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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
13/27

ホットライン

加部総理にムン大統領からホットラインが入った。 いよいよ日韓激突か・・。


 浜溝からの電話で興奮冷めやらぬ滝司はその夜、なかなか寝付けなかった。 もちろん嬉しさからである。 

 遠方から、わざわざ島根県に来てくれた仲間たちを、ひょっとして無傷でお故郷に帰ってもらえるかもしれないという希望が出たのだ。 そのことが滝司は嬉しかった。

 いくら危険を承知の竹島奪還とはいえ、負傷者や死者がでたら気持はかなりめげてしまう。 

 浜溝からの朗報は飛び上がるほど驚いたし、嬉しかった。

 しかし、油断は禁物だ。 自衛隊が護衛してくれたとしても全く安全とは限らない。 やはり危険であることには変わりないのだ。

 一夜明けて、出撃を明日に控えた県連合軍の面々はそれぞれ、自船の停泊してある港に赴いて、すでに、小学校の廃屋には誰もいない。

 全日本海側の港は忙しい。 島根の浜田港、太田港、出雲港、鳥取の境港港、などなど・・、慌ただしく出撃準備を進めている最中だ。 

 港周辺には応援派と反対派の小競り合いが若干あるが、応援派の方が優勢に見える。

 応援派の中には、「ぜひ、船の中で食べてください」 といって手作りの弁当や、焼きおにぎりなど、さまざまな差し入れ品を持ってくる人が大勢いた。

 漁師一筋で生きてきたという老人が、「昔はの、竹島周辺で漁をしたもんじゃ。 アワビ、さざえ、他にもいろいろ。 あそこは宝の島じゃったの~。 ぜひ、取り戻してくりんしゃい。 これはな、昨日ばあさんと一緒についた餅でな、食べてくりんしゃい」 といって、ぎょうさんの餅を置いて行った。

 また、あるおばあちゃんは、「私は、拉致被害者のことを思うと気の毒で、本当に可哀そうで、心が張り裂けそうだよ。 芽ぐみちゃんを、芽ぐみちゃんを、ぜひ、お母さんに会わせてあげて下さいね。 あっちに行って無事芽ぐみちゃんに会ったら、こ、これを食べさせてくださいな」 といって、沢山のお菓子、ケーキなどを託すのであった。

 日本全国の港でこれと同じような光景が見られた。県連合軍の面々は心引き締まる思いで、モチベーションが一段と高まるのだった。


 自衛隊の最高司令官は、当然内閣総理大臣である。 じゃ、その自衛隊が護衛する県連合軍の指揮官は? 染谷や浜溝か? 

 浜溝はともかく染谷は退職サラリーマンの民間人だ。 日本国自衛隊が、それら民間人の自称する県連合軍なるものと協力して竹島へ出撃って、何かおかしい・・。

 加部総理は、自衛隊に県連合軍を護衛しろといったが、どうも釈然としない。 紛争が予想される所へ民間人と共に出撃してもいいのだろうか? いや、絶対に良くない。

 そもそも、これは本末転倒だ。 竹島奪還も拉致被害者奪還も国の仕事であるのに、出撃の主体が民間人になっている。 これは国の恥ではなかろうか?

 どうしてこうなった? 長年、国の煮え切らない態度が、暴発とも思える彼らの行動を引き起こしたことは加部総理も理解していて、今は多いに反省している。 

 なので、総理も決断した。 竹島も拉致問題も、これ以上引き延ばしたりしない、早急に解決してやると。

 しかし、彼ら民間人を 危険にさらしていいものだろうか?

「むむ・・。 やはり自衛隊単独で行動するべきじゃなかろうか・・」

 木志防衛大臣を呼んでこのことを話した。

「どう思う?」

「彼らが今更、はいそうですか、といって中止するわけもありません。 それでなくても国民が、国よりも彼らの方を信頼している状況では止めるなんて無理でしょう。 それに、もう間に合いません。 すでに半分ほどの船が出航しているし、残りの船も明日未明に出航します」

