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島根県立軍出動 竹島奪還作戦  作者: 平谷 口
10/27

セーフティーネット

 仲間たちと談笑するのは楽しい。 だが、それもほんのひと時だ。 次から次へと問題が生じて来る。

 

 倉沢が、前回来た時の二人と新たなメンバー七人を合わせ、合計十人で久しぶりに島根県にやって来た。 もちろん県連合軍に加わるために。

「染谷さん、お久しぶりです。 お元気そうで何よりです。 奥さん、お元気ですか?」

「ええ、私どもは元気にやってます。 倉沢さんには本当にお世話になりました。 感謝申し上げます」

「はっは、よしてください、感謝だなんて。 染谷さんこそ、いろんな嫌がらせや脅迫に耐えて、よくぞここまでやってこられました。 感心してます」

「みんなのおかげです」

「今回私と一緒に来てくれた者を紹介します。 寺田と酒井は前回すでに会ってますね」 といった後、倉沢は横にいた新しいメンバー七人を一通り紹介した。 

「染谷さんにお会いできて光栄です」 七人は一斉に頭をさげながら、「よろしくお願いいたします」

 滝司は手を横に大きく振りながら、「光栄だなんて・・。 よしてくださいよ」

 倉沢以下全員が校庭をみながら、「それにしても、大勢の人が集まったもんだ。 心強いな」

「ええ、日本中から来てます。 ささ、それでは会議室に行きましょう。 進捗状況を知っていただきたい」

 沢山ある教室の一つを会議室、というより作戦室だ。 会議をするには狭いので、その時は体育館を使用する。 学校というのはいろいろ便利なもんだ。 3LDKの分譲住宅に住む滝司にとって広々とした空間は、なんとなく嬉しい。

 その作戦室には、当初から滝司に賛同していた五人がいた。 秋田県の高田、青森県の田沢、山形県の早坂、福岡県の鹿毛、そして山口県の桂木だ。

 五人は黒板に何やら図を描いてワイワイやっている。 今では黒板に代わってホワイトボードが主流と思われるが、この廃校には黒板しかなかった。 幸いチョークもあり、ラッキーだ。

 滝司はそれを中断し、お互いを紹介した。

 五人は、倉沢とはネットで情報をやりとりしてたので、初めてあったような気がしない。 旧知の中のようだ。

「よろしく」 「よろしく」 と言葉が飛び交った後、一人が黒板に描いてある図をみて、

「何ですか、これ?」

「陣形です。 魚鱗です」 鹿毛がいうと、後から来た染谷、倉沢以下全員が、「陣形? そんなことまで考えていたんですか。 すごいな」

 一人が、「魚鱗の陣形って・・?」

「ええ、ただ単に三角形です。一艘の船を鱗に見立て、その鱗がたくさん集まって大きな三角形を作ります。 そして、三角形の一つの頂点を先頭に末広がりになり敵陣に向かうという、まあこういう陣形です。 ついでに言うとですね。 皆さんも知ってると思いますが、関ヶ原の合戦で、徳川軍がとったのが魚鱗の陣形で石田軍のそれは鶴翼の陣形でした。 はっは、でも我々が向かうのは海の上ですから参考になるかどうか・・」

「ふむ、でもこれでは、先頭の船は、敵からしたら格好の標的になりますね。 狙い撃ちにされる」

「その分、後方の船は被害が少なくなるということです。 てんでバラバラに突き進んでいくよりはましですね」

「それじゃあ、先頭の船に乗る人は囮になるようなもんじゃないか。 気の毒だ」

「なので、この陣形を提唱した私が乗ります」 と、鹿毛が言うと皆驚いて、「鹿毛さん、無茶だ。 もっと安全策を考えましょう」

「安全策? どんな?」

 ワイワイやってる中、染谷が、「先頭の船には竹島奪還作戦の言い出しっぺの、この私が乗ります。 当然のことですよね。ハイ、以上決定!」

「ちょ、ちょっと待って下さい。 勝手に決められては困る。 私が乗る」 今度は秋田県の高田が名乗りを上げた。

「いや、私が」「いや、俺が乗る」 ・・、 おれが、おいらが、わしが、おいどんが、拙者が・・。 ワイワイガヤガヤ。

 日本人というのは、こういう状況では必ずこうなる。 最終的にここにいる十六人全員が乗ることになってしまった。 いや、十五人だ。 倉沢は残ってユーチューブで応援することになった。 まだまだ賛同者を募りたいのだ。 

