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序章 6 巳と午

 おにいちゃん視点です。


 暑い……毎日暑いですね。まだ梅雨入りもしてないのに……。


 皆さんは夏と冬……暑いのと寒いのだったら、どちらが良いでしょうか? 


 私はどっちも嫌です。

 彼女の親友が実はドラゴンだった件。


 はぁ~? 何だよそりゃあ……って感じでガッカリしたが、七瀬のドラゴン姿は正直格好良かった。


 ……くそ、七瀬じゃなかったら素直に喜べたものを、複雑で仕方がない。

 

 なんか悔しいのでさとみに慰めてもらうことにした。


 さとみは「仕方ないなぁ♪」といった顔をして、俺を抱きしめては頭を撫でてくれる。


 大きくてふわっと柔らかいさとみの胸に顔をうずめて頭を撫でられていると、コレまた心地良い。


 何? 恥ずかしくないのかって?


 最初は確かに恥ずかしかった気がするんだが、俺もさとみもお互いに成長したし……。


 さとみが成長したし……おっぱいでかいし。


 あー、つまりだな……さとみのおっぱい>>>羞恥心って訳だ。


 やっぱり、女性の象徴たるおっぱいの威力は絶大なのだな。


 条件をクリアすれば、これを生で堪能できるんだ……絶対クリアしてみせる! 絶対にだ!


 話を戻そう……そう、七瀬の話だと、異世界には冒険者っていう如何にもなテンプレが存在するらしいし、今から楽しみだ。


 そして次の干支、次は巳……蛇だな、身近な蛇ってどんなのがいたっけ?


 ぱっと思い付くのは、マムシとかアオダイショウくらい……名前しか知らない。


 東北出身の友人が小学生の頃に昆虫採集で、栗の木に行ってみたら枝に茶色い蛇が巻き付いていてびっくりしたことがあったそうだ。何蛇だったんだろうな?


 噛まれたりはしなかったそうなので一安心だ、毒蛇は普通に怖いしな。


 リアルな蛇、アウトドア等で出掛けたりしないとお目にかかる事はあんまりないかもしれないな。


「ねぇ、次ってヘビだよねぇ? うぅ……こう言っちゃ何だけど、気持ち悪くて怖いイメージが強いんだけど。もふもふもできないし……」


 さとみがそう言って、軽く身を振るわせる。


 そうだよなぁ……女子で蛇が得意って子はほとんどいないんじゃないだろうか?


 男子でも、まぁ女子ほど忌避感はなくとも、あまり好む者はいないだろう……俺も実物に遭遇したら、観察はしても触れようとは思わない、場合によっては逃げ出すと思う。


「安心するといいんダゾにゃ~あややんはとっても良い子ダゾにゃん、ノルの撫で方が特に上手なんダゾにゃ~!」


「んだんだ~、今時の娘っ子にしては良くできた娘だべぇ、オラ達の毛繕いも上手(うめぇ)しなぁ~?」


 どうやらノルも牛田も俺達を気遣ってくれているらしいが、そう言う問題じゃなくて見た目の問題なんだが……いや、撫で方に毛繕いって言ったか?


 と言うことは、うーちゃんみたいに人間の姿なんだろうか?


 今時のって言葉も気になるところだ、七瀬みたいに俺達の知り合いかもしれない。


「まぁまぁまぁ、実際に会ってみればわかるわよ~、さぁ、いらっしゃーい」


 珠実さんがそう言うと、天井から何か光が差し込んできた。


 見上げたそこには、何て言うんだろう、天女?


 浦島太郎の竜宮城に出てくる乙姫みたいな格好した女性が文字通り降りてきた。


 何だろう、日本人形の髪と服を豪華にした感じ?


 あの輪っかにした髪型何て言うんだろうな? どうやって結ってるのかも疑問だ。


 で、あの羽衣? えぇと……文字にするとΩか、漫画とかアニメ、ゲームとかなら見かけない事もないだろうけど、リアルに見ると訳わからんな……重力完全無視だし、針金でも入ってんのか?


「お初に御目にかかります、安積忠繁が娘、あやめと申します。此度、天狐様の召喚に応じ馳せ参じまして御座います、どうぞよしなに」


慇懃な挨拶で優雅に一礼する天女。その所作は美しく、高貴な生まれなのだと理解させられる。


 いや、待て……? 聞いた覚えのある名前が出てきたな。


「安積忠繁の娘のあやめって……もしかしてあやめ姫か? あの……蛇骨地蔵の……?」


「まぁ、博識でいらっしゃいますのね兄君様は、その通りで御座います」


「あらま! びっくりよ、お兄ちゃん……良く知ってたわねぇ、あやめちゃんには悪いけどかなりマイナーだと思ったんだけど?」


「……偶々ですよ」


 そう、俺が知っていたのは本当に偶然。


 先程の東北出身の友人が郷土の伝承を調べる機会があり、俺はそれに付き合わされたってだけ。


 【蛇骨地蔵】、友人の故郷に伝わっている伝承だそうだ。

 