「しかし、民間人を・・」

「じゃあ、こうしてはどうですか、彼らを臨時公務員にするのです」

「何!」

「自衛隊の別動隊にしましょう」

「それにしたって、いろいろな法的手続きがあって、間に合わないだろう」

「事後承諾ってことで・・。 はっは・・」

「君には驚いたな。 しかし、それで世論が納得するかな?」

「竹島と拉致問題を解決すれば納得するしかありませんよ。逆に失敗すれば、内閣は終わりです。 へたすりゃ政権交代もあり得ます。 総理、覚悟ですよ」 

「むむ、背水の陣ってとこか・・」

「ええ、強い力が出るはずです」

 こちらにも事情があれば、当然あちら側にも事情がある。

「加部総理、ホットラインです」 側近から連絡が入った。

「ホットライン? 誰からだ」

「ムンジェイン大統領からです」

「ムンジェイン・・。 繋いでくれ」

 木志防衛大臣が、「それじゃ、私はこれで」 その場を去ろうとした。

「いや、いてくれ。 君にも聞いてほしい。 今回のことへの抗議かな?」

 木志防衛大臣にも聞こえるように音声を外部にした。

「やあ、これは、これは、大統領・・」

 加部が最後まで言う前にムン大統領がちょっと強い口調で、

「か、加部総理、先日お願いしたこと考えてくれましたか。 ぜひぜひ、お願いいたします」

「お願い‥?あ~、あのことか」

  実は、ムン大統領は何日か前、お忍びで首相官邸に行き、密かに加部総理に会っていた。 その時、ムン大統領は加部総理に土下座して、「スワップを! ぜひ、スワップをお願いします」 と、悲痛な声で頼み込んだのだ。

 あの、反日大統領が土下座までして、スワップを申し込んだのは、もちろん、外貨不足でデフォルト寸前だからである。 いや、すでにデフォルト状態に突入してるかもしれない。 ウォンは1ドル、2000ウォンまで下落していて、あのベネズランド状態になるのは時間の問題であった。 デフォルトは、ある意味戦争より恐ろしい。

 加部総理はその時、ムン大統領の申し入れを無下に断った。 ムン大統領の日本に対する数々の無礼な反日発言に政府も日本国民も怒り心頭で、断る以外の選択肢は無かったのである。

 韓国は過去にもデフォルトをし、IMFの助けを借りて痛い目にあっている。 さらにその後もデフォルト寸前までいったことがあるが、その時は日本が助け舟を出し、何とか難を逃れた。 だが、そんな恩はどこ知らず、その後も反日言動はいっこうに収まらない。 日本政府も日本国民も韓国に対して嫌気がさしていたのだ。

 韓国が必死であることは加部総理にも理解できる。 特にムン大統領はデフォルトの責任を取らされて逮捕されるのは火を見るよりも明らかで、加部総理もそのことは気の毒だとは思う。 が、やはり断るしかない。 

「我が日本の国民感情を考慮するとお断りするしかありません」 と言い放った。

 ムン大統領はしばらく無言だった。 そして、何かを決断したように、

「加部総理、取引をしましょう」

「取引?」

 側にいた木志防衛大臣も、「取引?」 声には出さず呟いた。

「ええ、取引です」

「どんな?」

「「日本の民間船が独島に来るそうですね。 韓国内でもその話題で騒然としています。 如何に無防備の民間船と言えども、独島の警備兵は容赦なく銃撃するでしょう。 さすがに 総理もそれは困るんじゃありませんか? もちろん、我々もそういう事態は避けたいが、独島奪還といわれるんなら、我々としても何としてでも独島を守らざるを得ません」 

 加部総理は迷ったあげく、その民間船を自衛隊が護衛するということを言った。 その民間船を準公務員にするとまでは言う必要はない。

「な、何ですって! 民間船の護衛に自衛隊が・・。 そ、それじゃあ日韓全面戦争になるじゃありませんか!」

 そんなことになったら日本と通貨スワップどころではない。 デフォルト下での戦争・・、負けは見えてる。 

「ところで、大統領の言われた取引とは何なんでしょうか?」

「ええ、言いましょう。 日本の民間船が大挙押し寄せてくれば、独島の警備隊は必ず銃撃します。 相手が無防備だろうと何だろうと機械的に攻撃します。 そうなっては総理も、スワップを申し込む私も困ります。 だが、私にはそれを止めることができます。 韓国大統領である私にはそれほどの強い権限があるのはご存知ですね。 なので、民間船に対する銃撃は絶対にならぬ。 と命令しようと思いました。 もちろん、スワップを交換条件としてですけどね。 これが取引の内容です」

 韓国大統領の強い権限は、日本の内閣総理大臣のそれとは比べ物にならないくらい大きい。 それは十分加部総理も知っている。 大統領ならこれくらいのこと容易にできるだろう。

 国民の直接選挙によって選ばれる大統領の任期は5年で、この5年間、韓国大統領はほぼ好き放題できるように日本からは見える。まるで5年間限定の独裁者を投票で選んでるようだ。

 大統領は続けた、「しかし、自衛隊が出てくるとなると、事情は違ってきます。 国と国の争い、ましてや相手が日本となると、さすがの私も国民も軍も抑え込むことはできません」

