自衛隊出動!
島根県に行った後、加部総理の心が変わった。
皆がワイワイやってる小学校のグランドに、その場に似つかわしくない5台の軽自動車の車列が入ってきた。
皆の目が一斉にそちらに向いて、「何だろうと?」 と思ってる中、軽自動車のドアが開いて地味なスーツ姿の男たちがパラパラと出てきたので、口々に「何事だ?」 皆ただならぬ雰囲気を感じたが、
「あれ? 浜溝知事だぞ」「隣にいるのは、お~! 加部総理じゃないか」「え? 何! あ、ほんとだ!」
SPに囲まれた加部総理を発見して全員が驚いた。
「加部総理だ!」「なぜ? ここに?」、いろいろな声が飛び交う。
加部総理はそこそこ人気のある総理なので、加部総理と知った人たちが、男女を問わず、「キャー、加部さ~ん」「こっち向いてえ~」 と黄色い声が飛んでくる。 加部総理は声の方を向いて笑みを浮かべ、軽く手を振った。 愛想を振るためにここに来たわけじゃないが、この場合はしょうがない。
さらに、「あれ? 加部総理が降りた車、うちのと同じタントだわ。 嬉しい~。 同じ車だなんて」
「あら、ほんと! 庶民的でいいわね」
こういう声が総理の耳にも入ってきて、総理は苦笑いをするしかない。
そして、滝司や高田、田沢が前列にいる県連合軍の面々と総理は対峙することとなった。 驚いたことに浜溝知事はそっと県連合軍側の滝司の横に立ったのである。 総理は、それをチラッと見ただけだ。
総理の登場を一番喜んだのは海外メディアの記者たちだった。 このハプニングを絶好のチャンスととらえ、CNNの記者が早速、マイクを総理に向けた。 それに続いてBBC、KBSの記者たち、さらに、国内メディアも加わって、総理の顔の前はマイクだらけだ。
「総理、今回のこの騒動についてどうお考えでしょうか?」
インタビューをめんどくさいなと思いながらも無下にするわけにいかず、答えるしかなかった。
「私として今回の事態を非常に憂慮しております。全く遺憾なことであると思っております。 竹島奪還は相手国との関係もあり気長に交渉するしかありません」
記者が、「このグループは北朝鮮に拉致された人を取り戻すとも言っておりますが、それに対してはどう思われますか?」
「拉致被害者を一刻も早く取り戻したいというのは日本国民全員の悲願であり、政府も心を痛めております。 また、長年努力もしてまいりました。が、如何せん相手国のあることですので、時期を待つしかありません」
「拉致被害者はかなりの高齢だとおもいますが・・」
総理の側近が、「今日のスケジュールにインタビューの予定はありません。 このへんで終わらせてもらいます」 といって強引にインタビューを終わらせてしまった。
総理はホッとして体を対峙する県連合軍の方に向けた。そして大声で、「君たちのこの活動を、今すぐ止めたまえ!」
この総理の言葉に李氏朝鮮会の連中が呼応して、「そうだ! 止めたまえ!」「止めたまえ!」
総理が、また、「君たちのやろうとしてることは国の問題だ! けっして容認できない!」 というと、また李氏朝鮮会が、「そうだ! 容認できない!」「容認できない!」 と、総理の言葉を復唱、連呼する。
これに対して日本側からヤジが飛ぶ。 「加部総理! どっちの味方なんだい?」「はっは・・」 笑い声も起きて、総理もちょっと慌てた。 李氏朝鮮会の方を向いて、
「き、君たち。 ちょっと静かにしてくれないか」 と言った時、総理にとって、もっと衝撃的なことが起こった。
たむろする人々をかき分け、数十人の男女が口々に、「竹島を奪還して、また自由に漁ができるようにして下さい!」「拉致被害者を早く取り戻して下さい! 芽ぐみちゃんを助けて~!」 などと叫びながら、対峙する総理と県連合軍の方にやって来たのだ。 この人たちは、全国漁業組合の関係者と、拉致被害者団体の蓮川さんたちだ。 因みに、現在の全国漁業組合のトップは島根県漁業組合の柿本氏だ。
そして、驚くべきことに、やって来たその人たちは全員、滝司、浜溝、高田、田沢、・・、など、県連合軍側に近づいて手を握らんばかりに懇願するのだった。 総理に尻を向けた格好になり、総理の方には見向きもしない。 長年政府に懇願に懇願を重ねたあげく、もう、手ごたえの無い政府に期待するのを止めたのだろうか。