 その地方の領主、安積忠繁にはあやめ姫という美しい娘がいて、家臣の安積玄蕃が求婚するも忠繁に断られる。


 それを恨んだ玄蕃は主家を滅ぼし、残ったあやめ姫に言い寄るも、姫は拒絶したうえ、その身を沼に投げ捨ててしまう。


 家族を滅ぼされた姫の怨みは凄まじく、大蛇にその姿を変え玄蕃一族を祟り滅ぼして尚収まらず、村人に毎年娘を一人、人身御供として差し出させる程であったと言う。

 

 33人目の生け贄に選ばれた娘の身代わりに、佐世姫と言う娘が大蛇に相対し、その法力で大蛇を昇天させたと言う。


 怨念が浄化された大蛇は天女となり、佐世姫に礼を述べて、大蛇の骨で人身御供となった32人の娘達を供養する地蔵を作ってほしいと依頼したそうだ。


 それが友人の調べた【蛇骨地蔵】のあらましである。

 

 おい、牛田……なにが今時だよ? あやめ姫の話は確か西暦で700年代だぞ?


 いや、それよりこの話を知ったとき友人と推察したことがあるんだが……それは……。


「ほへぇー……何か波乱万丈な人生だったんだねぇ……あややん」


「はい、さとみ様……佐世姫様には感謝しか御座いません。その後は天狐様とお会い致しまして今日迄研鑽を積んで参りました」


丁寧な口調で礼儀正しくさとみと会話するあやめ姫は、確かに良い子に見える。


 しかし、そう……しかしだ。


「ノル、牛田……神主さん、どうしてそんなにあやめ姫から距離取ってるんです?」


「「「……」」」


一斉に顔を逸らす3人……一人と二匹。


 OK、それが答えを示している。


「それに致しましても……うー、何なのです? その、あまりにもはしたない格好は……。殿方も居られるのに、露出癖は元の姿の時になさいませ」


「わ、私そんな性癖ありません! コレは天狐様に着せられて!」


「あら、そうでしたの……では何故元の姿に戻りませんの? 御披露目はお済みなのでしょう……? あぁ、成る程……少しでも兄君様の御気を惹こうと……健気ですが淫乱で御座いますわね」


「ふわわわわーっ!? 何て事言うんですかあやめさん!」


「しかも、兄君様の恋仲であらせられるさとみ様の御前で……厚顔不遜腹黒淫乱変態ウサギ」


「……うーちゃぁ~ん、ぼくとお話し、しよ?」


「うわわぁぁーん! あんまりですー!! もう元の姿に戻ります!」


……毒舌ぅ! 辛辣ぅ! 容赦ねぇ!


