私たちのことより、リコール問題にまでなった浜溝知事にこそ感謝でいっぱいですよ」

「あ、そうか! 私はリコールの真っ最中だったんだ。 うっかり忘れていた。 はっは」

 傍から見ると、一見のどかな会話をしている好々爺二人に見えるが、官民連合軍の目的はまだ完遂されたわけじゃない。

 相変わらず上空でヘリコプターが飛んでいる。 それを見ながら滝司は長男一郎のことを考えていた。 こんな事態になって宇都宮の駐屯地にいるあいつ、どうしてるんだろう?」

 同じく、浜溝も防衛省に努める長女のことを思っていた。 

「今頃、こんな事態で本省内は、いろいろ大騒ぎをしてるだろうな・・。 島根県が発端になった今回のこと、どう思ってるんやら?」

 ヘリコプターの音が上空から降り注ぐ中、浜溝は滝司に向かって、

「染谷さん、竹島奪還のめどは立ちました。 後は政府に任せましょう! さて、いよいよ次の目的地は北朝鮮だね」

「はい」

「私は、以前あなたに、20年後、北朝鮮に宣戦布告をすれば、彼らは核開発を急ぎ、それが米軍を本気にさせ、結局は拉致問題が早期に解決すると言いました」

「ええ、覚えてますよ。 大胆な発想なんで、驚きました」

「島根県立軍ほどじゃないけどね。 でも、よく考えたら、誘拐された人々を取り戻すのに宣戦布告する必要はないよね。 例えば、自分の子供が誘拐されたら、取り戻すのにいちいち法的手続きなどの面倒くさいことは言ってられない。 加部総理もこのロジックを理解してくれて、今回自衛隊も動き出したのだろう」

「宣戦布告もへったくれも、北朝鮮は頻繫に日本方面にミサイルを飛ばしているのですから、もう、すでに彼らが日本に宣戦布告をしてるも同然ですよ」

「ふむ、確かにその通りだ」

「それなのに我が国は何の対抗策も講じない。 さらに、日本国民が誘拐されたのに、何十年もほったらかししてたんですから驚くばかりです。 それどころか、日本は戦後ず~っと平和だったなんていう政党もあるくらいです。 平和ボケもいいとこです」

「この機会を逃せば、もう永遠に取り戻せない。 一番若い拉致被害者が60歳の芽ぐみさんだ。 13歳の時拉致されて芽ぐみちゃんと呼んでいたが、それがもう還暦だ。 急がないと。 時間がない」

 浜溝は言いながら心の中で反省していた。 果たして、私も今まで拉致被害者についてそこまで深刻に考えていただろうか・・。 ところがあることを境に急激に拉致被害者について気になり始めた。

「絶対に助け出す」 浜溝は力強く呟いた。

「拉致被害者奪還作戦遂行!ですね。 こちらは竹島のようにハーグで決着とはいかないぞ! 拉致被害者は高齢者ばかりだ。 急がなければ」

 官民連合軍艦隊と米海軍の空母エンタープライズは、一斉に北朝鮮に舵を切った。 向かうところは平壌ではなく清津チョンジンだ。 帰国事業によって多くの在日朝鮮人、あるいは、日本妻が最初に着いたのがここの港だった。 あの拉致被害者の蓮川さんたちもここから上陸させられたのだ。

 拉致被害者を連れて帰りたい、日本の地を踏ませたい、家族に会わせたい、美味しいものをいっぱい・・。

 日本国民全員の願いを背負って官民連合艦隊は,あの凍土、この世の苦界・・。 ほめる形容詞が全く見当たらない、あの国に突き進んでいる。

「北朝鮮海域に入るのは夜かな・・」


 この日本海の動きは、北朝鮮のどこに潜んでいるか分からないジョンウンの耳にも逐一入っているが、特に目立った動きは無い。 

 彼らには彼らなりの事情があり、敵が来た、さあ、攻撃だとは単純にいかないのだ。 

 ジョンウンはスイスに留学していた経験もあり、西側の事情をよく知っている。 ましてや、相手は日米軍である。 世界最強同盟軍と言っても過言ではない。 力の差は歴然としている。 普段から威嚇的な行動をしているのは恐怖の裏返しなのだ。

 部屋にポツンと一人でいたジョンウンは、対抗策をあれやこれやと考えていたが、結局、行き着くところはあれしかない。

 コンコン、「将軍閣下、入ります」

「入れ」

「彼らからの最終要求です」

「そんなもん捨て置け」

「はい!」

 ちょっと間をおいて、「トンム(同士)」

「はい!」

「核攻撃の準備をしろ」

 言われた方がうろたえて、

「・・・かく・・ですか」



   つづく





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