「浜溝知事、染谷さん、県連合軍の皆さん。 お願いです。 早く〃、竹島を、拉致被害者を取り戻して下さい。 お願いします、お願いします・・」 と言いながらその場に泣き崩れてしまった。 何十年も同じことを叫び続け、疲れ果て、感極まったのだろう。
滝司は膝をかがめて、「そのための県連合軍です。 47都道府県にあなた方の味方がいます」
このシーンを見て加部総理は大きな屈辱感を覚え、頭は混乱し、言葉が出てこない。
暫く無言状態が続いた後、「帰るぞ」
五台の軽自動車の車列は、また県庁舎に向かい、来た時と同じコースを逆にたどて行った。
加部総理の心は揺れに揺れて、側近が話しかけても全く反応しない。 外の景色も目に入らない。
今日は2月20日、沖縄、北海道、太平洋側の県連合軍賛同者の船が出航し始めた。 これからは出航を出撃と表現しよう。驚いたことに最初の出撃予定数よりはるかに多い船が加わった。 滝司の狙いが当たったのである。
出航日と集合場所をオープンにした狙いがまさにこれだった。 興味本位の野次馬連中が必ず加わってくると確信していたのだ。 数が多ければ多いほど、海上保安庁や自衛隊は手こずる。 多勢に無勢だ。 ヘリで上空から、「出航を止めたえ」「すぐに引き返しなさい」 を連呼するばかりで何の効果も無い。
加部総理も声を荒げて「彼らを止めろ!」 と命令するが、海上保安庁も自衛隊も、まさか体当たりするわけにもいかず、もしそんなことをすれば民間船なんぞ簡単に沈没してしまい、当然死者が出ることが予想される。 日本国民を守る組織が日本国民を殺せば内閣なんぞ吹っ飛んでしまう。
「ぐぐ・・。 木志防衛大臣、どうすればいい? このままでは韓国と北朝鮮、両国と一戦交えることになるぞ。 君の意見を聞かせてくれ」 疲れた表情で深くソファに座ったまま言った。
「はい。 ちょっと古い例ですが、30年前にフォークランド紛争がありました」
「うん、あったね」
「イギリス海軍は、あの遠方のフォークランド諸島に出撃し、駆逐艦シェフィールドの沈没で40名以上の死傷者を出しながら、見事フォークランド諸島をアルゼンチンから奪還しました」
総理、「・・・」
「また、アメリカ軍は、敵に捕らわれた1人の民間人でも全力で取り戻します。 たとえ、アメリカ兵が10人犠牲になろうとも・・」
「何が言いたい?」
「国家とはこういうものではありませんか? 然るに我が国は竹島も拉致被害者も長い間ほったらかしです」
「おいおい、なんて言い草だ。 ほったらかしだなんて。 政府もこれまで努力してきたのを君も知ってるだろう。 その証拠に拉致被害者も数名戻って来たじゃないか。 それに、竹島周辺での漁業権もずっと交付している」
「総理、それは詭弁です。 交付しても実際には漁はできません。 銃撃される恐れがあります。 過去に何度も銃撃や拿捕されて多大な被害が出ているのをご存じでしょう」
総理は暫く無言の後、「どうしろと?」
「私ども自衛隊に彼らを護衛させてください」
加部総理は別段驚きもしなかった。 これには木志防衛大臣の方が拍子抜けだ。 実は総理の心の中にも徐々に県連合軍を防衛しなければ・・、というふうに傾いていたのだ。
加部総理は、おもむろに両手をテーブルについて立ち上がり、「分かった。 彼らを護衛しろ。 その後の責任はすべて私が持つ」
「は、はい! ありがとうございます」
総理、「え、 ありがとうって?」
すぐに指令が出された。 「全自衛隊員に次ぐ! 出動態勢をとれ!」
軽空母出雲と加賀2隻が県連合軍の後方にピタリとつき護衛することになった。 さらに日本海に展開する3隻のイージス艦が迎撃態勢に入り、どんなミサイルでも撃ち落す気構えだ。
この事態に日本中が驚愕したが、世論は県連合軍に望みを託す人も最初の頃よりは遥かに多くなり、自衛隊の参戦にエールを送るのだった。
だが当然、左翼連中は大騒ぎで、国会議事堂前で機動隊ともみ合ったりして日本中が騒然となった。が、元々、左翼連中は多くの日本国民から相手にされてない集団なので大して影響はない。
この事態を傍観できなくなった在日米軍も急遽空母ロナルドレーガンを日本海に向かわせ、事態を見守ると同時に、いざという時には果敢に参戦する気満々だ。