 さとみにも迫られて、うーちゃんは堪らず元の姿の兎に戻っていた。


 ほう、ピンクウサギだったんだな。


 すかさず七瀬の身体を駆け上がり、その頭の上に納まった。


「相変わらず、あやめんは毒舌だなぁ……も少し優しくしてあげたらいいのに」


「おや……? えぇと、貴女様は何処のどちら様でしたでしょうか?」


「ちょっと! 私にまで絡むの? 言っておくけどねぇ、私はさとみちゃんの親友なんだからね!」


「あぁ、さとみも七瀬を親友だと言ってる……俺も保証しよう」


「そうだよ~あややん、ゆかりちゃんはぼくの親友だよ?」


スッとあやめ姫が俺達から距離を取った。


 あぁ、いや……コレは予想通りか、俺達からじゃなくて、俺から離れたんだな。


 友人とした考察、それは……。


「……過去にあんなことがあったから、何となく『そうなんだろうなぁ』とは思っていたんだ……あやめ姫、あんた男嫌いなんだろ?」


「あー……そいうこと、無理ないよねぇあやめんってば、美人薄命を地で行ってるし」


七瀬が成る程と相槌を打って、上手い喩えを出してきた。


 美人薄命、その理由に絡むのは大抵色ボケした男が原因だろう。


「……ご理解頂けて幸いです、ですので極力、いえ、出来れば絶対……不用意な接触はお避け下さいませ……今もいっぱいいっぱいで……正直吐き気が酷く気持ち悪いです」


おぅふ……いや、判ってはいたが…実際にそこまで拒絶されると秒で心が折れる。


 流石に面と向かって『気持ち悪い』と、言われるのは傷付くな……あぁ、いや、勿論あやめ姫に悪気がないというのも判ってるんだが。


「そんなに辛いなら無理に来なくても良かったんだよ、あややん?」


「いいえ、そうは参りません! 神の一柱たる天狐様と亜神と至られた(ひろし)様。

そしてその御子様であらせられますさとみ様、その伴侶となられます兄君様との謁見を袖にしたとあらば、それは未来永劫消えることのない罪となりましょう!」


「そんな大袈裟にしなくていいから……そもそも、そのせいでおにいちゃんの気分悪くさせてちゃ意味ないんだよ~? ほら、あっちでうーちゃんのこといぢめてて♪」


「あぁ、さとみ様~お許しを~!」


さとみがずるずると、あやめ姫を奥へと引っ張って行く。


「はいはい、そう言う訳だから行こうねーうーちゃん♪」


「えっ!? ちょ、ちょっと! ゆかりさん!?」


 頭の上から逃げ出そうとしてたうーちゃんを七瀬ががっつり捕まえてはさとみの後をついていく。

御愁傷様……そのままあやめ姫を抑えててくれたまえ。


「次って(うま)ですよね……」


うん、切り替えは大事だよな。


「私ですね、と言いましても……既にお二人とは何度もお会いしておりますしね」


神主さんがそう言うと、少し困った顔をする。


確かに、この神社に来る度にしっかり挨拶してるしな……でも、そんなに知ってる訳でもないので、色々聞いてみたい。


「……ふむ、では改めまして、(うま)の馬場雅臣と言います。

【馬面】と言う妖でして、古くに天狐様……珠実さんに拾われました。」


「まーちゃんはね、とってもとーっても! 世話好きなのよ!」


「普段だらしないたまみんにとって、居なくてはならない存在よね……」


「そう! そうなのよ! お昼寝してるとそっと毛布掛けてくれたり、閉め忘れた網戸閉めてくれたり、蚊取り線香炊いてくれたり、陽射しが強いときはそっとカーテン閉めてくれたり、それから何と言っても! ご飯まで用意してくれるのよ!! これが拉致ずにいられますかって!?」


珠実さんは『どう? 凄いでしょ!?』と言わんばかりにエッヘン! と胸を張る。


 いやいや、拉致っちゃダメでしょうよ!?


 それに今の話、どう聞いても珠実さんが凄いんじゃなくて神主さんが偉いんじゃないですか?


「ままん……まるで母親に世話される子供みたいだよ?」


「さとみちゃん家で会う珠実さんとは、大分印象違うんですけど……?」


いつの間にか戻ってきたさとみと七瀬が、呆れたような苦笑いをしながら会話に混ざってくる。


 だよなぁ、どう聞いても子供の世話する母親がイメージされるよな。


 珠実さんは結構、そう言った世話とか積極的に焼いてくる人だと思っていたんだが……俺がさとみの家に遊びに行くと必ずと言っていいほど手料理を御馳走してくれるし、実際にさとみと一緒にキッチンに立つ姿も見ている。


 あの時の唐揚げ……美味かったなぁ~。


「そりゃそうよ~、たまみんがこんなに丸くなったのはヒロりんに会ってからだもの~」


「……当時の珠実さんは、結構な唯我独尊っぷりでしたからね、ふふ……今でも鮮明に思い出せますよ、初めてお会いした時に、『気に入った、お主に妾の世話役を命じる。とく働くがよい……異論は聞かぬ、許さぬ。よいな?』……でしたからね。」


「うおおぃ、一体何処の暴君だよ! 珠実さん!」


「ままーん!!」


俺とさとみが珠実さんのあまりな言動に、思わず叫ぶと、珠実さんは……。


「ふへへ~♪ 昔はママやんちゃだったからぁ~! 色々やらかしちゃった!」


まさかのテヘペロ! である。


「あはは、そうだったんですか……古参の先輩方は苦労したんですねぇ~」


「ホントよ、まったく! だからヒロりんが亜神になるときも全員に賛成されたんだけど、今度はさとみちゃんが産まれた時でね……」


「え、ぼく?」


七瀬が苦笑いで反応すれば、トラちゃんが本当に苦労したのだろう……大きな溜め息をついた、見た目巨大な虎なので、それもまるで突風のようだ。飛ばされそう。


「子育ての事だろうな、判りやすく言えば、『元ヤンにちゃんと子育て出来るのか心配する友人達』ってとこだろう」


「そう! まさにソレよお兄様!」


「元ヤンだなんてひどーい! うー……でも、大変だったのは確かよね~何もかもが初めての事だったし……あはは、トラちゃんにもいっぱい助けてもらったよね? ありがとね~♪」


そう言って笑い合う二人は何だかんだ言って、凄く仲が良いんだな~と実感する。


 珠実さんの昔の話とか、何かすごい興味あるな……とんでもない事実が飛び出したりしそうで、胸が躍るし、(ひろし)さんとの馴れ初めとかも聞いてみたい。


 そうやってワイワイと、子育て時の話に興じていると、何かに足を撫でられた。

 【蛇骨地蔵】皆さんはご存知でしょうか?


 ままんも言っていますが、結構マイナーな伝承かと思います、『へぇ~そんなお話しあるんだ』とか、気になった方……是非検索してみて下さいね。


 マイナーと言えば、【馬面】もそうでしょうか?


 是非うちに来てーって言いたくなる妖怪さんですね("⌒∇⌒")

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