序章 7 さとみちゃん、おきつね様になる
だいぶ間隔が空いてしまった……。
プロローグも、もうすぐ終盤、頑張ろう。
まだままんのお友達紹介してるだけで、異世界に行ってないし。
さとみちゃん視点です。
ままん達がぼくが産まれた時の話で盛り上がってる、ちょっとやめてよぉ……『いっぱいママのおっぱい飲んで元気に育った』とか、『オムツを変えるのに四苦八苦した』とか~、赤ちゃんの頃の話とはいえ、何だか恥ずかしいんだけど!?
「ん? 何だ?」
おにいちゃんが何かに気付いたかのように、声を出して足元を見てる。
「メェェ~」
ほわぁー!? もっこもこー!!
まん丸くて白いモコモコがいたーっ!
「おんやぁ、メメでねぇが、お前まだ呼ばれでねぇべ?」
「ダゾにゃん、何かあったのかにゃん?」
「おぉ、羊……そうか未だな」
牛田氏とノルちゃんが羊に気付いて声かけてる、おにいちゃんは足をすりすりされて嬉しそう、いいなぁ~ぼくもすりすりされたいよ!
「うん、珠実さんに待ってて~って言われたはずだけど?」
「にゃぁ、『退屈だったから来ちゃった』ダゾにゃあ~? まったく、しようのないヤツダゾにゃーお前は!」
ゆかりちゃんが、顎に手をあてて『うーん』って言ってるそばで、ノルちゃんが翻訳してくれたみたい、そっかそっか~待ち疲れたのかな?
「いいじゃん、いいじゃん! 可愛いよぉぉ! もこもこ~♪」
「……さとみ、語彙力」
はうっ! さっきおにいちゃんに言ったこと、そっくり返されちゃった。
でも、仕方ないよね、このモコモコ見たら言葉なんて失うよ!
あぁ~ん、ふわっふわー! 最高~♪
「これこれ、まだ御呼びが掛かっておらぬと言うのに! いけませんぞメメ殿?」
声に振り向くと、そこには3人の人がいた。
2人の男性と1の女性、男性の1人は、時代劇でよく見るようなおさむらいさん。
さっき声掛けた人だね。
ポニーテールに、額に……えっと、鉢金だっけ? をつけて、2本の長さが違う刀を腰に差している。
端正な顔立ちって言うのかな? イケメンだねぇ、むふ~ん、おにいちゃんには敵いませんけどねぇ~まぁ、それは置いといて。
新撰組みたいな服着てる。
あれって……袴? 何て言うの、知ってる人教えて~。
で、もう1人の男性は……ん~、お坊さん?
どっちも大きい、おさむらいさんはおにいちゃんより、ん~……ぱっと見10cmくらい低い背丈、170cmくらいかな?
お坊さんは更に大きくて……、ん~190cm以上あるんじゃないかな?
見上げる首が痛くなりそう……って思ってたら、お坊さんが正座したんだけど、気を遣ってくれたのかな?
丁度良い目線になったけど……それでも大きい、厳つい顔には深い皺……『彫りが深い』って言えばいいのかな?
お地蔵さんが被ってる帽子みたいなの、何て言うんだっけ? それがよく似合ってる。
凄く広い肩幅はぼくが軽く3人並ぶくらい、首もふっといなぁ~丸太みたいだ。
大きな、数珠って言うんだっけ? を、首から下げて、法衣? の上からでも判るこれまた太い腕。
きっと沢山鍛えてるんだね、格闘技とかやってる人がお坊さんの格好してるみたい。
そして、女性……まさかの十二単で、髪、なっが! 床につくほどってどんだけよ?
紫式部かな? それとも清少納言? リアルで十二単着てる人初めて見たよ!
ぱっつん黒髪は、超長いけど凄く綺麗~、あれだよ……みどりなす黒髪?
うーん、これで眉毛が麿眉だったら、もろ平安の人なんだけど、普通の細眉だねぇ。
あ、でも、平安の女性って顔隠すのが普通なんだっけ?
