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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
11/27

軽自動車

 加部総理は島根県に着いた。 そして、用意してあった車は軽だった。


四日後に島根県隠岐の島の沖合70km、つまり隠岐の島と竹島の中間点に全船舶が集合するのだ。太平洋側や沖縄、北海道から参加する船は早めに出航しなければならない。 作戦などの細かいことはとっくに全船舶に通知してある。 その通知の内容が他に漏れようが漏れまいが、そんなことはお構いなしだ。 我々の行動の意図はとっくに日本中に、あるいはお隣半島にも知られている。 全船舶の集合場所も日時もオープンで極秘裏の行動ではない。 なぜなのか? そこには滝司の深謀遠慮があった。

出航日が迫って来ると、ここ松江の小学校の廃屋に多くのメディアが集まってきた。 地元はもちろん、東京からも、更には、アメリカのCNNや英国のBBC、韓国のKBSなど、海外のメディアさえも県連合軍に取材を申し込んできた。 なぜかNHKからは誰も来ていない。

 メディアだけでなく、普段から好意的なコメントをくれるチャンネル菊の水山社長までもがはせ参じて、県連合軍の面々と力強く握手を交わした。 他にも滝司たちに理解を示してくれる地元テレビのコメンテーターの来海とか、中央のテレビ界で活躍する武田邦夫とかが応援に駆けつけてくれて、この廃校舎のグランドは大賑わいだ。 

 話題の少ない山陰のローカルな地域がこんなにもニュースの中心になるのは初めてなので、興味本位の野次馬たちが県の内外から多く集まり、一般道、高速道路ともに大渋滞になってしまった。

 それに伴って地元のコンビニ、スーパー、ホテル、あるいは観光地なども大繁盛だ。

 と、ここまでは良いことづくめだが、相対的には圧倒的に多い反対者も、当然ながら集まってくる。 ましてや浜溝知事はリコール運動の真っ最中で、批判者グループが、「浜溝やめろ~! 浜溝やめろ~!」のシュプレヒコールを叫びながらやって来た時は一触即発の状況になった。 が、見守っていた機動隊が割り込んでかろうじて大事には至らなかった。 そして、幸いにも浜溝知事はここにはいない。

 さらに、反対派の主力である李氏朝鮮会が、前回よりも人数を増やし五十人ほどで乗り込んできた。 だが、人数を増やしたと言っても五十人だ。 五百人はいるかと思われる県連合軍の前では圧倒的に少ない。

それでも威勢だけは良かった。

 染谷をだせ! 首謀者の染谷をだせ!

 この大声は滝司にも聞こえた。 首謀者とは失礼だな、と思いながら、「染谷は私だが。 何の用でしょうか?」 李氏朝鮮会が以前四人でここにのり込んで来たときには桂木が対応し、滝司は会っていない。 だが、どういう連中か話だけは聞いている。

 李氏朝鮮会のパクが、「独島は紛れもなく韓国領土であり、このような我が国を侮辱するような行為は絶対に許さん! すぐに中止しろ!」 パクの連れて来た他の者たちがこの言葉に呼応して、「そうだ! 中止しろ! 中止しろ!中止しろ!」 

 拳を振り上げて叫ぶと日本側からも罵声が飛ぶ。「ここはてめ~らのいるとこじゃないんだよ! とっと半島に帰りやがれ!」

 そんな喧騒の中、外国の記者が罵りあう両者の間に割って入って、「お互いの言い分を聞かせてください」 といってきた。

 県連合軍側は史実に基づいた入念な資料を予めプリントアウトしてあったので、それを記者だけでなく多くのギャラリーに配った。 それには竹島で韓国警備隊により銃撃されて死傷した漁師の数や、北朝鮮による拉致被害者の実状などが写真入りで詳しく分かり易く、英語、日本語、韓国語で記してある。

 それに対して李氏朝鮮会の方も、「我々も資料を持って来た」 といって四人ほどの男が配り始めた。

 滝司は、その四人を見て、「あれ? どこかで見たような・・。 あ、思い出した。 俺を殴った奴らだ。 え~と、朝鮮統一・・なんちゃっらって言ったかな? 名前は・・確か・・、三上・・、うるし谷・・。 後の二人は忘れた。 へ~、こいつら李氏朝鮮会に編入されたのか」 

 滝司は話しかけようと思ったが止めた。 相手にするほどの連中でもない。 ニヤニヤしながら、その四人を見てるだけだった。

 外国記者も、県連合軍の面々も、一般ギャラリーも、配られた資料を手に取ってそれを開いた。

 それには見開き全部の大きな写真が載っていて、よく見ると鎌倉の大仏の前で修学旅行らしき女子高生たちが集団で横断幕を広げて写っている。 もちろん韓国の女子高生だ。 その横断幕には、独島はウリの神聖な島だ!、と書いてあり、女子高生全員が右手こぶしを空に向かって上げていた。 さらに次のページを開くと、幼児が描いたと思われる竹島の絵が何枚もあり、同情を買うような工夫がされていた。

 パクが、「どうだ! 君らはこれを見て何とも思わんのかね。 純真な子供たちの気持ちを理解できないのかね。 この子たちが噓をつくはずはないのだ。 よって、独島は我々のものだ!」

 この言葉を聞いて外人記者がキョトンとしている。 ぜんぜん論理的でないことを堂々と主張するこの人は、いったい何が言いたい・・?