 一段落ついて、それぞれペットボトルのお茶を飲みながら談笑し始めた。

 滝司は皆を観察するでもなく見ていると、倉沢と桂木が一番馬が合ってるように見える。 その二人を中心にやたら笑い声が聞こえてくる。

 滝司は、「プ・・」 っと、小さく吹いた。

「おやおや、長州人と会津人がこんなにも打ち解け、笑い合ってるとは」 

 滝司は、「日本人は、国内で何か他県同士が諍いをしても決して分裂することはないな」 と思うのである。

「ふむ。 同じ、天皇の赤子であるという気持ちがどこかにあって、自然と、また元の鞘に収まってしまうのかな? 天皇の存在はとてつもなく大きい。 日本国民をまとめ上げる、この求心力は何物にも代えがたい」

 ひるがえって、お隣の朝鮮半島はどうなのだろう? 彼らの国を纏める求心力とはいったい何だろう? 滝司は思いつかなかった。 反日を叫ぶことが求心力か・・?

 だとしたら、朝鮮半島は永遠に統一は無い。 たとえ一時的に何かの間違いで統一したとしても、人間に序列をつけたがる、その民族性によって、すぐまた分裂するだろうことは容易に想像できる。

 なぜなら、韓国人は北朝鮮より圧倒的に優位な、その立場によって北朝鮮人を徹底的に見下し、決して同胞とは見なさない。 北朝鮮人は新た白丁階級となるのだ。 いたたまれなくなった北朝鮮人はまた独立しようとする・・。

 国家が国家として成り立つのは、そこに何か強い絆があり、それが求心力となってまとまらなければただの烏合の衆だ。 私利私欲だけに走り、いざというときには安全な海外にためらわず逃げて行ってしまう。

 アフリカの方々には失礼な言い方になると思うが、部族単位で生活してた人たちが、白人の引いた線の国境の中で同じ国民意識を持てるのだろうか? 現代でも部族間の争いがあると聞く。 そのようなアフリカ人が近代国家を建設できるかどうか、甚だ疑問だ。

 滝司は笑みを浮かべ、倉沢と桂木の二人の方を見ながら、頭の中でこのようなことを考えていた。

 その二人が三~四人と共に滝司の傍にやって来た。

 田沢が、「染谷さんに聞きたいことがある。 竹島に突撃すれば、ひょっとしたら染谷さんの身に危険が及び、最悪死ぬ可能性もあるのに、家族の反対は無かったのかい? とても平然とはしてられないと思うんだが」

 他の者も、「うん。 ぜひその辺のところを聞かせてほしいな」

「ええ、いいですよ。 話しましょう。 そもそも、知事選に立候補することに家族は全員猛反対でしたよ。 いや、長男の一郎はどうだったか分からないな。 暫く連絡が無いもので、はっは・・。 立候補した目的が島根県立軍を造って竹島を奪還するというものでしたから、家族はもちろん、島根県民にも嘲笑されました」

「そりゃ、そうでしょうね。 我々は、そういう想いは有っても、染谷さんのように、とても行動に移す勇気はなかった」 

「そんな反対の奥さんが、どうして最終的に賛成されたんですか?」

「私の定年退職祝いです。 長い間ご苦労さんでした、ということのご褒美でやりたいことをやらしてくれたのです」

「そんな~! 軽すぎる。 老後のやりたいことって、ふつう温泉旅行とか、そんなもんでしょう。 それがどうして竹島奪還につながるのでしょうか?」 京子と同じようなことを言っている。

「私は、平成十七年に竹島の日が島根県議会によって定められた時から、ずっと島根県庁前に行ってます。

もっとも、仕事に差し支えない場合ですけどね。 そんな姿を見続けてきた京子は、悩んだ挙句理解を示してくれたんだと思います。 そして今、京子は県連合軍の会計担当をしています。 はっは」