顔見せしてるしやっぱ違うかな。
「天狐様、申し訳御座いませぬ……メメ殿が駆けてしまいました故、止めようとしたので御座るが……猿、雉共に結界を抜けてしまい申した」
「……如何様な罰も受ける所存」
「すみませ~ん」
あらら、3人ともままんの前で土下座始めちゃったよ、3人とも息が合ってて綺麗な土下座です。
「そっか、キミはメメちゃんって言うんだね、ぼくはさとみ。よろしくね~♪」
「めぇ~♪」
うっは! 可愛い~両手の蹄を持って上下に軽く振ってあげると、めぇめぇ~って言うよ!
思わずぎゅってして、ふわふわのもこもこを顔面で堪能、お日様のにおいする~。
「あらあら、いいのよ~みんな、私もちょっとお喋りに夢中になっちゃってたから、こっちこそ呼ぶの遅れてごめんなさいね~メメちゃん退屈だったわよね?」
「メェー!」
「はは、まったくだって言ってますよ、珠実さん」
うんうん、おにいちゃんの言う通りだね、ぼくの赤ちゃん時代の話でだいぶ盛り上がってたし、メメちゃん退屈しちゃうよね!
ままんは、メメちゃんを撫で撫でしてごめんねぇって謝ってる。
「さぁ、3人とも、珠実さんのお許しも得たのですから、さとみさんとお兄さんに自己紹介をしては如何です?」
神主さんがそう言って3人を立ち上がらせる、うん、正直土下座されたままっていうのは居心地悪いから助かるね。
この3人もどんな人達なのか気になるし。
「珠実さん……今度は桃太郎ですか?」
「ちょっと! お兄ちゃんは察しが良すぎると思うの!」
ほわ?
桃太郎……なんぞいきなり~今干支の話じゃなかった?
「いや、さとみちゃんや……干支の話で間違いないが」
じっと見てたからか、おにいちゃんがぼくの考えてることを察したみたい……見つめあって意志疎通とか、うへへぇ~愛を感じちゃうね。
「単純に順番だよ、未の次に続くのは、申、酉、戌……だろう?」
「あ、そいえばさっき、おさむらいさんが『猿と雉…』って言ってた!」
「だな、珠実さんの事だ……魔王ごっこならぬ桃太郎ごっことかやっててもおかしくない。そうでしょう、珠実さん? お、結構重いなコイツ」
おにいちゃんがメメちゃんを抱っこして、メメちゃんの前足握ってままんをその蹄でビシィって指差した、気のせいかメメちゃんがドヤ顔してるように見えるんだけど。
結構簡単に持ち上げるね……メメちゃん結構大きいよ? 中型犬くらい、あ、でも、もこもこのせいで余計に大きく見えるのかもしれないね。
「うぅ、何か悔しいけど正解よ、お兄ちゃん。実際に桃太郎ごっこもやったし、悪い鬼も懲らしめてやったわ!」
ままんが狐耳をペタンと折って、『ぐぬぬっ』って悔しがってる。
実際に鬼退治したんだ、何かびっくりだねぇ。
「順番に紹介すると、今、お兄ちゃんが抱っこしてる子が未のメメちゃんね、昔群れからはぐれてメェメェ~鳴いてたから拾って育ててるの。甘えんぼで可愛いのよ~」
うん、激しく同意したいね! リアルに羊を見る機会なんてあんまりなかったから、すっごく新鮮だよ、意外と大きいし予想以上に可愛い。
「で、そこの3人衆が申、酉、戌……世紀末の覇王みたいなお坊さんが申の猿、十二単着たアホみたいに長い髪が酉の雉、大ちゃんほどじゃないけど、イケメン侍が戌の犬ね」
……え~紹介、雑ぅ!
名前がまんまそれなの?
「え……? 珠実さん、彼等の名前ってそのまま猿雉犬……なんですか?」
おにいちゃんもびっくりしてる、そうだよねぇ、普通名前あるでしょうよ?
「元々、我等は名無し」
「如何にも、拙者達は孤児故、親の顔すら知らぬので御座る」
なんて思ってたら、お坊さんとおさむらいさんがそう言った、そっか……そもそもぼく達とは過ごしてきた時代が違うんだ、ぼく達の常識が的外れな事も多いんだね。
「あっはっはー! そんな顔しなくていいっすよ! ウチら名前なんて気にしてる余裕もないまま死んじまって、珠実さんに拾われたクチなんすけど、今はかなり良い暮らしさせてもらってるんで!」
ふぁっ!?