「ふむ、なるほど。 そういうことですか。 自衛隊が出ず、日本側が民間船だけなら銃撃せずに静かに竹島を明け渡すといわれるのですか?」

「い、いや違います。 銃撃は止めますが明け渡すとまでは言ってません。 それは口が裂けて言えないことです」

 そばに立っている木志防衛大臣は、これに対して総理がどう答えるか耳をそばだてていた。

 加部総理はちょっと考えた。 スワップ、取引、頭が目まぐるしく回転する。 「なら、やむおえません。 私たちは最初の計画通り竹島奪還作戦を遂行します」

「そんな、身も蓋もないことを仰っちゃ! ぜひぜひ一考をお願いします」

「私どもの目的は竹島を奪還する。 それだけです。 それじゃ」 

 といって、加部総理はあっさりホットラインを切った。

「総理、よくぞおっしゃいました。竹島奪還に邁進しましょう」 木志防衛大臣はわが意を得たりという顔をしている。

「私はね、島根県で、私ではなく県連合軍の方に向かって、お願いします。 と言ったあの人たちに対して屈辱感を覚えたと同時に、申し訳ないとも思ったのだよ。 長い間、竹島も拉致も解決できず今まできたことをね。 当事者にしてみれば、どんなに歯がゆく悔しかったことだろうと、あの時身に染みて感じたんだ。 染谷氏が行動を起こす前に政府がもっと積極的に動くべきだったと多いに反省している」

 木志防衛大臣が大きく頷いて一言、「じゃ、いよいよ彼らと一戦交えるのですね」

 加部総理にべも無く、「いんにゃ」

「へ?」

「スワップにデフォルト、彼は取引を持ち出した。 彼らはとても戦争は出来ないだろう。 どう考えてもムン大統領の選択肢は一つしかない」

「ひとつしか・・」

「彼らのもっとも嫌がることは何だい?」

 木志防衛大臣はちょっと考えた後、「「はは~ん。 なるほどね。 分かりましたよ」

 ムン大統領は青瓦台の一室で困惑していた。 民間船だけなら、無防備の民間人に銃撃してはならぬという大義で兵を止めることができる。 加部総理も絶対、この取引に飛びついてくると思っていたのだが、自衛隊までもが独島に来るとなるとそうはいかない。 大統領として国民に弱腰を見せるわけにはいかないのだ。

「うむ、どうする? 全面戦争か。 スワップを申し込みに行った相手と戦争・・。 これではスタートラインからすでに負けてるようなもんだ。 デフォルト寸前の我が国に莫大な戦費はどうしても捻出できない。 どころか、兵士への給料も滞りがちだ。 そんな状況下で日本と戦争だなんて言ったら財界の猛反発をかうのは目に見えてる。 かと言って独島をすんなり渡すなどしたら国賊と罵られ、ひょっとしたら国粋主義者に殺されるかもしれない。 むむ・・」

 ムン大統領は手を顎に当てクマのように部屋の中をグルグルと歩き回った。

そして、止まった後、「時間を稼ぐしかない。 私の任期中に結論を出す必要はない。 それには・・」

 何かを思いついたようだ。 ムン大統領の任期はあと6ヶ月あるが、これが長いのか短いのか、ムン大統領は、今のところそれは分からない。

 

 政府の動きは加部総理から浜溝知事へ、そして、浜溝知事から滝司へと逐一伝えられる。

「へ~、俺たち、県連合軍は準公務員になるんだってさ」

「あら、どういうこと?」 京子は首を傾げた。

「ふむ、ただの方便だろうね。 今回のことは、本来なら自衛隊のマターなのに、危険な場所に民間人の身分のままにして、自衛隊と一緒に行動するのはまずいと思ったんだろう。 だから、便宜的に準公務員にして、ことが終わったらまたすぐに民間人さ。 ま、どっちでもいいけどね」

「ふ~ん。 公務員ならいくらかの手当てが出るのかしら?」

「はっは・・。 あてにするな」

「つまらないわ」

「ところで、ムン大統領が密かに日本に来て加部総理に会ってたんだってさ。 それで、驚いたことに土下座してたスワップを頼み込んだんだって」

「え~! あの反日大統領が! 土下座を・・。 どういう風の吹き回し?」

「ウォンが暴落してデフォルトなりそうなんだってさ。 確か・・、今、1ドル2000ウォンくらいだったけな」

「韓国経済が大変だということはニュースで知ってたわ。 でも、そこまでとはね。 ひょっとして、あの大日自動車、1億円を振り込んでくれたあの会社ね、知ってたのかしら、ムン大統領の土下座を。 それで、賭けに出たのよ。 竹島が返ってくる方の目にね。 そうじゃないと得体の知れない県連合軍なんぞに1億円なんて大金、振り込まないわよ。 もし、竹島が返ったらものすごい宣伝効果になるわ。 竹島奪還に協賛した唯一の企業って」

「うん。 そうかもな。 大企業は政界の内部にも深く食い込んでいるし、そういうこぼれ話もすぐに耳に入って来るんだろうね」

 滝司はコップに少し残った日本酒をグッと飲み干し、「さあ、明日は早い。 いよいよ竹島と拉致被害者奪還のために出撃だ」 



      つづく

 






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