日本国民の中には、「いよいよ竹島、拉致被害者を取り戻す機会が訪れた・・」 といって、涙を流す人が多数見受けられた。
もちろん、この状況は韓国や北朝鮮にも同時に知られている。 韓国では火病を起こし、泡を吹いて卒倒する人が続出した。 日本大使館の前では反日団体が暴れ、投石などもするが、韓国警察は見て見ぬふりで何もしない。
北朝鮮の反応は分からない。 だが言えることは、多くの北朝鮮人民はこの事態を全く知らないであろうと思われる。 また、食うことに必死な彼らはそんなことはどうでもいい。 ひょっとして、体制の崩壊を密かに望んでいる者も多数いるかもしれない。 この世の苦界と言われている北朝鮮だ。 絶対に多数いる。
いよいよ、滝司たち、日本海側の県連合軍の船が、今日出撃した沖縄、北海道、太平洋側からの船に続いて明後日の未明に出撃する。 この時点では自衛隊のことは滝司の耳に入っていない。
滝司は京子を前にして日本酒をチビチビ飲んでいる。 京子は、もちろん発泡酒だ。
「さあ、いよいよ大詰めだ。準備万端整った。あさっての未明に出撃するぞ。 京子、今どんな気持ちだ。 不安か?」
「私は家にいるんだから、別にどうって、不安はないわよ。 船に乗るあなたはどうなのよ? 怖くないの」
「いや、そういうことじゃなくて、俺が出撃することに不安はないのかな? っていうこと」
「あんたを見てると、あんたは全然不安そうにしてないから私も特に不安じゃないわね。 それとも、あんた、怖くなったの?」
「バカいえ。 怖いくらいなら竹島奪還なんて大それたこと考えないよ。 それこそ温泉旅行にでも行ってるさ。 お前もそうしたかったんだろう?」
「ええ、そうね。 でも諦めていないわ。 今回のことが終わったら温泉に行きましょう。 由美子たちも誘ってね」
「はっは・そうだな。 由美子を誘ってか。 ところで一郎はどうしてるかな? ぜんぜん連絡が無いが。 ま、子供じゃないんだからいいか」
「海の見える温泉がいいわね」
「老後はまだ長いから、それも考えるか。 はっは・・。 お前には、ほんと感謝してるよ。 愚痴一つ言わず会計係をしてくれて。 それに、嫌な電話にもうまく対応してくれたし、大した女房だよ。 ありがとう」
「やめてよ、ありがとうだなんて。 照れるじゃないの。 それより、遠くから来てくれた青森の田沢さんや他の人たちも、あの人たちにこそ感謝すべきよ。 あなたに賛同してくれて島根県まで来たんだから、それに私たちはこうして家でくつろげるけど、あの人たちはずっとホテル住まいで何かと不自由だと思うわ」
「うん。 分かってる。 青森の田沢さん、秋田の高田さん、山形の早坂さん、などが来てくれた時には飛び上がるほどうれしかったよ。 それから山口の桂木さん、福岡の鹿毛さん・・。 どんどん増えて、今ではここ松江に500人も集まってる。 日本全国にも多くの賛同者がいることが分かって、俺の気持ちも完全に固まった。 竹島、拉致被害者奪還だ!ってね。」
「あんた、忘れてるわよ。 浜溝知事を」
「そうだな。 浜溝知事にはほんと驚いた。 あの人の存在は多いに心強かったよ。 でも、リコール運動だなんて・・。 気の毒だ」
「そうね・・」
トゥルルル~~。 電話だ。「こんなに遅くなにかしら?」
「はい、染谷です」
「あ、奥さん、夜分すみません。 早くお知らせしたくって」
「その声、浜溝知事ですね。 どうしたんですか?」
「え、浜溝知事」 滝司も驚いた。
浜溝知事は興奮気味で、「じ、自衛隊が県連合軍の護衛をしてくれるそうです。 今しがた木志防衛大臣から連絡がありました」
「え~!」
滝司は京子のそばに駆け寄って、「ちょ、ちょっと代わってくれ。 あ、電話代わりました。 知事、何ですって?」
「あ、あのですね。 自衛隊が県連合軍の護衛をすることになりました」
「・・・・・」 滝司は興奮のあまり声が出ない。 やっと、ポツリと、「自衛隊が護衛してくれる・・」
京子は喜びのあまり、目にうっすら涙を浮かべている。 本当は滝司のことが心配で心配でならなかったのだ。 全身の力が抜けたようにその場にへなへなと座り込んでしまった。
感動でしばらく声が出なかった滝司に浜溝知事が、
「染谷さん」
「はい?」
「浜溝知事ではなく、浜溝さんって呼んで下さいな」
「は、はい。 知事」
つづく