雉の子がめっちゃ軽い口調で話しかけてきたんだけど、いやいや、その見た目でその口調はギャップが凄いよ、ぼくもおにいちゃんもビックリだ!
「いやぁ、最高っすよ~? 生前満足に食べること出来なかったっすけど、今や朝昼晩におやつまでついてきますし、みんなが色々教えてくれるし……悠々自適っす!」
「ヌシは少々羽目を外し過ぎよ……日々修行、天狐様の御為に」
「まったく、お主達二人は……いつも変わらぬなぁ、足して割ってやれば程よくなるで御座ろうに……」
どうやら雉の子は結構軽い性格みたいで、お坊さんは見た目通りの堅物、で、おさむらいさんは柔軟な思想の持ち主みたいだね~。
「そう言えば、この3人って新参なんだっけ、たまみん?」
「ん~、そうねぇ最近って言えば最近かしらん、ざっと4~500年前?」
「えっ? そんなに、最近?」
えぇ~……4~500年前が最近なのぉ?
ままんとトラちゃんの話を隣で聞いてて、びっくり……今日は一体何回びっくりさせられるんだろう?
「……さとみ、あやめ姫は700年代の人物だぞ?」
「ふぁっ!? あそこでうーちゃん追っかけてる天女様が!?」
おにいちゃんの言葉に思わず、ピンクのウサギとおいかけっこしてるあややんを見る。
とんでもないね、完全にぼくの理解を越えちゃってる……訳わかんないってヤツだ。
「……改めてご挨拶させてもらうっす! ウチは酉の雉っす! 鶏じゃないのはまぁ、珠実さんの思い付きってのが大きいんで、勘弁してほしいっすよ~」
「戌の犬で御座る、生前の無力を悔い、日々を精進に費やしているで御座る、必ずや御二方の力になるで御座るよ!」
「……我は、申の猿……いかな武勇、知謀、知略もすべて心あってこそ。
神の子とその伴侶、主等に心有るならば我も力を貸そう」
……お、おぉう。
3人に挨拶されて思わず呆気にとられちゃった、『神の子』ってぼくのことか~。
改めてままんをじっと見る、見慣れた顔に狐耳と尻尾……駄目だ、普通にコスプレしてるだけに見える……実は凄い神様だって言われてもわかんないよ……。
「うりんぼもいらっしゃいな、ん? あら、どうしたのさとみちゃん、ママの顔じーっと見て?」
「あー……ままんって本当に凄いんだなぁって、ぱっと見、いい年したおばさんがコスプレしてるようにしか見えないけど……いい年したおばさんが」
「何で2回言うのよ!? もう~、この子ったらホント悪い子になっちゃって!
そんな子はこうしてあげるんだから! えいっ!」
ままんがそう言って、ぼくの頭の上に『ポン』って手を置くと、凄く頭がムズムズし出した。
それに、何だろう……お尻も。
「うえぇ!? 何なに!?」
「さとみちゃんは、ママの娘だからね~いい加減覚醒しちゃいましょうね♪」
うわ、何か頭から出てきたぁ! って、お尻も尾てい骨がピクピクしたと思ったら、何かグーンって伸びたよ! 痛くはないけど、何だろう……骨が剥き出しになってるような、いや、尻尾だってのは理解したんだけど、しかも一本じゃないよねコレ!?
「うわわっ!? おにいちゃんおにいちゃん! ぼくどうなったの、どうなってるのー!?」
「おぉ、あー……落ち着けさとみ、まず、珠実さんと同じような狐耳が頭から生えてる。
そして、ひーふーみー……9本の尻尾、凄いな九尾の狐ってヤツか?」
「凄いわ! 最初から九尾だなんて!」
「たまみんたまみん! それだけじゃないわ! 白狐よ!白狐!」
「天狐族の中でも何万年に一度現れるかどうかと言われているあの『真白參界九尾の白狐』でしょうね、流石は天狐様と大様の御子、と、言ったところでしょうか?」
うえぇっ!?
ぼくもままんみたいになっちゃったの? 神主さんや、その長ったらしい名前なに~?
取り敢えず鏡、鏡ない?
しっかり見たいんだけどー!