 他の者はお互い顔を見合って、「はっは・・って。 あきれた。」 

「染谷さんが竹島に突撃すれば死ぬかもしれないという心配は、奥さんにはないのですか?」

「ええ、保険増額したと言ってました」

「真面目に答えて下さい! も~。 染谷さん自身はどうなんです? 死ぬことを心配していないんですか?」

「え~、そうですね・・。 漠然と、心配していないです」

「え? 漠然とって、どういう意味?」

「急病になれば救急車が来ます」

「来ますね」

「火事になれば消防車が駆けつけてくれます」

「くれますね」

「最悪、生活が破綻すれば生活保護があります」

「ありますね・・。 はっきり言ってください。 それが何の関係が?」

 滝司は、ちょっと真顔になって、「私は、子供の時からそれら全てを経験しています」

「全て・・」

「はい、全てです。 困ったときに国家のセーフティーネットにお世話になってきました。 本当に助かりましたよ。 なので、我々が竹島に突き進んで身の危険にさらされても、きっと国家が、また助けてくれます」

 それを聞いて他の者が一様に、「ちょ、ちょっと待って下さい。 染谷さん、それって全然論理的じゃないですよ。 どうしてそれが竹島と関係あるんですか? どうして我々の命を助けてくれるんですか?」

「国家最高のセーフティーネットは自衛隊だからです。 いくら県連合軍の行動が無謀と言われようと、国民が危機に面している時にほっとけるはずがありません。 それが国家に対する信頼というものです。 このセーフティネットが機能しなければ、いずれこの国は・・終わります」

「染谷さん、あんたは自衛隊を、国を試すつもりか・・」 いつか浜溝さんともこのような話をしたなあ~、と思いながら、

「まさか、そんな大それたことを。 私はただ、竹島を、拉致被害者を取り戻したいだけですよ。 皆さんはどうなんですか? 家族の反対は無かったんですか?」

 一人が、「俺は独り身だし、目の黒いうちに絶対に竹島や拉致被害者を取り戻したい、そのシーンを見てみたいという強い思いだけです」

 さらに他の一人が、「おら~、おっか~に、あんた、邪魔だからどっかに行っちまいなって言われてここにやって来た」 と言って笑いをさそった。

 ここに集まって来た人の家庭の事情や気持ちは様々だろう。 ただ言えることは皆同じ目的を持って集まって来たということだ。

 そんな中、我々に何かと協力してくれた浜溝知事に対してとうとう、予想されたことではあるが、リコール運動が起こった。

「県政をないがしろにして、あのような胡乱な連中に知事が加担するとは何事だ! 竹島を奪還するとか、拉致被害者を取り戻すとか、おおよそ不可能なことを声高に叫んで県民を惑わすような連中と島根県知事とがグルだなんて、なんてことだ! 恥を知れ!」「リコールだ!」「すぐやめろ!」「やめろ~!」

 リコール運動が起こったとしても、その決着がつくのは三か月も後のことだ。 それまでに竹島も拉致被害者も結果が出てる。

 滝司は、「浜溝知事には気の毒と思うが、我々は気にせず前に進もう」 県連合軍の全員にこう言うのみだ。日にちは迫っている。 

 一方、加部総理は、「ちきしょう浜溝のやろう! なんてやつだ。 あのアホな連中と行動を共にするだと! 狂ったか! 言わんこっちゃない、リコール問題に発展したじゃないか。 自業自得だ。 とにかくあの連中を止めなければ。 自衛隊、海上保安庁、警察を総動員してでも止めてやる。 韓国や北朝鮮を相手に島根県が立ち向かおうなんて正気の沙汰じゃない。いくら旧くからの友とはいえ許さん! むむ・・。 しゃ~ない。 島根県に行こう」

 加部総理は間違っている。 今や立ち向かおうとしているのは島根一県ではない。 ほぼ日本全県に応援者がいるのだ。 船は出さなくても支援物資を送ってくれる人たちや、あるいは、「ぜひ、竹島を奪還してほしい」「芽ぐみちゃんを早く早く取り戻して~!」 などの悲痛な熱いメッセージも沢山くるのだ。


        つづく



 













 



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