 少しは理性のある韓国KBSの記者が、ちょっと慌てて助け舟を出した。

「我が国には独島が韓国領であるという証拠が山ほどあったが、日帝時代にそれらを全部日本によって焼かれてしまったのだ」

 それを聞いて、日本側が、「いい加減なこと言うな! お前らには歴史を記録する文化なんか無いじゃないか! バカヤロー!」

 と、まあ、こんなふうに、ここ小学廃校舎で怒号が飛び交っている最中、加部総理と数人のSPと政府関係者を乗せた政府専用機が出雲空港に到着し、さらに、ヘリコプターに乗り換え松江の県庁舎屋上にあるヘリポートへとに向かった。

 上空から見る宍道湖、中海は美しい。宍道湖ではシジミ漁師の姿が見えて、まるで絵画のようだ。

 島根県庁舎の屋上ヘリポートには浜溝知事、大沢秘書、と他に数人の県庁の役人が加部総理を待っている。

 大沢が浜溝知事に、「知事、加部総理は激怒してるようですね。 どうなるか不安です」

「心配しなくていいさ。 とにかく、県連合軍の現場にお連れすれば総理も感じるものがあるだろう」

「そうですかね・・」

 ヘリが見えた。 「来ましたね。 歓迎の手でも振りますか」 役人の一人がいうと、「止めたまえ。 物見遊山に来られたんじゃないんだ。 かえって機嫌を悪くされる」 その通りだ。

 ヘリは物凄い風を下に叩きつけながら無事に降りた。

「総理、お疲れでしょう。 わざわざ来県下さり・・」

「挨拶はいい。 浜溝知事・・、え~と、染谷何某といったっけ? 君らはほんとに困ったことをしてくれる。 国際問題になり始めてるぞ。 それに君にたいしてはリコール運動だ。 いったい島根県はどうなってるんだ? 政府としてもほっとくわけにはいかん。 何としても県連合軍とかを強権でもってしても解散させるぞ。 さあ、あのふざけた連中の所へ案内してくれ」

「はい。 ささ、エレベーターに」 大沢が腰を低くして皆を案内する。

 エレベーターで降りて一階の正面玄関前に行くと軽自動車が五台駐車してあった。 総理の側近は、まさか、それが総理の乗る車とは思っていないから、

「車はどうした? 早く用意しろ」 と居丈高に言う。

 大沢が、少し申し訳なさそうに、「あのう、この軽自動車に乗って頂くんですが・・」

 それを聞いて側近が目を吊り上げ、「何だと~! 総理大臣に軽自動車に乗れって言うのか! ふざけんな! さっさとまともな車を用意しろ! センチュリーかレクサスを用意するのが当然であろうが!」

県庁の役人が驚いて、「は、はい。 すぐレンタカーを用意しますんで、ちょ、ちょっとお待ちください」

「いや、いい」 浜溝知事は行こうとした役人を手で制して、総理の側近を睨みつけた。 先ほどの言葉に浜溝はキレていた。 キレたといっても、そこは人格者の浜溝だ。 安っぽいヒステリーなどは起こさない。

 静かに深みのある声で、「あなたは島根県民を、いや、日本国民を愚弄するおつもりですか?」 目は怒りに満ちている。

 相手の役人はちょっと驚いて、「総理に対してそれなりの高級車を用意するのが当然じゃないか!」

「軽自動車は島根県民の貴重な足です。通勤、通院、通学に重宝してます。 もっと言いますと、日本で売れてる車の半分は軽です。 日本の重要な一大産業ですよ。 あなたは、それをバカにして乗れないと仰るのですか?」

「バカになんかしていない! 軽だと、万が一事故でもあって総理の身に何かあったら島根県はどう責任を取るんだ!」

「あなたはご存知ですか。 軽自動車の事故率は普通車のそれより圧倒的に少ない。 それに、あなたは聞き捨てならないことを仰った。 総理の身に何かあったら・・。 じゃあ、県民、国民の身は心配しないのですか? 軽自動車がそんなに危険な乗り物ならスズキやダイハツに製造中止を勧告されたらどうですか」

「ぐぐ・・。 屁理屈ばかりを言いやがって」 

 このやりとりを側で聞いていた加部は心の中で、「浜溝は昔からちっとも変わってないな」 加部の顔にちょっと笑みがこぼれて、

「いいじゃないか。 これに乗って行こう」 総理がそう言うならそうするしかない。

 この総理の言葉を聞いて一番ほっとしたのは大沢だった。 背中は汗びっしょりだ。

こうして、総理を乗せた軽自動車の車列は、松江市郊外の喧騒真っただ中の小学校廃屋へと向かった。

山口県の名門一族である加部家は代々政治家が多く、現在の加部総理を加え、加部家から三人の総理大臣を輩出している。

  加部総理自身は大学卒業後、一時民間企業に就職したが、その後政治家へと転身した。

 こんな環境で育った加部総理は軽自動車に乗る気も、乗る機会も無かった。 そんな加部総理は今回軽自動車に乗るのは始めてで、ある意味この小さな車に興味津々だ。

 乗ってみて驚いた。 外からの見た目より中は思ったより広い。 180cmの加部総理の頭上にこぶし一つの余裕がある。 そして案外乗り心地もよく、静かだ。 それに、やたらと小物入れが多く、「これは便利だな。ほ~、赤ちゃんを乗せる配慮までしてあるのか」 感心しきりだ。 先ほど文句を言った役人も同じように感じたのだろう。顔を見れば分かる。 

 日本の自動車産業の半分を担う軽自動車に政府がこの程度の認識では困るとは思うのだが・・。

 おっと、楽しいドライブではない。 これから不愉快な場所に行くのだから。




      つづく


 

 



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