「ほいほい、さとみちゃん、姿見だよ~」
「しっかり自分の姿、確認するといいっすよ~、いやぁ、しっかし見事に真っ白になったっすね!」
ぼくがわたふたしてると、ゆかりちゃんと雉が姿見を持ってきてくれた、気が利くね♪
改めて、姿見を覗いて見ると、おにいちゃんの言う通り、ぼくの頭から狐耳が、お尻にはもっふもふの尻尾が9本……それはまぁ、感覚でわかってたけど。
「うおおぉ……白っ! 真っ白じゃー!」
髪だ、ぼくの黒髪が真逆の真っ白け……それも普通の白さ、えっと……黒髪の色が抜けて白くなった感じじゃなくて、元々からその色だったように白い。
もちろん、耳も尻尾もだ。
「見事な純白で御座るな」
「……うむ」
犬と猿が感心してるけど、ぼく自信もなんかそんな感じで、ほわ~って思う……コレがぼく?
よく見ると瞳の色もなんか青い、いや、蒼いって言うのかな?
姿見のぼくとひたすらにらめっこして、ぴょんぴょん跳ねたり、反復横跳してみたり、くるくる回ってみたり色々やってみたけど……。
「……背、伸びてないや」
がっかりだ、自然と耳と尻尾が垂れる。
「さとみはそのままでいいんだぞ?」
「うぅ、おにいちゃん~!」
頭なでなでしてくれるおにいちゃんが嬉しくて、ぎゅって抱きつく。
すると、何故かいつもよりずっと、おにいちゃんを感じる……何て言うか、匂い、鼓動、体温、息遣い、そう言った総てがいつもより何倍も強く感じるんだ~ふわぁ~もう、おにいちゃん好き好き好き大好き~!
感情バクハツしそう、ふへぇ、頭ぐりぐり押し付けちゃうよ。
「さとみ? あー、普段より感覚が鋭敏になってたりするのか……珠実さん、その辺りどうなんです?」
「まぁ、当然よね、大丈夫よ~すぐに慣れるから」
やっぱり、そうらしい……ぼく自身五感が鋭くなってるって感じる、それだけじゃなくて、内から力が湧いてくる、気がする。
……今ならおにいちゃんの考えてる事とかわかったりしないかな?
試しに、じーっとおにいちゃんを見つめてみる。
「ん? あぁ、安心しろさとみ……俺はどんなさとみも大好きだぞ~♪」
あぅ! 何て嬉しい事言ってのけるの、このイケメンおにいちゃんめ!
嬉しいんだけど違う、そうじゃなくて、むむ~ん!
「うふふ、無駄よ~さとみちゃん、大好きな人の心は読めないのよ~?」
「にゃんと? そうだったの? むぅ、一番知りたいのに!」
「えっと、大好きな人の考えてる事知りたいって気持ちはわかりますけど……同時に怖くありませんか、さとみ様?」
「殿方の女人に対する考え等、所詮、色事ばかりでは? 等と思っておりましたが……ふむ、兄君様は違うのでしょうか?」
お、うーちゃんとあややんが戻ってきた、追いかけっこはもう終わったのかな?
ぼくはあややんから、ウサギ姿のうーちゃんを受け取って頭に乗せる。
「えー、ぼくは逆にそういうとこ知りたいんだよ? 知れば直せるじゃん?」
好きな人が嫌だなって思うことがわかれば、それを直すし、避ける事だってできるもんね。
そして、あややんの言うこともわかる。
「おにいちゃんもえっちなこと考えてると思うよ~、胸とかふとももによく視線くるしね~、でもでも、他の男性にそういう目で見られるとかなら嫌かもだけど、好きな相手からなら、恥ずかしくはあるけど……その、嬉しくない? ちゃんと女の子として見てくれてるんだってわかるし」
特にぼくは背丈がちんちくりんだから、一目で実年齢より下に見られ、二目に胸に視線が来て~っていう嫌な思いを何度か経験してるんだよね。
でも、それがおにいちゃんからの視線だったら、全然嫌じゃないんだ。
「ふんっ! 重い女め!」
「うぇ?」
突然のディスりに驚いて振り向くと、そこにはラグビーボールがいた!
暑い~……毎年思いますけど、この時期の暑さはしんどいものがありますね。
せめて湿度が低ければ、まだいいんでしょうに。
さて、ようやくさとみちゃんがおきつね様になりました!
序章ももうすぐ終了して、新章に入ります。
行き当たりばったりだけど、頑張って続けよう。